小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

町田康『夫婦茶碗』−クズが止まらないぜ!!−


クズ人間というものは、
周囲の人間から見れば困るが、
一歩下がってみるとなんとも滑稽で、面白い。

町田康夫婦茶碗』(新潮社 2001年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】※2編収録の中編集
夫婦茶碗
金がない、仕事もない、家庭に潤いもないわたしは、メルヘンを書き始めることにするが・・・。
●人間の屑
劇団もバンドも解散した俺は、旅館の一室で猫の観察に勤しむが・・・。

【読むべき人】
・地の文が変わったラノベ入間人間西尾維新等)が好きな人
だめんずうぉーかー(死語)
・人間の屑だと自覚がある人
・冷蔵庫の卵の位置が気になる人

【感想】
町田康、というのは僕の中では
「なんか元バンドマンだった人」
「ひねくれた小説を書くらしい人」
「やはり独身」
「海岸で犬を飼って暮らしている」
「やすしと見せかけて、こうと読む。まちだこー。詐欺師め」

のイメージで、実際に小説を読んだことはなかった。

で今作を手に取ったわけなんだけれども
「すげぇ、なんかすげぇ」
と思った。

まず文章が面白い。
例えば「夫婦茶碗」の「ちゃわおっしゃー」、家庭にもたらす潤いの場面は、読んでて笑いを堪えられない。
「人間の屑」のSMうどんはどんな脳味噌してたらその発想に行き着くのか。
恐ろしい、恐ろしいぞ元バンドマン。絶対なんかキメてるだろ。
そしてこのちょっとしたジョークが、見開き2ページにぎっしりと詰まっているのである。入間人間谷川流の比ではない。やばい。本当やばい。それらのライトノベルをかつて読破した人はもう町田に捕まる。文章に全身からめとられる。僕はとられた。ちゃわおっしゃー。
その取るに足らなきジョークを地に物語が進むので、純文学・一般小説といえど笑えて、加えて読みやすいんだな。
SMうどんが出てくるのは純文学なのかどうか知らんけど。

それぞれ2編の感想を。

夫婦茶碗
タイトル通り夫婦の話。最後のタイトルの回収は見事。
主人公は無職で、仕事にも就こうとしないどうしようもない奴なのだが、憎めない。
冷蔵庫の卵であるとかメルヘンへの逃亡だとか、誰もが持ち合わせる心理に真摯に終始向き合っているからだ。
だからはじめ「うるせえ働けや」から、だんだん「いやいや、働け」になり、最後は「うんうん、頑張れ」になるのだろう。
最後の11は、良かった。クズはクズでもクズなりに。
茶柱は、立つ。ね。

ちなみに、今作で出てくる妻が超絶萌える。可愛い。
ダメ夫に愛想をつかし、つかしすぎて砂漠だけども、クールに愛して最低限の対応をする。
愛らしい。
クーデレの最高峰。
多分今年読んだ小説の中で「可愛い人妻」ナンバーワンなのは間違いない。ね。

●人間の屑
「クズが止まらないぜ!!!」
そんな小説。
終始「いやいやだめでしょ」「いやまじで」「やばいやばい」「いやいやいやいや」と口にしながら読んでいた。まぁそんな僕も無職なんだけれども。

ただ、クズが止まらない主人公がずっっっっっっとクズしてんのかというとそうでもない。
ところどころ働いているのだ。苦心しているのだ。
それでもどうしようもない問題に直面すると、クズに全力疾走する。
そこが、生々しい。
頑張れば人間何かしら結果を得ることができるのだ。
だがその結果を得た後が大事。

ちょっとそこら辺は笑えなかった。
目の前の五穴ことから逃げて逃げて逃げてけば、どうなるの。
爆笑道徳小説。にゃー。


この文庫の解説は筒井康隆先生が書かれている。
解説によると、町田はなんと「まともな人」の役も演じられる人らしい。何もキメてないらしい。
クズじゃないのだ。
なんだってー。ちゃわおっしゃー。
筆者≒主人公だとついつい思っていた。
衝撃だ。やはり詐欺師であったか、まちだこー。
解説の文章も非常に面白いので必読必読。