小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

佐藤愛子『九十歳。何がめでたい』ーばあさんのおもしろ「近頃は」ー


「昔はああだ」
「私の時代はこうこうだった」
「今の人たちはああがこうでそうだからだめだ」

耳に障るそんな年寄りの言葉群もこれだけ面白ければ、誰も文句は言うまい。

佐藤愛子『九十歳。何がめでたい』(小学館 2016年)の話をさせてください。



【あらすじ】
94歳を迎えた直木賞作家 佐藤愛子
技術の進歩とともに変わりゆく現代を、30の切り口で書き散らす。
おもしろばあさんのぶっとい随筆。

【読むべき人】
・つまらないじいさんばあさん
・僕たち若者
・世を憂う人

【感想】※ネタバレなし
非常に売れていると聞いていたが、まさか実家にあるとは思わなんだ。
ということで、早速さくっと手に取る。
佐藤愛子先生が、2015年から2016年にあたって『女性セブン』で連載したエッセイをまとめた書物らしい。

結論。
超絶面白かった。エッセイに飽きちゃう僕でさえ、さくっとこんな感想が出てくる案配。
文章が非常に読みやすい。帯に「小学生からお年寄りまで世代を超えて愛されて」とあるが、ああうんまさしくその通り。
誰でもさくさく読める文章で、しかし筆者の主張はしっかり組み込まれている。なるほそなるほそと思ってしまう。
強い。強いぞ。このばあさん。
同時に、つべこべと現代に文句を言う年寄りは、これほどまでのユニークを携えて真っ向に言葉を口にしろ。ふがふが何を言ってる川あらないようでは誰もお前の言葉など聞きはしないぞ。

特に僕が好きなのはこの2章。
「グチャグチャ飯」(p.110)。「覚悟のし方」(p.118)。
「グチャグチャ飯」は6月に死んだハナの話。
ハナとの出会い、ハナのえさ、ハナに対する態度などハナに関することがばあさんの素直な言葉で書かれている。
カタカナが並ぶ小型犬とはほど遠い、雑種の雌のたくましい姿が目の裏に浮かぶようである。
ただ、こういうペットの話というものは、たいてい美化されて描かれる。
「今でも見守ってくれている」「ありがとう」「大好きだよ」
知らんがな、と僕は毎回思うんだけれども今作は、そういった言葉は一切出てこない。そのくせ、超絶おもしろい。
犬の飼い主であるならば、読んで価値ある文章だ。
「覚悟のし方」はそのまま、不倫の人生相談の話から始まって、最後に92年間生きてきた佐藤先生の覚悟の仕方について書かれている。
何事も失敗したとき・最悪の事態を覚悟した上で、取り組め。生きろ。
ざっくりそんなことが書かれているのだが、うじうじ転職活動もせず布団にこもる僕にとってこの言葉は非常に胸に響いた。失敗を覚悟して、取り組めば恐れるものはない。

他のエッセイもどれもおもしろく、活力になるようなエネルギッシュなばあさんの文章ばかり。すごひ。
気取ることなく、かっこつけることなく、実直な文章だからこそ、あらゆる世代を超えたいろんな人の心に届いたんだろう。

ちなみにこの本、一回り小さく非常に持ち運びやすい上に、文字も読みやすい大きさになっている。
『女性セブン』連載にも関わらず、愛らしいペンイラストにタイトルの文字。

こういう本に施された工夫も、大ヒット要因の一つではないかなと僕は思う。
90%は愛子先生の力。10%は編集者の力。ではないのかなぁ。。

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実家にあった車のおもちゃ。