男子同士の掛け合いというのは、
見ていて萌えるものがある。
腐女子じゃないけどね。いやほんとうに。
和山やま『夢中さ、きみに There is no other』(KADOKAWA 2019年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
中高一貫の男子校に通う江間は、
一か月前の運動会の借り物競争のお題、
「かわいい人」で林を選択する。
(林シリーズ)
高校二年生にめでたく進級したが、
目高は全然ハッピーではなかった。
後ろに学年一嫌われている二階堂明が座っているからだ。
(うしろの二階堂シリーズ)
【読むべき人】
・BLが好きではないが関心がある人
・男子同士のやりとりにキュンする人
・ホラー漫画が好きな人
・「動物のお医者さん」が好きな人 多分作者は多大に影響受けてると思われ。
【感想】
刊行時凄い話題になった一冊だったのと、
紹介されている雑誌に掲載されていたコマが凄く面白そうだったので買ってみた。
めでたき人生初のBL本である。
BL・・・ビーエル・・・とは僕が今まで敬遠してきたジャンルである。
というのも、男同士で結ばれて、その先の人生幸せに生きる未来が見えなかったからである。
そんな同性同士で結ばれていいのか。結婚はしないのか。子供もいらないのか。これから長い人生男二人でさもしくさびしく生きていくのか。それともどちらかがおかまバー等にいそいそ通って出稼ぎするのか。
こんな一時の感情に身を任せて、お兄さん達どうなるんだろう・・・どうするんだろう・・・。表紙に描かれている彼等は裸にシャツでほほを赤らめているけれど、若くて美しいのは一瞬だけだぞ・・・40代50代になった時同じく彼を愛せるのか?
小学生の時にそう思ったのがずっとこびりついていて、なんとなく拒否感があった。
けれど時はたち2020年現在、同性愛もまぁ変わっているけど普通のことになりつつあり、男二人どころか僕が26年間女一人でさもしく生きてきたのもあり、なんとなく手に取ってみようという気になった。「BL≒男子高校生が裸に白シャツ羽織った表紙」のイメージも今や昔のものになりつつある。
というわけで、本作が人生で初めて買った「BL本」というものになる。
まぁ、「BL」と言えるほど彼等はキュンキュンしているわけではなかったが・・・それが丁度よかった。程よい。
以下簡単に感想を書いていく。
林シリーズ
前半4編は林という男子高校生中心に進行するアンソロジーである。
冷めた目と、独特な趣味が好き。
微妙に端正なルックスと、微妙に気持ち悪い感じを両立しているこの感じは、中村倫也みがある。と思う。
「かわいい人」:借り物競争で「かわいい人」で林を持ってきた江間だが・・・。
「かわいい人・・・か 僕のことずっと橋本環奈だと思ってたの?」p.007
もうこの一言だけでお釣りがくる一編。
でも僕が「かわいい人」と思うのは江間の方である。
終盤において彼の家が出てくるのだけれど、どうやら非常に面倒見がいいっぽい。年の離れた妹を膝に抱えて作業をしている。
面倒見がいいのね、かわいい。私の面倒も見てほしい。
しかしモテの精神は失っちゃいない。毎日髪をワックスで整えている。ちょっと前の野村周平みたいな髪型している。
男子校なのに偉いわね、かわいい。私の髪も整えてほしい。
だが「森へおかえり」p.009と虫を窓から逃がす等、どうやらオタクコンテンツにも精通しているらしい。
どちらにも振り切れない中途半端が一番、かわいい。私も森にかえしてほしい。
江間という苗字もカタカナにするとエマ。女の名前。
あえてだろうか。
苗字、かわいい。エマストーンよろしく私とラ・ラ・ランドしてほしい。
「友達になってくれませんか」:女子高に通う松屋めぐみの趣味はツイッターに本の感想をアップすること。
「松屋さんはおいも3兄弟の何番目ですか?」p.030
松屋さんが好き。
女子高に通っていてフリフリの服を着ているわりには眼鏡で、でも神の後ろにはリボンを結ぶ。
古典めいた少女かと思いきや、ツイッターに本の感想を垂れ流し、「おいも3兄弟」というネーミングセンス。
可愛い部分と共感する部分の絶妙なバランス。
ちなみに松屋も好き。
丼ものを頼むと味噌汁をつけてくれるサービス精神が好きだし、季節によって変わる定食メニューも好き。
吉野家は吉野家!!って味がするけれど、松屋は松屋!!という味はしない。
すき屋は静岡駅前にはないけれど、松屋は静岡駅前にある。すき屋より落ち着ける。
松屋めぐみと松屋、どっちが好きかと聞かれれば難しいけれど・・・。
描く派:中等部3年美術部小松は、モデルに林を選ぶ。
「絵の価値は描いた人が自分で決めるべきだ」p.059
