小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

西加奈子『うつくしい人』-綺麗なだけではダメだ。-


癒やしの小説。

西加奈子『うつくしい人』(2011年 幻冬舎の話をさせて下さい。


表紙は姉と百合と思われーる。

【あらすじ】
他人の目を気にしすぎてしまうアラサー・百合は、
ちょっとしたミスで仕事をやめ、
ふさぎ込んでしまう。
奮起し、雑誌で見た瀬戸内海のリゾートホテルへの滞在を決める。
そこのホテルには無邪気なドイツ人・マティアスと、不器用なバーテンダー坂崎がいて・・・。
恋愛でもない、仕事でもない。
癒やしの小説。

【読むべき人】
・男性・・・というよりは女性
・マイナス思考の人
・癒やされたい人
・他人の目が気になる人

【感想】
前に読んだ「白いしるし」絶望感爽快感が忘れられなくて、
今作を手に取った。
内容は「白いしるし」より若干薄まったように感じたが、
筆者の、読者の背中を支えるような姿勢は変わらない。
「読者に、生きる力を与えたい」
・・・そんな声が聞こえてくるような内容。
ちなみに、西加奈子『白いしるし』の感想はここ。

今作は、一貫して「癒し」が描かれている。
置かれている状況が富裕層というイレギュラーはあれど、
主人公の百合の心情にどれかあてはまる人は多いのではないか。
世間の目を気にしすぎて息苦しい。
自信が持てない。
比べて「他者(今作では姉)よりはマシ」と言い聞かさなければ保たない。
そしてそんな自分が嫌い。
思い当たる。共感する。
「すみません。」
私は彼女の顔を水、頭を何度も下げた。
「そんなに謝ってくれなくても、いいけど。」
「すみません。本当に。」
もう一度そういい頭を上げた。
彼女は私に苛立っていた。
p.12 「ちょっとしたミス」のシーン 中略有 一部抜粋

私の行動の基本は、全て恐怖からきているように思う。p.39

そんなネガティブの擬人化のような百合が、
終盤前向きになるのが心強い。
海も変わるのだ。こんあんい立派な海が。では、私が変わることくらい、環境によって自分を見失ってしまうことくらい、起こりうることなのではないか。p.191
いくら綺麗でも、タフでなければ。p.228
自己投影していたネガティブな彼女が、ゆっくり変わっていく様は元気づけられる。
勇気づけられる。
特にp.223「日常の肯定」は必読。
本を閉じた時、ほんの少しタフになれる。
ブルルンブルン・・・・バイクのエンジン音が、遠くから聞こえてくるようだ、
なんて。



今作は百合の他に、
二人主な登場人物がいる。
一人は傷置くニート系ドイツ人マティアスと、
もう一人がぽんこつバーテンダー坂崎である。
二人について。

「ふさぎ込む自分」を読者に共感させるのが百合であるならば、
「ふさぎ込む自分」を読者に客観視させるのがマティアス。
マティアスはマザコン
24歳の金も時間も持て余したドイツ人である。
どこまでも純粋な彼は微笑ましい。
特に×××のはじまりのシーンは笑ってしまう。p.157-p,171 「12」
そんな彼も母を失い、
百合同様心の底はふさぎ込んでいる。
純粋である分その悲しさは暗くて
マティアスにひっそり影を落とす。

「ふさぎ込む自分」を読者に自己投影させるのが百合であるならば、
「ふさぎ込んでいた自分」と読者に未来を見せるのが坂崎。
坂崎は仕事ができない。
しかし自分のペースで仕事をこなし、給与をもらい、暮らしている。
他者からの目を気にすれば彼は哀れな人なのかもしれないが、
彼自身にそんな悲壮感は一切ない。
他者の目から解放されて生きる姿は、
百合、そして読者の持つべき心のありようを表しているみたい。

ここでドルヲタの僕が思い出すのは、
欅坂46「エキセントリック」の歌詞。
I am eccentric 変わり者でいい
理解されない方が よっぽど楽だと思ったんだ

綺麗だけではだめだ。
タフでなければ。

百合はそんな二人と探し物をする。
坂崎が探す、写真が挟まった本。
今作において本≒向き合うべき過去を表すのではないか。
だから百合はブローティガン「愛のゆくえ」p.64を見つけ、
その本を愛した姉に向き合って生きることを選択できた。
逆に坂崎は写真が挟まった本が見つけられない。
それは自分の過去に立ち返る必要がないから。
そしてマティアス探し物は図書室にはない。
母親を失った過去に、目をそらしまだ向き合いきれていないから。
・・・なーんて思ったけどどうだろう。
図書室や本の存在の暗示を、もっとわかりやすくしてほしかったかな。

以上である。
百合が癒されていく様子が響いた。
マティアス、坂崎も素敵で
とくに坂崎に至っては好きなアイドルソング思い出しちゃったぽよ。
本探しについて簡単に考察もしてみたぽよ〜。
そんな感じ。



今作で百合はずっと旅行をしている。
飛行機から、船、そして島につき、バス、ホテル。
慰安旅行小説、とでもいったところか。
僕にとっての、今の期間なのかもしれない。
この家にいて雇用保険ぐらぐらもらってニートしている時間。
でもこの時間を超えたところで、僕はタフに生きられるだろうか。
また日常に圧倒されてしまわないか。
・・・大丈夫。
自分を信じるしかない。自信。