小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

田村由美『ミステリと言う勿れ1-2』-この作品はミステリじゃない。癒しがある。-

 

これは決してミステリじゃない。

あとこんな美しい顔のアフロ、見たことがあろうかいやない(反語)。

 

田村由美『ミステリと言う勿れ 1-2』(小学館 2018年)の話をさせてください。

 

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【あらすじ】

冬のあるカレー日和。

大学生・整がタマネギをザク切りしていると

警察官が「近隣で殺人があった」と訪ねてきた。

そのまま警察署に連れていかれた整に、

次々に容疑を裏付ける証拠が突き付けられていくが・・・?

 

解読解決青年・久能 整(くのう ととのう)、

颯爽登場編のepisode1とepisode2〔前編〕を収録‼

 

(1巻より  一部変更有)

 

【読むべき人】

・ミステリが好きな人

・ミステリが好きだけれども推理小説が嫌いな人

・悩みがある人

キャラクター小説(漫画)が好きな人

・女性用漫画に足を踏み入れたいが恋愛描写はあんますこじゃない人

・アフロ≒小汚いというイメージがある人

 

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【感想】

「”冬はつとめて”っていうほど早くないけど 

 うん カレー日和だ」p.6(1巻)

 

このなかなかインパクトのある表紙を見たときから、ずっと気になっていた。

髪の毛はアフロ、しかしその下に続く顔は美青年。

アフロとは思えないくらいの澄んだ目はキラキラしている。ほんじょそこらの少女漫画以上にキラキラしている。

それでまっすぐ僕のほうを見るもんだから・・・。

更に(今は亡き)帯には『この漫画がなんたら!!』みたいなランキングの上位にインしている!!すごい!!みたいな旨が書かれていた。

読むしかないと思った。

こういうときの直感は当たる。

めっちゃ面白かった。

 

今作は所謂「ミステリ」と呼ばれる血なまぐさい事件が起きる漫画である。ただし決してミステリではない。

読者に推理を求めない。

確かに漫画随所にちりばめられる小さな伏線を拾っていけば犯人にたどり着くことは可能であるが、

今作は推理に重きを置かない。

事件、そして整の推理を通したキャラクターの心理描写に重きを置く。

 

episode1の場合。

警察内部でも刑事によって事件に対する姿勢が違う。

若手の刑事は妻が妊娠し、家族の大黒柱となる未来に心躍らせながら、比較的前向きに取り組んでいる。

新米刑事は上司・先輩の刑事についていくのに必死で、取り調べすら精いっぱい。

眼光鋭い眼鏡刑事は、絶対に犯人を捕まえるという固い決意のもと捜査に当たる。過去に冤罪騒動を起こしたからだ。

そして人の数だけ抱く苦悩。

妻からの仕事に対する十分な理解を得られないことによる、日々の喧嘩。

新人で、更に紅一点である自分の職場での存在意義。

騒動による組織内での信頼の失墜、真実への執着。

そこが主人公・整が関わることによって、ゆっくりとほぐれていく。

整えるかのように。

 

題材は血なまぐさい事件が多いけれども、ミステリや推理小説が好きな人よりかは、日々悩んでいる人等にお勧めしたい。

ほぐれていく人々を見ていると、自然と自分の悩みも大したことないように思えてくるはずだ。

 

また、先述したように一つの警察署でもいろんな刑事が出てくるが、

今作はキャラクター小説改めキャラクター漫画としての色合いも強い。

表紙でおなじみのキラキラアフロ・久能整をはじめ、警察側・犯罪者側両側から共に出てくる個性豊かな登場人物たち。

そしてひとりひとりのしぐさや表情にがあるから、読んでいてとても面白い。

例えば新米パパ池本は答えに困ると舌を出すし、

熊田翔はよく笑うが本心から笑っていない冷徹な微笑、

バスジャックの犯人の表情・服のセンスにも癖があるし、

2巻き終盤に出てくる少女・汐路は白黒でもわかる、頬の桃色、パッチリ開いた瞳の売るめき。

一人ひとり、声まで聞こえてくるような。

キャラクターがここまでひとつひとつ誌面上で「動く」漫画はなかなかない。

 

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2巻はちょっとディーンフジオカに似てると思う。

 

