小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

よしもとばなな『デッドエンドの思い出』-死と過去の匂いが漂う-

バッドエンドじゃない。
デッドエンド。

よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文藝春秋 2006年)
の話をさせて下さい。



【あらすじ】
仲良い家族でお金にも困ることのなかった、ミミ
しかし彼女は遠距離恋愛中の婚約者に、酷くフラれてしまう。
ショックを癒すため
飲食店・「袋小路」の2階に居候することになるが・・・。

5つの切ない。

【読むべき人】

デッドエンドで終わった恋をした人
・婚約者がいる人
・新婚さん
・「事件」に巻き込まれた人

【感想】

ばなな先生の小説は今までに3冊読んでいる。
「キッチン」「ハゴロモ」「とかげ」・・・。

彼女の小説は、
読んでいて「整う」感じがする。
落ち着く、というか心の中に音もなく静寂が広がっていく・・・というか。
決して「頑張ろう!!」「明日も生きよう!!」とか強いエネルギーが沸いてくるわけではないのだけれど。
整う。
整うのだ。
今作もそうだった。



だが、上の3冊とは今作は毛色が違う。

5編収録された短編集である。
前半4編は、死の匂いが強い作品。
一番初めに収録されている「幽霊の家」では、
タイトルそのまま「幽霊」が珍しくばなな先生の小説に出てきている。
2編目「おかあさーん!」死の危機に直面した女性の話。
3編目「あったかくなんかない」4編目「ともちゃんの幸せ」
同じく死の匂いが漂う。静謐に。

唯一死の匂いが遠いのは表題作「デッドエンドの思い出」になるが、
僕が思うに、主人公・ミミは、
失恋を通じて一回「死んで」いる。
すると、5編全部死と関連する短編、ということになる。



そしてもう一つ。
5つの短編に共通していることは、「過去」
「おかあさーん!」では事件後自らの性格のルーツに迫って昔・・・幼少時に思いを馳せ、
「あったかくなんかない」はもうすでに舞台がセピア
「ともちゃんの幸せ」となる要因も過去に位置している。
「デッドエンドの思い出」も名前の通り、
デッドエンドの思い出から立ち直れないミミが主人公。

「死」「過去」この2つが息づいているからこそ、
毛色が違う、なんて思ったのかもしれない。



5つの短編のなかで、
僕が一番好きなのは「幽霊の家」
ばなな先生特有の静かなまなざしで描かれた幽霊像が新しかった。
最後・・・pp.64-65で書かれる、
結婚についての文章はなるほどなぁ・・・と思った。
卑猥なことも文章に包み込むのがいいよね。

あと、
今作はばなな先生の作品に共通する
「川」
の思想が非常に強く感じられる作品集だった。
僕はその思想が
良いものなのか悪いものなのか正しいのか正しくないのか、
わからないけれど、
「川」について書かれている文章を読むと落ち着く。
から好き。

秋元康も川が好きらしいけどすごくわかる。

 

 

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以上である。
今作は読んでいて面白かった。
毛色が違うのが初め気になったけど、
それは過去の匂いがする短編集だったからではないか。
そんな感じ。

ちなみに、本作は出産を間近に控えたばなな先生が書かれた本だそうな。
、と過去。
それは筆者が、
新たな生命を身体に宿していたから
無意識にそこに傾倒するのは自然なのかもしれない。


 

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20200725 一部加筆修正、画像追加を行いました