小さなツナの缶詰。齧る。

小説・漫画・雑誌の感想が主です。

西 炯子『電波の男よ』-浜辺の女よ。-

 

 

表紙が良いよね。

 

 

西 炯子『電波の男よ』小学館 2007年)の話をさせて下さい。

※電波の男よ、と書いて「でんぱのひとよ」と読みます。良いよね。

 

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【あらすじ】

アマチュア無線が唯一の楽しみだった

冴えないサラリーマンの

大河内寿三郎は、

顔も名前も知らない

かつての交信仲間の女性を

忘れられずにいる。

そんなある日、社内の間違い電話から、、

彼女によく似た声を聞き・・・。

 

ちょっとワケありな

男女の恋を描いた恋愛傑作集。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・良質な恋愛短編集をサクッと読みたい人

・黒髪ストレート眼鏡女フェチな人(てか多分作者がそう)

・自分に自信が持てない人(「波の向こうに」)

 

【感想】

借りた。

引っ越した先の近くに、小さな貸本屋がある。

入り口の怪しい感じは「アダルトビデオ屋か?」と思っていたが、

チカチカ流れるあの電球の看板の文字を追っていると、

江戸城建城」「俺様ティーチャー最終巻発売」「地獄例会通信10年の連載に幕」

どうやらそうでもないらしい。

思い切って入った。

 

狭い店内の中にぎっしり漫画が積まれている。

上から下まで、ぎ・・・っしり。

 

店員はおばあさん一人、レジに座っている。

「いらっしゃい」

おじいさんが出てくるものかと思っていたから、おばあさんでちょっとびっくりする。

 

ぎっしり並ぶマンガはレーベルも会社もバラバラ。シリーズ物はシリーズで固まっているが、どれを借りようか悩む。

何冊か借りるのもなあ・・・読み切れなかったらめんどくさいし。

一冊完結がいいなあ・・・という具合でとりあえず、借りてみた。

西先生なら多分外しはしないだろうし。

表紙が結構可愛いし。

 

 

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同日に買った古書の雑誌と。たまたま黄色ピカねえ~と独り言言って撮ってました。

大河内のつま先立ちがなかなか良い。

 

結論そのカンは、間違ってなかった。

面白かった。最高だった。

ちょっと元気も貰った。

 

3編収録されている。

以下簡単に感想を書いていく。

ネタバレ有。

 

【波の向こうに】:新任教師の山下は、美人の同期と美人の母親と比べられ自信がない。ある日浜辺のラーメン屋に行くと・・・

ブサイクな主人公が、薬で美人になったら・・・!?の話。

定番だけど一癖も二癖もある設定がにくいところ。

主人公・山下先生には一番共感した。

顔面に自信がない・・・ということはないが、僕は僕に自信がない。常におどおどしてしまう。おどおど。

でもそこをのようにぐっと肯定して前を見させてくれる人が・・・どっかに・・・いないかなあ。はあ。

 

胸キュンしたとこ。

もう1回ききますよ 俺じゃダメですか?」p.58

倒れこむ瞬間の秀の間の抜けた笑顔が良い。

好きな脇役。

社会科の岩田先生。教師の試験において、社会科の倍率が高いところを未だに誇りに思っているところが可愛い。

 

【電波の男よ】:大河内寿三郎は、中学時代アマチュア無線で繋がっていた女の子が忘れられない。

今度自信がないのは男側。大河内寿三郎。いい名前だ。

ちなみに表紙に出ている男もこの男である。いいポーズだ。

大企業の開発部門に務めているが、基本オタクで台詞は超理系。仕事は残業続きでストイック。

主人公の強烈な個性に食われ気味だが、彼女の方も結構ぼんやりしていて結構エキセントリック。美少女だけどぼんやりしていて中学でイジメられたから、高校で全寮制の女子高に行ったのかな。

そんな二人が最後、お互いに正体を明言せずにくっつくのが良かった。

多少のご都合主義も笑えるくらい微笑ましい。

 

胸キュンしたとこ。

「思ったより効率が悪いなこの作戦は  感情は変数だが意外に値が大きい」p.109

素直に言えなくてさらに難しい言葉を使っているところが寿三郎っぽくて良い。

好きな脇役。

社長。2等身なので、セクハラも許される。

 

