気軽に読める。
小林聡美『ワタシは最高にツイている』(幻冬舎 2010年)の話をさせて下さい。
【概要】
盆栽のように眉毛を育毛。
大嫌いな恐怖映画「エクソシスト」に感動。
警察の陰謀に違いない免許証のショボい写真。
フィンランドのファームでアウェイの焚き火。
両親との中国旅行で「小津る」。
モノを処分しまくるなまはげ式整理術。
地味犬「とび」と散歩するささやかな幸せ・・・・・・。
大殺界の三年間に書きためた、どうにも笑えて味わい深いエッセイ集。
裏表紙より
【読むべき人】
・手軽に面白いエッセイが読みたい人
・マウントとは無縁のエッセイを読みたい人
・逆にもうエッセイ書きたい人
【感想】
本書は「&Premium」で知った。読書特集の号だった。
そこで、「~歳の時に読みたい本」といった具合で、
幼少期からまぁまさに人生の最期までに読みたい本を、
それなりの著名人がそれなりお勧めするコーナーだった。
挙げられた本が実際にその年齢に適しているのか否かは別として、なかなか企画自体の発想がユニークで面白かった。
そして、僕の年齢「27」(ああああああ!!!!)歳の時に読みたい本として、ひとりが挙げていたのが本書であった。
題名は「ワタシは最高にツイている」。
スピリチュアル系まっしぐらのエッセイかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。「忙しい合間に肩の力抜いて読める一冊だわよ~」みたいなことをその著名人は書いていた、気がする。名前も顔写真も忘れたけれど。
じゃあ、読むしかないかなと思った。
だって「ワタシは最高にツイている」。
常時ネガティブまっしぐらフリーター(27)にどんだけこの言葉が刺さったことか。想像に難くないと思う。
だから沼津の古本屋「ハニカム堂」の古本紹介に本書が上がった時は真っ先にDMを送ったし、お取り置きを依頼したし、そしてほくほく(9冊のも本と共に!)買って帰った。
実際読んでみて、思ったことは「はえ~なんだかおもしろい」。
これに尽きる。「肩の力を抜いて読める一冊だわよ~」と名も顔も知らぬ著名人がおススメするのも超わかる。
というのも、嫌みがない。
この小林聡美さんというのは所謂「本業」は作家ではない。エッセイストでもない。詩人でもない。歌人でもない。女優である。
女優。
じょ・ゆ・う、といえばもうそれはとてもとても美人な方々が、とてもとても日々華やかな生活を送っている職業。
きっと毎日いいもの買っていいもの食べていいもの身に着けていいワインいい肉いいチーズいいものいいもの生活してるに違いない。ふぁっく!!
そして当時の旦那は・・・映画監督:三谷幸喜。
三谷幸喜。
み・た・に・こ・う・き、といえばもうそれはそれは映画ドラマに疎い僕でも知っているくらい日本では最も有名といっても過言手はないくらいの監督。
きっと毎日いいもの買っていいもの食べていいもの身に着けていいワイン以下略、ふぁっく!!
マウントをとろうと思えばいくらでもとれそうな立場なのである。
ところがどっこい、彼女がこのエッセイで語るのは「眉毛の育毛」「犬の車酔い」「庭の木の剪定」「舞台劇のカツらがとにかく似合わない問題」「(テレビで見る)滝川クリステルの髪型問題」等である。取り上げる問題がいちいち小さくくだらない。
さらっとフィンランド旅行のエピソードが書かれているものの、そこで語られるのは各観光地を巡った感想などではなく、焚火に対する異常な執着。親孝行の中国旅行に関しては、もはや出発する飛行機車内で「小津る」ことしか書かれていない。
とても小さい。
作者の心情にぐっと、例えるなら作者の心という「点」めがけるかのように、集中して書かれている。
そこに「女優としての良い自分を魅せよう」といった意志は一切なく、「おもしろおかしくてきとーに読んでもらおう」。
女優ではなくエッセイストの文章なのである。
そのエッセイストの文章で、女優関連のことであったり海外旅行であったり書いているから面白い。普通のエッセイストでは書けない話題を、エッセイストの文章で書いている。
女優が女優の文章で書くエッセイの代表的なものと言えば、石田ゆり子の「Lily」だと思う。
石田ゆり子のグラビアと部屋の大切な宝物とペットの写真の合間には、彼女の美しい文章が書かれている。
別にそれが悪いと言いたいわけではない。
ただそれは、彼女自身・女優「石田ゆり子」自身を愛でるエッセイなのである。
読者はまず彼女の顔の美しさにため息をつき、内面の優しさ・繊細さ・綺麗さに魅了される。
そして思うのだ。
「ああやっぱり石田ゆり子さんって美しい」
「内面も愛らしい」
