15年越えのトラウマ克服。とか。
「箪笥」(監督:キム・ジウン 配給:コムストック 主演:イム・スジョン 2003年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
その扉の向こうには、家族の哀しくも残酷なかこが封印されていた。
それは、絶対に開けてはならない扉だった・・・
ソウル郊外にしずかにたたずむいっけんのやしき。到着したkる馬からスミ、ションの美しい姉妹が降り立った。
ふたりをママ八派のウンジュは映画尾で迎えるが、彼女はどこか冷ややかな表情をしていた。
ウンジュ「お前は本当の恐怖を知ってる?」
パンフレットより
【見るべき人】
・ガッチガチのホラーより、雰囲気のあるホラーが好きな人
・洋館モノが好きな人
・映画「おろち」がハマった人
【注意点】
・終盤は確かにグロテスクですが、ヴィジュアル程凄いグロテスクではない。
・ホラーを期待して見ず、映画全体の雰囲気を期待して見ないと肩透かしを食らうかも。
【感想】
トラウマだった。
赤黒い色の背景に四人家族の写真。特に前に座っている二人の少女の白い服は血にまみれて陰惨。
顔は四人とも無表情。
「ひょえ・・・絶対怖いやつじゃん!!」
と、そのキービジュアルを見た時思ったのだった。
小学校6年の僕は。
当時から怖い話は大好きだったものの、動画はどうも苦手だった。ばーん!!びっくり!!で驚かされるのが苦手だったからである。まぁ今もそうなんだけれども。
だからキービジュアルが凄く鮮烈に残ったけれども、ずっとその作品自体を見ることは考えてこなかった。見ようとも思わなかった。
アマゾンプライムにあることを知るまでは。
と言う訳で、時はたち、僕は無事立派な28歳フリーターになりましたので、この際思い切って見てしまおう。
なんつったって僕はもう28ちゃい。アラサー。「ミッドサマー」「おろち」「ハイドアンドシーク-暗闇のかくれんぼ」とホラー映画視聴体験も3つ経験してきたわけだし、韓国映画も「パラサイトー半地下の家族」を見てまぁOK、こういう感じねともう把握している。
見るなら今しかない。
それになんつったって、あのキービジュアル。
今でも。
見た時の衝撃忘れられない。
多分一生のうちで一番記憶に残っているキービジュアル。だとも思うし。
見るなら今しかない。
それになんかほら、最近暑いし。
見るなら、今しかない。
以下簡単に【ストーリー】【演出】【キャラクター】に分けて簡単に感想を記しておく。ネタバレ注意。
【ストーリー】:★★★★★
ストーリー自体はだいぶ前に、何なら中学生の時には明確に把握していた。ブックオフでコミカライズをぱらぱら(全部読むのは怖いから)立ち読みして、おおむねの流れを掴んで、よし、そういうことだなという感じで、怖くて見れない自分に踏ん切りをつけていた。
スミ「母も・・・妹も・・・全部・・・私?」
確かコミカライズにはこんな言葉が書かれていたと思う。手元にないので何とも言えないけど。
要するに、母と妹は最初から実在せず主人公の妄想だったというオチは把握していた。十数年前から。
今だとまぁ・・・「信用できない語り手」・・・よくあるホラーオチの一つだなという感じだけれども、当時は衝撃を受けた。
それをもろ覚えの状態で視聴したわけなんだけれども・・・確かに最低限の伏線は張られてた。
スヨンがスミにしか口を利かないこととか。父がスミの名前しか呼ばないこととか。父が妻(をふるまうスミ)に対しては最低限の会話しかしないこととか。スミとスヨンの会話シーンの直後にスミの起床シーンが続くことが多かったりだとか。
ただまぁ・・・「お、これは!!!」となるような凄い伏線があったかというと微妙。「シックス・センス」を見たことがある人なら尚更陳腐に感じられるかも。1999年の映画だから、2003年に作られた本作から僅か4年前の作品だし。
「シックス・センス」を踏まえたうえでの二重妄想オチ。本作の脚本がやりたかったことってこれなんじゃないかなと思う。
「シックス・センス」では精神科医が実在していなかったが、「箪笥」ではスヨンが実在していない、うえで、継母・ウンジュも実在していませんでしたよ。本当は2人実在していなかったんですよ。まさかの、二重シックスセンス。驚いたでしょう?
こういうことなんじゃなかろうか。
父親がスミの方しか見ない。スミとスヨンの距離感が姉妹といえど近すぎる。そもそも始まりが病院でのスミの診察のシーンから始まる。恐らく観客は、特に「シックス・センス」を4年前に見た映画好きの観客は、スヨンはスミの想像上の人物と序盤で気づくのではないか。
その後終盤で出てくるのは、地味なパンツスーツに身を包んだもう一人のウンジュ。え!?あの継母も主人公の想像だったの!?
