小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

群ようこ『働かないの れんげ荘物語』-月10万円でも、くらせる。-


働かなくても、幸せは見つけられる。



群ようこ『働かないの れんげ荘物語』(角川春樹事務所 2013年)の話をさせて下さい。

【あらすじ】

大手広告会社に勤めていたキョウコ(四十代中盤 独身)は、
会社を辞め仕事にも就かず、
月10万円の生活費れんげ荘(月3万円)に住んで3年たつ。

クマガイさん(同じく無職の初老の女性)コナツさん(職業旅人の若い女性)
暮らしていたが、
ある日チユキさん(180センチ超えの若い女性)が引っ越してくることになり・・・?

また、キョウコはある趣味を始めるのだった。

ほのぼの、温かくなれる無職小説。

【読むべき人】
・常に何かしらの不安を抱えている人
本を読んで癒されたい人
・働いてなくて且つその状況がネガティブにしかとらえられない人

【感想】

「働かないの」。
ニートだった僕がタイトル目にして3秒で手に取ったのは言うまでもない。

簡単に言うとアパートものである。
どうやら「れんげ荘」シリーズというのがあるみたいで、
本作は2冊目に当たるものらしいのだが、
1冊目読んでいない僕でも楽しく読めた。

れんげ荘というのは月3万円の所謂ボロアパートである。
そこに暮らすキョウコさんの日々を描いた作品。

自炊するものの食材には過剰にこだわったり、
刺繍を広げて談義する奥様を見てざわついたり、
髪を切ってなかなか良いとついつい嬉しくなってしまったり
自分と同じ無職一人暮らしの老人の家に干された布団のシミを見てハッとしたり。
嬉しかったり、辛かったり。
ポジティブになったり、ネガティブになったり。

そういった気持ちに振り回されながらも
マイペースに生活を営むキョウコさんが愛おしい。

登場人物も、悪い人はいない。
皆いい人ばかりで、同時にステキな人。
他人の視線にやきもきせずしかkり地に足をつけてくらすクマガイさんや、
あっけらかんとしていて電気スタンドもぽいとあげちゃう職業旅人のコナツさん
家賃+バイトで暮らす常にエネルギーが周囲に満ちているような若きチユキさん
刺繍を始めたい旨を伝えると2000円でキットを送りアドバイスもしてくれるサトコさん
サトコさんへの取次を後腐れなくあっさりやってくれる高校教師のマユちゃん等々
ああこういう大人になりたいわと僕ですら思うような人がいっぱいでてくる。

癒される。
満たされる。
読んでいると元気が出てくる。



一方でキョウコさんは大きな悩みを抱えている。
そりが合わない母親のこと。
ずっとこの先ボロアパートであるれんげ荘に住めるとは限らない、将来のこと。
区役所からの電話を力強く切っても、
ついつい不安が頭をもたげる。

あーと僕は思った。あー。
こういうのって、何歳になっても同じなのか。
まぁ、僕はここまで母親とうまくいっていない、ということはないけど・・・。
でも年齢重ねても大差ないんだな。悩みって。


裏には花の刺繍が。
この表紙が何故「刺繍風」なのかもわけがある。

印象に残ったシーンはここ。

キョウコはほどほど、ほどほどと自分にいい聞かせ、あともうちょっとやろうかなというところでやめておいた。そうすると不思議なことに、自分のふがいなさについて考えないようになった。まだできるのにその手和えでやめておくと、がんばった結果はこれ?と自己嫌悪に陥らなくなったのだ。p.164

これはあれだ。
佐々木典士『ぼくたちは習慣でできている。』でも一緒のことを言ってるぞ、とふふっとなった。
ふふっ。

以上である。
なんかとにかく。
癒される。満たされる。
そんな小説。

ちなみに以前群ようこ先生で読んだ作品はコレ。



群ようこ『働く女』(集英社 2002年)
感想はこちら
働く女を書いたアンソロジーである。
そう、まぁ・・・この作品の真逆のタイトル、ということで今作を手に取ったってのもあるんだけど。
どちらもなんか読んでて「満たされる」っていうのは共通してるかな、と思った。
同時に文体に強い個性がないので、
実力の割に同年代の女性作家と比べると知名度がいまひとつないのかなとも思ったり。

LINKS
群ようこ『働く女』
佐々木典士『ぼくたちは習慣でできている。』