キャラクターについつい目が行っちゃうなぁ・・・。
田村由美『ミステリと言う勿れ3-4』(小学館 2018-2019年)の話をさせてください。
【あらすじ】
代々、遺産を巡る争いで死者さえ出るという
狩集家の相続人のひとりである汐路に頼まれ、訪れた先の広島で遺言書の開示に立ち会うことになった久能整(くのう ととのう)。
相続人候補は狩集汐路(かりあつめ しおじ)といとこたち4人。
整うは次第に身に危険も及ぶ骨肉の争いに巻き込まれて・・・!?
3巻 裏表紙より 一部変更有
広島での狩集家の代々の相続争いで過去をさかのぼるうちに
明らかになった仕掛人の存在。
さらに汐路の父母たちの意外な意思が明らかになり・・・?
広島編、ついに決着!
雨の日久能整(くのう ととのう)が出会った男は記憶がなく・・・?
定年退職して久しい、元刑事牛田(うしだ)が語る事件の真相は・・・?
病院の温室で・・・?
4巻 裏表紙より 大幅に変更有
1-2巻の感想はこちら
【読むべき人】
・謎解きミステリが好きな人
・個性的なキャラクターが出てくる作品が好きな人
・患者、患者の家族がいる人(4巻)
【感想】
広島編大決着!といった感じの2冊である。
ただまぁ衝撃といえば1-2巻のが凄かったかなぁ・・・。
正直、2巻のバスジャック編の結末を見た後だったので、
もっと血みどろドロドロミステリを期待していた。
正直、殺しあってほしかった。
しかし「ミステリと言う勿れ」。
冷静に考えれば、あのバスジャック編も整と出会った人達と協力しながら事件を解決していたんごねぇ・・・。
その最後の最後に、あの結末があったから落差がすごかっただけで。
ただ、その「落差」を感じるような結末は広島編にはなかったかなぁ・・・。
後なんとなく犯人が分かっちゃうのも残念。
バスジャック編は「おいおいお前が!?」「え!?お前も!?」「は!?」「は!」「はぁ~~~~っ!?」となる展開だったんだけれども、まぁ今回は出てきたときから怪しいですよ。顔に「犯人だよ~!」書いてありますよ。なななな犯人歌ってますよ。なんだこいつ~~~。
それでも、舞台の「広島」の活かし方であったりとか、狩集汐路の心の闇、整の語る「女の幸せ」の真意等良いところは多かったんですけどね。
ただ、作者が「この巻で広島編が終わるはずだった」p.191と言っているように、
若干まとまりがないのも事実かなぁ・・・。
各エピソードごとに適当に思ったことを書いていく。
普通にネタバレ注意。
episode4
「闇があるのは一族じゃなくて あなたです」p.74
3巻から4巻冒頭までを割いた広島編。
蔵、座敷牢、骨、刀、言い伝え、「鬼」、事情によって結ばれない男女、そして厳島神社・・・。
わくわくてかてかわくてかわくてかをこれでもかと詰め込んだこの感じ。本当作者はミステリが好きなんだろうなぁ・・・。そこをほとんど満遍なく回収したのはお見事。
まぁ若干、幸の容姿とか遺産とか終盤の石で解決!とか・・・「雑」と思うような部分はあったにはあったけど。
でも多分この物語の根幹は狩集汐路という女の子が抱えるぽっかりとした闇を埋める話だから、そこはまぁ・・・いっかなぁ。
ちなみに僕は途中まで逃げた女の子はマリさんだと思ってました。
あと理紀さんからはママを感じる。
刺さった言葉はいくつかあって。
「世の中に残ってる言葉は おじさんが言ったものがほとんどで そこには趣味と都合が隠されてる
自分の中から出てきた言葉を使ってください」p.163
「女の幸せ」をはじめ、このコマには「女の敵は女」「男勝り」「結婚は人生の墓場」等世間にあふれる言葉が色々書かれている。
うおおお!!確かに!!!と思った。
「は?そんなん勝手に言ってるだけでしょ?」と内心僕はこういう言葉に強気に出たりするのだけれど、強気に出る、というのは裏を返せばしっかり刺さってる、というわけで、結構僕はこういう言葉に弱い気がする。
気を付けよう、と思った。
世間を俯瞰的に見ることはあっても、世間に踊らされ踊らされすぎて生きるのは嫌だ。
ちょっと前に見た映画でも言っていたけれど、「自分の幸せを問い続ける」ことを忘れてはならない。
後、よくよく考えればこの言葉自体が結構太い伏線だったね。
この事件の真相もおじさんの都合で隠されたものであったから。
「半分こして大きいほうをくれる人が 優しいとは限らないです
そんなことどうでもいい人もいるし 罪悪感からする人も 目的がある人もいる」p.13
