「三度目の殺人」-不透明な理不尽を、映画で切り取る。-
美しく、深く。
「三度目の殺人」(監督:是枝裕和 配給:東宝、ギャガ 主演:福山雅治 2017年)の話をさせて下さい。
【あらすじ】
弁護士・重盛(福山雅治)は同じく弁護士の摂津(吉田鋼太郎)とともに、
三隅(役所広司)の裁判を担当することになった。
解雇された会社の社長を殺し、
遺体に火をつけた三隅はこのままでは死刑は免れない。
重盛は三隅と面会を重ね、
三隅の身辺の調査を進めていくが、
どうも不自然に、動機が浅い。
やがて重盛は、
被害者の娘である咲江(広瀬すず)と三隅との間に
友好的関係があったことを突き止めるのだが・・・。
司法の在り方を問う。
「誰を裁くかは、誰が決めるんですか」咲江のセリフより
【見るべき人】
・法学部生
・司法に関わる職についている人
・北海道生まれ
・冬が好きな人
・自分の存在を認められない人
【感想】
思ったより、深かった・・・。
演出:★★★★★
この映画、雰囲気が素晴らしいんですよね。
まず、音楽。
ピアノの「ダララダララダララダララダララダララ」って、
繰り返し流れるんですけど、
そのピアノが美しくて、余韻を残すんですよね。
で、その美しい音楽に合わせて、
美しい場面も多いんですよ。
特に、裁判所のシーン。
司法というフィールドにおいて仕事を全うしているが故の冷ややかさ、というか。
全員、日本人なんですよ?
それに全員が全員、福山のようにイケメンでもないんですよ?
それでも、美しいんです。
あと、本作は冬の映画なんですよ。
雪のイメージが鮮烈で。
ピアノと、冷たい裁判所、
そして雪。圧倒的雪。
全てがうまく噛み合っていて、
美しい邦画だな、と思いました。
ちなみに、僕は是枝監督の作品は他に「万引き家族」しか見てないんですが、
今作は写真的表現、絵的表現が重視されてるのかな、と思いました。
女子高生役に顔の整った広瀬すずをいれたのも、
画面の美しさを意識してかなー・・・とか思ったり。
好きなシーンは、三隅と重盛の最後の面会の場面。
ずっとずっと、二人向き合っていたのに、
最後の最後、反射を使って同じ方向を向くんですよね。
そして最後、ゆっくり重盛の顔が三隅から離れる。
もう少しのところで三隅を理解できる(同じ方向を向いている)ように思えても、
三隅の動機を理解しきることはできない(ゆっくり顔が離れていく)。
できなかった。
演者:★★★★☆
割と良かったと思います。
重盛朋章:福山雅治
福山雅治は、イケメンなんですけど、
圧倒的スター!!って感じのきらびやかさがないからいいですよね。
カッコいいけど、目を惹きすぎない。
後半、三隅へ初めて声を荒げたシーンが特に良かったです。
てか、ここでしか重盛は感情を露わにしてないんですよね。
フィクションにおける、熱い人情味を伴わない弁護士像は新鮮だった。
摂津大輔:吉田鋼太郎
ほえええ。
吉田さんって、いつどこで見ても、容姿は吉田さんなんですよ。
痩せたり太ったり、髪の毛染めたりあわよくば増えたりすることがあんまない・・・イメージ。
それでも、「ちょっと今から仕事やめてくる」とは全然違ってて、
役者だなぁ…と思いました。
摂津は、普遍的な、一般的な価値観を提示する人物でしたね。
観客の代弁者。
同時に、人情味で物事を勧めようとするところも、
重盛(主人公)と反対でそこも良かった。
川島輝:満島真之介
二人とは違った、若手弁護士。
「そんな人、いないです。生まれてこない方がよかった人なんて」川島のセリフより
若手ならではの鋭さがあるこの言葉は響きましたね。
気苦労漂う2人の雰囲気とは打って変わって、
円い眼差しで挑む彼の姿は若者!!でした。若者!!
