小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

映画「虐殺器官」-原作の世界を忠実にアニメライズ-


虐殺はなぜ、起こるのか。

映画「虐殺器官」(監督:村瀬修功 制作会社:manglobe ジェノスタジオ 2017年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
舞台は2020年・アメリカ。
アメリカ情報軍・特殊捜索班に属し、中東で戦う兵士であるラヴィス・シェパードは、
謎の男・ジョン・ポールの逮捕という至急のミッションを引き受ける。
広告会社に勤める彼のプロモーションを仕掛けた国で必ず虐殺が起こるというのだ。
素性を知るため、ポールの昔の恋人美しきチェコ語講師・ルツィアへ接近をしかけるが・・・。
夭折のSF作家・伊藤計劃(いとうけいかく)の作品を映像化。

【見るべき人】
原作、伊藤計劃虐殺器官』(早川書房 2007年)を既読の人
・言語を大学の専攻で取り扱った人
・文学部卒の人
・哲学が入り乱れるSFを読みたい人

【感想】

4年前か5年前。
2014年か2013年位だったと思う。
夭折のSF作家、伊藤計劃の長編が映画になると聞いた。
見ねばなるまい。
公開前に、と思い虐殺器官』『ハーモニー』を合わせて読んだ。
けれど、結局
絶対見ようと思っていた『ハーモニー』は行かずじまいで、
虐殺器官』にいたっては、公開延期になってしまった。
でもまぁやっぱ気になって、今作を見た次第。

今作は、ノイタミナ(フジテレビの深夜アニメ枠)の映画プロジェクトの第二弾、
伊藤計劃 三部作」の一作として企画されたものである。
屍者の帝国」「「虐殺器官」「ハーモニー」の順で2015年10月から11月にかけて公開される予定だった。
「屍者」と「ハーモニー」は無事予定通り公開されたが、
虐殺器官」は公開されなかった。
というのも、
制作会社であるmanglobe・・・割と大手のアニメ会社だった、が倒産してしまい、
今作のみが公開中止。
予定も未定。
そこて今作の制作のためにチーフプロデューサーがアニメ制作会社・ジェノスタジオを作り
製作途中の残りの部分を制作し完成品に仕立てた。
公開は・・・本来の予定日から約1年3カ月後の2017年2月。
完成し公開したことが奇跡、という
なんか背景がアツい映画なのである。

そんな今作は、
原作既読者から言わせてみれば、
割と良作であると思う。
低予算ながらも制作側の作品愛が感じられる。

ストーリーは・・・よくまとまっていた。
原作が400ページ弱あり、字はぎっしり。
そこには密な戦闘描写であったり、遊びが効く洒落た会話文芸の引用主人公の独白(母親への悔恨)・・・等色々書かれていてとても濃い内容・・・なんだけれども、
その雑多な内容をバランスよく2時間弱にまとめている。

作品を通した筆者の主張に無関係なところを、ばっさりばっさり切っている。
戦闘描写には力をいれる一方で、会話や文芸は最低限に絞られている。
けれど最後を文芸の引用で締めることで存在感を有耶無耶にしない。
バランス感覚がいい切断。
特に原作冒頭にある母親への独白を大胆にカットしたのは驚いた。
あと・・・・アレックスがあっけなく死んだのも。梶さんをここで切る勇気すげー。
でも原作の根幹である「なぜ人は虐殺するのか」という
筆者の答を貫いていたので、不自然さはそこまで感じない。

ただ、その分原作を読んでいない人には内容は難解ではないか、と思う。
戦闘描写は映像で迫力を伝えられても、
会話・文芸・独白は音声でキャラクターがそれぞれ交わすだけ。
しかも一度聞いて見たただけでは理解が追いつかないような、ユニークで教養あるものが多い。
けれどそれらを聞き流していては、話がわからないままどんどん進む・・・400ページを2時間弱で消費するスピードで。
原作を要約し、非常にわかりやすく変換されているけれども、
まぁしゃーない。一度聞いただけでは理解がおいつかないような内容が多い。
「つまんなーい」と投げ出す危険性があるならば、一度原作を読むことを強く薦める。
あくまで原作既読者・原作ファン向けの映画ということだ。


原作小説。

演出も凝っていた。
本作は・・前述した過程もあって、いわゆる妥協せざるを得なかった作品である。
だがその逆境を乗り越えるような、演出が良い。

例えば、冒頭。
今作は「言語」がキーワードである。
そのキーワードをわかりやすくクールに提示するのが見事。
あー、あと初めの方のタイトルの出し方も超よかった。

他には中盤に出てくるチェコの街中の描写、とか。
地下鉄やその地下鉄が走るトンネル
手をかざすと観光案内をしてくれる金属板
けれど質素なルツィアのアパート等、
近未来+現在+モダン感がうまく混ざり合ってて、よい。
というか、小説の時に頑張って想像していたチェコが映像で見れて、感動した。

チェコにある違法のバーの、穴がでてくるホログラムも良かったな。
踊る若者の自由を引き換えに失ったものが暗示されてて・・そしてもう一度出てくるとは思わなんだ。
あと終盤に出てくる「棺桶」と呼ばれる戦闘機が出るタイミング。
原作では冒頭から出てくるが、
映画では初めはでてこない。
もし初回から出してしまえば、3回ある戦闘シーンに変化がでない。
2回目3回目も似通ってしまう。
1回目を思い切ってトラックの描写に絞ったのは正解だったろう。

