小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

中山昌亮『不安の種1-3』-21世紀の、現代社会人のバイブル-


ホラーは瞬発力が大事だと思うですよ。

中山昌亮『不安の種1-3』(秋田書店 2004-2005年)の話をさせて下さい。


表情豊か

【あらすじ】
会社、学校、帰り道、家の中、背後。
『現象』はいたるところで起きている。
現代日本を舞台にした超短編ホラーオムニバス。

【読むべき人】

ホラーが好きな人
・仕事して帰って寝て・・・日常に忙しい人
ストレス抱えている人

【感想】
超短編オムニバスホラーである。
物語性は必要最低限削られていて、
不可解な現象が起きるシーンのみにフォーカスして練られている超短編
2分足らずで「ぞっ」となる
なので一冊読むと「ぞっ」「ぞっ」「ぞっ」「ぞっ」となる。


いち

内容は非常にホラー映画に近い。
最後の1ページでいわゆる「ばぁっ!!」ページになるんだけれども、1編1編ページ数が違うのでどこで「ばぁっ!!」「わぁっ!!」するのか予測不能
そこが映画と似ている。
観客の予想の裏をかいて怖がらせるという手法が。
いや・・・映画より優れているのかもしれない。
映画の場合、「ばぁっ!!」に至るまでのスピードや間合いは、監督から観客に強制するものにならざるを得ない。映画は一方的なメディア。
しかし漫画の今作は「ばぁっ!!」に至るまでのスピードや度合いは、観客(読者)が好きなように調整できる。本は相互的なメディア。
映画は監督から観客へ強制せざるをえないが、漫画では観客(読者)に決定権がある。
観客(読者)が主体的に恐怖を味わえる、という点で、
ある意味今作は映画より優れたホラーなのかもしれない。




漫画力も高い。

背景視点演出、どれも目を見張るものがある。
背景。
住宅街やアパートの部屋等誰もが見たことあるような場所が丁寧に描かれているので、
恐怖に伴うリアル感が半端ない。
どの話においても歪むことなく、違和感匂わせることないのは素晴らしい。
視点。
「ばぁっ!!」の衝撃を高めるために視点の動かし方距離感の取り方が巧み。
1巻「#7 のぞき」「#18 けんけん」等が顕著。
演出。
「ばぁっ!!」が出てくるまでのゆっくりな間合いを表現するために、似たシーンを重ねたり、登場する際の衝撃を高めるため2ページまるまる使ったり多彩。
間合いのすぐれている作品では1巻「#11 バイバイ」3巻「Ω9 初体験」等が挙げられる。
2ページ使ったコマ割りの例では2巻「♭3 空席?」等。



ちなみに僕が特に印象に残ったのが以下の4編。
1巻「#24 メッセージ」
予想外のラストにやられた。妹の表情で表現をしているところがぐっときた。
2巻「♭5 スイム」
恐怖だけではなくどこか悲しさや儚さ、そしてそれらをずっとりと重み持って包む謎が良い。どことなく重い時間が読者の心の最下層にたまる。
あと何となくSEKAI NO OWARIの「マーメイドラプソディー」思い出した。
2巻「♭14 目撃」
表情が目に焼き付いて忘れられない。
今作で一番怖かった。
3巻「Ω8 僕のちから」
誰もがいつ味わってもおかしくない、絶望的なその恐怖に痺れる。
最後の一言のもたらす深淵がじっとりとこびりついて、今作で一番後味が尾を引いた。


さん

以上である。
超短編ホラーオムニバスであるが、
「主体的にホラーを楽しめる」点で映画より良いと思った。
漫画力も非常に高い。
誰にでもおススメできる。
そんな感じ。


続編もほしいな。

あとこれは僕の個人的所見なのだが、
こういう超短い時間で「ぞっ」とできる体験は一種のストレス発散に繋がる気がする。
なんかその最後の「ばぁっ!!」の瞬間に
日々の積りに積もった鬱憤がどこか持ってかれるような気がするんだよな。
で、読み終わったときに「ひぇええ・・怖いよう」となり明日への不安などどこかに消え去っているという・・・。
まぁあくまで全部「きがする」範疇の話なんだけれども。
ストレス社会に生きる現代人の心を救うバイブルなのかもしれない。
明日の「不安の種」なんて恐怖でぶっとばせ、的な。

また一方で、
こういう超短編ホラーはどうも受け入れられないという人がいるのも事実。
是非一度1編試し読みをしてから購入することを薦める。
「は?」となったらそのまま本棚に戻せばいい。
ぞっとしてつい後ろを振り返りたくなったらそのままレジに直行しよう。
今まで味わったことのない恐怖が君の心をつかんで離さないはず。

 

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20200603 記事を一部加筆修正しました。

こんなにマジメにブログ書いてたのか・・・えらいな。