小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

村上龍『五分後の世界』-地上も地下も変わらぬ。生きねば-



生き残ってみせろ。

村上龍五分後の世界』(幻冬舎 1997年 本編:293ページ)の話をさせて下さい。


よく見ると宗教画が描かれている表紙。

【あらすじ】
ランニングをしていた、はずだった。
気がつくと小田桐は暗いぬかるみの中を一列に、混血の男達と歩いている。
そこは未だ戦争し続け、地下中心に展開する
もうひとつの日本『アンダーグラウンドだった。

【読むべき人】
現代社会にストレスを抱えてる人
・濃厚な、崖を上るような固いエンタメ小説を欲している人
読書中級者以上、上級者がもっとも望ましいと思われる

【感想】
村上龍
そういえば春樹は2冊読んだことあるけど、
龍ちゃんは読んだことないわな
なんか青い小説書いてたイメージあるけどどんな文章書くんやろ。
と思って手に取った。
結果、いやぁ、めっちゃ時間かかってしまった。
まず文字数が半端ない。
1ページにみっちり文字が並んでいる。
通常僕は約10分=10ページの速さで読むのだけれども、
今回は10分=5ページ。時間かかってしまったぜ。
また事実を淡々と述べるような独特な文体であるので、慣れるにも時間がかかる。
僕も初めの60ページほどは慣れなかった。
でもその不慣れを吹き飛ばすような戦闘描写(第4章 戦闘)に圧巻し、
もうそのあとは止まらない。止められない。
初心者にはとても薦められないが、
中級者以上であるならば絶対読んで損はない。
読みづらいが、止められない。
この感覚を味わってほしい。



本編であるが、タイトルが「世界」で終わってるだけあって、
根幹をなすストーリーは極限までシンプルにする一方で
突如現れたパラレルワールドの描写にも重きを置いている。
「第5章 アンダーグラウンド」では、
街並みや国の描写だけではなく
中学生の教科書(pp.133-146)
ファミレスでの家族の会話(p.158)
独自性のある音楽、中学生の会話、スポーツの現況、家庭等等
その世界での道徳・価値観を明確に提示する様は見事。
終盤の命散らす兵士達の悲哀と、幾分かの美しさがより引き立っている。
何故アンダーグラウンドの兵士が強いのか。
受けて来た教育を教科書という形で明示しているため実感もって理解できる。
そして、打たれる。
生きること。
を、最上位に置くアンダーグラウンドのシンプルな価値観に。
命のため銃やライフルの弾を撃ち続ける
非常に有機的で生命的、
同時に無機的で機械的な、その姿に。

単純な世界に、僕は惹かれた。
序盤、戦争が続く世界なんて怖いし絶対いきたくないし、
このおっさん(小田桐)、かわいそー!でもこのおっさんもそれなりに悪いことしてるみたいだしなあ・・・

とか思っていた。
けれど世界観を徹底的に描いた「第5章 アンダーグラウンド」とその後に続く戦争描写を読み、
シンプルさに憧れ、
今僕に降りかかる数々の問題と、
それに悩まされる僕がちっぽけに思えた。

就職をどうするのかとか就職しても仕事を続けていけるのだろうかとかこの先結婚できるのかとか結婚できたとしてもそのあとは仕事を続けられるのかとか友達の家にイヤリングを忘れてしまったことだとか割と高かったのにラインで「捨てる」といわれて滅茶苦茶実は今むかついていることだとかなんかもうすべてがちっぽけ。
生きる。
それを前提にすべてを考えなければならない。
元来夢見がちな性格だから
就職するときも「××な仕事がいい」と極度に絞っては落ちてへこみ、
恋愛は「運命」だとかいう言葉のロマンスに踊らされがち。
だけどまず「生きる=お金を稼ぎ続ける」ことを前提に考えなければならないし、
趣味の範囲から夢を目指し続けるような根強さがなければ、
僕の夢は延々叶わないのではないか。

恋愛だって知らないけど、
とりあえず「就職」という目の前の問題に取組むうちに芽生えるものなんじゃないの。
「生きる」ことを前提にして目の前にある障害に全力で立ち向かい続けた末に、
未来が拓けるんじゃないの。

そういう意味では、アンダーグラウンドと似てるかもしれない。
直接的な死の危機がない僕の問題はちっぽけでふわふわしたような問題だけれども。
ああ、だから僕はアンダーグラウンドで戦う兵士を「美しい」と思ったんだろうな。
彼等は目の前の生死に全力で挑み戦っているのだから。
最後。小田桐は「時計を5分薦めた」(p.293)が、
僕も万一5分後の世界に飛翔しちゃったら、
そこに馴染んでしまうのかもしれない。




以上である。
全体的に文字数多くて難しいけど、おもしろかった。
特に世界観の詳細な描写がよかった。
またライフルをもち全力で挑み続ける兵士達を読んで
僕の生き方を鑑みてしまった。
結果前向きになれる小説でした。
そんな感じ。
解説にあるような難解なことは何一つ読み取れていない感じがするが、
まぁしゃーない。
シンプルに現代社会にストレスを抱えている人は、
延々続く戦争描写にストレスを発散することができるんじゃないかな。
何もかもをぶっ飛ばすような残酷性。
読んでいてどこか爽快だし、今の自分の何たるちっぽけさ。



ちなみに。
本書は幻冬舎から出ているわけなんだけれども
幻冬舎×村上龍といったらあれである。あれ。
13歳のハローワーク』(幻冬舎 2003年)
学校の図書室に会って、何度も何度も呼んだなぁ。
後ろの方に「エロが好き」だの「戦争が好き」「ナイフが好き」だのいろいろあって
そこを何度も読んだ記憶がある。

あと、幻冬舎って意外と「本の表紙リメイク」を全くやらないよね。
本作も1994年に出たまま、ずっとこの表紙だもん。
ヒットにしがみつくような出版社っていうイメージがあるからなんかそこが意外。
なんでだろうね。
他社がやっていることはもうやらないとかいう社長の熱いプライドがあんのかな。
あと今作の編集はどうやらその社長のようです。
道理でなんか熱いなと思いました。(こなみ)