「意外とぬいぐるみ大切にする派なんだ。でもそこが良い」
そして憧れるのだ。
「彼女のようにはなれないが、彼女のように日々を大切にして生きてきたい」
そして恐らく我らが小林聡美も・・・読んだことあるかどうかは知らないが、「Lily」を読んで思うだろう。
「彼女のようになれないが、彼女のように日々を大切にして生きていきたい」
要するに、女優という職業にありながら、
一般人に「憧れられる」立場ではなく、僕達一般人読者同様女優に「憧れる」立場なのである。
なんつったって、滝川クリステルの髪型に憧れて散髪するくらいだし。
彼女の文章はいつだって等身大なのである。
だから本書は(もしくはエッセイスト・小林聡美は)多くの人の共感をよび、笑いを誘い、そして愛されているのだろう。
本書の最後の最後を見ると、なんと本書は古書にもかかわらず9刷目であるらしい。大ヒットまではいかないがヒットはしちえる。初版2010年に対し9刷目は2015年。長期愛されて読まれていることが伺える。
逆に、「嫌みがある」エッセイストの代表作家といえば林真理子だと思う。
アンアンの巻末のエッセイに並ぶ名だたるブランドのカタカナの数々。隠さない華々しい交友関係。お金を振りまいて歩くかのような日々の生活。
そのくせ取り上げる話題は8割方ダイエットである。毎日毎週毎年毎年彼女は言ってる。痩せたいだの痩せただの。
うるせー60過ぎたBBAの体重とかどーでもいーわファック!!
とか言いながら、毎週an・an出たら立ち読みで必ずチェックするんですけど。
あれもあれで隠す気がさらさらなくて嫌いじゃない。でも小林聡美の方が好き。巻末を小林聡美が書いたらもう立ち読みじゃあ済まさない。毎週毎週買っちゃうと思う。フリーターの・・・貧しい・・・少ないお給与を・・・絞りだしながら・・・買っちゃうと・・・
思います、
うう。
「よくわからないが、なんだか、ワタシのやらねばならないコト、のような気がするのである。そして、やらせてもらえるコトであり、それはとてもシアワセなことであるに違いないのである。ワタシがたまたま俳優を仕事にしているので、今回は、でも、こんな気分をつれづれに綴ってみましたが、でも、どの仕事も、計り知れないこのような気持になることがあるのでしょうな。」p.97
「気分のいいときは、とことんいい気分で過ごそうと、その辺の花を生けてみたり、いい食器でお茶を飲んだり、なーんか、優雅な気分である。こんな気分をいちいち確認しながら過ごしているのがイマイチ小市民なかんじだが、こんなささやかな事柄たちが、簡単に自分をシアワセにしてくれるのである。」p.178
今回、特に刺さったのはこの二箇所。
p.97のちょっとした仕事論は、舞台稽古の章で書かれたものである。辛い舞台稽古の日々をつれづれ書いた末に上記の文章が出てくる。今僕はフリーターだけれども、精神病んで社員からおりて週5のパートなわけだけれども、それでもやめずに続けることを選んだのは、根底に似た感情がある殻のように思う。例えPOPを無賃金で無数に描くことになろうとも、例え僕より態度も精度も悪い社員がいようとも、まだ僕はここでやらねばならない気がする。
p.178のちょっとした幸福論は、最近調子が良い報告の章で書かれたものである。その理由となる趣味の園芸や部屋の片づけについて書かれた後に上記の文章が出てくる。今僕は独り暮らしだけれども、休日の午前中頑張って起きて部屋の掃除して午後紅茶を飲むとき、その瞬間は気分はフリーターなどではなく「薔薇乙女 第五ドール」である。ジュン!早くお菓子を持ってきて頂戴。ジュン・・・ジュン?あれ・・・ジュン?あれ・・・?僕にジュンはもしかして・・・いない?
ほら、やっぱり小林聡美の文章は等身大。
庶民の味方。
以上である。
著名人よろしく肩の力を抜いてすらすら読めてとても面白かった。女優なのに女優らしくない文章なのが良かった。
何なら他の作品も読んでみようかと思うくらい。
ちなみに彼女は、離婚している。wikiで調べて知った。
離婚。今期ドラマで「最高の離婚」「大豆田とわ子と3人の元夫」となかなか最近ホットな話題ではある。ネガティブなイメージが強かったが、最近はそうでもなくなってきた。
さて、こんなに等身大でユニークな文章を書く彼女は「離婚」をどう書くのだろうか。
この作品の、前の作品も読んでみたいけれどそれよりも、その後の作品を特に読んでみたいと思う、のは僕の性格が悪いのだろうか?ふぁっく!!
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前述した号とは違いますが、&Premiumの読書特集号の感想