小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

梶山季之『せどり男爵数奇譚』-古書の上で踊る踊るせどれ。-


せどり」って、そんな昔からいたんだ。

梶山季之せどり男爵数奇譚』(筑摩書房 2000年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
せどり(背取、競取)とは、
古書業界の用語で、
掘り出し物を探しては安く買ったその本をほかの古書店に高く転売することを業とする人を言う。
せどり男爵こと笠井菊哉氏が出会う事件の数々。
古書の世界に魅入られた人間たちを描く傑作ミステリー。

裏表紙より

【読むべき人】
・古本屋が好きな人
・古書を買う人
せどりで生計を立てている人

【読むのをいったん考えるべき人】
・ホラー、ミステリーが好きな人

【感想】

「最近面白い本読みましたか?」
と聞いて、
古書店の店主に勧められた一冊である。

面白い本ないですか?
ていうのはついつい聞いてしまう僕の悪い癖。
それをいつまでも治せないのは、
知らない作家の知らない本を、
ひょいと手に出来ちゃうからである。

「おもしろい」て保証つきでもあるし。

この作品もそうだった。

まず作者名。
梶山季之」。
聞いたことがないし見たこともないけど、
調べてみると
どうやら昭和の大衆小説家。
今でいうと井戸田潤池井戸潤に近いものがあるのかも。
ただこの作者身体がもともと弱く、
45歳で客死。
時代とともに忘れられてしまった一作家・・・。

閑話休題

まぁそうして本を知り、表紙を見た僕は、
正直。
ときめいた。
黒字に赤い字、
しかも液体たれている。多分血である、血に違いない!
「オーッホッホッホッホッ…」
某喪黒さんの高笑いが聞こえてきそうなこの感じ!
何を隠そう、オカルト・ミステリ大好き人間まぐろどん、
ワクワクしながらページを開いたわけである。


季節の「季」に之で「としゆき」と読む。

短編-中編集である。
6編収録されている。
恐らく各編名前は麻雀から。
順に感想と、あと今作で知った古書の知識を、簡潔に書いておく。

第一話 色模様一気通貫
:若き頃のせどり男爵の、古書との出会いと、童貞喪失。

やっぱ中学に出会ったものに縛られるよね。
僕もアニメやらドールやらの味をしめたのは、この時期だった。
男爵も同じ時期でそういう意味では私も「オタク淑女」なのかもしれない。

数冊で一組になっているものは、
ひとつでも欠けていると価値が圧倒的に下がる。pp.28-29

今もブックオフで全巻セットとかってよく売ってるよね。
揃ってるか否かで今も買取価格違ったりすんのかな。

ワ印:春画。行為を描いた画。pp.35-36
今も使えるんですかね?
男性は、そのまぁ×××のおともとして。

第二話 半狂乱三色同順
:3冊の「ふらんす物語」の裏に書かれていたのは、金の延べ棒のありか。


「ちゃんちゃん!」で終わりたくなる一遍。
かつては古書自体が、大きい一つの財産になる時代もあったのだね。
お宝探偵団みがある。

ビブリオクラスト:愛書家の狂人じみた行動。
自分の本を世界で一冊にしたいがために他の本を壊したり、
流出しないようすべて買いだめて自分の手元に無理矢理おいておいたりする。pp.78-79

ビブリオって古書って意味だったんだね。
ビブリオ書房で初めて知った言葉だったけど、意味は知らんかった。
ちなみにこの「ビブリオクラスト」の一例が後で出てきます。

第三話 春朧夜嶺上開花
せどり男爵は古書を求め、古書仲間と韓国へ向かう。

やっぱ気まぐれでもいいことはするもんですね。
ふっと返ってくる。
情けは人の為ならず。大切にしたい言葉です。
あと今作で彼等は韓国の和本を探していたけど、今だったら一部燃やされているかもなぁ。

古書店のしごと
定価書き:小僧にやらせることで、利く目を養う。
落丁繰り:5ページずつめくり、奇数がでたら落丁pp.129-130


これであなたも古本屋!(雑)


よく見ると実際に古書の写真を使っていることがわかる。

第四話 桜満開十三不塔
ユダヤ商人の夫人が、シェークスピアの初版『フォリオ』を買い上げたいと言うが・・・。

夫人の執念が凄まじい。
この話が一番印象深かった。
古書一冊になんでここまでアツくなれるのか、意味わからん。
これほどまでにして欲しいものがあることが、
羨ましくなるくらい。