あと犯人。僕はすぐに分かったんだけれども、多分作者はこのエピソードは読者が犯人誰か分かるように仕向けていたと思うんですよね。ミステリ初心者とかにはそりゃ分からないかもしれませんが。
そしてその犯人車坂朝晴が今回すごいハンサムで、優しい人物に設定されているじゃないですか。華があって表情も生き生きとしていて溌溂としている。若い。将来有望。
でもそれはあくまで外面で、しきたりを言い訳に平気で悪事も働くし、脆くて弱い。あと多分普通にニート。
人は外見が大事とよく言うけど、多分その「外見」って多分見たそのものじゃなくてもっと深いところから見ないといけない気がする。
目だけでなく、心で見る。というと、一気に胡散臭くなるけれど・・・直感というかなんというか。
笑顔で、第一印象が良すぎる奴には要注意ということか。たいていそういう振る舞いには意図があるから。
あとこのエピソードは、ドラマ改変期によく放送されるちょっと安っぽい2時間ミステリドラマをイメージして作られたんでしょうね。多分。神社とか蔵の陰とか、映像で訴えかけるような場面が印象的に用いられていたから。
いくつし・・・厳島神社、いつか行ってみたい。
この前有吉がかりそめ天国で「日本で一番の絶景」と言っていたけれど、いったいどれほど美しいのだろう。
episode5 雨は俎上に降る
「全部 思い出したんですね」p.77
3にこだわる実在の死刑囚、確かいませんでしたっけ?
多分そこをモチーフに練られたキャラクターなんでしょうね。
この作品で重要視されている、行動心理が一切描かれない人物。「なぜ犯罪に至ったのか」「なぜ3にこだわるのか」・・・。気になりますねぇ~!!
我路ちゃんだってなんでバスジャックを起こしたか、あれだけ丁寧に描かれていたのに。
しかも普通に逮捕されて・・・この後出てくるシーンは面会室ということなのかしら。
ガロちゃんの愉快な仲間の一人なのかしら。それとも、無関係?
正直僕はこの作品がどういう方向に行くのかつかみ切れていない部分があって。
この人物も同じ。この人物はどこへ行くのだろう、いや。
そもそもどこから来たのだろう?
あとepisode3じゃないのさぞかし残念やろなぁ・・・。せめて6が良かったよねぇ。
episode6 ばちあたり夜話
「人は病に負けたから死ぬんじゃないです」p.138
この言葉はもう本当に共感だった。僕も薄ら抱いていた違和感。
患者、もしくは患者が家族にいる人はこの前2ページも含めて読んでほしい。
大病中の親がいる僕にはざっくざくでした。
犯人がすごい意外だったのが良かったなぁ・・・。何せepisode4、5と続いて犯人は初期から分かっている設定の話が多かったから。
あと全体的に見てもこのエピソードは結構好き。
主題の謎に至るまでの謎かけや、検査にびびる整、汐路の名前を借りてお見舞いをするガロちゃんの悪戯心、最後の若干難解な純文学めいた結末。
ちょこちょこ小さいエッセンスが散りばめられていてとても面白かった。
マルクス・アウレリウス・アンテニヌスの『自省録』ってあんなに面白いことが書かれているんですね。僕も読んでみようかなぁ。
あと、絶対霜鳥は、近藤公園さんに演じてもらいたいなぁ・・・。
episode6 暖かいのか温かいのか
「家族や身内には冷たく厳しくても 他人には優しい人っていますから」p.175
所謂「温室編」開幕、といったところでしょうか。
親の見舞いに行かない人々を一方的に非難する風潮があるけれど、そこにやさしく異議を唱えているのがとても良い。
そう、その人達にしか分からないことって絶対あるから・・・。
この記事の最初のほうで「キャラクターがすごい」みたいなことを図々しくも言ったおぼえがあるのですが、このエピソードに出てきた梅津真波。こいつぁーすげーぜ!!!
まず可愛くないんですよ。ぽっちゃり眼鏡。
そのルックスに「にゃー」をつける。
そしていかにも世渡り下手。
こんな人物普通創ります!?やばくないですか!?
絶妙なバランスで、実在しそうななんつーか。
しかもこの人物の話をわあわあ書くことで、
終盤のライカの美しさを際立たせるという・・・。
「漫画力つえええええええ!!!」と思いました。素直に。
以上である。
温室編も結構気になるし、我路ちゃんズはもちろん、三船ちゃんも気になる。
また近いうち読もうかな。
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