小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

越谷オサム『陽だまりの彼女』-現代日本版ほのぼのいちゃいちゃパラダイス-


僕は犬派なんですけどね。

越谷オサム陽だまりの彼女』(新潮社 2011年 本編:335ページ)の話をさせて下さい。


何気にこの表紙デザインも優秀だと思う。
覚えやすいし適度に可愛い。

【あらすじ】
広告会社に勤める僕・奥野浩介は、取引先との打ち合わせで渡来眞緒と再会する。
彼女は中学の同級生。極端に頭が悪く、マイペース。
そして僕の初恋の相手だったーーー。
後に二人は駆け落ち同然で結婚するが・・・・陽だまりのラスト。

【読むべき人】
・読書初心者、読み易い文章を好む人
・「ほっこり」した恋愛ものを読みたい人
いちゃいちゃを読みたい人
・少女漫画が好きな人
・猫派

【感想】
そういえば読んだことがないなと思い、手に取った。
あらすじはネタバレのところまで友達の誰かから聞いた覚えがあるし、
wikipediaで全部読んだこともある。
ちなみにwikiのは、最後までありありと書いちゃっているんだけど分かりやすくバランスよく正しい日本語で書かれている名文なので、
ネタバレから読みたいひとはまずそこから読むといいのかもしれない。

本題。
これはヒットするな、と思った。
まず文章がとにかく読み易い。
けれども某山田先生のように変な日本語ではなく、きちんとした日本語で書いている。
作者の文章力は意外と高いんではないかな。
不自然な日本語が一切ない。
ジャンルは違うが、感覚はちょっと伊坂幸太郎の小説に似てる・・・かもしれない。
そして最後が誰も読んだことのないラスト。
非常にファンタジー色強い、
正直友達から話を聞いたときにドン引きしたようなラストではあるんだけれども、
確かな筆致でそこまで運んでいくものだから、なんか自然。
受け入れられる。
良かったね、って自然となる。
だから、万一ネタバレを先に読んで嫌悪感抱いている人がいたら、まず読んでほしい。
いやいや、なんか本当「良かったね」とその結末を受け入れる自分に驚くはず。



今作はほぼほぼずっといちゃいちゃで構成されている。
でもなぜか「いやーきついっす」とはならない。
考えるに、要因は二つ。
一つ目。描写がしつこくない。
恋愛小説、というと大抵女性目線で自らの恋慕を情熱的に描くものが多いが今作は違う。
さわやか。なんかさわやかなのである。
短く、男性目線だからかもしれない。
例えばp.269突如故郷の公園に真緒につれられた時の浩介の心中描写。
「一枚また一枚と、黄色い羽のように降る銀杏の葉の中で、真緒はおかしそうに微笑む。その表情にぎこちなさを感zてしまうのは、僕の思い過ごしだろうか」
女性作家であれば
「一枚また一枚と、黄色い羽のように降る銀杏の葉の中で、真緒はおかしそうに微笑む。その笑顔を見た途端、僕の胸はきりきりと、痛んだ。
どこかぎこちなく見える。
瞬きをした瞬間、銀杏の鮮やかな黄が僕の目の裏で弾けて、その花火のような不安に僕は思わず再び目を閉じた。」

みたいな、描写をしがちだと思うんだな。偏見だが。
でもそれを端的に「その表情にぎこちなさを感じてしまうのは、僕の思い過ごしだろうか」で済ましている。
描写がまどろっこしくない。端的。
まぁそういうまどろっこっしさを楽しみに読む小説もあるのだけれども今作は違う。
さわやかな文体だからいちゃいちゃが嫌味に読めないんじゃないかなぁ。
よく読めば前半「一枚また一枚と、黄色い羽のように降る銀杏の葉の中」という描写も端的でとてもいい感じ。

二つ目。会話がリアル。
p.182浩介が真緒に肩に指圧をかけるシーン。(一部省略)
「今度は、2センチ刻みで押してって。ちょっと軽めに」
「ブラの所はどうする?」
「そこは飛ばしていいや」
「へい」

自然。リアルなのである。
なんかそこらへんのアベックがしてそうな会話が多く含まれている。
他。p.133。引っ越し先のマンションでのお姫様抱っこを隣の一家に見られた後の真緒のセリフ。
「うっわー、見られたー。恥ずかしかったー。やっぱりまだお姫様抱っこは市民権得てなかったー。どうしようあの人、私たちのことバカ夫婦だと思ってるよ。」
リアル。「市民権得る」とかいうちょっとおもしろいギャグを挟んでいるところが最高にリアル。
なんかそこらへんのアベックが口ずさんでそうな会話ばかりなんだよな。
こういうしょーもない冗談を交えてさりげない会話を延々交わすとかいう、
誰もが抱くリアルなアベックへの憧れを
丁寧に分かりやすく描いているから今作は人気なんじゃないかなーと僕は思う。
あと多分この奥田君、中央大学卒業なんですよね。八王子のはずれにあるMARCH。
真緒就職先の「ララ・オロール」の大手ではないけれども近年独特の可愛いデザインでめきめき力を上げてきている設定。
詳細まで行き渡るリアルさも、いいよねー。

ちなみに僕が一番すきな「いちゃいちゃ」はここだ。(一部省略)
p.139「でね、二匹いる赤のうち、でっかいのがマイクでちっちゃいのがアル。赤白まだらの三匹はきっと兄弟だと思う。このうちに引きはデニスとカール。で、仲間から離れて一人でのっそり泳いでいるこいつが、ブライアン。五匹そろってザ・ビーチ・ボーイズ
「・・・・・はあ」

いいなー。
僕もペットに意味不明な名前つけて呆れられたい。

以上である。
終始イチャイチャ小説だったけど、
なんかリアルで許せました。
あと文章読み易い感じも良かったです。
そりゃ「女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1」(本作につけられて話題を呼び、ベストセラーへと導いたコピー)になるわなと思う。
誰もが憧れるいちゃいちゃが詰まっている。


はえびすが好きかな。

ちなみに作者の越谷オサムさんは現在47歳。
未婚。
性別不詳であるが・・・多分男だよね。
え。
40超えの独身おじさんがこんないちゃいちゃ小説を書いたの・・・・きっ(ry
あと作品が2016年で途絶えている。
とっとと書いてまた日本全国の女子を悶々と悶えさせ続けてほしいのだけれども。
50も近いと難しいのかなーとか思ったり。