いつだって僕等は調査隊だ。
しまおまほ『しまおまほのひとりオリーブ調査隊』(プチグラパブリッシング 2004年)の話をさせて下さい。
【概要】
オリーブ調査隊、人呼んで”オリ調”ファンだった皆さん、本当にお待たせしました。
そして、はじめてお目にかかるみなさん、あらためましてこんにちは。
しまおまほさんが、あなたの身のまわりでも起こっていそうな、ちょっと可笑しな調査をひとりで引き受けちゃいました。
『オリーブ』(マガジンハウス刊)で1998年にスタートした連載当時の原稿を中心に、
今回新たに行った追加調査も盛り沢山!
これを読んだあなたも今日から(ひとりで)調査開始したくなるはず!
帯より
【読むべき人】
・サブカルクソ女
・特に1990年代に生まれたサブカルクソ女
・オリーブでこのコーナーが大好きだった人
・ヴィレッジヴァンガール(ヴィレヴァンによく行ってしまう女性の意。今考えた造語。でももうこういう概念自体が古い気がする。)
【感想】
本書を購入したのは、片浜(ぬまづ)の週末古本屋ハニカム堂である。
インスタグラムで毎日在庫の書籍を掲載されているのだけれども、そのなかに本書があって、DM送ってお取り置きをお願いし、数か月後ようやっと買いに行った次第(長い期間お取り置きしていただきありがてえ・・・)
800円だったかそこら辺のお値段で購入した気がする。
何故僕がわざわざインスタでDM送るに至ったか。
それは著者の「しまおまほ」を「調査」したいと思ったからだ。ひとりしまおまほ調査隊。
彼女の名前を初めて見たのは何の雑誌だったか。POPEYEだったかBRUTUSだったか何だったか。そこで「しまおまほの一人調査隊」というカラーページ半ページ分の連載を持っていて、そこで組んでいた特集がこれまたなかなかコアな特集で、「ふうん・・・おもしれー女」といった印象を受けた。
その後しばらくして、彼女を再び見たのは&PREMIUMの本特集の号だった。そこで彼女は何やらディープなおじさん達とおススメの本、好きな本、読書について悠々と述べていたのであった。
いいなあと思った。
僕もこうやってマガジンハウスに癒着して文化人枠の端に居座って月々20万弱くらい貰ってそこそこの暮らしをしたい!!(月いくらいただいてるなんて全く知らんけど)
マガジンハウスとズブズブしてお金を貰いたい!!!!!
というかこのしまおまほ、40そこそことのことだけれども全く見えない!童顔!綺麗!美人・・・!とは言えないけど間違いなく中の上より上!!!こういうサブカルをこじらせたまま身だしなみだけはどうにかこうにかして中の上のルックスはキープし続けることであわよくば「文化人」兼「おもしろ美人」枠をゲットし緩やかに維持し続けて、そこそこの暮らしをしたい!!
要するに、しまおまほは僕の理想の「おもしれー女」な訳だったのである。
じゃあ彼女が何故今も「調査隊」という連載を持ち、且つマガジンハウスと癒着長い付き合いしていることが出来ているのか。
その秘密が恐らくこの書籍に隠されているであろうと、インスタで書影を見たときからピンときて、僕は本書を取り置きお願いしたのである。
そして一通り読んだわけだけれども・・・成程。面白い。
本書が刊行されたのは2004年。本書のネタとなる連載自体は1998年と20世紀の産物でるが、内容は全く色褪せていない。
マクドナルドの外観から始まって、最悪な映りの写真、自転車調査、パソコンの周り調査、杏仁豆腐、ココア、バッティングセンターと意外と身近な話題をフォーカスしてああやこうや書いている。
そしてそれらは概ね2020年、現在僕等インドア若者がnote・YOUTUBE・同人誌・ZINE等で積極的にやっていることと大差ない。一方で、1998年・・・20年も前にしまおまほはひとりでこんなことしてたのか。
読んでいて、あまり時差を感じない。
そりゃあこんな時代を先取りするような特集を描ける女の子いたらマガジンハウスも積極的に囲うわな、と思った。
あと、時代。
時代が分かって面白かった。
本書の基となる連載が続いていたのは、1998年から2000年。
君達は何をしていましたか。
1993年生まれの27歳の僕は、5歳から7歳になる年で、幼稚園と義務教育を嗜んでおりました。毎日遊び毎日笑い毎日楽しい毎日楽しいをしていた時期でございまして、当時のサブカルクソ女達が何気になっていたか、何が好きだったかなんて全く蚊帳の外の時代だったでございます。スタバのスの字はおろかモスのモの字すら知っていたかどうかあやふやでございます。マクドナルドの「マ」の字をようやく嗜み始めた頃でしょうか。おほほほほ。
何が言いたいのかと言うと、今の20代にとって、2000年前後って結構未知の時代だと思うんですよね。
何のテレビが放映していて何の芸人ネタが流行っていたか。おジャ魔女どれみが放映されていたしモーニング娘。が流行っていたし「だっちゅ~の」が流行っていたし「ゲッツ!」という概念を知った。子供でも感じ取られる範囲は理解しているけれども、でもその「子どもの世界」の外のことは全く無知。闇。な気がする。
例えばその頃どういったファッションが流行っていたかとかどういったサブカルチャーが流行していたのかとかどういったオタク文化が繰り広げられていたのか、とか。
特に僕は自我が芽生え始めた2005年くらいからならなんとなくそういう世間の風潮は肌で感じられたように思う訳なんですが(「ローゼンメイデン」の登場で僕の自我は完全に目覚めた)、バブル崩壊後からそれまでって、一体どういう時代だったのか。正直なんかふわっふわしているんですよね。
