同じ■■■■といえども、
まぐろどんの世界はそんなに綺麗じゃないよ。
安藤ゆき『町田くんの世界1』(集英社 2015年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
物静かでメガネ。
そんな外見とは裏腹に成績は中の下。
アナログ人間で不器用。
なのに運動神経は見た目どおりの町田くん。
特異なことが何もないと本人は思っていますが
周りからは愛されています。
その理由とは・・・?
別マの新感覚連載、必見の第1巻です!!
【読むべき人】
・不器用な人
・ピュアな人
・優しい人
・が周りにいる人
・澄んだ気持ちになりたい人
【感想】
「1冊200円・・・全何巻ですか?」
「うーん、9巻だったと思うけど・・・あ、調べたら7巻でしたね」
「なるほど・・・」
「・・・。」
「・・・。」
各々200円のところを100円に負けてもらった。
ありがとうございます。
作品自体の存在は昔から知っていた。「面白い漫画」として名前を聴くこともあったし、表紙の装丁が綺麗だかなんだかで目にしたこともあったし、なんか「発達障害」を自然に描いただのなんだの高尚な言葉を挟んで耳にしたりもした。気がする。なんか映画化かドラマ化。実写化もした。気がする。*2
そこまでならまあ、「気になる」の有象無象の漫画の中に溢れて一生手に取ることはなかっただろうが、こういうフェスの「ひとはこ」に入っていると気になって手に取ってしまうわけだから、やっぱりこういうイベントっていいよなあと思ったりする。
そして一通り読んだわけだけれども・・・成程。その「ひとはこ」の主人が、半額にしてまで誰か(僕)に売りたい気持ちが分かる作品だった。
要するに素晴らしい作品だった。
まず主人公の町田君。
少女漫画にして男性主人公、という点でも珍しいが、町田君はその中でもかなり珍しい方だと思う。
少女漫画の主人公なのに「イケメン」ではない。眼鏡。黒髪。
少女漫画の主人公なのに「弟」ではない。大人数兄弟の長男。ギャルくて弟にダルがらみする姉はいない。
そして、
少女漫画の主人公なのに「恋愛」に興味がない。
あくまで町田君が興味あるのは(1巻現在今のところ)人間全般、なのである。
だから彼と交流する人物は、クラスで浮いてるJK・・・だけでなく、
友達間で「いじられ役」になってしまう気の弱い同級生、
度々子供たちを一人暮らしの住まいに呼び寄せる老人、だったりする。
普通の少女漫画の主人公だったら、目にも留めないような存在。もしくは「脇役」どまりの存在。
しかし町田君は、ひとりひとり、一話一話かけて向き合い、そして彼等を理解しようと努めていく。
その真摯に向き合う姿が、ぐっとくるのである。
僕達は理解しようとして、誰かに真摯に向き合ったことはあるだろうか。
心の中でこの人は「友達だ」「家族だ」「楽しい人だ」「つまらない人だ」「優しい人だ」「面倒な人だ」「好きな人だ」「好きじゃない人だ」適当なフォルダにつっこんで、そして向き合っているフリをしている時の方が多いんじゃないか?
友達家族だからなんとなく考えていることが分かる。やっぱりこの人の言うことは面白いなぁ。やっぱりこの人の言うことはつまらないなぁ。この人は優しいからきっとこういう風に考えてるんだろう、見習わなくちゃ。ああ、この人は面倒な人だからきっとこうこう考えているんだろう。めんどくせえ。好きな人はきっとこう考えているはずだ。嫌いな人だからきっと私の意見を押しつぶすようなことしか考えてないのだろう。
せいぜい、このレベルですませていないか?