そこであっと言わせたかったんじゃないかなぁ、とも思うし、観客も実際あっと言ってたんじゃないのかなぁ、とも思う。もう20年前の映画なので何とも言えないんだけれども。
非実在の二重構造が本作の肝。
ただ当時は斬新だったかもしれないが、2022年現在ではそのオチはもはや特に新鮮味もなく普通よくある終わり方の一つにすぎない。「信用できない語り手」という言葉が存在するように・
全部主人公の妄想オチは、多少面倒だが読者に面白いと思ってもらうには手っ取り早い手段。2022年現在、ミステリー・ホラーではまぁ見る。そこそこ見る。
だから、ネット上での五つ星評価が低くなりがちなんじゃないかなぁ、とも思う。
2003年に美しい風景雰囲気少女のなかで、この構造をやったことが本作の素晴らしい所。でも物語構造自体に新鮮味がなくなった今、ただの雰囲気映画に捉えられてもおかしくない。てかそうなって普通。
物語の構造自体の賞味期限が、結構過ぎて立っている。状態。
あと副題だったと思われる、「思春期の少女」をいまいち扱いきれていないのが残念。
生理だったり、新しい継母への嫌悪であったり、妻になりきる時の口紅であったり、股から血を流した亡霊であったり、それっぽいモチーフが散りばめられているのだけれども、散りばめられているだけ、といった印象。
多分、監督は秋元康を呼べば良かったんじゃないかな、と思う。あの人は常日頃から少女のことしか考えていない人だから。「ザンビ」とかいうクソホラーやっている暇あったんなら、「残酷な観客たち」とかいうクソドラマ作っている暇あったんなら、本作を欅坂でリメイクしてほしかった。平手友梨奈がスミでと長濱ねるがスヨン。
まぁ、数々並べられたモチーフも深読みしたらもっと凄い大きいのが見られるかもしれないが、秋元康の描く少女像に触れた者としては、ちょっとなぁ・・・うーん・・・考察・・・というかキモさが足りないんじゃない?といった印象。
【演出】:★★★★☆
音楽が素晴らしいですね。冒頭から流れるんですけど、THEクラシックで美しい。音楽だけでももっと広く知られてもいいんじゃないかと思う。
テンポもまぁ悪くない。「パラサイト」を見て、韓国映画ってテンポ半端ねぇな!!と衝撃を受けたのだけれども、本作もとんとんと進んでみててストレスがない。まぁ「パラサイト」程速くないですが・・・。Largo。でもクラシックをBGMにしているので、まぁこれくらいのスピードがベストなのかも。
館。館最高ですね。韓国の文化と洋風の文化がいろいろ混ざりあってて最高。
館と女三人で思い出したのは「おろち」。僕が見た数少ないホラー映画である。あれもあれで面白かった記憶。あと山本太郎が俳優やってた記憶がある。
韓国の洋館と日本の洋館、比較するのも面白いかもしれない。
小道具。
継母・ウンジュのネグリジェ。全然エロくないんですよ。まぁちょっとセクシーかな?くらい。思春期の少女が思い描く大人の下着、って感じがして良かったです。
薬棚。終盤赤十字が描かれた棚が割れるシーンは、スミの心が完全に壊れたことを暗示しているようでなかなか良かった。
一番怖かったシーンは、中盤での親戚夫妻の妻の発作ですね。
え、どういう動きしてんの!?え!?まじ!?えまじなの!?大丈夫なのっ!!??生きてるの!!???死なないっ!!!???ってくらい、女優が大暴れして絶叫してヒステリーして痙攣します。
その女性がいかにも素朴そうな感じなのもいいですね。落差。
他はまぁ終盤の箪笥からデロリアンはちょっと怖かったかなぁ。
タイトルにするくらいだから、もうちょっと最後の箪笥のシーン、最もおどろおどろしく恐ろしく怖くしてほしかったなぁ・・・。タイトル「ヒステリー」不可避。
あと最後の最後の最後、主人公スミの映像がモノクロになって止まるの、なんであそこだけあんなに陳腐なんだ・・・。
何で最後の最後だけあれ何なん?あれ意図分からずとにかくダサすぎて、なんか怖かったです。逆に。え。なんで最高始まり方しといてこんな最悪な感じ終わるん?え?え?になる。
【登場人物】:★★★★★
「パラサイト」を見ても思ったのですが・・・韓国の俳優さんは本当に演技上手いっすね。特に女優は凄く差を感じる。
スミ:イム・スジョン
主人公。めっちゃ可愛い。20年前とは思えない可愛さ。
「パラサイト」の妹ちゃんといい、韓国映画のちょっとやさぐれたヒロインは、なんでこうも魅力的なのか。
メイクも薄く、時代性を感じないのがいい。言われてみれば、髪型確かに2000年代かも~!って感じなんだけど、いやはや可愛い。
演技力も無論文句なし。特に冒頭のシーンは魅入っちゃうね。これから何が語られるのか。彼女に何があったのか。あの冒頭のシーンがあったからこそ、本作は良作なんだろうね。
あと、静かながらに常にナイフを携えているかのような感じも絶妙で良かったです。
でも一番演技がうまかったのは彼女かなぁ・・・。
凄いんですよ。気弱でちょっと頭が弱くてでも優しくて・・・本当にそういう人物なんだと思ってしまうくらい。スヨンという人物の非実在が信じられない。
いつも困った顔してるんですよね。継母・ウンジュが当たるんですがそれもなんかわかる、どんくささがめちゃくちゃ巧み。
特に、語る部分が・・・スミ同様冒頭にはなってしまうのですが、ほおずきを頬張るシーン、あれはちょっと圧倒されました。あの1シーンでスヨンがどういう人物か一瞬でわからせられた感。
どうやらウィキ見る限り、俳優として一番出世したのが彼女らしいのですが、まぁ、でしょうね。といった具合。もっと彼女の演技見たい。ドラマだと長くなるので、バンバン韓国映画に出てバンバン日本に出荷してくれ。
あと、なんとなく14歳の母の頃の志田未来に似ている。韓国の志田未来ってコト?