バッサリ切ったストーリーと裏腹に、
原作の世界をそのまま再現するかのような演出が、良かった。
むしろここを凝っていなかったら、今作は凡作・・・どころか駄作にもなりえただろう。
まぁ・・・強いて言うなら最後の最後のシーンもっとわかりやすくしてほしかったなーと思ったけど。
ただアメリカで演説しとるだけやんけ。

声優のキャスティングも、当たりかな。
主人公・クラヴィスは、中村悠一さんが演じる。
凛々しい声でクールでだけど主人公感あって・・・良かったけれど、
強いて言うならば、クライマックスで脳波が乱れた後の演技はもっと絶叫してもよかったんじゃないかなって思う。
元々そういう設定だから仕方ないが、ちょっと淡々としていた印象。
敵・ジョン・ポール役は櫻井孝宏さんが演じる。
「うわー、カラ松とおそ松やんけ」と思うが、まぁ今回はおそ松よりはサイコパスの槙島に近い。
けれど槙島のようにすべて激情するのではなく、
地声に少し近づけ、淡々と自らの研究成果を言う演技は良かったな。
原作を読み、ポールの考えを理解したうえで演じているのが伝わった。
あと・・・やっぱ櫻井さんはうさんくさい役が一番ぐっとくるね。

ヒロイン・ルツィアは小林沙苗さんが演じる。
吹き替え・アニメ両方で活躍する実力派である。ちょくちょく名前を拝見する。
僕の中ではハピネスチャージプリキュア!キュアテンダーの印象が強かったが、
本作はまた違った役柄。
チェコ人の美しいヒロイン。
だけどある程度年齢は重ねていて、教養もあり、知的。
そういった彼女の魅力を自然に演じられており、なんか感動した。
初めてルツィアが声聞いたとき、その美しさにビビった。
断言しよう。
ルツィアだけは、小説より映画の方が何万倍も美人。

後本作でぐっときたのは、九ラヴィスの戦友にして悪友・ウィリアム演じる三上哲さんの演技。
彼は俳優と兼業していて、ローゼンメイデンシリーズラプラスの魔21世紀初頭最大の神アニメ・サムライフラメンコうさんくさいプロデューサーを演じている。
乾いた、アニメというよりは吹き替えに近いような声質が今回ぴったりフィットしている。
特に、洒落たジョークを言う時の声ときたら・・・もうまぁたまんない。
自然で大げさでなくナチュラに、クラヴィスをからかうのだ。
けれど決めるところはクール。
んにああああああああ!!かああああっこおおおいいいいいいいいい!!っっっっ!!!!
所謂イケメンキャラではないんですが・・・。
声自体はクセあるけど所謂イケメンボイス・・・ではないんですが・・・。
途中の戦争虐殺ウンヌンカンヌンがわからなくとも、
ウィリアムとクラヴィスのジョークの掛け合いは是非おさえて楽しんでほしい。
三上哲さんの声は・・・割とアニメ映画に需要あると思うんだけどなぁ。どうなんだろ。事務所弱小だからなぁ・・・。

以上である。
ストーリーはうまくまとまっていて、
演出が素晴らしかった。
特に、小説で読んだ世界がそのまま映像で現れて感動。
声優も割と良い。
突出して「傑作!!」と言えるような部分は・・・まぁ、ないけど、
でも良作であるのは確か。
ピザを食べながら見て、
不満を口にする人原作ファンはあまりいないだろう。
むしろ
「よく映像してくれた!虐殺器官の世界を!!」
と思う人の方が多いんじゃないかな。
ピザ放り投げて拍手喝采


小説、僕はこっちのが好き。

ちなみに、僕は終始集中して一気見した。
ピザ食べる暇などなかった。
原作好き・・・ってのもあるんだけど脚本(ストーリー)・演出・キャスティング・演技総じてレベルが高かった証拠。

ただまぁ・・・あの分厚い作品を2時間弱である。
まして一社つぶれているのである。
過度な期待はしてはならない。
壮大な原作へのPV見るぞ、くらいの意気込みのがいいのかもしれない。
そうした方が、期待以上の出来に、視聴後興奮できるはずだ。

ちなみに、ジェノスタジオは今作がきっかけでできた会社である。
(社名のジェノは、虐殺器官の英訳Genocidal Organからとってgeno studio)
2017年は2月公開の本作以降作品はなかったが、
2018年はすでに2作作っている。
刻刻ゴールデンカムイである。
刻刻は1話だけ見た。
2話は録画できてなくてな・・・そこからな・・・・察してくれ。
でもまぁ、今作同様太い線で、
今作同様大胆な演出・実力派のキャスティング(主演;安済知佳が目を引いた。
ゴールデンカムイは・・・まぁその1話から録画忘れてて・・・えええまぁその・・・。
でも線は2作品同様太い。
キャストも白石晴香うまるちゃんの切絵)で所謂高いきゅんきゅんした声の器用ではない。原作の雰囲気(読んでないけど)にのっとった、低い地声系の声優である。演技は・・・歌以外は良かった。歌以外は。アイマス出てるけど。
大人気漫画のアニメ化だが、評判も悪くないと聞く。

「太い線で、質の高いアニメを作る」のが、この会社の特徴といっても良いだろう。

また、こういった特徴が強く出る会社はシャフト・京アニ動画工房(薄れつつあるが)以来なかなかなかった気がする。

円盤の売り上げ等が厳しいのはわかっているけれども、
近年質の低いアニメが量産される中で、
バランスを取りながら良作を生み出し続けていってほしい・・・と切に願う。