本特集を組む雑誌は数あれど、
雑誌特集を組む雑誌はなかなかないから不思議だ。
「ケトル VOl.09 2012年10月」(太田出版 2012年)の話をさせて下さい。
【概要】
雑誌「ケトル」が創刊以来目指しているのは
「最高に無駄の詰まった雑誌」。
検索で一直線に回答にたどり着くよりも
いろいろ回り道する間に見つけたものが
けっこう自分にとって大事なモノだったりする。
それがまさに「雑」が持つ魅力。
一見何のもない一つひとつの「雑」が
一つの視点によってまとめられていることで人は何かに気付く。
米「WIRED」編集長クリス・アンダーソンは言っています。
ある支店で変種されているからコンテンツは価値を持つと。
ネットはあらゆる情報をスライスして探しやすくした。
しかし今、人は情報に価値を見いだすのではなく、
視点に価値を見いだしている。
だから、今こそ言いたい、雑誌が大好き。
p.15
とあるが、その「視点」とやらも今はインスタグラムに吸収されてしまい、
出版業界・雑誌業界は引き続きサムイサムイなのだった。
【読むべき人】
・雑誌が好きな人
・おおよそ8年前の雑誌業界がどうだったか、知りたい人
(2012年の古本なので)
【感想】
雑誌を読んでいる、と言うと「え!?すご!!」と言われる方が多かった。
僕(27歳)の世代では相変わらず、雑誌を読まない派の方が圧倒的に多く、皆もうその環境に慣れて違和感すら抱かない。
そして出版業界も相変わらず、「雑誌を読むこと」が日本人にとって当たり前のことではなく、個人の趣味の一つに成り下がっていることに対して自覚が足りていない。
今や雑誌は「雑誌・本が好きな人向け」、もしくは「取り扱うコンテンツが好きな人向け」に作らなければ生き残っていけない。
最近女性誌でいえば、withはそこに明確に気づいたように思う。この前「セーラームーン」のイラストが表紙を飾っているのを見たが、あれこそ漫画(本)が好きな人にはぐっとくる表紙だったんじゃないだろうか。本好きは百発百中オタクなので。
しかしMOREは一向に気づかない気配がある。OLのお仕事着等いくら特集しても、大半のOLが本屋にすら足を運ばないのである。もう本屋は行って当たり前の場所ではない。もう本は摂取して当たり前のものではない。
無策な訳ではない。最近ではジャニーズの表紙をたくさん起用することで、「ジャニーズが好きな人向け」に訴えている。MORE以外の女性ファッション誌でもその傾向が多くみられる。だがしかし、それが一体いつまでもつ?ジャニーズを専門に扱う雑誌は「MYOJO]「DUET」「ポポロ」等たくさんあるというのに・・・中身も100パーセントジャニーズ。1000円札が一枚あったらジャニオタはどっちの雑誌を買うだろうか?昔は「あのグループがあのファッション誌の表紙を!?」と新鮮味があったが、今はそれが当たり前。そもそも2020年現在「あのファッション誌」と言える程のブランド力があるのはせいぜいan・anくらいではないか。勝算がある策だとは到底思えない。
そんななかJJが月刊誌としての刊行を中断すること発表した。当たり前だと思う。大半の女子大生が本屋にすら足を運ばないのである(デジャヴ)。おしゃれな情報はインスタで間に合うのである。
そんななか、読者思想が被るものの圧倒的知名度はjjに劣るであろうRay が生き延びている様子。通ってきた雑誌ではないので詳しくないのだが、どうやら早期からネットのコンテンツにも力を入れていたらしい。
刊行元は主婦の友社。
そう、僕はここずっと思っているのだけれども、次のファッション誌の天下をとる会社は、主婦の友社ではなかろうか。minaも本好きの読者前提に作られている印象があるし、arも有象無象の雑誌が多い中で個性を上手く打ち出しているように思う。(刊行部数推移は知りませんが・・・)
昔宝島社がふろくを武器にファッション誌に殴り込みにきたように、今度は主婦の友社が編集外注を武器にファッション誌を蹴散らすのではないか。
でも二回ついつい書いちゃうくらい僕は雑誌が昔から大好きなのである。
この「ケトル」もまさしく「雑誌が大好き!」と堂々言っているから、古本屋にて購入した。2012年刊行の雑誌ではあるが、手にしたのは2018年頃ということになる。
それからすぐに読んだかと言うと・・・ごめん、積んだ。
2年間の熟成期間を経て、ようやく読了したという次第。