別に小松は好みじゃない。
まず坊主が嫌だ。坊主はなんかいけ好かない。
釣り目もいやだ。ちょっと怖いし、いたずらっ子ぽく笑えば何しても許されると思っていそうだ。
すごく単純そうで常に笑顔なのも嫌だ。僕にそういうシンプルさがあればよかったのに。
小松と松屋だったら松屋の方が好きだ。ジョージア料理の定食もおいしかったし。
そういえば、生きている人をモデルに絵を描いたことがない。
モデルになったこともない。
描く派どころか描かれる派どころか猫派でもない。
画家とモデル。見る見られる。どういう感覚なのだろうか。
走れ山田!:山田は毎日先輩のお昼ご飯を買いに走らされている。
「衝動的にやってしまったけれどあまり気持ちのいいものではないね」p.087
最後キレるシーンが爽快。
そう、キレても結局何言ってるのかわからなくなって中途半端な言葉で感情で終わる。
けれど胸には謎の爽快感。
そこまで含めて、「キレる」ってことなのだと思う。
ちなみに一番林自身の心情は動いているのはこの話。なんつったって衝動的にカフェオレを垂れ流したくらいだし。最後頬赤らめているし。
この物語が続くならば、意外とこの山田と林の純情BL少女漫画となるのかもしれない。
うしろの二階堂シリーズ
某伊藤順二の漫画の有名なキャラクターを思わせる容貌の二階堂。
彼には秘密があって・・・?といった話。
表紙はこの二階堂明となっているが、なんでこんな汗かいてるシーンなのかは不明。てかこんなシーン本作にないし。
うしろの二階堂:4月。高校2年新学期。目高優一の後ろの席に座ったのは、学年一の嫌われ者・二階堂明だった。
興味深かったのは、目高が佐藤を好きながらも、二階堂にちょっかいをかけている点だ。
小学生の私なら「二股じゃん!!二階堂君かわいそう!!」になっていたろうと思うが今はどうとも思わない。
むしろこれくらいがよい。程よい。
性別を超えてきゅんとする一瞬と言うのは誰にでもあって、
それを目高は二階堂に感じたということなのだろう。
そして目高(男子高校生)が佐藤(女子高生)に感じた一般的なきゅんよりも、
目高(男子高校生)が二階堂(男子高校生)に感じた非一般的なきゅんのほうが、
作品となり、そして
僕の心に淡い謎の感覚を残した。
それだけのことである。
おまけの二階堂:前の話の二階堂サイド
二階堂君がごくごく普通の家族の中にいるのが良いと思った。
というか、最初の江間もそうだったのだけれど、この作者は長男フェチなのだろうか。
あと二階堂の結構ピュアっピュアな素顔が良い。
うしろの二階堂 怒りの授業編:授業中に目高は鏡を持ち・・・?
「かわいい」p.132
わかる。
うしろの二階堂 恐怖の修学旅行編:二階堂と目高は同じ班になるが・・・?
扉絵の状況が謎すぎる。
そして母親からのラインに丁寧に返す二階堂。ピュアかよ。
母親を「母さん」と呼ぶ二階堂。ピュアかよ。
ピュアで可愛いジャニーズジュニア・・・。
彼を読んでると、はるか昔の声変わりする前の知念侑李君を思い出す。
あと本当に最後の最後、「恐怖の修学旅行」だった。読み返したら背筋凍った。
どうして?男子小学生:
「よろしい そっちがその気ならこんなもの・・・」p.167
所謂あとがき漫画である。
けれどこの2ページで作者がどれだけホラー漫画が好きなのか、そしてどれだけギャグセンスが独特なのかよく分かる2ページ。
そうか、昔のホラー漫画の感覚でBL描いているからこんな新鮮なのか。
男子高校生のやりとりってなんでこんなに尊いんだろう・・・と思う。
3年間という非常に限られた貴重な短い時間の中で交わす言葉、ひとつひとつが貴重なのは当然と言えば当然なのかもしれない。
男子同士のやり取りのキラキラの片りんを誌面越しに感じられる一冊。
以上である。
松屋さんすこ。
やりとりの独特な感じすこ。
BL,よりかは、男子高校生のやり取りのキラキラを感じられる本、といった方が適切かもしれない。アンチエイジングにききそうである。なんとなく。
ちなみにこの作者の和山やまさんは僕より年下だそうな・・・。
まじか・・・。
地球のおさかなぽんちゃん『男子高校生とふれあう方法』(双葉社 2016年)
男子高校生のやり取りのキラキラで思い出したのはこの作品。
これも作者のセンスが独特と言えば独特ですが・・・。
絵柄と言い男子高校生周囲の小道具のこだわりといい、通じるものは多いと思う。
僕も生まれ変わったら男子高校生になりたいけれど、
男子高校生と言う立場のありがたさ尊さを感じることは一切なく、
悶々と過ごして大人になって
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1巻感想書いてなかった。まじか。