小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

雨瀬シオリ『ここは今から倫理です 3』


何故僕達は倫理を学ぶのか。
受験のため?教養のため?

違う。

僕達が生きるためだ。

雨瀬シオリ『ここは今から倫理です 3』(集英社 2019年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】

どのように生きていくことがより良いのか――――。

生き方を考える「倫理」を教える教師・高柳
生徒に寄り添い、そして語りかける―――、

生徒達が見出すものは、
救いか―――。それとも―――。

人としての生き方を問う教師物語第3巻!!


裏表紙より

ちなみに、
前巻の記事はこちら

【読むべき人】
・全国の高校生
倫理が嫌いだった人
・考える漫画が好きな人

【感想】
好きな漫画。
だけど一度読んだだけじゃ完全に理解できない。
3回くらい読んで、ようやく、
理解できる。
その感覚が非常に新鮮で僕はこの漫画が、好きだ。

今回も高柳がクールに・・・格好よく且つ冷静に、
倫理で生徒の闇を切っていく。



#11 善と悪
:怪しい男に連れ込まれたタカヤは・・・?

「いつも不思議だ "善”ぶるなんて センセそれでも人間か?」p.22
2巻の最後の話の続きである。
同時にこの「怪しい男」、どうやら物語の根幹に絡んできそうなキャラクター。
ただ、
服装も非常にだらしなく顔も平べったい、
仕事もどうやら全うではないだらしないのに、
高柳と倫理合戦をするほどの知性を見せる、
そのギャップが良い。
初め読んだ時、
二人の言葉の意味が難解でチンプンカンプンのまま読み飛ばしたのだけれど、
3回目。
ようやく意味の全体が分かって、
この回・このキャラの良さ再発見。
こういう、
この漫画の「かめばかむほど味が出る」感がたまらない。

#12 セミの声
:曽我は一切何も喋らない生徒で・・・。

「4分の2くらいな気がします 棄てているとしてもー」p.71
無言な生徒が主人公の話である。
問題がある生徒に対する接し方に、
一つのテーゼを唱えた回になっている。
焦らさず焦らず、じっくりと、そばにいる。

そういえば。
僕の同級生にも彼のような奴はいた。
T君は曽我と違い学校もさぼるし勉強もしない問題児で、
結局高校1年の終わりでやめてしまった。
でもどうやら風の噂によると、
通信制の高校に行き、
地元の私立の法学部に行き、
サラリーマンをしてるらしい。
一方で、
当時勉強さえがんばればいいと信じていた僕は、
フリーターをしている。
若かったんだなと思う。
視野が狭かったなとも思う。
勉強さえできれば
いい子してれば
人生その先うまくいくと妄信していた。

そうとは限らない。
うまくいく可能性が上がるだけであって、そうとは限らないんだよ。

ニート・フリーターを経てなきゃ気づかなかった。
まぁその「気づき」が人生に必要なものかどうかは知らないけれど。
・・・とか言いながら、
まぁ授業中寝すぎて「眠り姫」というあだ名がついていたくらいだから、
視野も若さもくそもない、
そのまま順当になるべくしてなっただけかもしれないけれど。
「え?ニート・フリーターしてたの?まぐろどんっぽいね」
久々に会った先輩はそう言われたけど、
その先輩は初恋の人だったから危うく再び好きになりかけたのは秘密。

#13 自分の為の勉強
:パートして稼いだ金を、全て自分の参考書につぎ込む母親。
創(はじめ)は受験勉強に精を出していた。

「ホッファーは言いました。
”他者への没頭は 
それが支援であれ妨害であれ愛情であれ憎悪であれ
つまるところ自分から逃げるための手段である”と」pp.112-113一部記号等変更有

刺さった。
親の顔が思い浮かぶ。
癌を抱えることになった母親。
抗がん剤で順調に髪の毛が抜けている姿を見ると、
思う。
このまま実家にずっといた方がいいんじゃないか。
このまま実家で通える事務職か何かに就いた方がいいのではないか。
このまま介護等先を見越して9時5時優先で仕事探したほうがいいのではないのか。

一時期非常に悩んでいた。
正直今でも悩むときがある。
でも、親と、このホッファーの言葉を聞いて変わった。
「あんたが自分を最優先していることがお母さんも安心するから」
このまま実家にいるのもありだけど、就く仕事への関心を優先したい。
このまま実家にいてもいいけど、友達が多い関東へも視野を広げていたい。
このままよりかは少しでも、理想に近い自分になりたい。
すると、自然と受けたい会社が狭まってきて、
再びゆっくりゆっくりではあるけれど僕の就活は動き出している

とか言いながら結局静岡で就職しちまったわけだけど。

#14 主義探し
:南は、クラスの一致団結・青春感についていけず・・・。

「同調しろと言ってるわけじゃない。受容です」p.151
いじめ等の問題にも触れた、
エネルギッシュで時に危険な、
高校生の集団の話である。
僕のクラスは、一応特進クラスということもあって、
まぁあんま人と積極的に交わらない人も2-3人いたけど、
だからといって
彼等の悪口が横行することもなく、
いじめも起きることはなく、
いけてるグループもいけてないグループも、
並行して存在していた気がする。
そしてその上にクラスというゆるやかな集合体がある。
今思えば、かなり恵まれた環境だったのかもしれない。

#15 切っちゃおうかな 前編
:由梨はリストカットがやめられず・・・。

ヤスパースは言います 「誰もが”限界状況”にいる」と
”限界状況”とは化学でも解決できない人生の壁
死・争い・苦悩・負い目の事・・・
しかし人間はこの”限界状況”にぶつかり挫折してようやく自分の無力さに気づく
そして初めて」p.172

この先はちょっと難解すぎて皆目見当がつかない。
後編で作者なりの解釈を全力でぶつけてくるだろうから、
その時考えればいいかとも思う。
あと、#14でもそうなんだけど、
高柳がきちんと授業をしているシーンが合間合間に入っているのいいよね。
普通に勉強になる。
特にニーチェの「実存」論は非常にわかりやすかった。
教師漫画ってほら、なんか生徒の悩み相談聞いてるとこだけになりがちじゃん。
授業のところも、
しっかり描かれているのが勉強になるし、

ページを開けば「ここは今から倫理です」



以上である。
結構自分事として読んでしまった。
特に#13は。

倫理ってまぁ実学だったんだなぁ・・・。
高校時代に知っておけばなぁ・・・と思う。
まぁ今からでも遅くないんだけれど、
哲学書読むよりかは美術史・文化史の本の方が今は激アツかな。

普段倫理に一切関心がない人にこそ、
開いてもらいたい。
そんな一冊。

LINK
雨瀬シオリ『ここは今から倫理です1-2』