というのも、2年前想像以上の文字数に圧倒されたのである。当時は僕は「MORE」をはじめとする女性誌しかメインに読んでいなかった。写真が挟まれているのが当然であるし、その美しさにキュンキュンして楽しむのがメインであった。
ところがどっこい、このケトルは大半が文字で埋められている。最近のは違いますが、この2012年のケトルは活字量ぱないよ。一体どこから読んだらいいか分からず、そっとじし、箪笥の上で2年間寝かせたのだった。
それからアイドルにハマり、アイドルのインタビューを山ほど読むようになってきた。アイドルにハマるとどうしても活字を追わなければならない。彼女達が何を言おうとしたのか文章から、くみ取らなければならない。何故ならアイドルは物語なので。
そしてこの前2020年刊行のケトルを読んだので、せっかくならこの勢いで、と、再び取り掛かったのである。雑誌で文字を読む経験を豊富に積んできたせいか、今度は自然に読むことができた。
なので、いくら雑誌が好きとはいえど「読むのが好き」ではなく「写真が好き」な人にはあまり薦められないかもしれない。篠原紀信先生のインタビューだけ読んでそっとじしておこう。
構造は、今のケトルより全然シンプル。
基本雑誌に関する情報を羅列するだけで、特別なコーナーやインタビューはその合間合間にしか挟まれていない。コーナー・インタビューだけで構成されている2020年のケトルとは違う構造。
以下簡単に、気になったコーナー、文章、インタビュー等を書いていく。
【人生で大切なことはすべて雑誌から学んだ 女の子篇 男の子篇】pp.20-23
10代20代30代40代、ギャル系・清楚系、チャラ系・オタク系・・・と、年齢と系統に分けで誰が何の雑誌を読むべきなのか書かれたチャート表である。
これはなかなか見ていて面白かった。今は廃刊された雑誌が掲載されていたり、たった8年前といえど想定された読者層が今と大幅に異なっていたりする。
一つ一つの雑誌につけたコピーも良い。
脱ぎはきしやすいのはやっぱりスリッポン。「リンネル」p.21
17畳のサロンにグランドピアノを置いて、お友達を呼んでミニコンサートを楽しみましょう(「家庭画報」p.20)
お礼状は相田みつを式が効く!(「プレジデント」p.22)
【日本で最も表紙を撮り続けた男 篠山紀信】pp.24-29
Q3.50年の歴史の中で「雑誌」の隆盛を感じますか?
あの時代はいい時代だったといえる時代はない。
時代はいつも不満だらけ。
何時の時代にも常に五感を研ぎ澄ませて時代と切り結んで行けばいい。
p.29
【写真:2009
川上未映子は10年たっても川上未映子をしているから凄いと思う。
川村エミコも10年たっても川村エミコをしているから凄いと思う。
【編集長一問一答】pp.56-59
「Hanako」「VERY」、「BRUTUS」「SPUR」の編集長がお互いに10問10答するコーナーである。ちなみに四誌とも2020年現在バリバリに現存しているので凄いなぁと思う。
特に印象的だったのは、「Hanako」「VERY」の編集長がいくら「仕事好き」といっても、蕁麻疹がでたり10円ハゲを作ったりしているところである。まさしく雑誌の編集者って、「好き」と「安定」両立している貴重な職業の一つだと思うんだけど、そういう人達でもそうなるんだ~~と思った。
人間ストレスと無縁で生きるって不可能なのかもしれない。
あとSPURのボツ企画「ぼくたちの老後」は27歳の僕も是非読みたい。老後に対する絶望的情報はミチミチあふれているけれども希望的情報は殆どない。僕達には少ない年金で囚人のように暮らす暗い老後しかないのだろうか。
【胸キュン必至!雑誌のふろくがスゴイ!】p.76
そうか・・・「1年生の科学」「2年生の科学」等学研の「科学」シリーズを読んでいた僕としては普通だったのだけれども、カブトエビのふろくって普通じゃないのか・・・。
【40人のここが気になる】pp.80-126
「寄藤文平は『調理場の戦場」に装丁のしごとの礎を見るp.83
ブラシの間にたまたごみを取り除くときにだけ心が穏やかになると書かれた部分に対して、寄藤さんは「僕の不安は、突き詰めれば、独りぼっちになることへの恐怖だった。(中略)そういえば自分も、そういう孤独を支えにやって気たのだった。今できることをやるほかにない。」と述べている。
こういう感覚って誰にでもあるんだなと思った。てっきり僕だけだと思っていた。
けれど自分の今の小さい掌で出来ることをやるしかない。そうだ、そこに尽きるのだ。
「山崎まどかは『ここは退屈迎えにきて』を読者を虚無感から救う作品だという」p.88
嗅覚の良さ!
