小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

山白朝子『山白朝子短編集 死者のための音楽』-音楽のように美しく、-


透明感あふれるホラー。

山白朝子『山白朝子短編集 死者のための音楽』(メディアファクトリー 2007年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
「婆ちゃん、どこ行くの」p.124
孫の阻止を振り切り、川へ向かう老婆。
あの子の名前を呼ぶために。
人と鬼の物語。 (「鬼物語」)

気鋭の作家、山白朝子が贈る
透明感あふれる美しいホラー。

表題作含め7編収録。


【読むべき人】
・言い伝え。の4文字に胸のときめきおさえられない人
・活字に苦手意識がある人
・怖いだけじゃない、美しい小説を読みたい人

【感想】※少しネタバレ有
地元の図書館で、
怪談おススメコーナーというものを組んでいた。
司書がススめるんだから、外れるはずあるまいよ。
手に取って、読破した。
その3。

まず装丁に目を惹かれた。
白い表紙でわざわざ「山白朝子 短篇集」とついている。
よく分からんが、
まぁきっと面白いだろうと思い手に取った。
期待は裏切らなかった。



7編収録されているが、
どの短編も美しい。
そして豊かな想像力に舌を巻く。

例えば「黄金工場」の何でも黄金にする廃液や、
「井戸を下りる」のどこか神話めいた世界観
「未完の像」に出てくる木を一心不乱で彫る少女。
一編一編、今まで読んだことのない、
美しい世界が広がっていく。

文章も非常に読み易い。
というのもこの本、ルビ(ふりがな)が一つも振られていない。
言葉も最低限まで削られており、
本の世界がすんなり僕を包む。音楽のように。

易しい日本語で紡ぐ、美しい世界。
山白朝子、の名前に似つかわしい。
朝のように。
もしくは山に下りる白き霧のように。




以下簡単に各編の感想を。
ちなみに好きなのは「黄金工場」「鬼物語

・「長い旅の始まり」:拾った少女が身ごもった子は、そらで念仏を唱え始め・・・
聞いたことありそうでないような物語。
最後の最後に題が「ああそういうことか」と腑に落ちる。
安易な男女関係でなく、親子というのが「長い旅」を感じさせる。
今でもどこかにいるのかもしれない、2人は。
そう思わせるような。

・「井戸を下りる」:子供たちをあつめて父親が話す、昔話は・・・
昔話のような物語。
井戸。黄泉の国。
これらの言葉から感じる神秘、神話をつれづれなるままに綴る手記。
一体、彼らはどうなってしまったのだろう。
知る必要は、ないけど。

・「黄金工場」:なんでも黄金にかえる廃液を見つけた僕は
なんでも黄金に変える廃液。
筆者のたくましい想像力がうかがえる設定。
後半の意外な展開に舌を巻き、
結末の後味悪さに身震いする。

なんだかんだ相方は近くにおいておくところが生々しい。
その後を想像すると・・。

・「未完の像」:像を彫る主人公のもとにやって来たのは一人の少女で・・・
力強い短編。
像がリアルなおのに動き始める、
とこまでは思いつきそうなものだが、
意外なところに結末は着地する。

・「鬼物語:一人の老婆が名前を呼びに川へと出るが・・・
これを読んで泣いた。
鬼、桜、川。
これらのエッセンスが見事に1編に綺麗に繋がれている。
対照的に脈々と流れてゆく人間の血。

今も、走り続けているのだろうか。
老婆になっても、名前を呼び続ける彼女の気持ちを思うと痛切で。

・「鳥とファフロッキーズ現象について」:私は父と、そして澄んだ青い目を持った黒い鳥と暮らしていたが・・・
現代が舞台の唯一の短編。
今まで見たことのない鳥の澄んだ瞳が印象的な一遍。
脳裏に映像として浮かぶよう。

大人しく、聡明で、優しく、けれど何も口にしないその存在は、
どこか僕の家の飼い犬を思わせるところがある。
動物は、やさしい。
わたしは?
もっとやさしくしないとな。

・「死者のための音楽」:母親と少女の間で交わされる会話

今作の最後に相応しい、美しい短編。
すらすらとつむがれる音楽のような会話劇が心地よい。
娘と母のの話。


一緒に借りた本のあれこれ。

そう。
今作はの話が多い。
血の絆、男女の絆、人外との絆・・・。
今作が怖い、というよりどこか美しさを感じさせるのは、
絆。その存在があるからかもしれない。

それは
音楽のように、
しなやかに、
繋ぐ。


以上である。
怖いだけじゃない。
想像力の豊かさに舌を巻く。
一遍一遍面白かった。

ちなみにこの作者は女性・・・ではない。
なんと、乙一先生の別名義だという。

確かに・・・言われてみれば
無駄を極力省いた読み易い日本語、
それでおいて後半の衝撃的な展開、
あと「鳥とフェロッキーズ現象」というどこか乾いたタイトルセンス。
なるほど。
乙一先生かも。



ちなみに彼の作品で一番好きなのはこれ。
乙一『ZOO1』(集英社 2006年)
中3くらいのとき、1と2合わせて一気に読んだ。

驚いた。
短編って、こんなに面白いのかと。
小説って、こんなに面白いのかと。
僕が小説を読み続ける一つのきっかけとなった。

確かに読書における造詣が深い人からは
乙一先生の評判はいい!!とは言い切れない節がある。
多少過小評価すぎやしないか、とも思う。