小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

寺山修司『書を捨てよ、町へ出よう』-ロンドンブーツ淳を好きな1の理由。-

 

よく耳にするから読んでみた。

書を手に取る。

 

寺山修司『所をすてよ、町へ出よう』(角川書店 1975年)の話をさせてください。

 

 

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【概要】

あなたの人生は退屈ですか?

どこか遠くに行きたいと思いますか?

あなたに必要なのは見栄えの良い仕事でも、自慢できる彼や彼女でも、おしゃれな服でもない。必要なのは想像力!

家出の方法、ハイティーン詩集、競馬、ヤクザになる方法、自殺学入門……。

時代とともに駆け抜けた、天才アジテーターによる100%クールな摘発の書。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・競馬が好きな人

・でも競馬が好きであることをどこか後ろめたく感じている人

・競馬嫌いの人

・クールになりたい人

・大学生前後

 

【感想】

競馬好きが競馬好きの人、もしくはそうでない人に書いた本である。

ただ作者がいい文章書く作家だったから、

なんかこう、無意図に傑作になっているといった感じ。

 

内容はもう70%競馬の話である。

競馬にかける金がどうだの、溶かした金の言い訳一点豪華主義論」だのなんだの、

競走馬の老後だの、昭和を駆け抜けた名馬だの。

知らんがな。興味ないがな。

その代わり、ほとんど町の話はしない。むしろ田舎。作者が生まれ育った荒涼たる青山健の話が続く。

「青森を捨てよ、競馬場へ出よう」だとダサいから、

なんとなく、

「書を捨てよ、町へ出よう」にしたのだと思われる。

 

表紙の女の横顔がだんだん馬面に見えてくる。

 

ただそこに、うまーい具合で30%エッセンス。

生き方論、ハイティーンになりきって書いたポエムとか、青森含め自らの生い立ちだとか、自殺論だとか風俗ミストルコ云々そういった話をミックスするから、

どこかが誰かの何かに刺さって、

この一冊は傑作に成りあがる。

 

僕のコンプレックスに刺さった。

僕は地方の一般家庭の長女として生まれた。

父親は所謂大手企業のサラリーマンでお金には苦労するとなく、

幼稚園小学校中学受験で公立中高一貫とそこそこすくすく育ってきた。

僕以下もいないし僕以上もいなかった。

だからめでたく上京、MARCHに進学した時衝撃を受けた。

明確なる僕以上の人々が多くいることを。

そしてそういった人達がそういったことを自覚し、あるいは自覚せず、キャンパスを悠々二足歩行していることを。

例えば学校。関東での私立は、全国の私立だった。カリタスという名前が出身校で実在することに驚く。大学付属校から内部進学してきた子の父親は大手新聞社の記者と知る。

例えば家族。円満が普通。転勤族だったと自らの生い立ちを語る彼女は、大手の銀行でエリートコースを確保した若者が、さらに若く美しい娘を一生大切にすると誓って生まれた可愛いかわいい長女。目が大きくて顔採用と名高いコーヒーチェーンがバイト先。

新聞社の子は100万円のバイオリン。

大手銀行の子は明らかに高いフルート。

僕は大学オーケストラに所属していたけれど、

彼らが自らの楽器を当たり前に所持していることに震えた。僕の人生において、30万50万100万する楽器を買ってもらえるイベントは発生しなかった。

彼等は当たり前のように関東に住み、生まれ育ち、就職し、安全な道を歩んでいく。関東の中で。

新聞社の息子と銀行の娘が、大学の経済学部の校舎のなかでエッチをしたと聞く。

机上に押し倒す、恥、家族、保証された地位と安全、当時も喪女今も以下略な僕の不器用、無知、煌めく私物楽器の輝き。何もかもを滑り落としながらその瞬間、一体あの子はどんな声で啼いたのか。

カリタスは卒業後結婚をした。ピアノを習っていた。「ごきげんよう」が挨拶だという話をことあるごとにしてきた子だった。きっと今もない新毎日挨拶しているに違いない。

財も恋も人生も明確に僕以上。

関東で生まれることは、人生におけるいわゆるひとつの安全圏なんだと思い知る。

実家で六畳間、床にぽかんと寝転がる。ぽかんとしている。

すすけた学校楽器に口を近づける。フルート、バイオリン、ピアノに比べてホルンは不格好。マウスピース越しにつくのは埃の匂い。6畳間の匂いと似ている。

以下略。

 

私は、一塊の馬肉の中に、貧しい生まれの者の復讐を感じる。

良血、名門が報われるのはサラブレッドの世界だけではなくて、私たちの社会でも同じことなのだ。p.159

 

表紙の女の横顔がちゃんと人間の美しい横顔であることに気づく。

 

そう、だから僕はロンドンブーツの淳がどうにも嫌いになれないのだ。

都会の匂いをぷんぷん漂わせながら、おしゃれにでもそれなりにしっかりお笑いで食っている芸人である。

彦島出身なんだよ、私と同じ」

山口県の島出身のオーケストラの同級生が教えてくれた。

全てが一層カッコよく見えてくる。

ただ彼女も入学時から高額のバイオリンを所持していた。この前結婚もしたことをツイッターで知る。

 

透明扉を閉めたいp.222

 

以上である。

想像以上に馬の話。

ただところどころに何かしら刺さる哲学が編まれているから、多くの人に愛されたんだろう。

特に、競馬を趣味とすることを咎めている人には、こううまい具合にいろいろ書かれているから競馬を高尚なもの脳が勘違いする作りになっているのでお勧め。

上京してきた人とかにも勇気を与えるだろうが、その足で競馬場に行って金も夢も溶かしかねないから、あまりお勧めはできない。

「夢を捨てよ、競馬場へ出よう」。笑えない。