小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

吉本ばなな『キッチン』-あわい感情を、きらきらと、ふちどる。-


辛い時・疲れた時、僕はこの作家の本を読む。

吉本ばなな『キッチン』(新潮社 2002年)の話をさせて下さい。
※改名前なので苗字が漢字表記です。

朝焼けは案外暗かった。

【あらすじ】
唯一の家族であった祖母を亡くした大学生・桜井みかげは、
青年・田辺雄一と、強い魅力を持つ雄一の母・えり子の住む家に居候することになるが・・・
大好きな場所・キッチンから溢れだす優しさ・寂しさ・なつかしさ。
一つの癒しの物語。

【読むべき人】
・辛い人、疲れた人
・台所が好き、料理が好きな人
・誰かの死から、立ち直れない人

【感想】
よしもとばなな先生のデビュー作であることは知っており、
国語の教科書で代表作:『TSUGUMI』『キッチン』などの字面を見たことも覚えていたんだけれども、
読んだことはなかった。なんとなく。
でもある読書会で・・・よしもとばななハゴロモ』(新潮社 2006年)を紹介した時に、
「キッチンもおすすめですよ。デビュー作なんですけど」
と同年代の方に言われようやく手に取った。
結論。読んで良かった、薦めてくれてあざます、と思った。

本作は連作中編集であり、3編収録されている。
3編とも時系列が異なるが、テーマは一貫している。
「回復」。死からの回復が描かれている。
たまたまテーマが前読んだ『ハゴロモ』と似た感じであったけれども、
無職無職と自虐しながら慢性的幸福・・・同時の慢性的不幸に身を浸している僕には
しんしんと染み渡る小説であった。
僕は大好きこの作品。

一の大好き。ひとつひとつ輝くよしもと先生の繊細な言葉遣い。
例えば「甘やかな色の青空」(p.27)「きゅうりをぽりぽり食べながら」(p.29)「照れとか見栄を超えた、ひとつの病」(p.33)等等。
味覚を用いて表す色や、食感を刺激する効果音、ちょっとした心の動きを病とさらりと言ってのける語彙。
きらきらした言葉群が文全体にふんだんに散らばっている。星空のように、きらきらと。
だから、眩しい。
おもしろい楽しい以前に、眩しくて綺麗なのだ。
人間(特に女子)は、綺麗なものを見ると心が弾む。癒される。
読後感は・・・・ある意味その時の気持ちに似ているのだと思う。

二の大好き。断言しない心理描写。
今作は『ハゴロモ』同様回復の物語で、ゆっくりと・・・ゆっくりと癒されゆく主人公の気持ちが丁寧に丁寧に描かれている。
けれども「癒された」「元気になった」はおろか「もう、大丈夫。」や「確信した」といったような直接的な表現はあまりない。
本作では「大丈夫」の代わりに「ものすごいことのようにも思えるし、なんてことないことのようにも思えた。奇跡のようにも思えるし、あたりまえにも思えた。」(p.58)と書かれている。
人間の感情全てが喜怒哀楽に分類されるわけではない。また確信を持てるほど強いわけでもない。
カテゴライズさない、たくさんの淡い感情を抱いている。
「思う」だけ、「感じる」だけ。喜怒哀楽に分類されるほど大きくない。強くない
その感情が的確に言語化されているのがよしもと先生の文章なんだと思う。
だから誰もが共感するし、読んだ後にしんみりとした余韻が残る。
ちなみに、それらの淡い感情は男子というより女子の方が多く持っているものだと僕は勝手に思っている。
だから・・・井沢君曰く。今作の登場で「この世の女の子のマイナーが一気に花開いて、表に出て来ちゃった」(「そののちのこと」p.196)のではないか。

ちなみに。
僕が好きなのは2編目・・・「満月ーーーキッチン2」のp.126からのシーン。
みかげがI市へ向かうシーンである。
一度決心をすると、たくさんの後悔に苛まれることになるが、数センチでも前に進める。
特にp.131の最後の段落が好き。僕もそろそろ絶え間なく「決める」日々に戻らなくてはならない。


僕が持ってるしもと先生の作品
以上である。
ちなみに、『ハゴロモ』と『キッチン』どっちが好きかというと・・・・うーん。僅差で『ハゴロモ』かな。
境遇が今現在と似ているもので、どうしても。
後僕インスタントラーメン、好きなもので。