小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

西加奈子『白いしるし』-身が爆ぜるような恋愛を-

恋愛は、爆発だ。

西加奈子『白いしるし』(新潮社 2013年)の話をさせて下さい。



【あらすじ】
バイトで食い扶持を繋ぎながら絵を描き続ける32歳の女・夏目。
訪れたギャラリーで見た、白い富士山の絵。
その絵の作者『間島昭史』を見た瞬間心が、掴まれた。
全身爆発するような激しい恋愛終始。

【読むべき人】
・アート、歌、なんでも、芸術をたしなむ人。作る人。
・恋にのめりこむ人
・失恋した人

【感想】
190ページほどのさらりとよめる恋愛小説である。
ペンタゴンというヴィジュアル系バンドのゆとり君が、
新幹線のお供とSNSに写真を上げていたので僕も惹かれて買ってみた。
なるほどな、これはバンドマンが読むべき本だわ。
そして激しく恋にのめりこむ人も。
ぱたんと本を閉じしみじみ思った。

今作は激しい恋愛の在り方を書いた作品である
前半は夏目と『間島昭史』の恋愛。
恋する女の心理描写の機微が見事。
p.38の『間島昭史』が夏目の隣に座るシーン。
隣に座れるだけでそう、女の心はきゅんきゅんしてしまうのだ。
相手が何も考えていようかいなかろうが、
隣・向かい・斜め向かいで3つですべての命運が決まる。
まさしく「背筋が、きゅう、と甘えた音」をたて、
相手の些細な動作に注目するいやしてしまう。
相手の口に触れる飲み物ーーーコーラが特別な飲み物へと変わってしまう。
心の中で勝手に相手を
『』をつけて100%の存在にしたてあげ、
自分の中で完成した相手100%との出会いを運命という言葉に陥れてしまう。p.47
彼を勝手に理想化して、彼との出会いを「運命」とすぐ決めつけてしまう。
そしてひたすらのめりこむ。
女は「運命」という言葉が好きだから。

多分前半読んで夏目に思い当たらない女はいないのではないか。
強かれ弱かれみんな『』のなかに相手を閉じ込め、
一つの恋に「運命」とやらを持ち出して
恋に恋してるにすぎないともしらずただひたすらにのめりこむ。

ああ。
僕も『×××』や『××××』を作って恋愛にのめりこんだ時期があったなぁ。
あまりにもリアルで
誰もが恋愛遍歴をふと振り返るような、
心をえぐられるような、
そんな前半。



だがしかし。
ここまでならまぁよくある恋愛小説である。
後半は違う。『間島昭史』はp,113を最後に出てこない。
では残り80ページ何が描かれるのか。
夏目の周囲の恋愛事情が、夏目視点によって描かれる。
ここで描かれている登場人物全員が、
恋愛にのめりこんで、場合によってはのめりこみのめりこみすぎて、病んでいたということがわかる。
全身が恋で爆発してしまいそうなそんな激しい恋愛ばかり。
前半で心が抉られた女諸君。
安心しろ。
みんな恋に身を爆ぜている。
爆ぜていなくても、その傷を巧妙に、巧妙に隠し生きている。
お前だけではない。
だから安心しろ。


複雑怪奇な、恋愛迷路の描写から一転。
最後は爽快感溢れるエンドになっている。
かつて『間島昭史』が好んで口にしたコーラは、炭酸が抜けている。(p.182)
恋に身を爆ぜても生存は可能。



僕は思う。
普通なら多分前半の鬱屈とした恋の終始で終わっているのではないか。
しかしそこを最低限削り取り、後半は周囲の人の恋愛模様を描写している。
お前だけではない。
安心しろ。
そして最後の疾走感あふれる終わり。
大丈夫。
爆ぜてもなんとか生きていける。
とでも
元気づける言葉が筆者から聞こえてくるような展開。
僕は思い出す。
確かピースの又吉直樹西加奈子の何かしらの小説の帯に書いたコピー。
「僕らには西加奈子がいる」
本作を通じて西先生は、恋に身を爆ぜる要するに「恋に恋しちゃう」女性達を元気づけたかったのかもしれぬ。

強いて言うならば、今作はアートがたくさん出てくるのだけれど、
夏目のアートの印象が若干弱いのが欠点かなと思う。
どうしても「富士山」と、後半に出てくる「少女の絵」の印象が強い。
まぁ、別に主人公だからって絵を記憶に残す必要あるか言われると微妙なんだけれども。

以上である。
恋愛に身を爆ぜる女性達を描いた小説だった。
後半の展開が特にお気に入り。
こんな感じ。

ちなみに僕は西加奈子先生はもう一作持っている。


表紙絵も西先生が手掛けている。
西加奈子『炎上する君』(KADOKAWA 2012年)
短編集。
「太陽の上」と最後の「ある風船の落下」が特に好き。
内容は、ファンタジーでおとぎ話めいてはいるが
やはりなんか読んでいて元気づけられる。

よしもとばなな先生とはまたちょっと違うんだけれども、
またへこんだときはぜひ手にしたい女性作家のひとりである。