特に世界史のヨーロッパ史なんて、好きな人嫌いな人真っ二つに分かれるところだと思うけどね・・・。
中野京子『名画で読み解く ブルボン王朝12の物語』(光文社 2010年)の話をさせてください。
【概要】
四つ木の混乱と血みどろの宗教戦争に彩られた王朝の誕生から、
十九世紀、ヨーロッパ全土に吹き荒れた革命の嵐による消滅まで、
その華麗な一族の歴史を、十二枚の絵画が語りだす。
『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』に続く、
ヨーロッパの名家を絵画で読み解く第2弾。
カバー裏より
【読むべき人】
・西洋史がすこな人
・結局「ブルボン家」って何やねんと思っている人
・西洋美術が好きな人
【感想】
ブルボン家の人々と、ブルボン家と関係の深い人々の肖像画を紹介し、
その人物も紹介する非常にシンプルな新書の第二弾。
一人ひとりの物語が中野先生の叙情的な文章で綴られていて、
めくるめく、目を閉じればそこはフランス王国の宮殿が広がる。
「ブルボン家」とはよく聞くけれど、
いまいち誰にその血が通い、どうやってヨーロッパ史に繋がっていくのか把握しきれないところがあった。
それが今作では丁寧に書かれているので、うれぴい。
あと「××1世」「○○2世」、教科書では味気なく並ぶ文字が陳列しているにすぎなかった。けれど今作では一人ひとりの個性・性格まで触れてくれるから、とてもうれぴい。彼等は生きていた。
西洋美術好きだけでなく、世界史好きにもお勧めの一冊。
各章ごとに簡単に感想を書いていく。
僕の世界史の思い出と共に。乱雑に。
マリー・ド・メディシスの章である。
高校世界史のなかでは一番かっこいい名前の彼女であるが、
顔は凡庸であったらしい。
ルーベンスの作品越しでも、はっきり分かるから面白い。美化にも限度があるようだ。
この作品の注文経緯を読むと、なんとまぁ。馬鹿な女というか浅はかというか。うちの店長並みに馬鹿である。
まじでかっこいいの名前だけやんけ。
ちなみに某漫画で有名な「王妃マルゴ」がどの位置にいる人かわかってよかった。
第2章 ヴァン・ダイク〈狩場のチャールズ一世〉
「いいか、イギリス王朝はジェームズチャールズチャールズジェームズの順ですよ」
世界史の先生の言葉を思い出す。
これは2番目チャールズ一世。
クロムウェルという人物の登場により処刑台に行くのは覚えていたが、
まぁこの人もルイ16世よろしく「貧乏くじ」マンだったとは。
確かに、この肖像画も、政治を利用してやろうという傲慢さや強欲さは見られない。
曇った表情、儚い雰囲気すら受ける。
結構肖像画って、想像以上に「ほーん、こういう人なんだ」を語りかけてくるものなのかもしれない。
ルイ14世のママである。ママぁ~。
結婚23年たってからの子だったとは知らなかった。母親37歳の時に生まれたそうな。きっとさぞかし可愛かったことだろう。
父親がマザラン説というのもなかなか胸ときめく話である。
若いころ苦労して、人生の後半で華開いたというのも夢がある。
アンヌが有能という話も初めて聞いたなぁ。
やっぱ有能の親は有能なんだな。いや、有能の子が有能なのか?
この人の一生は是非本一冊で読んでみたい。
第4章 リゴー〈ルイ14世〉
フランス王朝最盛期の王といわれるルイ14世はどのような人物だったか。
贅沢好きで、女好きで、貴族ときゃっきゃうふふするのが大好き。
なイメージだったけど、真逆。
戦争が好きで、自身の神格化には余念がなく、芸術の大パトロンとなり、自然すらも制服の対象とみなした宮殿建築、そしてナショナリズムを国内外に大アピール。
何も考えていないバカ殿・・・は15世で、
最盛期を築いた14世の生き方には、思わず舌を巻いた。凄い。
そしてこの章の最後に、神格化と肖像画をうまく結びつける京子ちゃんも凄い。と思った。
第5章 ベラスケス〈マリア・テレサ〉
第2章の感想で肖像画は想像以上に人となりを鑑賞者に訴えかけてくると書いたけれど、
この肖像画もそう。ドレスは豪華だけれど、顔はなんとなく間抜けているというかなんというか。
みんな大好きルイ14世の王妃はどういった人だったのか。
案外盲点!にスポットライトをあてた章。最盛期の王がすごいのは知ってたけど、奥さん知らない!!