ウンジュ(継母):ヨム・ジョンア
意地悪い妻、要するに継母役なんですがこれがまた絶妙なんだ。美人で隙が無い。意地悪い。凄いバッチリハマってた。
髪型がいいですね。黒髪ショートなんだけれどもえ?2010年くらいの映画かな?って最初思ったのは彼女の姿を見たからですよね。髪型といい、あとまぁメイクも、20年を超えても色あせない。
スミの思い描いたなんちゃってネグリジェもバッチリセクシー。
加えてサディズム携えてますからね。最高ですよ。
展開が進むにつれてどんどん憔悴してどんどんスヨンへの当たりが強くなり、終盤必死な顔をして袋を引きずっているのも良かったです。みっともなく。
だから後半、パンツスーツで現れた時はえ・・・?え・・・?ってなったよね。
ただ、パンツスーツ以降存在感が薄まったのが少し残念。
本当の妻、スミの妄想ではない本物のウンジュのキャラクターが今一つ作り切れていない印象を受けた。それは俳優だけでなく、脚本・制作側全体として。もともと現実のウンジュがどういう人だったのかしっかり作られていれば、終盤の落差にもっと観客は心奪われたと思うのですが。あと最後の箪笥デロリアンの場面も。
ムヒョン:キム・ガプス
まぁ女性が主人公の映画なので、仕方ないのですが今一つ存在感なかったかなぁ・・・。
同じく女三人×洋館ホラー「おろち」において山本太郎はばっちり存在感を示してキラキラ笑っていたのですが、この俳優は女性陣の演技にちょっと負けているかなぁとも思う。
正直この父役は、この俳優さんじゃなくてユースケ・サンタマリアでも西島秀俊でも松重豊でも大杉連でも遠藤憲一でも光石研でも寺島進でも田口トモロヲでも、最悪まぐろどん・パパ・・・僕の父でも誰でも良かったかなぁ。女性3人はこの3人じゃないとダメ!!!って感じがあるのですが・・・・。
そういえば「パラサイト」の主演俳優は凄いスターとのことですが、確かに。あれだけ地味な顔立ちで演技も巧いのにばっちり存在感を支援したうえで映画に100%入り込んでいくあの感じ。本当凄いんだなぁと思った。
以上である。
10何年振りに克服、復讐もこめて見た作品だったけれども、まぁ良かった。
想像より全然怖くなくてそこは肩透かし食らったけれども、雰囲気といいヒロインといい音楽といい演出といい素晴らしい。
良作だと思う。
恐らく一生で一番記憶に残るであろう映画のキービジュアル・・・・。それに負けない内容で、そしてそれを確認出来てほんとうによかった。
サンキューアマゾンプライム!!!フォーエバーアマゾンプライム!!!!
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20220617
この作品からアマゾンプライムで映画を見る、という文化が始まりました。色々見たい映画がありすぎる。数年に一度の映画ブームをもたらしたという点で評価していいんじゃないですかね。
パンフレットは視聴後「おおおお・・・」になってメルカリで買いました。400円とかだったかな。買ってめちゃくちゃ良かったです。
漫画だけでなく小説も出しているみたいで、そっちには本作で改名しきれていない謎について書かれているらしいのでそっちもメルでカリます。
ちなみに当たり前のように「シックス・センス」の名前を出していますが、最後の結婚式のシーンは金曜ロードショーで見た覚えがあるのですが、他は見たことないぽよ。
LINKS
フィンランド映画で、最近映画館で観た映画です。女性監督なのですが、こちらは「少女の思春期」を過度に神聖化しておらず好感が持てる。男性監督が少女を描こうとすると初潮を無理矢理いれがちだなと思うのですが、別に初潮を迎えたからってそんなに僕等は変わらない。