小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

村田沙耶香『コンビニ人間』-幸福論にいらないよ。お前なんか。-


幸福に、他者の視線は必要か。

村田沙耶香コンビニ人間』(文藝春秋 2016年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
大学入学と同時にはじめたコンビニ、スマイルマート日色町駅前店のアルバイトを、
18年間続けて来た私。
働き始めてから「店長」は八代目。

ある日「針金のハンガーみたいな」p.42男性、
白羽さんがやってくる。
遅刻、サボり、勤務中のスマホ問題が多いのだが・・・

「白羽さんは、どうしてここで働き始めたんですか?」
「婚活ですよ」

p.65

【読むべき人】
・自分が「マイノリティ」だと感じている人
・「どうみられるか」
他者からの視線が気になる人
・フリーター

【躊躇うべき人】
・他者からの尊敬を糧に生きている人

【感想】
家にあった。
リビングの横の本棚。
そこには「朗読者」もとい「ミミズクと夜の王」もとい「ガイコツ書店員」もといいろいろあるんだけれども大抵が未読であったり読まれっぱなしであったりする。
そこにちょこんと座るはベストセラー。
終わり方がハッピーエンド派バッドエンド派賛否両論。
と聞いたことがあったので、どっちだろうね。気になるね。読んだ次第。



あらすじだけ見れば、もう恋愛もの一直線である。
「私」なんてものはシンデレラよろしくせっせと毎日コンビニですり減るアルバイター
そこにやってくるは「白羽さん」。ほら名前からカッコいい。
彼が私の心をほぐしていく・・・みたいな。
主演:吉岡里帆 健太郎 みたいな。

ただし作者は村田沙耶香
「私」は連内どころか感情の機微にすら疎い人間。
「白羽」さんも「針金ハンガーみたいな人」p.42(ああこの語彙セレクトも素敵)
そんな絹の糸のような甘々ストーリーが始まるはずがない。
ぐぎっ、と鉄骨の折れる音が聞こえるような、
ひねくれたと同時に実直な超文学。


現実を超えろ。
既存を超えろ。
「超」文学。




私「恵子」はいわゆる発達障害スレスレの、
独特の価値観意思のもと動く人間である。
コンビニのアルバイトとして働くことにやりがいを感じ、
コンビニに私生活プライベート全て規定されることに喜びを得る。
一応他者には「合わせる」が、
他者からの視線など実際はどうでもいい。


一方で「白羽さん」もいわゆる発達障害すれすれ。
遅刻はするし、サボり癖はあるし、態度も悪いし、仕事中いじりだすスマホ
コンビニのアルバイトを心底馬鹿にする一方で、
自分は30代半ばにして一切働かず弟家族からの借金がかさみ、
さぁ口を開けば「投資して暮らす」
全然他者には合わせないが、
他者からの視線がめちゃくちゃ気になる。

真逆の二人がコンビニで出会うという話。

どうだろう。
実際僕等は両方兼ね備えているように思う。
自分の「正しい」を信じて生きたい。
他者の「正しい」に沿って生きたい。
多くの読者が、
非凡なる「私」に共感をする一方で、
働かないクズな白羽さんを憎めない。嫌えない。
どこか愛しさすら感じるのは、
僕達の心の中に二人がいるからだ。

そして終盤物語は結末へ向けて大きく舵を切る。
「私はふと、さっき出て来たコンビニの窓ガラスに映る自分の姿を眺めた。この手も足も、コンビニのために存在していると思うと、ガラスの中の自分が、初めて、意味のある生き物に思えた。」p.151
自分の幸福に、他者の視線等必要ない。
処女でもいい正社員じゃなくてもいい結婚してなくてもいい子供もいなくてもいい。
自分の幸福は、自分で決める。
自身の生き方に確固たる確信を持った主人公は、コンビニ人間」として再び、生まれる。p.151 最後の段落より

主人公の生き方の軸がコンビニ人間」決定的に定まった。
だからこの小説は、ハッピーエンドであると思う。



同時にバッドエンドと思う人は「他者からの視線」を生きがいにしている人ではないか。
例えば大企業社員、国家公務員、銀行員、外資系企業、政治家等々。
給料は高く、確固たる社会的地位。
他者からの称賛、尊敬、敬意、憧憬の視線を浴びることこそ、やりがい。
絶対趣味≠仕事派。

確かに、そういう生き方もアリだと思う。
そのようにしか生きれないという人もいるだろう。
実際世の中はそういった人達の頑張りによって回転している。社会は保たれている。

一方で。
「他者より自分」。
自分の心の在り方を生きがいにしている人もいる。
別に大企業公務員でなくてもいい。
自分の心の赴くままに。
イラストレーター、小説家、漫画家、アーティスト、画家、彫刻家、歌手、声優等々。
そういう人にこそ、
今作は「ハッピーエンド」になるのであり、
同時に今作は響くのだろう。


また、今作が「大ヒット」となったということは、
後者のような人間が世の中にはたくさんいるということだ。

大丈夫。君だけじゃない。僕だけじゃない。
皆葛藤を抱えている。




以上である。
生き方について書かれた本作。
「私」と白羽さん。
両方に共感するのは二人のような相反する側面を誰もが心に抱えているから。
こんな感じ。

どうだろう。
ニートの僕からすれば「コンビニのアルバイト」という天職がある主人公は羨ましいとすら思う。
でもまぁ羨ましくない、みっともないと思う人もいるんだろうな。
読者の生き方によって、これほどまでに解釈が変わる小説もなかなかないと思う。
だからこそ芥川賞なんだしだからこそ「大ヒット&ベストセラー」なんだろな。

ちなみに村田先生の小説は他にこちらを拝読している。



村田沙耶香『殺人出産』(講談社 2017年)

感想はここちら。
「10人産めば1人殺せる」というこりゃまた唯一無二の、
既存文学を超えた超文学。
こちらもなかなか面白かった。

村田先生の作品は電波めいてひねくれて難しいけれど、
僕のようなペーペーにも何かしらの解釈が受信ができるから、好き。

LINKS
紅玉いづき『ミミズクと夜の王』
本田『ガイコツ書店員本田さん1』
村田沙耶香『殺人出産』