小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

中野京子『怖い絵』-西洋美術沼の、入口-


西洋美術を多くの人に広めた第一人者。

中野京子『怖い絵』(朝日出版社 2010年)の話をさせて下さい。


ラ・トゥール「いかさま師」の女の顔が目を引く。

【概要】
数ある西洋絵画の中にも、
不気味なもの・恐怖を抱くもの・よく見ると違和感がするもの
がある。
それらの絵は何故怖いのか。
絵に塗り込められた恐怖を読み解く。

【感想】

ずっと前に新品で買った本で、
そういえば読み返したことなかったな、と思いまして。
シリーズ一気に再読しようと思い、
その1冊目、にあたるのが本作。


何気に1-3の背表紙の表紙が秀逸。
怖い 絵←怖い と 絵の間のスペース最高。


ちなみに本作はいわゆる「大ヒット」していて、
続編が3冊・文庫本が2冊出ているほか、
去年に行った「怖い絵展」大盛況。
僕も行ったんだけど・・・凄い数だったなぁ。お客さん。

改めて読むと、いやぁーやっぱりおもしろいですね。
文章がまずすごく読み易いんですよ。
絵画の説明、当時の画家の環境、作品に取り掛かった意図、そして画家の一生・・・
すらすら読めます。
中野先生の西洋美術に対する情熱がそうさせてるのでしょうか。
それともシンプルに文章力?
こんなに叙情的に且つ分かりやすい文章で絵画に触れてる本は他にないと思います。


企画展の画集。
中野先生が直接書いている作品も。
比較的ほかの企画展と比べて文章も読み易い。


本作には20点挙げられています。(シリーズ単行本はどれも同じ数です)
一作品につき文章は10〜15ページの間。
なので本をふだん読まない人でもサクサク読み進められます。
イメージとしては湊かなえ先生の小説を読んでいる感覚に近いかな。
購入を検討している人は1作品サクサクっと読んで考えることをお勧めします。
合ったら、極上の読書体験があることを約束しましょう。
合わなかったら・・・まぁ、うん。

特に僕の心をぎゅんっ!!穿ったのは以下の4作品。

作品5 ブロンツィーノ「愛の寓意」
まず作品のインパクが凄かったです。
本作でこの作品を知ったのですが・・・衝撃でした。
作品にちらばる様々なモチーフを本書では丁寧に説明してくれてるのですが・・・
それでも見ていてなんか不安。

作品7 ルドン「キュプクロス」
この作品は時々ネットに出回ってますね。
でもなぜこんな絵を描くに至ったのか、
中野先生の解説になるほどーと思いました(語彙力)。
ただ初めて読んだとき、ついつい気になって
静岡市美術館で行われた「ルドン展」行ったんですよ。
黒の時代と呼ばれる黒い版画から・・・晩年の苦悩から解放されたかのような色彩豊かな作品は見ていて面白かったです。
特に花の絵と、岩の絵が綺麗だったなぁ。
岩のあの桃色は今でも忘れられない。


ルドン展の画集。
紙で包まれていて、取り出すとルドンの色彩豊かな絵が表紙。
変ったブックデザインが素敵。


作品9 ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
むっちゃ怖い!!って思った覚えがあります。
本作「怖い絵」ヒットに伴って、NHKだかで番組が放映されたんですよ。
で、高校時代の僕は見たわけですが・・・「うわーっ!!!」てなりました。
なんだこりゃっ!!って。
こっわっっっ!!!って。
解説部分を読んで、聴力を失ってから描いた絵と知るのですが・・・それでもちょっといやまじで怖い。
あとゴヤってよく聞くのですが、こういう一生追ってたんだなーって。
ちょっとそこも勉強になりました。

作品14 ダヴィッド「マリー・アントワネットの最期の肖像」
僕は卒業論文、彼ダヴィッドについて書きました。
ナポレオンの絵・・・知ってます?そう。あれを描いたのがジャック・ルイ・ダヴィッドです。
ただ革命期、はじめは王朝画家だったのがやがて革命を起こす貧民側(ジャコバン派)にまわり、
革命が失敗に終わるとすぐナポレオン側についたという・・・。
一見ひどい!!と思いますよね?
でも僕はあんま思わないわけです。
彼の絵画には男性をメインに据えたものが多いです。
しかもピエタを真似たり、ロバを白馬に変えたりと、英雄化して描かれています。
時代のヒーローを描くこと、それを彼は第一に求めてたんじゃないか。
って思うんです。
まぁあんまうまくいかなかったけど。

で、なんでこんなテーマにしたのか・・・というと、
思い出しました。
本作『怖い絵』で中野先生はダヴィッドを「恥を知らない」(p.171)と書き捨てたから。
まぁ・・・大学四年の時にはそんなこと記憶のかなた向こうだったけど。
でも中野先生も『怖い絵』を書き始めたのはこの作品がきっかけ(pp.6-7)とのことです。
たった一枚のスケッチなのにその影響力の大きさたるや。
うーむ。怖い。



以上です。
怖い絵を短く叙情的に説明していて、読み易いです。
一生やモチーフを解説して「読む」見方を、一般人にもわかりやすく説明してくれています。
各読者、必ず心に刺さる作品があるはずです。
そんな感じ。

ちなみに本作は僕が初めて購入した美術関連の書籍になります。
この本でなかったら僕は高校時代から今まで、
西洋絵画に対する関心を持ち続けられなかったように思います。
そういった意味でも本作は、
西洋絵画に関心がある・・・けれども何から読んだら分からない。
西洋美術初心者強く薦めたいです。