君だけじゃないよ。
そして未来は決して暗いものではないと思う。
それが言いたいがために世に出された本だと思う。
モンズースー『発達障害と一緒に大人になった私たち』(竹書房 2020年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
ADHD当事者であり、発達障害を抱えた子供2人を育てる著者が、
発達障害の子供たちがどのような大人になりどのような仕事をしどのようにして困難を乗り越えたのか・・・閲覧者にエピソードを募集。
そのうち作者を含め9名のエピソードを漫画化。
※本書で出てくる発達障害:ADHD(注意欠陥・多動症障害)、ASD(自閉症スペクトラム)、LD(学習障害)
【読むべき人】
・上記の発達障害にあたる人
・が、身近にいる人
・と、思われる人が身近にいる人
・特に、家族内にその発達障害と思われる人がいる人。問題を家庭内で抱えている人
・そのうち、未来に対して希望を抱きたい人
・そのうち、孤独感を感じている人
※専門家による発達障害に関する解説はなされていないため、発達障害に関する一般書籍・専門書を読んだことない方は併読することをお勧めします。
【感想】
かくいう僕もこの前ストラテラを処方された、ADHD・ASD疑惑のある人間である。
職場でリスカ騒動を起こした旨を伝えたら、前から飲んでた抗うつ剤に加えて、処方された。どんなもんかと思っていたが、前よ人に対してうまく感情を表せるようになった気がする。職場でのコミュニケーションがうまくとれるようになった。疲れやすいのは変わらないが・・・。
それでも、一か月飲むことで「死にたい」と思うことはなくなったし、パートでもアルバイトでもまあいいかなと思えるようになったし、親の病気のことも自分の中で過度に悲観することも少なくなった。
アイデアが出にくくなる、創作意欲がなくなると言った言葉はよく目にするが、ブログの更新の頻度はそう変わらない。確かに、アイデアが出る頻度は少なくなった気がするがその多くが形にならず脳内完結するものだった。実際に行動に起こそうと思うような実践的なものだけ考えるようになって、クリエイティブの無駄が減ったように思う。
ただカサブタをめくるという行為が耐えられず、全身にカサブタが出来るようになってしまった。ストレスによるものなのかもしれない。皮膚科にも行くことを考えている。
何が言いたいかと言うと、僕も所謂「発達障害」当事者であり、ストラテラを飲んで約1か月。幸運なことに、それなりに効果を感じている人間であるということ。
それでも時節不安になることはある。生きていけるのだろうか。この先。人生幸せにしていけるのか。この先。
分からない。
そういう時にこういう本を手にすることが多い。
発達障害について書かれた本である。
本書は特に、発達障害を抱えたまま成長して生きている人々の生活に迫った、という点で関心をひかれ本屋で手にした。
概ね満足ではあるが、若干物足りない。
物足りない理由は2つある。
まず1つ目は医者・臨床心理士等専門家による解説がないこと。
「昔は発達障害で困っていましたけど高高校でこうなりましたー」の体験談だけで終わっている。
ちょっと残酷だと思う。
例えば、描かれている人と似た症状で悩んでいる人がいたとする。体験談だけだと一瞬「自分だけじゃなかったんだ、良かったー」と安堵するだろう。
だが安堵して何になるというのか。
じゃあどうするべきか。なぜそうなったのか。どのような対応が必要だったのか。
そういった解説も含まないと、その読者の未来に繋がらないのではないか。
その場限りの安堵で終わってしまわないか。
本書は大判で1100円・・・結構お高めではあるが、それでも、+300-500円してでも、専門家の解説は入れるべきのように思う。
確かに作中で発達障害を取り巻く環境の解説等が時々入っているが、全話ではない。そしてモンズースー先生は当事者ではあるし、発達障害に関して十分勉強もなされているが、決して専門家・プロではない。
