小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

筒井康隆『旅のラゴス』-僕等は旅の×××-


僕等はみんな旅の×××。
僕は旅のまぐろどんだし、君も・・・・。

筒井康隆『旅のラゴス』(新潮社 1994年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
北から南へ旅を続けるラゴス
集団転移、顔を変える男、壁を抜ける芸人、卵を埋めている道、奴隷を集めてひたすらに採掘を行う銀鉱、そして・・・・。
彼は一体何のために旅をするのか。連作短編集。
※本作を読むときは登場人物名をメモしながら読むことをお勧めします。

【読むべき人】
キノの旅」「不滅のあなたへをかつて読んだことがある人
歴史、哲学を好む人
・人生とは・・・とか思ってしまう老人
・読書中級者

【感想】
面白かった。
内容はイメージとしては「キノの旅」から−キャラクター性、+哲学・歴史的要素な感じ。多分キノを好きな人はこの小説も好きになるはず。
まぁただ内容が少し難解ではあるけれど。
解説はもう何言ってるのかよく分からんくてな・・・。ほら僕12歳だから・・・・。

でもまぁ難解なことがわからなくても、1つ1つのエピソードが優秀であることはわかる。
「顔」の余韻を残す終わり方であったりとか、
「壁抜け芸人」の育ちの良さ悪さを皮肉ったユニーク、
「着地点」の幼子がなめらかに口にする言葉とか「赤い蝶」の兼ね備える美しさと恐ろしさエトセトラエトセトラ。
1つ1つ読んでもどれも面白いものばかり。
多分、結末が丁寧だからなんだろうな・・・。
どれも「ちょっと意外な結末」いう感じ。でも余韻もしっかり残すように結んでいる。
以下僕が好きな3つの作品も意外さ・余韻両方兼ね備えた優れた結末ばかり。
特に僕が好きなのは「たまご道」「銀鉱」「氷の女王」。
「たまご道」は世界観と結末が好き。
卵が埋められた道という他には見ない世界観と、最後の胸をざわつかせる結末が見事。
pp,75-76における緻密な描写が、結末の悲哀を聴覚もって訴えかける。
しゃらしゃらしゃら・・・・しゃら。
「銀鉱」はp.103-p.107までの場面が見事。二人っきりで歩いていく景色は非常に美しいけれども、今まで過ごした7年間の銀鉱での日々がよぎって悲しい。
みんなみんないなくなってしまった。
まさかp.104「こんな形で結ばれることになるなんて」という衝撃も相まって非常に印象的。
美しさ・悲しさ・驚き・・・・読者の心を絡めとる感情のアラベスクは全て砂上に消えてゆく。
そして「氷の女王」
最後に出会えたのだろうか、それとも会えぬまま。



でも僕が「氷の女王」を好きな理由は結末の余韻だけじゃない。
この行が今の僕に刺さった。
p.239「このキテロ市に、わたしは帰郷したのではなかった。実は旅の途中に寄っただけにすぎなかったのだ。」
衝撃だった。
故郷は必ずしも帰る場所ではないと悟ったラゴスのその二行が。
まぁ僕もかれこれニートニートしてしまって、実家に帰ればどうにかなると思っていた。
でも、帰れば僕がいない空白の6年間による僅かな居心地の悪さを感じたし、
何より妹が暴君と化していた。
喧嘩すれば、家のドアのがくをブチ切り僕に向け、包丁を持ち出そうとし、ゴルフのパターを振り回した挙句ストーブを壊す始末。
曰く運転中の母親の首を絞めた経歴もお持ちだそうで。
その暴虐さにぷるぷる正義をかざしつつも、両親はお手上げひれ伏す状態。
近所が向けるは好奇の目。
うんざりした。
同時に衝撃だった。
ここは僕のいるべき場所じゃない。
僕は早くここから抜け出さなくてはならない。
故郷が必ずしも帰る場所とは限らない。
正直静岡に来たからには実家から通おうとは思っていたけれども、
いやいや静岡で就職してもこれは一刻も早きひとり暮らしが求められる。
幸い僕にはまだ貯金が僅かながらある。
全て使って引っ越しをせねばならぬ。

ちなみにラゴスがこの言葉を発するのは故郷に住んで何年もたった後。
僕等は同じ場所に何年とどまっているんだろう。
1年、3年、5年、10年、20年、30年?
長かろうが短かろうがそれは「滞在期間」にすぎない。
と思えば、僕等も全員旅人ではないのか。
ラゴスと同じ、僕は「旅のまぐろどん」であるし君も・・・・・。

以上である。
余韻残すちょっと意外な結末が素晴らしい、
旅題材の作品でした。

でもなんだろうな・・・この作品のテーマはあくまで「文明」な気がするんだよ。
ただ悲しいかな僕の技量ではそこまで拾えなかった。
再読したいなぁ・・・・。
あと、この作品登場人物が滅茶苦茶多くてしかも全部カタカナで3-4文字がほとんど。
うっかりすると誰が誰だかわからなくなるので、
メモを取りながら読みませう。



表紙の色彩が綺麗。特に1巻。

ちなみにこの作品は、大今良時不滅のあなたへ」(2017-以下続刊)にちょっと似ている気がする。
というか大今先生自身がこのラゴスに影響を受けているのかもしれない。

この作品も絵・ストーリー・世界観全て優れた作品ではあるのだけれども、
うーん。ちょっと僕は途中で辛くて止めてしまっている。
いくらなんでも死にすぎだろ・・・と。
どうせ新しい人物が出てきてもおみゃーさん死ぬんだろ?ってなっちまう。
まぁそこまでの過程を楽しむ作品だとは思うんだけれども・・・。
就職したら再開したいシリーズの1つではある。
でも聲の形の方が好きかな。僕は。