小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

清水潔『殺人犯はそこにいる-隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件-』-神話を疑え、怒れ-


喜怒哀楽。
喜、哀、楽を堪能できる文章は数あれど、怒・・・怒りを抱かせる文章なんてまず、ない。
ましてや事実ならば、尚更。

それなりにいろんな文章・・・・作品を読んで僕は、
例えば長年続いた少女漫画の結末で喜んだり、
捨て犬のドキュメンタリーの本を読んで哀れみを抱いたり、
めちゃくちゃおもしろいギャグ漫画を読んでげらげら笑って楽しんだり、
普段ころころ表情を変えてきたわけだけれども、
読んでてふつふつ怒りが湧く作品は久々だった。

清水潔『殺人犯はそこにいる-隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件-』(新潮社 2016年)の話をさせてください。



【あらすじ】
足利事件日本で最も有名な冤罪事件であり、菅家さん釈放の報道は日本全国を震撼させた。
では、その事件の真犯人は誰なのか。
そもそも、何故管家さんは冤罪を被ることになったのか。
記者・清水潔さんが記す真相。

【読むべき人】
・記者、警察、報道機関等のマスコミ、検察、弁護士、DNA鑑定士。
・もしくは、それらの職を志す人。
・日本国民 できれば読書中級者・上級者

【感想】
僕らは信じている。
誰かが誰かを✖せば、警察が来て事件を捜査し、ニュースになり、警察が犯人を血眼になって探して見つけニュースになり、裁判でそれ相応の罪が与えられるものだと。
警察は、正義に忠実な者だと。「絶対に悪は許さない!」と強い心に突き動かされて犯人を突き止める、平和と安全を守る強い者だと。
その根底を覆すのが本作。

例えば、DNA鑑定。
人間口からは何とでもいえるけれどもDNAはごまかせまい。よって鑑定結果=真実と僕ら一般ぴーぽーは思ってきたわけだけど、
本当にそうなのか。
DNAがいくら真実を語ろうが、その「鑑定」が雑だったらどうなる、人によって鑑定結果が違ったらどうなる。
そもそも「DNA鑑定」て何。DNA捕まえて顕微鏡で見るの?リトマス紙でも使うの?
pp.78-81で簡潔に短く書かれていて僕は「はえ〜」と思った。
そしてその「DNA鑑定」の結果をふまえての議論も、本書では細かく記録されている。
鑑定結果=真実ではない・・・・?
僕にはちょっと衝撃だった。

例えば、警察は真相を本当に追っているか。
今作では題名にもなっている「北関東連続幼女誘拐殺人事件」(「足利事件」)をはじめとし「免田事件」「桶川事件」「飯塚事件と多くの事件について事細かに記されている。
これらを読んで僕が抱いたのは、不信感。警察って本当に真相を追っているの?
「北関東連続幼女殺人事件」。その「連続」性が明らかになったのもかなり後のこと。本来「足利事件」をはじめとする5つの幼女誘拐事件半径10キロメートル圏内で起こっていたが、警察はそれぞれ単体で取り扱っていた、らしい。
理由は県境をまたいでいたから。それぞれの県警は自分の管轄・・・県単位でしか捜査していなかったらしい。
僕は、ドン引きした。真相よりも管轄の方が大事なのか。清水さんの訪問時の、当時捜査に当たっていた元刑事のおざなりな態度も腹立たしい。
更に「免田事件」「足利事件等の冤罪事件。
僕は、ドンドンドンドン引きした。
真相を追うために捜査をする。ところが読む限り、どうも警察は「真相ありき」で捜査をしている。
「犯人は誰か」ではなく「犯人は菅家さん」を結論に捜査している。
結論に沿って真相は造られている。巨乳のDVDがロリのDVDへと変えられ、徒歩だという証言は自転車へと変えられ、一人暮らしの小屋は怪しい隠れ家へと変えられる。
ありえないと思った。
僕はここに憤怒した。
しかも菅家さんが「犯人」に仕立て上げられたかというと、ちょっと怪しかったから程度。
じゃぁさ、これ日本国民全員が殺人犯に仕立て上げられる可能性があるんじゃん。
だから僕は本書を日本国民全員に読んでもらいたい。
500ページを超える、決して読みやすい文章とは言えない。本を読む習慣のない人なんてすぐに挫折すると思う。
それでも、挫折してでも読んでもらいたい。
僕等はいつだって犯人になりうる。
同時に、僕等一般ぴーぽーが抱く信頼が揺らぐ。
警察は本当に真相を追っているのか・・・?
「北関東連続幼女殺人事件」及び「飯塚事件」のように
警察は都合よく真相を造ってないか・・・?


本作はさわや書店で「文庫x」として売られ話題になり、
そのまま全国の本屋で発売され話題になりました。

以上である。
普段小説しか読まない僕にとって、本作読むのに約1カ月かかった。めっちゃかかった。大変だった。
けれども読んでよかった・・・素晴らしい本だった。断言できるし、これを「文庫エックス」として売り出したさわや書店フェザン店の文庫担当長江さんの気持ちも痛いほどわかった。
ちなみに長江さんもカバーで「この著者の生きざまにあなたは度肝を抜かれそして感動させられることでしょう」と書いているが、僕も揺さぶられた。
事件の真相を追うましてや真犯人を追うのは、そもそも記者の仕事か。警察の仕事じゃないのか。
でもここでふと思い出されたのは、都築響一『圏外編集者』・・・のこの言葉。
p.161「専門家の怠慢。これに尽きる。専門家が動いてくれたらこっちは読者でいられるのに。」
警察も怠慢貪っていたということだ。
・・・。
まぁ怠慢を食って生きてるような今の僕には言えた話ではないんだが。
将来警察、検事、弁護士、研究者エトセトラを志す人にも、本書を必ず読んでもらいたい。

ちなみに。
なんだろう。ここまで書いてきて感想が薄っぺらい気がするんだよな。濃厚な内容のわりに薄弱な感想。向こうが濃縮還元のジュース屋さんのジュースならば、こっちはいろはすの味付き水な感じ。それより薄いかもしんない。
近いうちに再読したい。(長いので今年はいいかな)