小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

森絵都『つきのふね』-青春地獄は此の世。飢餓は僕。-


疾走する中学生小説。


犯罪小説。


森絵都『つきのふね』(角川書店 2005年)
の話をさせて下さい。




【あらすじ】
1998年冬。ノストラダムスの大予言まであと1年。
女子中学生・さくらは、親友・梨利を裏切ってしまった。
寂しさを埋めるかのように、24歳の智さんの部屋へ通うようになる。
智さんはそこで「彼ら」の指示で、宇宙船の設計図をノートに描き続けていた。
さくらは尾行癖のある男子中学生・勝田君と通うようになるのだが・・・

売春疑惑、万引き、連続放火事件、心の病気。
疾走する中学生グラフィティ。

【読むべき人】
・中学生小説が読みたい大人
・何かもうやりきれなくてそれでも吠えたい人
三ツ矢サイダーを飲みたい人

【感想】
「つきのふね」のひらがな5文字にふわふわ系の表紙。
あらすじには「中学生」の文字。
ああもうこれ絶対あれやーん。

少女の初恋をふわふわ描いた甘酸っぱい物語、確定やーん。確定申告やーん。やーんやーんやーーーーん。
と思ってたら、違った。
どちらかというと恋愛その他のゴリゴリをゴリゴリ描いた辛い物語、
ナイフのような物語。

一読して思いだしたのは、はるかむかし中学生の自分。
そう、あの頃は。
ものすごい量のエネルギーを秘めていて、
それを発散する方法を知らず
周囲へ全て爆発させる。
何事にも敏感でちょっとした言葉に傷つくけど
その弱さをさらすことは恥ずかしいから、
強く見せる。イキがる。
大人はもう絶対神の効力は失っていて
スポーツ、楽器、アニメ、美術何でもいいけど
新たな神を見つけ心酔。
大人が神でなく欠点のが多いただの哺乳類と知った絶望を埋めるかのように
新たな神に心身捧げなさい。
大人が忘れていた、
若かりし頃のエネルギッシュな自分を思い出させる物語。



今の僕にそれほどのエネルギーは、ない。
緩やかな幸福に満足する
まるで脳80%がプリンかゼリーに変ってしまったような
すごくゆるやかになっている感覚で、
でも将来であるとか就職であるとか不安がゼリーに針を突き刺すけれども
ほら、目をつむって。
しばらく待てばゼラチンはスライムのように溶けて溶けてとけて
痛みなんて忘れてしまう。
針は一本だけじゃない、何兆何京とあるのに。
ふふ、おかしいね。お菓子なだけに。

でもあの時代のエネルギーを失うのは自然の摂理
僕だけじゃない。
周囲の大人も持っていない。
僕達は日々飢えている。青春に。
だから
毎クールに学園が舞台のドラマ・アニメがあるんだろうし
少女漫画・少年漫画を読み続けるんだろうし
欅坂46サイレントマジョリティー」が流行るんだろうし。
僕達にはもうあの頃のエネルギーはない。
エネルギーに飢えている餓鬼の僕等は
青春という言葉に呪われたかのように惹かれ続けるんだろう。
現代社会は青春地獄。大人は餓鬼。

今作はその永続的飢餓を満たす小説である次第。



ちなみに今作ではゼリーにぶすぶす刺さるような言葉がいっぱい。
「人間、よくなるよりも悪くなるほうがらくだもんなぁ」p.131
だれだって自分の中に怖いもんがあって、それでもなんとかやってるんじゃないのかよ」p.144
人より壊れやすい心に生まれついた人間は、それでも生きていくだけの強さも同時に生まれもってるもんなんだよ。p.172
毎日毎日負傷し続ける餓鬼の傷口にしみる。

ぼくわとうといものですか?p.216
最後の一行。




以上である。

なんか中学生時代を思い出してしんみりしちゃった。
子供よりかは大人の方が響くんじゃないか。
そんな小説。
大人はみんな、宇宙船の設計図を描く時代はあったはずだから。
ググるとああこれ新装版も出てるね。
内容に沿った表紙になっていて、グレイト。

ちなみに僕が同じ森絵都先生の小説で一番好きなのはこの作品。
森絵都『カラフル』(文藝春愁 2007年)
今まで3回は読んでいる。
というか、あらゆる小説の中で一番好きな小説なのかもしれない。
これもゼリーに刺さるのだぁぶすぶす。
あと森絵都みかづき』(集英社 2016年)も僕は好きかなぁ。