1-2巻でepisode1-4まで出てきている。

各エピソードの感想を自由に述べていく。

僕が一番好きなのは1。

好きか否かよりも、衝撃が強かった。

 

Episode1:容疑者は一人だけ

「真実は 人の数だけあるんですよ」p.44(1巻)

衝撃だった。

たかが取り調べのシーンだのにまぁ刺さる言葉が多いこと多いこと。

特に印象に残ったのは前述したアンチ「真実はいつも一つ!」宣言。同じ小学館なのに大丈夫なのかよ。

あと事件の犯人、真相も衝撃的だった。

僕はこう見えて叙述ミステリはそこそこ読んできているので、安易な作品だと犯人が何となく察せたりするんだけれども、今作はまぁ驚いちゃったよね。

終盤、寒河江君の1シーンが印象的。

通常、ここで被害者の生前なんて出てこないのだけれども、

あの1シーンで寒河江の存在感が一気に厚みが出たというかなんというか・・・。

ああ確かに。

確かに殺人事件は起こったんだ。

 

Episode2:会話する犯人

「えっ じゃあ飛行機を飛ばしたのは誰だと思ってるんだろう?」p.36(2巻)

タイトル自体も伏線のバスジャック編である。

同じくジャックされた被害者達そして加害者達の苦悩を、例にもれず整がゆっくりほぐしていく。

特に露木リラさんの苦悩が、僕に最も近くて非常に印象に残っている。

ああ~~~ほぐれるんじゃあ~~~。

そしてこのepisodeの終盤の展開がえげつない。

今まで多用されていた吹き出し横の文字が一気になくなり、

無駄ゼロ、シンプルな言葉のみで真相に突き詰めていく展開は見事。

そしてその後の凄惨なる結末。

筆者の筆力もそうだし、結末の引きずる後味共に何とも言えない展開となっている。

ああ~~~えげつないんじゃあ~~~。

 

Episode3:つかの間のトレイン

「一番大事な人と歩いてくださいp.140(2巻)

長編と長編の合間にはさまれたさくっと読める「つかの間の」短編。

後半するりと裏返る事件の真相が心地よい。

確かにこの漫画は読んでいてほぐれて癒されるけれども、

中盤までの求めてるのはそういう癒しじゃない!展開を一気に撲滅させるある種心にすっと来る、なじむ後味の悪さよ。

Episode1の「真実は人の数だけあります」発言を、軽やかに踏襲したエピソードでもある。

ちなみに行き逃した展覧会、僕は広島までは行けないな・・・。せいぜい大阪がギブ。

 

Episode4:思惑通りと予定外

「だから久能整くん バイトしませんか 命とお金がかかってる マジです」p.164(2巻)

狩集家遺産相続殺人事件(?)のはじまりはじまりー!のところで終わっている。

遺言書、莫大な遺産、今まで必ず死者が出ているという設定・・・聞いてるだけで胸の高鳴りが止まらないような展開。

出てくるキャラクターも例にもれず個性豊か個性豊か水谷豊。

こりゃーもう続き読むっきゃないぜ!!!になる。なっちまう。

あとこういう王道の設定って意外と読んだことなかったりするもんだよね。

2巻巻末で筆者が「ミステリが好き」と言っていたけどまぁ、でしょうね!となるてんこもりの設定。わくてか。wktk!ktkr!!

 

【幕ノ内】episode2とepisode3の間

多分筆者は池本のこと気にいってるんだろうな。

僕も嫌いじゃない。

 

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多分整の顔面にはモデルがいると思うけど誰かわからない。

 

以上である。

読んでいてほぐれていく感覚が心地よい作品。

あと今作は1巻巻末で今作は会話劇筆者は言っているけれど、確かに。

僕が叙述トリック好きだから、言葉ですべて進んでいく展開もかなりハマったのかな。

 

あと思うに、ミステリと言うのは確かにハラハラドキドキはするけれども、

読後癒されるかというと違うと思う。

そんなミステリがあろうかいやない(反語)。

むしろ読んだ後にどれだけ後味の悪さを引きずることができるかが勝負なところもある。

じゃあハラハラドキドキ、後味の悪さに加えて癒しがあれば、もうは最強じゃないか?

ミステリと言う勿れ。

この作品には癒しがある。

 

「整くん 小さい整くんは 誰の気をひきたかったんだろうね」p.96(2巻)

 

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