無意識に相手を決めつける。
しかし町田君は人間が好きだ。そして純粋だ。
そこからさらに一歩踏み込んで考える。
僕はどうだ。
その姿に、普段の他人との接し方を考えさせられてしまうのである。
「町田くんの世界」のように、
僕「まぐろどんの世界」も、君「■■■■■の世界」も、
「あの人の世界」も、「この人の世界」も、「あいつの世界」も、「こいつの世界」も、
「嫌いな人の世界」も「好きな人の世界」も、
こんなに純粋で透明であればいいのに。
各話の感想を簡単に記しておく。
第1話 今日の町田くん:町田一(まちだはじめ)の一日
「町田くんは人を愛し また人から愛されています」p.41
町田君は人間が好きだから、どんな小さいことでも見逃さないんですよね。
そしてそれを純粋な気持ちで褒めちゃう。そりゃあ愛されるわけですよ。
あと、不器用は純粋ってこと。純粋は不器用ってこと。
なのかなあと思ったりする。
ほらだって、大人の世界になると「器用」って要するに「ずるいこと」でしょ?
第2話 不安な傷口:町田くんは保健室で猪原さんと出会う
町田くん「家と学校と その両方で 君は傷を深めていったの
俺には傷を癒す力なんてない
(中略)
不安な時に側にいることくらいならできるはず」pp.83-87
作品と全然関係ない話なのですが、
僕(童貞・メス・27歳)が最近結婚をすごいしたいなーと思う理由が総てこの台詞に詰まっている。
分かるよ。
別に君に僕の傷を癒してくれなんてそこまで期待していない。
ただ話を聞いてほしい。頷いてほしい。そして僕の手を握ってほしい。
それだけなんだ。
親の癌であるとか少ない収入であるとか鬱だとか発達障害(笑)だとかさあ
僕はもう不安なんだ。梅雨も手伝い、最近不安ではち切れそうなんだよ。
だからせめて僕の手を握っていてくれないか。
そして「まぐろどんは強いよ」。決して、その言葉を言わないでくれ。
脆いんだ。脆くなってしまったんだ。壊れそうなんだよ。
まぐろどんじゃなくて、「まちだどん」になっていいですか。
あ、ちなみにこの話の「不安な傷口」ってすごくいい題名だと思う。
第3話 ラブレターは突然に:町田くんの下駄箱に入っていたラブレターは、西野くんが間違えて入れたものでした
西野「ありがとう 今日ふたりに対等に向き合ってもらって俺 恋が実ったくらいの気持ちだ」p.124
分かる。僕も基本小学校時代から所謂不思議ちゃんで天然でいじられキャラ枠だったから分かる。対等に会話が成立するだけで凄く報われた気持ちになる。
「いじられキャラ」をいじる行為は、距離を詰めるのに最も効果的な手段であるけれども、相手を真に理解するには最も難しい手段だと思う。
「かわいい」と同性を褒める行為もそう。
そうやって枠に押し込むことで、踏み入らず踏み入らせず、いじられキャラのあいつやかわいいあのこは見えないところで孤立していく。
第4話 雨天日クライシス:町田くんの弟が知らないおじさんの家(一人暮らし・無職)に行き来していると聞き・・・
妹尾さん「さみしいのは愛する人がいるということだ
本当のひとりは孤独じゃない
誰かがいると思うからこそ孤独なんだ」
(中略)
町田くん「そばにいてもだけど 僕は孤独だと感じたことはないです」
妹尾さん「はは それは君がまだ誰も何も失ったことがないからだよ
失う恐怖がまた 人を孤独にさせるんだ」pp.154-156
この独居老人妹尾さんの台詞、僕も町田くんと同じ年齢・・・高校生の時だったらちんぷんかんぷんだったろう。
けれど、今・・・母親が肺癌で長らく闘病している今なら・・・この台詞がとてもわかる。
と、どの話も心にふっ、と入る場面や会話があって、
自身と比較し考えてしまう。
そして自身の在り方を考えてさせられてしまう。
以上である。
なんか1巻結構さくさく読んだんだけど、その割には心に浸透してくるような場面があって、染み入ってしまった。そんな感じ。
2巻も間髪あけず、さくさくっと読んでしまおうと思う。
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同じ7巻完結で思い出した。
5-7巻恐らく実家にあるんだけどまだ読んでないんだよなあ。読まなきゃ。