満島さんって、役とかだと「真面目で実直!!」な感じが多いよね。
目力がいいもんなぁ・・・。
この3人のキャスティングが、神だったなと思います。
マサハル、中年、若手みたいな。
3人で出てくるシーンが多いんですけど、
すごくバランスがいいんですよね。
山中咲江:広瀬すず
美人ですね。
同じ静岡市民とは思えない。
終始漂わせるミステリアスな雰囲気とか、
心に闇を抱えている感じとか・・・
雰囲気は素晴らしかったです。
すずとは思えない。
し、やっぱほんじょそこらの若手女優とは一線を画す演技力だと思います。
けれど、表情の作り方が若干わざとらしく感じられたかなぁ・・・。
山中美津江:斉藤由貴
私、映画とかドラマとかそこまで見ない人種なので、
「斉藤由貴といったら不倫♪不倫といったら斉藤由貴♪」
のイメージだったんですけど、
今作の斉藤さんはメンヘラ感がやばい。
中年女性特有の不気味漂うメンヘラというか。
「飴ちゃんあげる」美津江のセリフより
すっごい何気ないシーンでの何気ない一言なんですけど、
自然に発せられた、
人間性の愚かさを煮詰めたこの一言が良かった。
篠原一葵:市川実日子
「満願」にも出てましたね。
あっちはうーん・・・って感じだったんですが、
すっごいハマってた。
めっちゃハマってた。
典型的検事、って顔してて、
「うわ気ぃ強そう・・・・」みたいなイメージ先行してて、
全然美人には見えないんですよ。
なのに、プロフィール写真見ると美人なんですよね!!
齋藤さんもとい市川さんもとい、
美人を捨てられる美人こそ、女優なのかなって思います。
重盛結花:蒔田彩珠
マサハルの娘。
出番少ないんですけど、存在感あったなと。
特に父親との対面のシーンで、アップに映るんですけど、
表情が自然なんですよね。
邦画を背負う女優になるんじゃないかな。
広瀬すずとは対極の、
薄い顔の美人を持ってきたのは画面映えるなぁ・・・と思いました、まる。
三隅高司:役所広司
流石ですね。
役所さんって、
顔が濃くて雰囲気も堂々としていて・・・というイメージなんですが、
どこかみずぼらしく、何を考えているかも曖昧で、乞食。貧相。
画面越しに、三隅しか見えない。
役所さんはいない。
小鳥好きなんだなぁ・・・。
ストーリー:★★★★☆
深い。
深かった・・・。
恐らく最後の
「誰を裁くかは誰が決めるんですか」咲江のセリフより
にすべてが収束されているように思うんだが・・・。
罪を犯しても何も失わない人もいれば、
見つかって刑務所に入れられる人もいる。
生死だってそうだ。
途中三隅が言っていたが、
望んでもいないのに死ぬ人もいれば、
死んでもいいと思っているのに死なない人もいる。
わからないところですべてが決められているような、
当たり前に存在する透明な不平等を、
映画で切り取る。
タイトルは「三度目の殺人」である。
だが、本作では
三隅の30年前の殺人と、主軸となる社長の殺人。
二つである。
では「三度目の殺人」は何か。
三隅の死刑宣告なのだろう。
死刑を「殺人」と表現する。
彼を殺したのは誰か。
神か、法か、重盛か、咲江か、それとも・・・。
うん、まぁその・・・難しいので、★4つ。
以上である。
画面が写真的で美しく、
演者の演技が際立った。
ストーリーはよく分からなかったが、
それでも視聴後の余韻は一日中後を引いたし、
見る意義のある作品であった。
是枝監督が撮ると、基本そこに役者はいなくなる。
コナンの主題歌をギターもって弾く俳優はいないし、
四度目の再婚でまだまだ女たらしたい舞台俳優もいないし、
テレビの照明さんをディスる美少女女優もいないし、
不倫騒動でハンカチで目を抑えてしおらしくしていた女優もいない。
誰もいない。
画面越しに、俳優がいない。
洋画ではそういう作品って多いと思うんですけど(まぁ僕があんま海外の俳優に詳しくないというのもある)、
邦画だとそういう作品ってなかなかない。と思う。
そこがすごく好き。
まぁ・・・「万引き」とこれしか見てないけど。
ちなみに、僕は「万引き」の方が好きかなぁ・・・。
分かりやすいので。
「万引き家族」の感想はこちら