小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

J.D.サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』-某芸人よりクセが強い-

「レモネードはいるかしら?」
女は男に話しかけた。女はミンクのコートを着ており、柑橘系のコロンをきつく匂わせていた。
赤毛(・・それはヘルメットの着用により薄くなっていたが)を震わせ、男は笑った。
「いらないよ、その代わり僕の靴下を脱がせてくれるかい?」


以上の文章についてこれるか。
ついてこれないなら読まない方がいい。
J.D.サリンジャーナイン・ストーリーズ』(新潮社 1974年)の話をさせて下さい。

まぁ上記の文は僕が即興で考えた「風」の文なのだけれども。



【あらすじ】※一番初めの短編「バナナフィッシュにうってつけの日
バナナの穴に入り食べ散らかしながら中に入るバナナフィッシュ。
独特の架空の生物について少女に話す、かつて戦地に赴いた元兵士のシーモア・グラース。
部屋に戻ると彼は・・・。9つの短編からなる自選短編集。

【読むべき人】
・戦後文学に関心がある人
・行間を読むことに読書の趣を置いている人
攻殻機動隊の「笑い男」マークを知っている人

【感想】
短編集だからと言って甘く見ていたんだが、クセが強い。
特に会話の言葉一つ一つが独特で、そのまま読むと成立しないものが多い。まさしく僕が冒頭で即興で作った・・・ああいう会話文が延々続く。
著者の本を手に取るのが初、という人は必ず立ち読みすることを薦める。いいか、必ずだ。

またストーリー展開も独特。
小説・・・純文学というものはその余韻であるとか、もしくは解釈するのとかに趣があったりするんだが、
本書の9つの短編はどれも変。
そう。
独特な会話文で変てこなストーリーが進むものだから、読者初心者には魑魅魍魎無理難題。
なのでここだけの話、ストーリーはぶっちゃけ1編1編「wikipedia」で予習してから読むことをお勧めする。完結まで優れた文章で一編一編誰かが書いてくれている。あらすじの概略をつかんだうえで文体を楽しむと、かなり読みやすい。読者側にも余裕がある、というか。
ちなみに僕は5編目くらいからwiki片手に読んじゃった。

登場人物も、戦後文学らしく主に戦場での傷を引きずる元兵士が多い。
神経衰弱している人が多く出てくるのだが、
彼等の心情ではなく行動に描写の重きを置いているのが特徴的。
心情描写を重ねるよりは、行動から真意を探らせた方が彼等の鬱の理解に近づける、のかもしれない。
また、日本の戦後文学にある「戦時中の描写」が一切ない。戦争で亡くなった戦友等一人も出て来やしない。・・・出てきたかもしれないが、せいぜい名前程度。
欧米の戦後文学がこんな感じなのか、それともサリンジャーだからこんな感じなのか。読み比べないとわからないな。
ちなみに、著者も従軍経験あり。まぁ向いてなかったらしいんだけれども。

特に印象的だったのはこの話。
笑い男
攻殻機動隊」」にでてくるあのにっこりした少年のマークの原作でもあるらしい。まじか。
まぁこれだけでもオタク、と呼ばれる人は本書を読んどいたほうがいいのかもしれない。
内容は以下、こんな感じ
【あらすじ】※ネタバレ有り
青年は彼が率いるボーイスカウト笑い男の話をする。
彼は幼少期に浮受けた山賊からの傷でひどく醜い顔だったため、毎日仮面をつけて過ごしていた。心はとても優しかった。
やがて手腕を発揮し世界一の資産家となる。
その資産を修道院に寄付したり、警察犬の育成に使ったりして、彼自身は森で仲間達と静かに質素に暮らしていた。
しかし彼を利用しようと富豪の父娘に目をつけられてしまう。
・・・ここで青年は仲良くなりかけた、ガールフレンドと別れる。
父娘は笑い男を有刺鉄線に結び付け、発砲しようする。
しかし男は弾丸を跳ね返し、彼等を殺害してしまう。
・・・p114 どのみち、この回の話が短いものになるのであってみれば、ここで終りにすることもできたはずであった。(中略)ところがそれは、ここで終らなかったのだ。
足元の父娘の遺体が腐りゆく。
有刺鉄線に結び付けられたままの男は、ようやくたどり着いた仲間の小人に仮面をとってもらい、そのまま、息絶える。
以上。終わり。

ここで、僕が気になったのは
「なぜ失恋した男は笑い男の死まで話をしたのか」。
主人公の少年の言う通り、悪役である父娘の死で終わっていればいいものを。
失恋したからなのか。
恋はお家手もそれに負った傷は延々続くからなのか。
二人殺した罪深さは、美しい人生の終幕を許さなかったのか。
青年の澄んだ恋心≒笑い男であるならば、
「恋」に勝利もくそもあるかということを青年は知ってしまったのか。
・・・解釈がいくらでもできそうだが、正直どれも上滑りしている気がする。
再読の余地がある。
だから、サリンジャーの著作は長年愛され続け、討論され続けているのだろう。
ちなみに、攻殻機動隊における笑い男の言葉に以下のような言葉があるらしい。
僕は耳と目を閉じ口を噤んだ人間になろうと考えたんだ。
最後まで慈愛を忘れない笑い男のように、彼もなりたいんだろう。まぁ知らないんだけれども。

また、本書でささった言葉はこれ。
最後の短編。
「テディ」
p.275 詩人というのはいつも天気を個人的に受け止めるでしょう。感情のない物にいつも自分の感情を注入する。
10歳の少年の言葉とは思えない!!
しかも前述したように解釈を見出そうとする僕等読者を嘲笑っているようにも読める!!
ムカつく、ムカつくぜサリンジャー

ちなみに「エズミに捧ぐ」「テディ」「バナナフィッシュにうってつけの日に出てくるショタ・ロリ達は全員言葉がやたらと大人めいていて、独特の愛らしさがある。
「小舟のほとり」のすねるショタ、コネティカットのひょこひょこおじさんのイマジナリーフレンドを作るロリもなんか変なんだけどなんか惹かれる。
・・・多分サリンジャーロリコンじゃぁないのかな。
案外天才っていうものは、ロリコンって相場が決まってるからね。(当社比)