小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

マキヒロチ『スケッチー 1-2』-常にさえない僕達へ。-

 

いつどこで誰と何をどのように生きればいい。

僕達は常に、やるせない切ない切りたい痛いキリキリしている。

 

君の、想像以上に。

 

マキヒロチ『スケッチー 1-2』(講談社 2019-2020年)の話をさせて下さい。

 

 

f:id:tunatunarice_03:20200810020042j:plain

 

【あらすじ】

「アスカ」p.44

 

31歳、レンタルビデオ店店員の川住憧子。

仕事に彼氏、せわしないけれど、どこかさえない毎日を送る彼女は、

ある日、一人のガールズスケーターに心を奪われる。

そしてーーーー。

 

ガールズスケーター群像劇、第1巻。

 

1巻裏表紙より

 

【読むべき人】

「どこかさえない毎日」、カバー裏のこの日本語にぴんとくる人

・「生きてる」って実感がわかない人

・やるせない気持ちが常にある人

・アラサー女

 

【感想】

誰かどこかで何かでお勧めしていた。

思い出せない。大抵こういうのは思い出せることが多いのだけれど、今回はまじで思い出せない。

「ああ、いつかティファニーで朝食を。吉祥寺云々のマンガの人か、面白そうだな」と思った覚えがあるのだけれど、いったいまじでどこで誰が何でお勧めしていたのか・・・。

普通だったらこのまま記憶の彼方にいってドラマ化でもしない限りもう二度と思いだすことはなかったでしょう。

存在を思い出したのは、健康診断を受けた医療センターの待合室だった。マガジンラックにあるのはビジネス誌オレンジページだけで、何気なくオレンジページの方を手に取った。

珍しく本特集で、そのなかの漫画特集で、この名前を見て、「ああ買わなくては・・・」、その日の帰り道本屋で手に取って、購入した。謎の義務感に駆られた。

でもそういった直感で手に取ったものって、その時に本当に必要なものだったりするよね。

 

裏表紙に「ガールズスクーター群像劇」とあるように、本作は様々なスケボーをする女性をフォーカスした作品である。

上手い下手や凄い技ができるかどうかが主題ではない。

滑る彼女達の、考えていることや思っていること、暮らしや環境を描く。

そこに共感したり、しなかったり、胸を締め付けられたりやるせなかったり感動したりひやりとしたり、登場人物に入れ込んで読んでいく。

スポーツ漫画ではなく、「オトナ女子漫画」なのかもしれない。あの括り未だよく分からないけれども。

 

f:id:tunatunarice_03:20200811004757j:plain

カバーデザイン神だと思う。

 

様々な女が出てくる。

主人公、川住憧子。31歳のレンタルビデオ店の社員。

お嬢様学校出身で、旧友のコミュニティでは圧倒的下位に属する。

レンタルビデオ店の仕事にやりがいを感じているわけではないが、映画鑑賞や彼氏等を大切にして、現実と折り合いをつけて生きていく日々。

けれどどこかやりきれない思いを抱く。パッとしない。小さい幸福を拾って薄伸ばして取り繕っていく日々の先が見えない。

だからこそ、かつてコミュニティにいた、女優の彼女の顔を見るたびに、ぼうっとしてしまう。

かつてはほとんど似た者同士だったのに、今じゃこんなに違ってしまった。

何かに憧れるているけど、彼女に憧れているわけではない。

何に憧れているのか分からない。

 

憧子と同じ店で働く志保。26歳アルバイト。

且つてスタイリストを目指して弟子入りするも、ついていけず挫折する。

そしてレンタルビデオ店でアルバイトをする日々。一人じゃ部屋も借りれない。

今のままでも満足しているけれど、放送作家として若くして大成功収めている従兄を見ると、ちょっと胸が締め付けられる。劣等感。

ちょっと言われるとすぐに嫌になって、ベッドに飛び込み、嫌になり、嫌になるたびに、思い出すのは、あの時に言われた・・・記憶の奥にしまったあの瞬間。

振り切りたいけど振り切れない。

 

僕が特に共感したのはこの二人。

特にどこに共感したか。

 

憧子。

学生時代の友達と自分をふと比較してしまう。

自分なりに生活の中の豊かさで誤魔化しても不意に彼女の顔が浮かぶと胸が苦しくなる。

多分今の自分の生活に、心から満足していないから。

何があったら満足するんだろう。

それが分からず日々をやり過ごすから僕等の日々は延々「さえない」のではないか。

憧子は多分この先、スケボーに乗ってさえない日々をつっきって、青空の下を駆け抜けていく。

僕達は一体何に乗るべきか。

今の日々を切りたい抜けたい切ない、知らないどこかへ駆け出したい。

Where、どこへ?

 

志保。

一度くじけてしまった自分の夢との踏ん切りがつかず、

成功した奴の器用さが目に付く。

 他人の失敗を見るとすぐ調子に乗る。

想定した「成功」に到達しない自分に自信がないから、他人のそういうとこにすぐ目をつけてしまう。つけこんでしまう。

別に誰かが成功したからと言って自分が失敗したわけではないのに。誰かが失敗したからと言って自分が成功するわけではないのに。

多分彼女はスケボーを蹴って、世界を自分を拓いていくんだと思う。

成功失敗そんなの関係ない、クールかクールじゃないか。

今の自分が本当にしたいことは何か。

今の僕が本当にしたいことは何か。

僕も何かをしている時は無でいたい。

When、いつ?

 

他にもいろんな女が出てくる。

2巻の表紙になっている出版社勤務の竹花

日本初の女性スケーターの○○〇を撮るまりりん

1巻の裏表紙で「群像劇」とあるように、

これからも色んなタイプの色んな女が出てき続けるんだろう。

スケボーと出会って何が変わったの?

何と出会って僕の何が変わるの?

What、何?

 

f:id:tunatunarice_03:20200811004753j:plain

 

と、まあついつい、

アラサーに差し掛かった女が自分のことのように考えてしまうくらいには、

この作品には少女漫画的引力がある。

共感投影失笑感動涙・・・・。

1巻は憧子にうんうん頷いて共感して終わるが、

2巻になるとじわじわと物語はひらいていく。

花柄の意味、結婚式、まりりん、とその他のスケボー女子の登場、ボードの購入、なぜ憧子の彼氏が彼氏たりうるか、そして終盤のアスカの言葉。

1巻は憧子がまだスケボー乗れていないので、のほほんとしているが、

2巻から憧子がスケボー本格的に乗り始めたので、エンジンがかかる。

共感メインの1巻の「緩」、話を見せる2巻の「急」。

どちらも同じくらいの温度のまま、この先進んでいってほしい。

 

憧子よ、さえない日々を送る僕達に希望を見せてくれ。

冒頭の君の横顔が眩しい。

How、どうすれば。

 

以上である。

なんか感想というか呟きになってしまったが、

曇った日々を送るアラサー女にお勧めの1冊である。

スケボー・・・はもちろんスケボー以外にも、

自分が開ける世界を見つけたくなる。

 

f:id:tunatunarice_03:20200811005558j:plain

 

スケッチー。

不安でも曇天でもさえなくてもたとえこの世が地獄でも彼女達のように、滑れたら。

Who、次のスケッチーは、誰。