読者の未来を紡ぐには、やはり専門家の解説が必要だったのではないかと思う。
本書を「発達障害」の入り口として読むのであれば、似た話題を取り扱った一般書籍・専門書と併読することをお勧めする。
その点、「明日もアスペルガーで生きていく」等は巧く出来ていた。西脇先生が絡むと基本神なんだよな。
もう一つは、一番読みたいところにページが割かれていない点。
発達障碍者の内、いったいどれだけの人々が仕事を順調にこなすことが出来ているのだろうか。僕はほんの一握りだと思う。
例えば指示を2つ以上されれば一瞬頭はこんがらがるし、ちょっとした物音・もしくは視界の隅に映るものが気になるし、うまく相手の目を見ることが出来ない。コミュニケーションとることが出来ない。
将来への貯金どころか、日々の暮らしの小銭を稼ぐことすら一苦労。
だからといって、発達障害・障がい者雇用を考えるほどでもない。己の症状は其処までではない気がするし、何より自分を「障がい者」と見なすのに抵抗がある。可能であれば、一般枠で雇用されたい。
そういった人がほとんどなのではないか。
そして恐らくそういった人がこういった本を手に取るのではないか。
本書では「おわりに」のところで、メモでコミュニケーションをとり別室で仕事をしている人や、イヤーマフを職場でつけて仕事している人、「薬はもはや私の一部!」(それ分かるわ~)とポジティブに断言する人々が出てきている。
そういう人の経験談こそ、しっかり描いてほしかった。
メモでコミュニケーションをとるに至った経緯はどうだったのか。カミングアウトしたのか。それとも自然とそうなっていったのか。周囲の人々はどう思っているのか。
イヤーマフをつけることを赦してくれたのは誰だったのか。どのように申し出たのか。いつ頃からつけ始めることが出来たのか。お勧めのイヤーマフとかあるのか。
「薬はもはや私の一部!」と断言しているが、薬を飲んでいる旨を職場に伝えたことはあるのか。発達障害であることを周囲は知っているのか。雇用枠は何なのか。何の仕事をしているのか・・・。
コミュニケーション力をあげるという点鼻薬も気になる。
作者が主婦なせいもあってか、本書は正直子供が発達障害であったり親が発達障害であったり、家庭内の問題で帰結しているケースが多い。
だが、多くの人は職場で仕事でどうするべきかを悩んでいるのではないかと思う。というか少なからず僕がそう。
その2つが不満だった。
専門家の解説がないこと、話題が偏っていること。
なので、「専門家の解説つき」で、「職場・社会でどのようにして仕事をすることができているのか」について描かれた続刊が出たら購入しようと思う。
そのどちらか、もしくはどちらもつかないのであれば、まあわざわざ1000円出して買う必要はないかな…とも思う。ブログやってるみたいだしそれ見ればいいかな…って。
それでも、発達障害の方の話を真摯に真剣に聞いて丁寧に描いているのは分かるし、作者も日々勉強しているのはとても分かる。発達障害を主題にしてエッセイ漫画を描くというのは大変なことだとすら思う。
「発達障害」の名を冠しながらも、「発達障害者は周囲から理解を得られるのが非常に困難で生きるのが難しい」と断言するクソみたいな専門家が書いたクソみたいな書籍もいっぱいある。そんな紙屑に比べたら何百倍も良い。
特に「おわりに」で描かれる、発達障害者に関する将来へ明るい展望は素晴らしいと思う。というか、上記の職場での様々なケースが描かれていることも加味して、この「おわりに」の章があるだけでも本書は読む価値があるかもしれない。
以下簡単に、各ケースについて思ったことを述べていく。
モンズースーの場合:本人がなぜここまで当事者目線で丁寧に描くことが出来たのか。本人も自身の抱えるその性質で物凄い苦労をしてきたからだ。自分のことで1人分割くのはいかがなものか・・・と初めは思ったが、通して読むとこの章は必須。
はいろーどさんの場合:更にきつい二編目。疑問に思うのが、勉強は出来たのに就業所で働くにあたって、どのように折り合いをつけたのか。もう少しその内面を深く掘り下げてほしかった。高学歴の発達障害を抱えた人も多くいると思うので・・・(僕もそっち気味)