浮世絵の集め方
難しい。一朝一夕とはいかない。
コツは北斎なら北斎歌麿なら歌麿と目標を決めて、集める。
すると収集家の間で
「ああ北斎ならあいつが集めているから・・・」
と作品が手元にやってきやすい。pp.156


これは、画像集めにも使えるのではないか。
例えば、橋本環奈が好きで、橋本環奈の画像をずっと集めているとする。
周りにも公言する。
「橋本環奈が好きです」
すると自然と橋本環奈の写真やグッズが僕の周りに集まり始め、
もはやなにもしなくても橋本環奈に僕は囲まれ幸せな気持ちにな・・・・らないか。
違うな。
よく分からんな。
はい。

第五話 五月晴九連宝燈
:スチュワーデス殺人事件、幼稚園園長宅放火事件、身元不明の女性の殺人事件・・・数々の事件から浮かびあがる真相には、一人のビブリオクラストの影。

執念のあまり、殺人が起きる話である。
先述したビブリオクラストが出てくる、
ミステリもどきな一遍。
ただこの本編よりも、最後の逸話のが印象に残った。

ドン・ヴィセントは書庫番に従事する男だった。
無学であったが、仕事をしていくうち貴重な本ばかり求めるようになる。
そんなある日、
世界に一冊しかない珍本が競りにかけられるという。
ヴィセントは最後まで争ったが、
古本屋バックストットが競り落としてしまう。
しかし、バクストットの家が火事にあい、主人は焼け死ぬ。
それ以降バルセロナで愛書家が度々殺される事件が起きる。
ヴィセントの家を捜査したところ、
そこにはバックストットの家で焼失したはずの珍本があった。
ところが、
この本はなんとパリの図書館にも一冊あったとう。
弁護士は言う。
「裁判長。世界にただ一冊という保証があるのならともあっく、まだほかにもこの本はあるかもしれない。従って、「世界に一冊」の珍本所有を証拠に裁くのは危険である」
すると、
ヴィセントは号泣したという。
「ああ!あの本は、世界でただ一冊の本ではなかったのか!」
1836年、五月晴の日に、
彼は絞首台の露と消えた。pp.241-246

面白いよね。
彼にとっては、本の中身なんてどうでもいいんだ。
おもしろかろうがおもしろくなかろうが。
世界で一冊の本であれば、それでいいんだ。
さいこーにビブってるね〜クラストしてるね〜。

やっぱあれなのかな。
宝石とかでも工芸品とかでも芸術品とかでも、
収集家になると自然と世界に一つが欲しくなるのかしら。

第六話 水無月十三幺九
装丁家として一流の腕を持つ佐渡氏が、人皮に憑かれるきっかけとは・・・。


人間の皮膚で装丁する本の話である。
一番血生臭い。
皮を剥ぐシーンが強烈。
行為に及んでぐったりしている十七歳の乙女の背中の皮を切り取っていく。
その独特の、どこか昭和くさく古臭い、エロスな雰囲気がたまらない。
今の小説家にはない味がある。

・・・表紙の赤い文字の流れている血は、
これもしかして乙女の血なのかもしれない。
結構臭そうだけど。

『姦淫聖書』
出エジプト記二十章第十四節の有名な文句
「汝、姦淫するなかれ」
しかし印刷のnotが抜けてしまい、
「汝、姦淫せよ」
協会は回収を試みたが、巷には何千部と流れており、
そっくり回収は不可能だったという。pp.259-260


なんとこれ、どうも検索すると実話らしい。
聖書らしからぬ性書ってか?
オーッホッホッホッホッ…。

オーッホッホッホッホッ…。

ざっくり、全編の感想はこんな感じである。
だが・・・まぁその気づいただろうか?

そう、この本ゆうてそこまで、ミステリーでもなくホラーでもない。
おどろおどろしい表紙とは裏腹に、
古書の小話がたくさんちりばめられた、
昭和ならではの品の良さすらただよう、
そんな一冊なのである。
さすがせどり男爵なだけある。

表紙がダメ。
今すぐ変えた方がいいと思う。
てか、「ホラーかな?ミステリーかな??」
僕のワクワクを返せ。

以上である。
中身は面白いけど、期待した感じとは違った。

ひょーしをかえてくだしゃいな!!

そんな感じ。


ちなみに僕が最近買った古書。