天使に願いを。
田村由美『ミステリと言う勿れ5-6』(小学館 2019-2020年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
坂で転がり落ち、検査入院することになった整。
その病院で出会ったのは、なぜか書籍を介した暗号で意思を伝えてくる美少女・ライカだった。
彼女の言葉に従って動くうちに、
整は不穏な都市伝説に遭遇する。
子供を救う”炎の天使”の正体とはーー!?
5巻 裏表紙より
過去の事件につながりがある可能性に気づいた整。
彼は、病院で知り合った少女・ライカに相談するが、
なぜか彼女と一緒に初詣に出かけることに・・・!
そして横浜で起きた連続女性殺人事件を追うある人物がーーー!?
新展開の第6巻!
6巻 裏表紙より
【読むべき人】
・今いる状況がつらくて辛くて、誰かがあいつを×してくれたらいいのにとか思っている人(5巻)
・虐待に苦しんだ経験がある人、もしくは虐待に走る自分を抑えられない人(5巻)
・女刑事が好きな人(6巻)
【感想】
1-2巻最高、3-4巻若干「おや・・・?」からの、持ち直した5-6巻。最高でした。
ミステリではないものの、やっぱこの作品は人が死なないと緊張感がなくなっていまいちつまらない、気がする。
整の口上は、悲劇の上に冴えわたる。
緊張感あるからこそ彼の言葉がしんみり染み渡る・・・というかなんというか。
あとやっぱり「予想外の展開」というものに僕は弱い。
バスに乗り合わせた殺人者の正体であったり、新幹線ので乗り合わせた女の持つ暗号の意味であったり。
キャラクターで読ませる3-4巻に比べ、展開で読ませる5-6巻といったところか。
簡単に感想等を述べていく。
ネタバレもするので読んでない人は要注意。
episode 8 (5巻収録)
「虐待されてる子供たちもよ みんな凝ったキレイな名前がついてんだよな
名前をつける時には そんなことになるとは思ってなかったんだろうなぁ」p.66
炎の天使編である。
児童虐待が題材。
虐待したされた、当事者ではないけれど、
近年流れる虐待のニュースに胸を痛めている人には響く話。
両親を殺すか否か子供に決定権を与えるところに、整が疑問を抱いているところが良かった。
だいたいの創作物では、主人公達が加害者に一方的に成敗を与えることで、被害者を救うことに重きが置かれていることが多い。某仕事人、某地獄少女等。
本気で救いを求めている人達のもとへ主人公達が舞い降りて、かっこいーアクションで敵達を成敗し、成敗した後は被害者が「ちょっと・・後悔はしてます。でも今を生きていかないと」等余韻を残す一言を発して終わる、みたいな。完全なる偏見。
確かにそういう創作物は必要だと思う。僕達読者は地獄のような現実を日々生きているから。ストーリーの中だけにでも夢と希望を見出したいから。
でも果たして、ストーリーの中の被害者達は本当に幸せか?
