小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

河崎秋子『肉弾』-もう一度僕等は生まれる。-


生き残らねば。

河崎秋子『肉弾』(KADOKAWA 2017年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
大学中退後ニートをしていたキミヤは、
建築会社を経営する父親に連れられ、北海道に降り立った。
狩猟に来たのだった。

いつものように鹿を狩るものかと思っていたが、
「熊だよ」p.59

更に森に響くは・・・・ワン、わんわん、ガルグウウッp.95
犬の鳴き声。

【読むべき人】
・犬派
・犬を飼っている人
北海道民
ニート

【感想】

僕がこの本の存在を知ったのは、この雑誌。



ダ・ヴィンチ 11月号」(KADOKAWA2017年)

表紙から分かるように、おそ松さんの声優トーク目当てで購入したのだが、
この号に掲載されていたのが、この本の特集だった。

作者の気の強そうな釣り目の、
もののけ姫のような美しさをもった写真が目に入った。
しかも職業は「羊飼い」。北海道在住。
気になった。
どんな小説なんだろ。

図書館で見つけたので、あっさり借りて読んだ次第。


イメージ図

自然の中のサバイバル小説である。
キミヤ、熊、そして犬達の戦い。

僕はこの小説は、一つの親離れの小説だと思った。
父親を亡くしたキミヤ。
主から捨てられたラウダ。
母熊に取り残された雄熊。
彼らは保護者を失った後も、
過酷な状況をたくましく生き延びていく。
まるで、「親離れしてからこそ、初めて生きることが出来る」とでもいうような。
ニートの僕には耳が痛い。

だからある意味では、この小説はキミヤの再誕生を描いた小説。
「たった四晩の出来事が、生まれてからの約二十年を賭けた時間になってしまった」p.247



野犬。
僕は一回だけ襲われかけたことがある。
大学1年の時。
6月の夜とかだったと思う。
スーパーからの帰り道。
住宅街ではあるが山が面している道だった。東京都とはとても思えないような八王子の外れ。
てけてけ歩いたところ、
「ワン!!!!!ワンワン!!!!!」
暗闇にッ突如響く鳴き声にえ、と振り向くや刹那
「やべ」
気配。何かが追いかけてくる。
逃げた。
僕はもう、全速力で。
・・・ぎりぎり逃げのびることはできたけど、
危うかった。
死ぬかと思った。
住宅街に人を襲う野犬がいるとは。
東京の恐ろしさを身をもって体感した。

また、今僕がニートしている家には犬がいる。
トイプーである。
もうすぐ10歳。
けれど度々、
夕暮れに遠くから
「アウ〜!!!」
と聞こえると
「アウアウ〜!!!!」
遠吠えしている。

ダ・ヴィンチで河崎先生は犬をペットではなく「家畜」と捉えていると述べている。
本作に出てくる野犬の群れの中には、チワワやフォックステリア等所謂「ザ・飼い犬」のようや犬種も含まれている。

本能を身体の奥底に滾らせる犬は
ぬいぐるみのようなあいくるしいものよりかは、
狼のように鋭利な存在に近いのかもしれない。
「ペット」「愛玩動物」、
そんな言葉で片付けられないような、本能が滾る。



ただ今作は決して・・・つまらなくない。
面白い小説であるが、なんか読み足りない。
というのも、肝心の戦闘シーン。
読み易く、情景・態勢も目に見えてくるようで、優れた文ではあると思う。
視点がコロコロ変わるものの、書き分けが出来ている。違和感はない。
けれど、



村上龍五分後の世界』(1997年)
感想はこちら。
あれを一度読んでしまったからにはどうもちょっと「足りない」のだ。
読んでいるだけで。
もっと血が騒ぐような、
もっと緊張溢れるような、
もっと続きが気になるような・・・
そういった、過酷な描写がほしい。

また、今作は若干散逸。
読む前、僕はてっきり自然でのサバイバルに重きを置いた小説だと思っていた。
だが実際読んでみると、
サバイバルが出てくるのは後半で、
キミヤや犬、熊の内面を描く章が多い。
自然を蹂躙する人類への啓発や、
無責任に犬を飼育する人々への警鐘
筆者が伝えたいメッセージがそれらにはこめられているのだが・・・
もっとサバイバルの部分が読みたかった。
確かに内面的背景を知っていればその分サバイバルの描写も力が入るというものだが・・・
ならばページ数を増やしてサバイバル部分をもっと多くしてほしかった。

多分この本を手に取った人は「捨てられたものの小説」を読もうと思って
手に取ったわけではないと思う。
「サバイバル小説」を期待しただろう。
その期待が外れた分
南米の川通販サイトでの評価が下がったと思われる。

デビュー後2作目である。
次作は今作を越えるような、もっと僕に刺さる小説を期待したい。
足りない。足りないよ。



以上である。
親離れの小説。
親から離れてからこそ、僕達は初めて生きていける。
特にここら辺が刺さったかな。

北海道。
度々自分語り申し訳ないが
僕は何回か行ったことがある。
というのも父親が北海道の田舎の出身で、
牧草を食む牛も馬も
道路から見える野生のシカも狐も
全部見たことがある。
恐らく、
あの景色を見たことある人にはこの小説はより響くのではないか。

また、あの景色がもう一度おがめるよう・・・震災の復興を願ってやまない。



LINKS:
感想は村上龍『五分後の世界』