当時サブカルを愛する女達は如何様なものに関心を持っていたのか。アンテナを張っていたのか。何に注力していたのか。
そのヒントが随所に散りばめられていて、「2000年(前後)文化史」と言った意味でも非常に面白く読めました。
ああ、
今は女優の市川実日子は当時はみんな憧れのモデルだった。
マクドナルドは当時の若者からスター的存在であって、そのMのマークから各キャラクターまでもがサブカルの餌食になっていた。
パソコンはデスクトップが当たり前で、それでもその周りに雑貨を置いたりシールを張ったりして机周りを己の好みに整えていた。
当時の若者はアラーキーの名前を知っていて当然であった。
今やテレビで見ると安心感すら覚える芸人・柳沢慎吾は突如登場したお笑い界のニューカマーであった。
お洒落な人が乗っている自転車は、よく分からん外国ブランドのロードバイク等ではなく、まだまだママチャリだった。
仕事が出来るキャリアウーマンはなんだかよく分からない、逆に近未来的なピチピチの洋服を着ていた。
「パラッパラッパー」をデザインしたのはロドニーという外国人デザイナーで新進気鋭と世間から注目されていた。
この頃には黒柳徹子は正月に和田アキ子とパチンコ勝負をしておりあのド派手眼鏡を毎回かけてきていた。
みうらじゅんは今より確かにちょっと若いけれども、サングラスにロン毛なのは今も昔も変わらない。
各特集ごと読むたびに、新発見があってそれが面白かった。
そういう感じだったんだ、そういう時代だったんだ、そういうのが持て囃されていたんだ、みたいな。
そのなかには無論2020年現在潰れたお店やブランド、今や無名のアーティストも多々いるわけで、それも含めてなんだか当時のサブカルが愛おしく感じられるのであります。
以下簡単に、特に好き好き♥になった記事と簡単な感想を書いておく。
通学路のマックワールド、にて。p.21
まだマックが「かわいい」の対象になっていた時代なんですね。
今やここで可愛いと持て囃していた方々が40代50代になって家庭の味としても馴染み、すっかり国民食となりました。
そういや昔マックの制服のリカちゃん持っていて、サンバイザーは憧れでした。
2020年現在はもはや空気のような存在になり逆に絶滅危惧種のドムドムバーガー・上んディーズ辺りが「かわいい」の対象になりつつあるような気がします。ドムドムは未だ食べたことがない。
おいしい「杏仁豆腐」徹底調査!pp.58-59
まだまだ当時は「ひし形の牛乳入りカンテン」p.58のイメージが強かったそうで、20年たった今とは全然イメージ違ったんですね。
杏仁豆腐史とかやったら面白そう。まあ僕そんなに杏仁好きじゃないんですけど。
でもまぁ最近カルディで買ったパンダの杏仁豆腐に衝撃を受けました。可愛いうえに結構おいしい。今もまほちゃんは杏仁好きなのかしら。そしてパンダの杏仁は食べたことある?
みんなのメガネ見せてにゃんまげ!!pp.86-87
20年前のオトナのメガネ事情が分かります。
するとまぁ、正直今と大差ない。確かに今の方が色々種類が出てお洒落なんだけれども、全体的に見てフォルムはそんなに変わってない。
しまお隊長曰く「メガネにどんくささを感じていた物です。それがここ2~3年、ちょっとしたメガネブームではないですか!?」p.86とのこと。なるほど、瓶底・ダサダサが主流の中、今のようなメガネが登場してぐっと身近でお洒落存在になったのはこの頃なのか。
ちなみに僕が近年好きな眼鏡美人は、乃木坂46の鈴木絢音、相席スタートの山崎ケイちゃん、前髪がある状態の山崎まどか、稲田防衛元大臣です。
にしても稲田防衛大臣の旧姓椿原なんだそうな。もうこれだけでイケる。
東京の名物温泉でしみじみする の巻pp.126-127
これっはシンプルに僕が「ひとり銭湯」「ひとり健康倶楽部」をずっとやりたいと思っていたので、実用的に読みました。
ああーやっぱり楽しそう。マッサージチェアとか1時間くらい揺られていたい。
あと手術着のようなクソダサ健康センター室内着のフォルムは20年前から変わらないのね・・・。
食玩具に夢中。しまお隊長の雑貨(その後)を大公開!pp.138-139
これは当時の雑誌特集にあやかって2005年のしまおさんがだいすきな雑貨を挙げたコーナーです。髪の毛生えたポニーの置物ってこの頃にはもうあったんだ。
でもマックの帽子とか「スノードームの自作」とかは2021年から見ると絶妙にダサくて、2005年の風を感じ取ることが出来ました。
雑貨と言えばスイマーが最近復活しましたね。シールと小物入れ欲しいなァ・・・。
糸井重里「ふつうでいられるゆたかさ」pp.150-151
最後にみんな大好き糸井重里があとがきを書いています。今と時代が違うからか、書かれていることは結構難解で分かんないところも多い。
けれども非常に印象的なこの一行で、この記事を終わろうと思います。
たのしむ力とは、生み出す力を生み出す力なのである。p.151
以上である。なかなか楽しめて読めた一冊であった。
やはり直感で購入する本には当たりが多い気がする。
ちなみに本書にかけられたカバーはもともと購入時からついていたのですが、
カバーをめくると
めっちゃ直筆サインっぽいのあった。
そりゃ前の持ち主もカバーをつけて大事にするわな、と思った。
***
LIJNKS
僕が久々にしまおさんをお見かけした雑誌。