今回は、その主人公達・・・ダークヒーローの活躍に、疑問を呈するような展開が良かった。
創作上の存在・整が、創作上の被害者達の幸福を本気で考えているのが良い。
展開も素晴らしかったけど、キャラクターが素晴らしいのも今までと同じ。
カエルのブサイクだけど不器用さも良かった。ホリエモンに似ている。あとすぐキレるところも良い。こういう人は現実には多いけど創作物には意外といない。
だけどまぁ香音人。この編における主役、天使の美しさは別格だったね。表情一つ一つがとにかく美しいし、純粋で優しいところも良い。
ただまぁ、この「ブサイク+美男」という組み合わせは犬堂家で見覚えのある組み合わせだったので、ちょっとそこが残念ではある。カエルが女でもよかったんじゃないかと思うが、そうすると梅津と被るしなぁ・・・。
整が大学で何の勉強してるかも明かされましたね。お前・・・教育学部(多分)だったのかよ・・・。
すると広島編で子供に関する台詞が多かったのも、汐路に対する態度も頷ける。
幼少期に関することもほんの少し明かされて・・・。
だんだんとこの美男アフロについて分かることが増えてきました。
あとあぁ・・・この話は真相に度肝を抜かれたよね。
「家がきれい」「汚い」の不一致だったり、よく見ると二人ともお揃いの服を着ていたり、伏線は周到に張られているんですよね。
気づかなかった。
まさか天使の美しさが別格だったのは本当に天使だったからなんて誰も思わないじゃん・・・。
そして、ライカにとっての本当の天使であったこと・・・美しい彼に少しの救いはあったのは良かった。
良かれと思ってや買ったことが全てダメってそれは悲しすぎるから。
episode9 デートならぬ遠出(6巻収録)
「僕は塩!絶対塩!」p.14
某小学生探偵は行く先行く先事件ばっかでネット上でよく煙たがられているけれど、
某アフロ大学生もまぁ行く先行く先事件ばっかだな。
星座の指輪探しが始まった・・・我らがてんびん座はいつ登場するかしら。最後は是非十二宮でつかまえてくれ。
今回も真相はさらっと予想外だったなぁ・・・。二人で人肉焼き肉屋でもやってんのか?と思ったら全然違った。
確かに、娘の方ばっか目が行っていたけど、父親の方もだいぶおかしかったな。
ちなみに、この作品は出てくる登場人物の多くが珍しい苗字を冠している。
犬堂、青砥、風呂光、狩集、霜鳥、羽喰、下戸・・・整の「久能」もプチレア苗字だ。★★☆。
今までそのほとんどが検索すれば実在してたから目をランラン光らせ、今回の犯人の苗字「浦部沢」も検索したんだけど・・・・いないんか~~~い!!
こんなしょーもない奴が物語のキーを握っているわけでもなさそうだし・・・まぁただの偶然か?
episode2.5(6巻収録)
「お客様体質もいい加減にしろ
助けも求められないのかよ
助けて 助けられて働くんだ
チームだろ」p.150
まさかの犬堂我路チーム編がここにくるとは。
そりゃぁ裏表紙の言う通り「新展開」だ。
話が変わるけど、この漫画の裏表紙のあらすじはとても素晴らしいと思う。
ネタバレしないよう徹底されているから。
例えば、5巻読まない状態で6巻の裏表紙読んでも、
5巻の犯人が誰か、とか真相が誰か、とか、
物語に差し支えるネタバレが一切されていない。
こういう細かい気配りがされているあらすじはなかなかない。のでもっとフューチャーされるべき。
本題。
この編も結構「衝撃の真相」系か。
犯人の少女性を強調していたから、男かもしれんなってとこまでは読めたけどお前だったのか・・・。確かに身長低いなとは思ったけどさぁ。
メイクの不気味さも良かったわね。作者ジョーカー見たのかな。
あとクソ頭悪いコミュニケーション方法がリアルだなと思った。こういう極端な主張の仕方って、すごい本当馬鹿っぽいなと思うんだけど、この前の京アニの事件然り・・・こういう人を人と思っていない極端な自分勝手って一定数いるものだから。
今回もキャラクター造形神祭り。
特に備前島警部登場シーンはわろた。何ちゅう顔しとんねん。スターリンかよ。スターリンよく知らないけど。
猫田刑事はカッコいいですね。十朱という下の名前も凛としていて良い。
犬堂に対しての猫田だから、これからこの2人はセットで現れんのかな。
てか整と猫田、備前島が面会する日ってくるのだろうか。
あと、霜鳥さん再登場も良かった。過去にあった事件が緩やかにつながって真相が見えてくるのはいいですね。
霜鳥・・・お前そんなこともやってたのかよ・・・。
ちなみに霜鳥さんは今作で好きなキャラクターランキング上位に入ります。
顔芸が良い。
以上である。
特にやっぱまぁ・・・5巻かなぁ。
香音人のキャラクターと、終盤暴かれる衝撃の真相にめった打ちだった。めっためた。
犬堂の話も動いてきて、人物もわっと増えてきて・・・いよいよ物語も序盤から中盤へといったところか・・・?
やっぱりこの先なかなか楽しみなシリーズである。
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これまでの巻の感想も書いてます。