2020年現在、今やこの「ここは退屈迎えに来て」を書いた山内マリコは人気女性作家のひとりである。2011年、その作家のデビュー作を紹介している山崎さんの嗅覚の良さ!
そういえば山内マリコの作品はまだ一冊も読んでいない。この作品をはじめ「あの子は貴族」「アズミハルコは行方不明」等々色々読んでみたい作品はあるあるなのだけれども・・・。
「遠山正道は『脇坂克二のデザイン』の妻に宛てた1万枚の絵ハガキ所に大きな価値をみる」p.93
遠山さんが誰だかどうでもいい。脇坂さんが誰だかどうでもいい。
「自分を特定できる何かがあると、移ろいやすい世の中や気持ちの中で、Googleのピンが上から刺さるように世の中と自分を位置づけられる。脇坂氏は1万枚で図太いピンになった。我々はどうするか」
このブログは、僕と社会を繋げる細き細きピンである。
もっとたくさん書かなければならない。書いて書いて書いて、読んでもらうことに対して僕は最も社会とのつながりを感じ取れる、気がする。分かんないけど。
でも「何で自分と社会をつなぎとめるか」それは30までに考えなければならない問題なような気がするのだ。
「渡辺亨はシンガー・ソングライター おおたえみりの予測不能なポテンシャルが気になる」p.105
おおたえみり。僕はこの名前をこの記事で初めて知ったのだけれど、YouTubeで見て秒で確信する。いい感じ。
でも渡辺さん、2020年現在おおたさんは長い長い産休育休に入っております。
その予測不能なポテンシャルは2010年初頭という時代に永遠に凍結されたのです。
「宇野常寛は『ULTRAMAN』が現代の「巨大なもの」にいかに抗うのか今後の展開を期待する」p.108
ていうか2012年で「ULTRAMAN」もう始まってたんだ。
尾形真理子は8月15日放送の『NHKスペシャル』を観てコピーの持つ力について考えた」p.117
「戦争に敗れました」ではなく、「戦争は終わりました」。だから8月15日は「敗戦の日ではなく「終戦の日」なのだ」
「敗戦の日」であれば、「自衛」隊は存在しなかったかもしれない。
9条などとうの昔に破り捨て、軍隊を所持し武力で、武力であらゆる問題解決を試みる世界線。
【ワセ女でいこう!~特別編~ 津田大輔×柚木麻子】pp.128-129
そういえばワセ女って聞かないねえ!!!
というか、2020年はなんかもうもはや「慶応・立教・青山学院・女子大の女子」「それ以外の大学女子」みたいな印象すら受ける。最近法政がいちぬけぴしようとしているイメージがある。させない。
【ITの話はビールを2杯飲んでから】pp.130-131
【今夜、二丁目のバーで】p.132
2012年の雑誌である。
ITの方が当時の最先端の話をしているはずなのに、二丁目の噺の方が2020年でも余裕で通じる。
どうなんだろう。
話が次々と移り変わるIT業界の方が健全なのだろうか。
それとも、何年も何年も同じ話を続けていく二丁目の方が健全なのだろうか。
いや、健全もクソもないのかもしれない。単純に人の好み。
【コウヨクヒューヒュー♪其の十四 80歳のおばあさんが仕上げた、秋の名画コラージュまつり】p.134
あのキリスト画も、出てきてもう10年たとうとしているの・・・まじ?
以下、本文から気になった部分を抜粋。
基本本文には日本に現存する、もしくはした雑誌のありとあらゆる知識が書かれている。その中から気になったものの感想を残す。
学校じゃ教えてくれない女の生き方、全部載ってます p.40
一冊を通じて、nicolaとピチレモンの微妙な違いについてこだわっているのが良かった。
nicolaはナチュラル、ピチレモンはギャル系なんだそうな。知らなかった・・・!
