小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

池井戸潤『空飛ぶタイヤ』-タイヤは現実を穿つ-


タイヤは、
外れて、
空飛んで、
上空で、弧を描き・・・・

現実に、落下する。

強打。

池井戸潤空飛ぶタイヤ実業之日本社 2016年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
赤松運送が所持するトラックのタイヤが、
走行中いきなり空を飛んだ。
タイヤは歩道を歩行していた子を連れた母親にあたり、尊い命を奪った。

赤松運送の社長・赤松徳郎は自社の整備を調べるが、
どうやら自社の整備には問題がないようだ。
ならば原因となったパーツ「ハブ」を返却してもらおうと
トラックの製造会社であるホープ自動車にけしかけるのだが・・・。

一方ホープ自動車販売部カスタマー戦略課課長・沢田悠太
自社の「整備不良」をホープになすりつける
クレーマーに近いp.74赤松運送に苛立っていた。
たしかに不幸な事故ではあるが、わがホープ自動車には何ら関係のないことだ。p.74

しかし、

【読むべき人】
・読書中級者、上級者 活字慣れしてない人には正直薦められない。
サラリーマン
・勇気づけられたい人
・情熱。その言葉を忘れかけている人。

【感想】
本書は作品だけで計826ページ。
登場人物数はゆうに50を越える。
厚かった・・・しぬかと思った。

本作は、
中小の運送会社社長である赤松と、
顧客対応担当の沢田を筆頭とする元財閥の大企業・ホープ自動車との
戦いを描いた作品である。
自らの信じた正義のために
元財閥の大企業を相手に戦う
ある意味、現代社会の戦記。
実際の事件を題材にしている。
検索すればすぐに出てくるので、興味ある人は調べるといい。
確かに、あの会社の車見なくなったな。

これほどまでに、
働く男を熱く描く人を僕は知らない。
不正や思惑、プライド等がもやもや混ざり合う大企業に
自らの正義を振りかざして戦っていく赤松の姿は読んでて
心地よい。
共感する。
彼が怒るときは読者も怒り、彼が泣くときは読者も泣く。
一方のホープ自動車の一社員である沢田
初めは中小企業をコケに扱う嫌な奴にすぎないが、
そのうち大企業に勤める者としてのプライド
自動車業界へ入った際のきっかけ
そして後半になるにつれて描かれる葛藤
中小企業の社長、大企業の管理職
別の道を歩む二人の男の人生が、800ページに込められている。

周りの人物も熱い
ホープ自動車に猜疑心を抱く東京ホープ銀行・ホープ自動車担当窓口・井崎
初めは疑いこそすれど真相を掴むために奔走する刑事・高幡
ノートパソコンをこっそり渡したホープ自動車品質保証部・杉本
スクープのために真相を追い求め奔走する週刊誌記者・榎本
濡れ衣を着せられ同級生に最後感情爆発させた息子・拓郎
そして愛する妻を事故により失った被害者の夫・柚木
登場人物全員が、自らの信念に熱いのだ。
揺るがない、突っ走る、駆ける、爆発する。
うまくいかなくても、転んでも、失敗する可能性が高くとも戦う。
大企業がなんだコンプライアンスがなんだ世間がなんだ、
それぞれ置かれた状況で全員が自分の信じるものに正面から立ち向かう。
その熱さに僕等読者は魅了される。
怒り、泣き、興奮する。



特に僕が「くぁーっ」となったのはこのシーン。
赤松が謝罪に来たホープ自動車幹部に言い放つ。
ホープだから、許してやろうなんて考えてる消費者はほとんどいない。
赦されると思ってるのはあんたたちだけなんだよ
p.804

くぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!
もうこの行読んだときちょっと涙ぐんじゃったよね。
嘘。泣いちゃったよね。
ここまでくるのに赤松は本当戦って戦って戦って・・・そしてここに至るわけですよ。
それまでの彼の闘争の日々を思うともうね。
堪えられない。

実際の事件はどうだったか。
やはり小説のようにうまくいかない。
死者は2人出ている。後味も悪い。
加えてモデルとなった会社は一昨年にも、軽自動車での不正を隠していたことが明らかになっている。

恐らく筆者は、
この事件を風化させないように、
忘れさせないように、
モデルとなった会社・そして世間に警鐘を鳴らすために、
今作を800ページ超えるエンタメ小説として世に出したんだろう。
終盤赤松の弁護士小諸の言葉。
「これが小説なら、保証金をなげうってでも法廷で勝利を勝ち取るっで筋書きになるんでしょう」p.806
実際にすべてがスカッとする結末は迎えていない。
納得のいかないモヤは少し残っている。
そりゃそうだ。
筆者にとって、これは小説ではない。
現代社会に穿つタイヤだ。

空飛ぶタイヤは、弧を描き、現実に強打。
ドラマ化され、映画化されこの物語は繰り返される。
忘れるな。



以上である。
800ページこえる小説は厚かった。
作中の登場人物の情熱も熱かった。
熱い作品である。
(中略)
そしてまた厚い作品である。
p.828 村上貴史による解説より


そしてその熱さと厚さに、
読者は震え、
勇気づけられる。

また池井戸先生の作品読みたいなぁ。