小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

初野晴『退出ゲーム』-ユーフォニアムは響かない。-


響け!!ユーフォニアム

というけれど、
響かなくても面白い吹奏楽小説はある。

初野晴『退出ゲーム』(KADOKAWA 2010年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
進学と同時にフルートを始めた高校生・チカは、
幼馴染のホルン奏者・ハルタと幼馴染。
二人は吹奏楽(部員10名p.128)に所属している。

顧問の新任教師・草壁先生のためにも、
絶対普門館に行きたい!!
そんな思いを抱きながら日々部活に励む。
が、
部内外問わず奇人・変人が多い清水南高校。
様々な謎が日常に影を落として・・・!?

吹奏楽×青春ミステリ、「ハルチカ」シリーズ第一弾!

【読むべき人】
青春ミステリが好きな人
・学園物のライトノベルが好きな人
もしくは好きだった人
文章力高いライトノベルが読みたい人
氷菓が好きな人

【一旦手を止めるべき人】
・響け!!ユーフォニアムが好きな人

【感想】
母校が舞台なんですよね。これ。
初めて読んだのは、高校1年か2年の頃。
図書室で、初野さんの特集ラックを組んでいて、
そこで手に取った単行本が本作。
普通に読んだんだけど、普通に内容忘れていたので、
あとまぁ母校が舞台でもあるし、
あと僕も中高はホルン吹いていたので、
気になってはいたし、ということで、
あんまりシリーズ物は買わない主義なんだけど買いました、まる。
改めて読むと、いやはや、割と面白かった。

今作の魅力はと、キャラクターでしょうね。
吹奏楽部が舞台であるけれど、そこに重きは置かれていない。


出てくる楽譜は中高時代吹いたクラシックのホルンのなにか。

謎。
表題作「退出ゲーム」をはじめ、
「結晶泥棒」「クロスキューブ」「エレファンツ・ブレス」・・・。
収録作全ての謎が、新しい。
見たことないような、聞いたことないような。
特に最後の「エレファンツ・ブレス」なんかは、
いちばんはじめからは、
オチが全く予想できない構成になっていて、
目から鱗と涙ボロンボロン。
「退出ゲーム」では、演劇部と吹奏楽部で演技対決してたり、
「クロスキューブ」では前代未聞のルービックキューブが出てきたり、
どの謎も個性が強くて、斬新。
どうなるんだろう、どうなるんだっけ、
ってページを繰る手がノンストップなわけです。
まぁ一部「ミステリ」の枠からはみ出ている感じもしなくもないけど・・・、

キャラクター。

キャラクターの魅力がそのモヤモヤを吹き飛ばす。
どこか浮世離れしたホルン奏者のイケメン・ハルタと、
元運動部のフルート初心者チカのやりとりがまぁ面白い。

「ぼくは機縁たんだよ。もう、学校やめる。」
「はあ?」
「そうか、チカちゃんにはわからないんだな。ぼくの気持ちが。
ぼくはぼくである前に、他社にどうみられているかを気にする弱いぼくがいて、見られる存在としての自分と、その存在を脅かす非自己と二分した世界が」

わたしはボトルのキャップをしめて投げつけた。手加減は、なしだ。
p.11一部省略


「ああ、でもね、チカちゃんはもっと死ぬ気で部員を集めないと駄目だよ」
「どうして?」
「チカちゃんのミスを誤魔化すなら、できるだけ大勢の音楽力が必要だから」
ハルタの背中を蹴りたくなったが我慢した。大方その通りです。もっとフルートを練習しないと。

p.65一部省略


ホームズ役のハルタに、ワトソン役のチカが対等なのがいいよね。
且つ、話をぐいぐい進めるのはハルタでなくチカなのが、
読んでいて心地いい。
今作がハルチカシリーズ」と呼ばれるのも納得できる。

ちなみに、似たような関係性のミステリーシリーズなら、
はやみねかおる先生「虹北恭助」シリーズが該当する。
あれはあれで舞台が商店街で、さくさく読めてまぁまぁ面白かった記憶。
シリーズ最終巻を読んだ感想はこちら


高校時代のまま。机の中は。

話を戻そう。
ハルチカ以外の他のキャラクターもなかなか。
謎を解くキーを与える青年・草壁先生
オサゲ眼鏡の激情フルート奏者・成島美代子
秘めた思いを口に出せないサックス奏者・マレン・セイ
その他演劇部、生徒会長、発明部・・・。
個性豊かで、且つ熱い心を秘めた人物が多くていい感じ。



ただ今作の欠点としては、
普門館の言葉がどこか宙ぶらりんであること。
作者は高校時代柔道部で吹奏楽部ではない。
そのせいか、
練習しているシーンがどうしても知識だよりであったり、
合奏するシーンの描写はあまりなかったり、
どうも楽器経験者(僕もホルン奏者だったんですよえへへ)からすると物足りない印象を受ける。
そのため響け!ユーフォニアムを期待して読むと、
肩を落とすかもしれない。
部活に熱い気持ちを抱く高校生を描きたかったため、
普門館という設定を使ったように思えるが、
シンプルに「部員集め」でもよかったような気がする。



ちなみに、
実在する清水南高校には吹奏楽部はない。
オーケストラ、管弦楽になる。
さらにもっと言うと、運動部はあんま盛んじゃない。
柔道部はおろか、剣道、放送、野球、男子サッカー、
ぜーんぶ、廃部してしまった。
クラスも4つしかなく、中高一貫校になってしもーた。
原作ファン、がっかりすること間違いなし。

以上である。
久々に読んだらなかなか面白かった。
特に謎の斬新さとキャラクターの質がぐっときた。
あと改めて読むと、文章力の高さ参考文献の多さも垣間見えてなかなか面白い。

あと解説の千街晶之さん!!
あのイベントにいた、あのパーマの方やんけ!!


はるか昔は清水駅前のタリーズに成島さんがいた。
今は隣の大和屋にいる。

今作はアニメ化されている。
PAワークス(大手!!)により2016年1月から3月。
母校と、母校周辺の景色が徹底取材されていて、
清水南OGの僕としてはまさしく神アニメだったんだけど、
原作ファンからしたら不満がたまるような出来だったのではないかと思う。
キャラデザ、キャラクターの性格変更(特に成島さん)、
1話1謎という無理ある構成・・・等々。
「響け!!ユーフォニアム」のヒットに伴ってアニメ化されたんであろうが、
先述したように本作は吹奏楽部の練習自体が主題ではない。
吹奏楽部内外で起きるミステリが主題。
そこを制作側は履き違えていた気がする。
原作の良い部分を幾分がそげ落としたような出来になっていたのは、否めない。

どちらかというと「響け!!ユーフォニアムというよりは
氷菓が近いかもしれない。
まぁ僕読んだことないけど。



使っていた僕の愛用ホルン道具。

映画化もされたけど・・・見てないがうーん。
そもそも、
この作品はキャラクター達が連続して出てきて
数々の謎に巻き込まれる
のが魅力であろうから、
映画よりドラマのが媒体として向いているような気がするけど、
どうなんだろう。

原作自体はなかなか良いのに、
どうも
メディアミックスでコケてしまった印象の強い、
シリーズでもある。


ドラマ化、もしくは
この素晴らしい表紙を描いた山中ヒコ先生による漫画化、
数少ない可能性に期待するしかない。