ミヒャエル・エンデ 大島かおり訳『モモ』-小説の形をとった自己啓発書-
これは小説の皮をかぶった自己啓発書だ。
だから僕はあんま好かないな。
素晴らしい小説だとは思うけどね。
ミヒャエル・エンデ 大島かおり訳『モモ』(岩波書店 2005年)の話をさせて下さい。
岩波少年文庫は、大人も子供も同じくらい楽しめて読める優れた文庫レーベルだと思います。
【あらすじ】
円形闘技場跡に住み着いた少女・モモ。
優れた聞き手である彼女は、村の人達とたちまち仲良くなります。
しかし町の大人達の様子がせかせか冷たく忙しくなり・・・。
それは大人達の時間を奪う「時間泥棒」の仕業だった!?
みんなの奪われた時間を取り戻すため、モモは奔走することに!!
【読むべき人】
・時間に追われる現代社会を嘆く人
・時間の使い方を見直したい人
・転職を考えている人
【感想】
はるか昔、読もとうしたんだけれど、
独特の文体が合わなくて10ページ足らずで読むのを諦めた覚えがある。
けれど本作は有名であるし、wiki見たら小泉今日子がファンと言っている。
入院した今なら、と思い改めて手に取った。
うーん・・・なるほど。と思う。
ファンタジー小説、というのは大抵娯楽小説で
読み終わった後に「あーおもしろかった」となるのが定説である。
けれど今作はファンタジー小説であるけれど、
筆者の強いメッセージ性を感じる。
p.106「時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。人間が時間を節約すればするほど、生活はやせ細っていくのです」
とあるように、
筆者は時間を切り詰めてまで働くな。
もっと自分を大切にしろと主張する。
そのメッセージに準じたかのように時間泥棒という機関が存在し、
そのメッセージに準じたかのようにモモが時間泥棒から時間を取りかえし、
そのメッセージに準じたかのように時間が戻ってきてハッピーエンド。
メッセージ性が物語性より勝っている。
だからそれぞれの登場人物の思想がぶつかることはないし、
「時間を切り詰めるのは悪」という正義一辺倒。
僕は思う。
だからこれは小説ではなくて、
ミヒャエルさんの自己啓発書に近いんじゃないか。
僕の時計。これ逆になったの戻せないんだけど。
そして羽も一部もげているという・・・接着剤で直さなきゃな。
そしてこのメッセージは、現実的ではない気がする。
というのも、
時間を切り詰めて仕事をすること、が生きがいの人も数多くいると思うから。
例えば大企業の役員、国家公務員、一家の大黒柱となるサラリーマンとかとか。
彼等は仕事をすることが生きることだし、
仕事をしなければ生きられない。
昔も今も国内も国外にも、そういった仕事人間はいっぱいいる。
そんな人達に「時間を切り詰めて仕事をすることは悪だ」なんて言うのは愚か。愚の骨頂。
ましてや童話作家なんぞに言われたくはない。
って思うんだけど、どうだろうね。
このメッセージは的を射ていてとても良いものであると思うけれど、
仕事に生きる人々を愚弄するものであるし、
実際は趣味と仕事のバランスに悩む社会人であるとか専業主婦、そして僕達ニート・フリーターにしか響かないんじゃないかな。
けれど作中に出てくる
時間泥棒という機関は唯一無二で魅力的であるし、
一応モモもキャラクターとして機能している。
「時間を使うことが生きること」
そのメッセージもまぁ分からないこともないし、
大切な観点だと思う。
でも、これは僕は「小説」とは言いたくないな。
あまりにもメッセージ先行すぎる。
そしてそのメッセージは場合によっては人を嘲笑するものに値しないか。
wikiでは上橋菜穂子先生(「精霊の守り人」「鹿の王」等を書いたファンタジーの大御所)が「好きではない」と言っていた、って書いてあったけど、
まぁ僕もそこは同感かな。
でもまぁミヒャエル・エンデは「はてしない物語」という有名な作品も出しているし、
「鏡の中の鏡」という短編集もあるらしい。
うーん。
まぁ気が向いたら読んでみようかな。
モモ色といったら僕でしょ!!
ちなみに。
ドイツ文学って現代日本にすごい浸透してるよね。
今作もそうだし、ヘッセ『車輪の下』もそうだし、
同じ作者で言えば教科書に出てくる
「そうかそうか、君もそういう奴だったんだな」
名台詞を残したエーミールで有名な「少年の日の思い出」もそう。
なんだろうね。
生真面目な中で熱情を秘める感じが、ドイツと日本で通じているのかな。
大学の独文専攻の先輩がかつて
「画家はフランスばっかよ。ドイツで有名な画家いる?いねーべ。ドイツくそ。」
て言ってたけど、
「文学はドイツばっかよ。フランスで有名な作家いる?いねーべ。フランスくそ。」
とも言えるような・・・
あー・・・ラディケとかサガンとかあのへんフランスか。
でも文学の面で言えばドイツ文学の方が圧倒的に知名度はある、気がする。