【海の満ちる音】りえは縫製工場に務めている。ある日見合いの話が舞い込み・・・

ダガダガダガダカ ダガダガダガダカ バチン(ミシンの音)

漫画特権の表現、

すきなのに・・・

言いたかったけど言えなかった・・・

みたいな、ああいう、

登場人物の心情を表す文章がなく、

ほとんど会話と表情と音で魅せるのが特徴の1篇。

ドラマか実写化しやすい作品だと思う。なぜしないのか。

縫製工場務めの主人公が、夜のバーで行われる読書会に、着飾って「アガサ」を名乗って参加してるところなんてロマンがあっていいじゃないか。

以前の会社から縫製工場に転職した理由を「本が読めるわ」p.143の一言でいなす主人公、凛としている。2007年の作品とは思えないくらい進んだ台詞じゃないか。

最後真田が片手でタバコを吸いながら運転するオープンカーの助手席で、スカーフ巻いてすまして座っている主人公もなかなか古風で風情があるじゃないか。

てかパートナーにいちいちスカーフ巻かせる真田、ちょっと引くわ。

 

胸キュンしたとこ。

「幸せか?」p.184

超絶エリートだが憂鬱を常に抱えている真田が、

オープンカーをタバコ片手に運転しながら主人公に尋ねる台詞。

かっくいー。

てかこの作品は、タバコの描き方が凄く素敵。はー。私も誰かの煙草をすまし顔で買立てて奪って吸ってみてええ~~~~。

好きな脇役。

真田の上司。仕事も趣味も一流の凄い人だ。

 

 

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僕と大河内は結構似ている気がする。大河内のように僕は優秀ではないが。

 

ただ、本書を読んだ時、

確かに胸きゅんしたのは相手・「彼」側の方だったけれども、

一番ぐっときたのは主人公・「彼女」側の方である。

 

西先生の描くヒロインは、強い。

「波のむこうに」で彼女は、

少年院上がりの秀に以下のように声をかける。

「間違いは誰でもするわ 問題はそこから先をどうするかじゃない」p.48

「電波の男よ」の終盤において、

普段あんなにぽんやりしている彼女が

もてあそばれた女の子の逆襲から寿三郎を救うために、

普段は見せないような行動力をいかんなく発揮し、寿三郎に平手打ち。

「くだらない遊びしてるからよ ちょっとはこりた?」p.117

「海の満ちる音」において、酒癖が悪く離婚に至った真田に対し、

彼女はそっと背中越しに声をかける。

「失ったもののことを考えることもある 泣くこともあるわ

 でも考えるだけ だってまた明日がくるんですもの」p.188

 

どのヒロインも、

男の過ちを赦し、正すしなやかさがある。

そして

相手のことは好きだけれども、

教師・秘書・縫製工場と

自身の仕事も持ち、自分を持っている。

全てを相手にゆだねることはない。

決して依存するようなことはない。

そこまで安い存在じゃない。

しかし好きな男のことを包み込める包容力も備える。

強くて、優しいのだ。

 

よく「自立した女性」というけれど、

その答えは、彼女の漫画におけるヒロイン達だ。

 

あとどの作品にも浜辺・・・が出てくる。

潮風に髪を靡かせながら背筋を伸ばして凛としている、

強いけど優しさもある、

長い髪の彼女・・・。

「電波の男よ」というタイトルだけれども

裏タイトルは浜辺の女よ」といったところか。

 

以上である。

ヒロインも魅力あるから結構読み応えあって面白かったのかな。

表紙もかわいいし、

どの話もハッピーエンドで読み応えあるし、

今度古書で購入しようかしら。そう思えるくらいに良かった。

貸本屋もまた行こうかな。

 

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漫画を入れてくれた袋のニンジンが可愛かった。

 

「この作者は「たーたん」って作品がおもしろくてねえ・・・」

本を借りる時、おもむろにおばあさんが言ったので

「ああそれは買って読んでます!!」

食い気味に言ってしまった。

はじめはからかい半分かと思ったが、親しみがもてたとの評をいただいた。

むしろこちらも、こんな素敵な1冊との出会いを提供してくれてありがとうございます。また行きます。

 

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LINKS

たーたんは最近グッと話が進んで滅茶苦茶面白くなったので最高。

あと営業時間外返却ボックスもあるので貸本屋も最高。

 

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