あけましておめでとう。
我妻俊樹『忌印恐怖譚 くびはらい』(竹書房 2020年)の話をさせて下さい。

【概要】
奇妙な日常の捻じれ、悪夢のような恐怖を巧みに描く我妻俊樹人気シリーズ最新作!招かれた知り合いの家、そこに居たのは・・・「ぎょろ目」、事故物件に住んでいた男が語った身も凍る恐怖体験「遺族」、目の前で人間が消えた!旅先での怪異「岩風呂に居ます」、宵闇に沈む学校で目撃したこの世のものとは思えぬ光景「廃校になった母校に行ってみた」、事故で入院した従弟の見舞いに行くというッ友人の奇妙な様子・・・「首で払う」など50話収録。怪異はいつでも黒い触手を貴方の首筋に伸ばしている。あなたの〈くび〉は大丈夫ですか?
裏表紙より
どうでしょう・・・。
【読むべき人】
・不思議系怪談好きな人
・梨.psdさんや禍話が好きな方

【感想】
筆者の2シリーズ目になる奇々耳草紙が全5巻だったので、本書も5冊かと思ったら、4冊だったぜこんちくしょうな一冊である。
とうとい・・とうといよぉ・・・!!!
でもまぁ一気読みですよね。ありがたみもくそもない。50話という話し数も丁度よくノンストップで読み散らかした。
「遺族」pp.22-26:事故物件に住むことになった。
「それから不定期にポストに封筒が入ってた。中身はほぼ一緒なんだけど、ちゃんと手書きで毎回少しだけ文面が違うんだよね。基本的にはとにかく『娘の件では大変申し訳ない』ってことがくりかえされてるわけ。文章だけど平身低頭な感じが目に浮かぶようなさ、馬鹿丁寧でさ、でもよく読むと文章は不明瞭っていう。そういう手紙が一か月おきとか、近いときは十日後くらいにまた入ってたりして」pp.24-25
うわぁ、ヒトコワかぁ。たまったもんじゃないなぁ。前の住民の父親ってもうそれ縁もゆかりもないおじさんだし、縁もゆかりもないおじさんから家特定されてストーキングされるの辛すぎる。しかも意味わからない長文手紙付とかそういうの参るわぁ。
うわぁ、ヒトコワ厭だぁ、と思ってからの、オチである。
結論言っちゃうと、結局部屋のベランダから飛び降り自殺が起きる・・・のだけれども、と言った具合。ヒトコワよりも怖いこと、気持ち悪いことが明らかになる。
でも多分、これ父親名乗っているだけのストーカーじゃないのかなぁ。音がしなかったのは生霊飛ばして手紙を届けていただけで・・・というような気もしなくもない。
実際僕の今の職場はありとあらゆる年代の男女が働いているが、僕とほとんどタメの子供をもつおじさんからは僕を異性、ではなく子、として見ているような父性を感じる。女だけの職場である前社の初めの店舗のおばさんも、僕をガチで心配してくれていて母性を感じた。
僕の場合はどちらもマイナスにはたらいていないし、むしろ僕は助けられている。おっさん2時間のちょいうざ指導のおかげで僕は一通り今の職場のレジの流れを叩きこむことが出来た。当時僕にめちゃくちゃ辛く当たる店長がいて、僕は辛くてトイレで泣いたときそのおばさんは僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
本編はそういう感情を歪に姿に変えたものがリボルバーになったんじゃないかなぁ、と思う。
あと本編の終盤に出てくる
『父と娘は一心同体』p.25
なかなか業が深い一文だと思う。
「持ち上げ坊主」pp.27-31:身体の弱い男児はある日祖母に連れられて・・・。
自転車で買い物へ行く途中に暴走運転の車に撥ねられたという祖母は、数彦さんたちが到着する少し前に息を引き取っていた。p30
うわぁ・・・になる一話。
怖い、よりかはとにかくうわぁ・・・となる一話。ドン引き。ドン引き坊主です。
坊主、と形状からそのモノの存在を呼称しているが、果たして本当に坊主なのか。正体は一体何なのか。色々気になるし、それでもやっぱりうわぁ・・・うん。うわぁ・・・になる一話。
「七月十九日」pp.32-36:弟から電話がかかって来た。
「私の誕生日は七月十九日だよ。忘れるなんてひどいね」p.34
妹の誕生日は二月四日である。
仲が悪く互いの連絡先も知らないが、誕生日だけは断言できる。年になるとよく分からんが、僕と同じく世紀末なのは確か。
でもだいたいの人がそうなのではないか。
兄姉弟妹の誕生日は、言えて当然ではないのか。親の誕生日ならまだしも兄姉弟妹の誕生日を忘れることなんて・・・特殊な家庭環境(例:34人兄弟のボビーオロゴン)を除いて・・・あるのか?
