やさしいことはむつかしい。
安藤ゆき『町田くんの世界2』(集英社 2015年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
物静かでメガネ。
そんな外見とは裏腹に成績は宙の下。アナログ人間で不器用。
なのに運動神経は見た目どおりの町田くん。
そんな彼に弟が出来たり、告白する女の子が現れたり、
初恋の人が現れたり・・・。
人を愛し、人から愛される町田くんの第2巻です!
裏表紙より
どうでもいいんですが、こういう裏表紙の文章って編集者が書いていると思うのですが、本作は特に書き手の作品への愛が伝わってる・・・気がする
【読むべき人】
・癒されたい人
・不器用な人
・優しくありたい人
【感想】
1-2巻を、古本市で購入し、1巻を読み「こりゃあ面白いぜ!!」になりそのまま間を開けずに読んだ。面白かった。素晴らしかった。
もうなんか、読んでいるだけで尊い・・・になる。何なんこの感情。尊い・・・。
というか愛おしい・・・。
基本この作品には、悪人が登場しない。基本みんな善人。
そして不器用な人が多い。というか基本みんな不器用。
全員善人不器用。
こんなんもう尊い通り越して愛しい不可避なのである。
でも同時に思うのは、現実も多分大差ない。
ごくごく一部の例外は除くし、
まぁ僕が恵まれてきただけなのかもしれないが、
現実の人間のほとんどが「善人で不器用にすぎない」ように思うのだ。
例えば、あたりが強い人。
その人は本当に「強く当たってやろう」と思って、強く当たるのだろうか。
単純に伝え方が分からないだけではないか。もしくは力の加減を知らないか。
その人があたりを強くしてでも伝えたいことはどこか別にあるはずだ。
例えば、不愛想な人。
その人は本当に「愛想ケチってやろう」と思って、無表情なのだろうか。
愛想を振りまかなくなったきっかけが過去に何らかあるのではないか。もしくは笑顔が下手か。笑うのが苦手か。
恐らくその人の表情が乏しい理由はどこか別にあるはずだ。
町田くんは、真摯に人に向き合う。純度100%の気持ちで向き合う。
だからその人をその人たらしめる、弱い部分を優しく掬いあげられる。
でも大抵の人がその「町田メソッド」で人と向き合おうとすると、疲れてしまうと思う。心はすり減り、自分の置きどころが分からなくなる。
強く当たられれば、自分は傷つく。その傷を無視してまで相手の真意をくみ取ろうとしつづければ、己の傷は疎かになり、ぐじゅぐじゅになり、鬱化していく。
無表情相手に、笑顔は疲弊する。まるで植物が育たないと分かっているコンクリートに延々と水をあげつづける感覚。手ごたえが一切無い作業に心はどんどん消耗していく。
しかし町田くんはしっかり芯をもって、自分の居場所は見失わない。
自分を大切にし、相手も大切にする。
普通にすごいし、これこそ「得意なこと」でもあると思う。
日本語にすると非常に複雑になってくるが、町田くんの得意な部分は「優しい自分でい続けること」。
以下簡単に各話の感想を書いていく。ネタバレを含む。
第5話 ようこそ、この世界へ:町田くんのお母さんが出産予定日を迎える。町田くんは心配で心配で睡眠不足だ。お母さんの妹のカズミちゃんも手伝いに来てくれるが・・・
解消された睡眠不足
町田くん「つまり俺 カズミちゃんのことも お母さんみたいに思ってるんだ」
冴えわたる五感
pp.44-45
6人目の出産を控えている姉に対し、ぽろっりと自身の不妊について夫に愚痴をもらしてしまった叔母さんに対する町田くんの台詞なんですが、
その台詞自体よりも、
前後の言葉のが僕は好きですね。
「解消された睡眠不足。冴えわたる五感」
口に出して読みたい日本語。
話は変わりますが、不妊治療って本当に大変らしいですね。童貞(メス)なので「らしいですね」という完全他人事のようにしか言えないのですが。
僕の職場の上司もそれをされているようで、なんか身体的なことよりも精神的に辛いことなのかなあと思います。
卵巣に嚢胞もって、且つそれでピルを飲んでいる僕としては・・・、そういう立場になったら養子でいいかなあとか思うんだけど、話し合う人もそもそもいないし、その立場にならないと分からないこともたくさんあるんだと思うし、何とも言えないなあと思う。
でも今のところ、血が繋がっていても分かり合えないことはたくさんあるのだから、血の繋がりなんてそんな重視しなくてもいいんじゃないのかなあと思う。
いや。そういうことより、二人の愛の行為・・・まぁセッの末に生まれたという経緯が大切なのかなあ。
僕には全然分からない。
けれどこの町田くんの言葉にカズミちゃんが救われたのは分かる。
