小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

恒川幸太郎『夜市』-怖さより、切なさ哀切極まるラスト-


悲しくて、切ない。
右手には本を、左手にはハンカチを。

恒川光太郎『夜市』(角川書店 2005年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
「夜市が開かれるそうなんだ」p.9
大学二年生のいずみは、
高校時代バイトを共にした裕司に誘われ、足を運ぶが・・・(表題作)

迷子になった7歳の私におばさんが案内したのは不思議な道だった。
武蔵野市だったら、この道をずっと向こうに歩いたらつくから。ぼく歩ける?寄り道しないでまっすぐ行くんだよ。夜になったらお化けが出る道だからね」p.82
12歳になった私は親友のカズキと再びそこに足を運ぶのだが・・・。
そこには水牛を連れた不思議な青年、レンがいた。(収録作「風の古道」)

一歩踏み出すとそこは、
現実でも夢でもない不思議な世界。

【読むべき人】
ジブリが好きな人
異世界ものが好きな人
・泣きたい人
・切なく悲しい小説を読みたい人



【感想】
度々「おススメ本」に並ぶ今作。
図書館の本棚に見つけたので、
この機会にと思って読んだ次第。

ジブリっぽいなと思った。
現代日本と地続きの雰囲気を持つ異世界
そこに出てくるキャラクターは今まで見たことないようなキャラクターばかりで
切なさ・悲しさで胸が苦しくなるクライマックス。
今作が多くの人から愛されるのもわかる気がする。

文体も非常に読み易い。
確かに描写、表現に稚拙な部分は見受けられるけれども
基本的にすらすらはいってくる。
その分、頭の中で映像が浮かびやすいからこそ
僕はジブリなんて思ったのかもしれない。



収録作について感想を。

「夜市」
後半の意外な展開にびっくり。
そしてその人物の今まで積み重ねて来た日々、
結果報われずとも報われた瞬間を思うと涙なしには・・・読めない。
そういった哀切さと、
独特な「夜市」の雰囲気が相まって強いインパクトを残す。
すごいいい小説だなって思った。

「風の古道」
「夜市」同様唯一無二の世界観に悲哀・切なさが重なる中編。
けれど「夜市」は悲哀・切なさに重きを置いていたのに対して、
こちらは世界観に重きを置いていた印象を受ける。

世界観は大層シンプル。
複雑でそこの世界にしか通用しない貨幣言語などは詳しく設定されてない。
けれどシンプルだからこそ際立つ、
世界の澄んだ雰囲気がいい。

この話、絶対ハッピーエンドだと思っていたけれど・・・
思うようにはいかないのがこの世界の道理なのだろう。
ふっつり、と切れたような結末がこの澄んだ世界には似合う。

ちなみに、「愛する者を産む」という発想は、
山白朝子『山白朝子短編集 死者のための音楽』』に収録されていた「終わりの始まり」にも出てくる。

どうなんだろうか。
本当に本当に全身全霊で愛した人が亡くなったら、
産んででも、
その人に会いたい
と思うものなのだろうか。
僕はまだわからない。


本編よりもこの明らか血っぽい汚れのが怖かった。

以上である。
不思議な世界観、
切なさ極まるラスト、
共にとても良かった。

ちなみに僕はこの作者の短編は以前読んだことがある。



恒川光太郎 有栖川有栖 道尾秀介 石田衣良 鈴木光司 吉来駿作 小路幸也『七つの死者の囁き』(新潮社 2008年
こちらもそう、不思議で独特な雰囲気で、読んだ後確か泣いた記憶がある。

ホラー、というより悲哀・切なさを残す。
それが恒川先生の魅力なのかもしれない。

それにしても・・・お祭り、ここしばらく全然行ってないなあ。

LINKS
山白朝子『山白朝子短編集 死者のための音楽』