普通覚えているよね。当たり前だよね。
なんか盲点を突かれた一篇。
ちなみに最後当たり前のように七月十九日に惨劇起きてて笑った。あの職場で最近ウザい子・・・誕生日聞いておこうかな。
いつ「妹」から電話が来てもいいように。
「交換」pp.42-44:息子の誕生日に現れる奇妙な男はのっぺらぼうの白い人形を持っている。
「あんたの子とうちの子を交換してくれないかね」p.42
最後、息子が一命をとりとめたからどうにかなったものの、なかなか怖い一話だと思う。夢、というのはいつ見てもいつ見ていたとしてもおかしくない訳だし。
でもこれってどうするのが正解だったんでしょうね。
いつもどおr断ってたら多分また来年来てましたよね。
正解が知りたい。
「黄疸」pp.58-63:
「ママ、死ぬ前黄疸ひどかったからね」p.60
黄疸、というタイトルだからてっきりグロテスクに黄色い幽霊が出てくる話なのかな、と思っていたら全然違った。黄色にまつわる奇妙な話である。
黄色、といえば奇々耳草紙4巻「憑き人」で「黄色い女」が出ていたが、黄色って何だろう、何かあるのかな。ホラーとかとは無縁、むしろ対極の色だからこそ何かあるのかもしれない。
ただちょっと最後の警官のくだりは蛇足かなぁ・・・いや、実話なんでね、起きているんだから蛇足もクソもないのだけれども。
「岩風呂にいます」pp.64-69:卒業旅行先の九州の旅館の岩風呂、誰かいたと思ったが更衣室には自分たちの分の衣服しかない。
一人が『あ!』って叫んだからおれたちもたくやを見たら、湯につかってるタクヤがCGみたいに透けて、あいつの輪郭の中に後ろの岩が見えてるんですよ。p.68
タクヤもうこれ死ぬパターンやんと思ったらまさかのバリバリ存命。ただ、毎年年賀状が届く・・・他のメンバーから届かないのにタクヤからだけ・・・といった具合で不穏なと味を残して締め。いいですね。とても好き。
でも、これタクヤ側だったら毎年年賀状送るの分かる気がする。思春期に、自分の存在・実在に自信が持てなくなった瞬間があるっていう事だろ?
じゃあその時にいた仲間に毎年確認したいじゃないか。
「あけましておめでとうございます」
俺はあそこにいたよな。お前たちも見てるよな。
「今年もよろしくお願いします」
現に俺はこうやって年賀状を送っているんだ。
「また今度会おうな!」
俺は実在しているよな。
「§■〇?年 元亘」
なぁ、
なあ、おい!!
「鏡ホテル」pp.74-79:
だが室内は濃厚な薔薇の匂いで満たされていた。p.79
鏡ホテル、というタイトルといい、やたらと猫がよってくる街並みといい、奇妙な夢、といい最後は濃厚な薔薇のにおいで全てが有耶無耶なまま幕を閉じる。
香水のような実話怪談だと思った。
「店」pp.88-92:広場の入口に会った、見覚えのない飲食店に入ることにした。
広場まで引き返してから後ろを振り向くと、建物に掲げられた看板の〈喫茶・軽食〉の字がなぜか裏返って鏡文字になっていた。p.92
店内で起きる現象自体はそんなに怖くない。まぁそんな店もあるんじゃない?くらい。
でもこの出た後、鏡文字っていうのが何とも、な感じで怖かった。
いつでもどこでも異界への入り口って開いているもんなんだなぁって思う。
ふっと街並みを商店街を住宅街を道路をショッピングセンターのテナントをマンションの上部をバス停を標識をスマホを小説を漫画の台詞をこのブログの文字を、見て、鏡文字になっている瞬間を思うと・・・。
「怖い鯛」pp.97-100:伯父が気に入っている木彫りの鯛は顔つきも性悪で、あまり目出度い感じがしなく、実際それが従姉の家に来てから不幸が相次いでいる。
噂では四十歳を過ぎた現在も独身で伯父と二人で暮らしているそうで、嫌っていたはずの木彫りの鯛を今では親子で崇め奉り、毎日手を合わせているのだという。pp.99-100
この一文で一気に後味最悪になった。
実話怪談において登場人物廃人ENDはよくあるけれども、奉るENDはなかなか珍しい。そしてこちらの方が彼女に一体何があったのか。想像が膨らんで膨らんでその分恐くなって怖くなって、とても良い実話怪談。
どちらにしろ、現象一つで人生を棒に振るという展開は、実話怪談において擦りに擦られた展開ではあれど、生きて居る限りその度に鮮度保たれた一定の恐怖を感じる。
「ウェルカム生首」pp.113-117:
生首が出るというホテルに心霊マニアのアベックが、それを見に通っているがなかなか見られない。そこで怖い生首の絵を印刷して対抗してみた。
「多分我々の〈目には目を、生首には生首を〉という攻めの姿勢に対して、『こっちには尻もあるんだよ』という懐の深さを生首側が示してきたということだと思うんですよね」p.117
ギャグ系実話怪談である。心霊大好きアベックの強気の姿勢と、それに対抗して起きる現象、そしてタイトル「ウェルカム生首」。何ともすべてが痛快で良い。
是非このアベックとホテル(の霊)は末永い付き合いをしていただきたい。出来るならYoutubeチャンネルやってほしいレベル。
「たたり」pp.122-126:
「あの人はたぶん死後の自分の足音を聞いてしまったから命を落としたんですよ。自分に祟られて死んだから浮かばれないんじゃないですか?」pp.125-126
わぁ、なんとも・・・となる一篇。自分で自分を祟る。カラスヤサトシ「いんへるの」に掲載されていた作品を思い出す。
古ぼけた団地、庭、狭い、秋になると落葉でびっしり地面が敷き詰められている、そこをぐるぐるぐるぐる歩き回る男。情景が浮かぶよう。
怪談チック。平成初期、の話だからそう古くもないのだけれども・・・。
「岸辺にて」pp.127-131:
50年近く前、少年の家の近くで飛び降り自殺があった。
「まだ若い仏だったな、死んじまうなんてもったいねえ。死んじまったらこうやって一服することもできないのによ」p.130
おじさんを名乗る若者が言う。タバコを吸いながら。
「たたり」同様この雰囲気が堪らなく良いなぁと思った。
最後まで、男が生者か死者か分からないままあやふやに終わる。実話怪談、よりかはもう、一つの怪談に近い。
「線路があった」pp.149-153:
バイトの派遣先で、近隣の林を散策。線路を見つける。
身をかがめて覗き込むと、植え込みと立木のあいだの地面を線路が横切っていた。p.153
一度見たらずっとついてくる線路、ということなのだろうか。廃線になった線路、そしてその上を歩く女性。恐ろしいよりかは綺麗。まぁ出先でいつ線路が現れるか分からない、っていうのはたまったもんじゃないですが・・・。
でもその線路、歩いて向こうに行ったら、どんな世界が広がっているのだろう。
恐らく体験者は、きっといつかこの衝動的関心に負けて、線路を歩く日がくるようにも思う。
大丈夫。怖くないわ。だって私がいるもの。
「枕元」pp.158-162:
寝ている友人の枕元に立っている男。
だが少し前からMは直毛だった髪がいつのまにか天然パーマ気味に癖がつき、あの朝枕元で彼の顔を覗き込んでいた男に外見が似てきているという。p.162
その男が将来の友人の姿、というような展開はよめた。
夢におけるその男と友人の関係性が興味深かった。威圧的なのも嫌だけど、将来の自分が狼狽えるって言うのもなかなか厭だな・・と思った。
「笑ってない女の子」pp.201-203:
居酒屋でわいわい飲んだ時に撮った写真。女の子ひとりだけ、びっくりするくらい真顔。
はじけるような笑顔でポーズを取る集団の内二人だけが完全な真顔。p.202
うーわうわうわうーわになる一篇。
というか、卒アルとか僕が当時使っていたデジカメにとか、もしかしたらいるのかな。真顔で映っている人。
そういえば、デジカメ、大学卒業後壊れてしまったけれども、青い機体がとても気に入っていた。スマホは良く落とすから、合宿の写真などは全部それで撮っていた。デジカメがまだわずかながら息をしていた時代だった。多分、実家の部屋のどこかにあるはずだ。
確認も込めて、今度一気に印刷しようと思う。
線路とか女とか友人に似ているおばさんとかも写ってたら厭だなぁ・・・。
「首で払う」pp.204-210:
アキラに誘われた。事故でちょっとおかしくなってしまったという従兄の見舞い。一人で行くのが怖いからと付き添うことになる。
「いや金の問題じゃない。首のことはさ、首で払うことになるだろ?」p.207
ええ、うわうわえええ、うわぁーあちゃーっとなる一篇。後半怒涛のおどろおどろしい展開に目が眩む。表題作になるのも分かる。
特に、従兄自体がそもそもすでに鬼籍に入っていることが分かるところは怖かった。どういうことなんだよ。
多分、多分だけど事故って地蔵の首はねとばしたのは、従兄ではなくアキラ自身だったのではないか。そして自分のくびを払ったから、新しい首を持ってきて、だから性格も変わったんじゃなかろうか。
要するに、アキラ≒アンパンマンで、お地蔵さん≒ジャムおじさん、廃病院≒パン工場。構図的にはこういう感じ・・・・なのではないか。
結構怖いんだけど、どうしてもまぁその、「元気百倍!!アンパンマン!!!」がちらついて、印象に残った一篇。

以上である。
忌印恐怖譚シリーズも読破してしまった。後我妻氏の単著は、最初期に書かれた4冊だけとなった。メルカリにはなかったが、駿河屋に在庫が全部あるようだったので、さっそく取り寄せた。
読むのが楽しみである、と同時に3つあるシリーズの内残り1つかぁ・・・という気持ちもある。
でもそういうの気にせず、実話怪談本よろしく一気に読破してやろうと思う。
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20230810 多分3年前くらいに書いた文章である。ところどころもう何書きたかったのか何書いているのかわからないが、これが一番新鮮な感想であることには間違いない為このまま残しておく。
20250614 おいまじかよ。2年くらい前に書いた文章と思ったら、2023の地点で3年前って書いてある。ってことは5年前?やっば。うわやっば。最後に出てきた本棚は今現在のオカルト本棚です。無論こんなカラーボックスに収まるはずがなくあちこちに実話怪談本が頃飼っている状態。助けて!!