第6話 素敵なランチ:浮気癖のある彼氏と別れたばかりのツインテール・さくらを慰めた町田くん。するとさくらは町田くんに毎日猛アタックするようになり・・・猪俣さんの心が曇る。
町田くん「嫌になるまで好きでいても いいんじゃないかな
(中略)
何を幸せとするかは その人の自由だから」pp.84-85
この話でいいなあ、と思ったのは、メインヒロインの猪俣さん中心にではなく、フラれて町田くんに乗り換えたツインテール・さくらを中心にして描かれていることです。
大抵こういう風に登場する女子って、町田くんのどこかに何かしら理由をつけて勝手に絶望して「あーあ!」とか言って消えるのが王道だと思うんですが、そもそも「なぜ町田くんに切り替えたのか」その心理に逼迫して描いているのがいい。
こういう、ちょっと嫌風で、だけど本当はいい子、っていうポジションの代表的な娘って「君に届け」のくるみちゃんだと思うんですが、本作はそういうのを1話で片づけているのが好感触ですね。いやまぁ「君に届け」も好きなんですけどね。
にしても、心が曇ったメインヒロイン・猪俣さんもこれまた非常に表情豊かに描かれていていいですね。多分今までの話の中で一番表情くるくる変わっているんじゃないかな。
いやーでも最後の町田くんの台詞にはガクッときちゃったね。猪俣・・・お前は修羅の道を歩む女・・・。
第7話 追憶の刺、祭の夜:町田くんが商店街でばったり出会ったのはニコの同級生ひなた。しばらく疎遠になっていた彼だったが、それには理由があるようで・・・。
ひなた「ほんとの義弟になれるようにがんばります」p.130
相手は気にしていなかったけど、本人のなかではちょっとしたことが足かせになってついつい避けちゃってた、みたいなことあるよね。後から確認すると相手は全然覚えてなかったりする。
なんだよ~と肩の力が抜けるけど、でもそれだけ気になっていた、ということは「その人が優しい」という逆説的証明にもなるわけで。
だってほんのちょっとしたことで相手を傷つけたかもしれない、と考えちゃうっていうのはそれだけ相手のことを気にかけている、それだけ相手の立場になって考えようとしているということでしょ。
多分そういう人ってたくさんいると思うんです。この現代社会には。山程。死ぬほど。そういう人達はこの話読んでちょっと「救われる」感じがするんじゃないかな。
君は優しい。
ちなみに僕もそういうタイプです。
君は優しい。僕も優しい。
第8話 初恋ウエディング:町田くんは初恋の保育園の先生と、結婚式の前撮りに参加することになる。
英子先生「だったらほんとは みんなを家族と思うのが 一番よね」p.163
この台詞自体、よりもこの台詞が掲載されている場面がとても好きですね。
シャッターの光が白黒誌面越しにいっぱいに、伝わってきて、何度でも見ちゃう。フラッシュは大きくなった町田くんの優しさと、英子先生の心の沈鬱を容赦なく照らす。
にしても、この婚活でこじらせた英子先生も・・・なかなか良いキャラしてますね。
差し迫る年齢と孤独と劣等感できっと心が荒んでたんでしょうね。ところがお花一つで一気にルンルンになっちゃったりする。かわいいとこあるね。
ちなみに僕は職場で「未婚のアラフォー」と結構触れ合いますが・・・、まじでみんなまんま英子先生。
弱い自分を見せたくない。
だから妙にさばさばした自分を演出し、ひとに強く当たる。
そして物事を達観した気になり、ある程度自分と世間にあきらめがついていると思い込む。
・・・まぁいいんですけど、「ひとに強く当たる」って言うのは本当辞めていただきたい。結構辛くてストレスになるので。だから「お局さん」という日本語が実在するわけで。
何なんですかね。
強く当たられたら僕もその辺の雑草の花毟って「そんなことしなくても、あなたは、素敵ですよ」とでも言えばいいんですかね。タンポポ、シロツメクサあたりなら許されそうな気がするけど、カタバミとかじゃ逆に怒られそうだな。
いやー、結婚したいね。したいよ。
前述したように童貞(メス)、且つ27歳なんですけど・・・。はぁー。
はぁ~・・・。
いや、結婚は無くても恋愛はしたい。それが片想いであろうが両想いであろうが偽装であろうが本気であろうが恋愛したことないまま年食った人間ほどつまらないものってないから。
以上である。
とにかく優しい町田くんに癒される一冊であった。
自分を見失わずに人にやさしくできる町田くんは本当に凄いと思った。
僕には無理です。
道路で拾い集めたカタバミ職場にばらまくことからとりあえずはじめてみようかな。
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1巻の感想。おもしろくて一気に2巻まで読んじゃったよばっきゃろー。