ただまぁ「盲点」となる理由があるよね。ドラマもロマンもない。
彼女はただ、王朝に向いていなかった。優しすぎた。それだけ。
「王妃になって以来、幸せな日はたった一日しかなかった」p.98
時代と生まれさえ違えば、良き妻になれたろうに。多分丸い顔も「たぬき顔」と言って崇められただろう。
第6章 ヴァトー〈ジェルサンの看板〉
ルイ14世の晩年について書かれた章。
さすがに太陽の輝きも、老いには勝てなかったか。
ちなみにこのヴァトーは〈ぶらんこ)で知られるロココ様式の画家である。
ルイ15世の着任と共に繊細で軽やかなロココ文化に移っていく。
そして国財で豪遊を極めるルイ15世に呼応するように、この文化は盛期を迎えていく。
第7章 カンタン・ド・ラ・トゥール〈ポンパドゥール〉
遊びに遊びくれるルイ15世に変わって、彼女がいかに有能だったかが語られる。
けれど印象的だったのは、後半のルイ15世についての文章。
彼の女好き・政治嫌いは有名な王である。
だが本章で取り上げた20歳の頃の肖像画からは、全くその印象は受けない。むしろちょっと有能そう。
一生のほとんどを遊び惚けた彼を 彼は退屈だったのだ。p.124と称する京子ちゃんの考察は、随筆の域は出ないといえど非常に興味深かった。
きれいな娘のような顔立ちの、愁いを含んだ冷徹な美青年だったという。
ルイ16世が今現在「政治が向いていなかった内向的な青年」と擁護すらされる人物として伝わっているように、
この先新しいルイ15世の人物像も浮かび上がるのかもしれない。
第8章 グルーズ〈フランクリン〉
アメリカ独立戦争の資金援助をルイ16世にお願いしに来た人の肖像画である。
彼のウィットに富んだ話はフランスの若者をおおいに刺激し、多くの義勇軍をアメリカクリコンだという。そこにラファイエットもいたそうな。
後半はルイ16世夫妻について書かれている。
特に、いかに16世が内向的だったか。
だがしかし・・・ここだけ読むとちょっとあの人の漫画を思い出す。
福満しげゆき先生の漫画。
先生自身と奥さんの日常を綴ったエッセイ漫画。
ネガティブで若干社会不適合者感も強い福満先生と、マイペースで食べるのが大好きな妻の毎日が綴られている。
ネガティブで読書やアニメが好きな引きこもり気味のルイ君と、外向的で外に出て遊ぶのが大好きなマリーさん。
時代さえ違えば、普通の夫婦として幸せに暮らしていたのかもしれない。
第9章 ユベール・ロベール〈廃墟となったルーヴルのグランド・ギャラリー想像図〉
王宮の廃墟化の絵。きっと鑑賞者に与えた衝撃は大きかったろうに違いない。
16世が処刑された93年に、かつて王宮だったルーヴル宮は、改装し新たにルーヴル美術館として開館したのであった。
後半はほとんんど革命の年表にページが割かれ、後の10-12章の3章にかけて一気に時代が進んでいく。いわばこの章は小休憩といったところか。
フランス革命。懐かしい。一番熱心にノートを書いた。
衝撃だったのはロベスピエールの死。革命をけん引した人々も僅か2-3年で処刑台に上がったという事実。
衝撃だった。
そして大学で読んだ本で知った、ロベスピエールという人物像にも。真面目で勉強家で、どちらかというと静かめの青年だったという。
色々と懐かしい思い出がぽこぽこ出てきた章だった。
あれ、これ字歪んでる。
多分これ寝てたな。
第10章 ゴヤ〈カルロス4世家族像〉
〈黒い絵〉群で日本で有名なゴヤだけど、そうだった。王宮画家だった。
スペイン王朝のブルボン家の数重なる失態が描かれている。ことごとく、皆目に光が宿っていないのがなかなかシュール。いや描きなおしさせろや。
最後の最後に、現国王が遠くブルボン家と繋がっているというのはロマンがあるなと思った。まさかフランスじゃなくてスペインでその血が残るとは。
スペイン史・・・は、世界史の方でも結構片隅の方で、まぁぶっちゃけそこまで興味が
ない。でもここら辺の時代は無能に無能が出てきて非常におもしろそうだと思いました。
ダヴィッド・・・ジャックルイダヴィッド。そらで言える。一番詳しい画家かもしれない。
僕は卒論のテーマにこの画家を選んだ。
というのも、この本でもそうなのだけれど、
王宮の人々、革命家の人々、そしてナポレオンを描いた彼はよく「悪者」にされる。
悪く書かれることが多い。
果たして本当にそうなのか。
僕は疑問に思う。
彼はただ単純に・・・「英雄」を求めただけじゃないのか。
ちょっと感情的なところがあった。熱狂的なところがあった。
だからあのマリーアントワネットの肖像にこのやたらでかい絵に・・・閑話休題。
ちなみにその卒論は資料の少なさもあり・・・まぁBでした。B。
第12章 ドラクロワ〈民衆を導く自由の女神〉
長きブルボン朝の物語は異国の地の〈自由の女神〉像に帰結する。
今度こそ自由を。切実な願いを込めて建てられた像である。生で見てみたいものだ。
あと地味に、ドラクロワがタレーランの息子説は熱いなと思った。
院まで行った後輩の研究対象画家であるときいたけれど、是非論文そのまぁ隠れて読んでみたいんごねぇ・・・。
以上である。
西洋美術だけではなく、世界史についても数多く言及されていて非常におもしろかった。
ちなみに中野先生の本は数多く読んでいるけれど・・・
最近読んだのはこれ。
この本も叙情的でロマンティックに書かれてて面白かったんごねえ・・・。
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