そして僕は当時ピチレモンを、数か月に一回買っていました。結構1冊1冊を読み古していた。高校の途中からセブンティーン毎月買うようになりましたが・・・。
でもまぁピチレモン休刊しちゃったからね。2020年現在ではギャルもナチュラルもオタクもみんな女子中学生はnicola一択ですよ涙。
(あー、でもセブンティーンも対象年齢下がりつつある気がするんだけどどうですかね)
この時期の雑誌って一番大切だと思うんだけどなぁ・・・。だって、中学生の時に雑誌を読まなかった女の子が大人になった時雑誌を読みますか?って、読まないでしょ。女性誌界隈は一番力を入れるべき年齢だと思うよJCJKは。
「NHKラジオ基礎英語」ほか
雑誌好きが選ぶ!良いにおいのする雑誌ベスト3p.45
分かる。基礎英語はめちゃくちゃいい匂いだった。
あの藁半紙感たまらないよね。
ちなみに僕は当時学校で無理矢理交わされていましたが一切読んでなかったし学校にもよく忘れて行ってた。てへ。
でも2020年にもなると、基礎英語も進化してますね。1年2年のとか普通にライトノベルみたいなイラストだもんね。
これだったら当時の僕も熱心に聞いてたかもしれないのに!
「雲のうえ」
読者はみんな下から目線ですp .72
まず地方にフォーカスした雑誌があって、且つそれがすごい人気というのが驚き。雑誌の同人誌まであるんだそうな。
静岡にも東部中心に「ヒュッゲ!」というローカル雑誌があるのですが、人気かと言われるとまぁ・・・うん。
でもこういうZINEのようなインディーズの雑誌分野が、日本の雑誌の未来を担っている気がする。そしてどんどんこれから10年20年ガラパゴス的に発展していくのではないか。
「Cancam」「JJ」「with」「MORE」「LEE」「ESSE」
女性被比較3本勝負!褒められたい派と知りたい派 p.68
似た年齢層がターゲットの雑誌2誌を比較する記事である。結構分析が細かくて面白い。
ただ2020年現在ではだいぶ様相が変わってしまったように思う。
ちょっと並べてみる。
「CanCam」「Ray」
「Cancam」であれば、「JJ」の月刊化が止まってしまった今、ライバルは「Ray」であると思う。今一番系統が近いのはこの2誌ではないか。「VIVI」はもっとギャル感あるよね。
ただずっと思ってたんだけど、「Cancam」って、なんか中身のレイアウトも容姿も付録もいまひとつダサくないですか?
僕は「JJ」の次に休刊するファッション誌は「Cancam」だと思っています。小学館の唯一の大手女性ファッション誌という点で延命措置がとられるかもしれませんが・・・どうも時代についていけきれていない感じがする。かとしがモデルやっているので5年は生きてほしいですが。
「with」「MORE」
この2つは2020年も変わらず。
本誌では「with」が実用、「MORE」がカジュアルと定めている。
その方式は2年くらい前までは定石だった。
ただ、多分3年後には完全逆転していると思う。「with」がカジュアル、「MORE」が実用。
どちらもしばらくは存在しているでしょう。講談社、集英社とバックが大きいのと、知名度・歴史と、港区OLから地方公務員何ならフリーターまで、カバーしている女性の幅も広いと思う。ちなみにJJは光文社。いまいち弱いからね。ちかたないね。
「LEE」「BAILA」
「LEE」と「ESSE」が並べられていますが、「ESSE」は年齢層というよりかは全般的に「主婦」向けになったイメージ。あと「LEE」は30代向けのイメージだけれども、「ESSE」は40代メインな気がする。多分ここ数年でメインのターゲット年齢層上がってるよね?
じゃあその「LEE」の対抗馬は何かというと「BAILA」。簡単に言うと、「家庭に重きをおく30代」「仕事に重きを置く30代」で分けられるように思う。
ちなみに確かどっちも集英社・・・内紛がアツい!!!BAILAを光文社に売ったげて!!!
「群像」ほか
女性上位時代に突入? p.74
201年当時の話なんだけれども、群像が表紙のデザインをリニューアルし、ざっくり言うとおしゃれになったんだそうだ。
確かに、文芸誌・・・は僕の不勉強でよく分からないけれども、ここ最近は「ユリイカ」をはじめこのサイズのニッチな雑誌ってちょっと「お洒落」な感じがする。
その種のひとつが、この「群像」のリニューアルなのならば非常に歴史的に価値のある記事な気がする。
以上である。
雑誌好きというのもあって結構ずらずら長く書いてしまった。
本特集・本屋特集を見たことは数あれど、
雑誌特集を見たのはやっぱり本書が初めてで、それ以来なかなか見たことがないので。
雑誌好きとしてはアツくならざるをえない。ちかたない。
日本はかつて「雑誌大国」だったと聞いたことがある。
海外と比べると雑誌の種類が圧倒的に多いんだそうだ。
雑誌も「クールジャパン」の文化の一つになりえるのではないか。
もっと雑誌は雑誌特集してくれても、ええんやで・・・。
***
LINKS
今年のケトルの感想。
今年読んだ雑誌の感想の、一部。