いくさんの場合:この人には結構共感するところが多かった。ADHD、ASDを併せて抱えているところも、ストラテラでコミュニケーションがうまくとれるようになったところも。こうやって共感するケースが一つでも当てはまれば・・・と9つのケースを収録したんだろうなあと思った一編。
田舎のはなこさんの息子・たろうさんの場合:問題児がどのようにしてその性質を受け入れて中学高校と進学していったのか、を描いた話。親が気づくといいよね。当事者の人生がかなり拓ける。発達障害を抱える子供の親御さんは、「発達障害を抱える子供の親」という自覚がある点だけでかなり素晴らしいと思う。そういった人には響くであろう一編。
松ぼっくりさんの場合:なんかちょっとまあ結構重い一編。いや明るい終わり方はしてるんだけどさ・・・。
まむさんの場合:家庭内問題が多い中で、唯一どのようにして発達障害者が働いているのかに触れられた一編。もうちょっと多くそのライフハック知りたかったな~と思う。恐らくこの人のケースを読んで実践している人は多くいるのではないか。でもやっぱ障がい者雇用枠なんだよなぁ・・・。そうするしか僕達に道は残されていないのだろうか。だいぶ職業の幅も狭まるけれど。
リサさんの場合:母子家庭のケース。ハッピーエンドで終わらない、中途半端なところで終わっているのが妙にリアルで良かった。
ユウトさんの場合:これも思い当たる節が多い一編。僕の父親もこの傾向にあったんですよね。でも10年前20年前「発達障害」という言葉すら認知度低かったじゃないですか。しゃーないといえばしゃーない。でも、今現在も発達障害のパートナー、発達障害の子供がいる家庭って多くあると思うんですよね。そして思い描く「家族の幸せ」がどんどん遠のくことに絶望している人も多くいると思います。そういう人向け。
よしこさんの場合:発達障害の人がそれを活かして支える側に立つ話。弱みを強みに、といったところでしょうか。最後にこの話を持ってきたのは正解ですね。恐らく発達障害当事者、発達障害の人を家族に持つ人が将来に向けて希望を抱ける一編。
おわりに:これは作者の最後の言葉も含め、ページ数こそ少ないが、一番読み応えがある章のように思える。
薬は合う合わないがあるし 副作用もあるので 気軽に手は出しづらいけど
少し希望が持てたし
いつか視力が悪い人がメガネやコンタクトを使うように 発達障害の困りごとを改善するアイテムがでてきて
それを使用することが「特別」でなくなる社会になればいいのになんて思えた p.160
ただこの言葉の説得力は9つの物語を読み終えてからじゃないと、真の効力を発揮しない。少しでも気になるのであれば手に取ることを勧める。まあ専門家の解説もないし、話題も偏ってはいますが・・・。
以上である。
概ね良かったが、不満点もあった。
そこを改善された続編があったら、2000円までなら出そうかなぁ・・・と上から目線で思える一冊。
僕は違うけど、発達障害について家族で・家庭内で悩んでいる人にはもっとビシバシ響くんじゃないかなぁ。
ちなみにネットで適当に齧った情報ではあるが、発達障害というのは10人に1人だそうなんだそうな。
AB型の割合と一緒じゃん、と思った。
悩む僕達は孤独になりがちではあるけれども決して一人ではない。悩んでいる人は数多くいる。たくさんいる。いっぱいいる。
その孤独感を解消するという点でも、本書の存在意義はあるように思った。
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これは漫画ではなく小説版。また、リアルなケースではなく創作ベースではあるが、ひとつひとつ丁寧に医者の解説がある点で優秀。
悪い専門書の例。
100円コーナーで買った記憶があるのだけれどまあ分かる。この作者自身がアスペルガーの人々の気持ちを想像できていない。
ジャンルは若干異なるが、これも突き放した酷い書籍だと思った。