羽衣を、天女が掛けたという松が僕の故郷に残っている。
もしかしたら僕の町が出てくるかもしれないな、とか軽い気持ちで僕はこの本を手に取った。
あと表紙、かわいいなって。
よしもとばなな『ハゴロモ』(新潮社 2006年)について話をさせて下さい。
【あらすじ】
妻がいるとわかっていながら、付き合った男との終わった恋。
ほたるは傷ついた心を引きずりながら、故郷へと帰る。
そこには少し変な、だけど暖かい人たちがたくさんいて・・・。
【読んでほしい人】
・苦しいこと、辛いことがある人
・失恋した人
・自己嫌悪する人
【感想】※0.5gのネタバレ
癒された。ほのぼのした。
あとがきで筆者が本作を「ほっとするような小説」p.182と言っているが、まさしくその通りだと思う。
ほっとする。自分が「ここ」にいていいのだと、背中を押された気持ちになる。
優しくしかし力強く、僕を肯定してくれる。
・・・まぁ結局舞台は僕の町ではなかったのだけれど。
よしもとばななさんの文章全般に言えるのだけれど、まず言葉が綺麗。
きら、きらきらと、文面に輝く葉が舞い降りるような。
例えば。
「病気になった人の方がつらいと、誰が決めたのだろう」p.14
「世にもさえない宙ぶらりんの日々」p.30
「今、この家の中にいる人たちは、私も含めてみんなさえない状態だった」p,104
はっとする言葉で日常の瞬間を切り取っていて、見かける度に胸の奥がじん、とする。
登場人物も魅力的。チャーミング。
保育園をたてることを夢見る、占い師の娘・るみちゃん。
ウィンタースポーツが似合う赤いダウンジャケットを着た、引き締まった色黒の青年・みつるくん。
その他にも、蘭を店内一杯に咲かせて切り盛りをする祖母、ふらふらと外国に気軽に行ってしまう父、バスターミナルの神様等エトセトラ・エトセトラ。
その関係も丁寧な言葉で描写している。
例えば、ほたると彼の長く続いた不倫生活を
「私もメールを出したけれど、決して彼の携帯には、どんなにしたい時でも電話をしなかった。長く付き合うためのシステムを2人できちんと考えたのだ。」pp.76-77
「私は彼の生活にふと現れる幽霊のようなものにすぎないのだと思った」pp.78-79
簡潔に分かりやすく、綺麗な言葉で、手短に、描いていて僕が一番驚愕したところ。好きなところ。
不倫なんて夢のまた夢みたいな僕でも、彼等の生活がどのようなものだったか理解できる。分かる。
こうやって魅力的な人々を美しい言葉で描いているから、
本を閉じた後でも、ほたるの「はごろも」の日常は続いていく・・・・
ことが強く実感させられる。
基本本を閉じれば、「ああ、こうなってこうなってあーなるんだろうな」と簡単な結末後の未来を描くにすぎない僕だが、今回は本を閉じてその「続き」の日々があることを確信する。
・・・うまい言葉が見つからないな。
是非、読んでくれ。
この話の舞台は「川の隙間に存在する」p.5街なのだが、最終的な主題の回収がp.163-p.164でされている。
時間がかかっても、大丈夫。
流れゆくままにいこう。
はごろものような言葉が僕を包んだ。
ちなみに。
「スピリチュアル」「占い」が苦手な人には今作をおススメしない。
それらが多用されているので不快に思うかもしれない。
スピリチュアルとかいうのは、人を元気にする手段の一つであると僕は思っているので、違和感はしなかった。じんんわりしたのだけれども。
よしもとばなな、僕が他に読んだのはこの作品。
吉本ばなな『とかげ』(新潮社 1996年)。※改名前
6編収録の短編集。どれもぎっしり「ばなな哲学」が詰まっている。
「血と水」が良かった。今作における「自立」の定義はナイフのように鋭い。
彼女の言葉や考え、哲学には人の心を惹く力がある。
長年支持される理由もわかる。
他にも名前を聞く作品、いっぱいあるので、
時間がかかってもいい。
僕の心の赴くままに読んでみようと思う。
***
20200725 訳注。
某まるこで有名な町ではあるのだけれど、唯一の世界遺産である「三保の松原」は天女の伝説が原作。世界遺産の原作って何って感じだけど、まあ原作は原作である。
ちなみにこの記事を書いたときはまだ横浜にいてニートだったけど今は清水で労働者をやっている。えらい。