小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』−30年前も女性は、恋をするー


ジョゼ、って何だよ。

何の、名前だよ。
僕はそう思ってこの本を、手に取った。


田辺聖子ジョゼと虎と魚たちの話をさせてください。

田辺聖子ジョゼと虎と魚たち』(角川書店 1987年)

【あらすじ】(※表題作)
足の悪い「ジョゼ」は、祖母と静かに暮らしていたが、
ある日ある事件をきっかけに、大学生の恒夫と出会う。
2人はやがて惹かれていく。

【読むべき人】
・感情の機微を文章で読みたい人
・昭和に恋愛をした人
・処女(2編目)

【感想】※ネタバレはないはず。。
短編集だ。8作品収録。
どれも恋愛が主題となっている。

細かい感情がぎっしり書かれていて、そこが新鮮だった。
例えば、
過去の男に再びおぼえた僅かな感情が冷める瞬間とか、
普段の自分と恋する自分・二つの顔を持つ自分を持て余す女の心情、とか。
おとぎ話を連想するタイトルとは裏腹に、意外と大人な恋愛が多かった。
ぶっちゃけ、僕には少し早かったかもしれない。

こんなアダルトラブ書いてるの誰やねーんと思い、作者写真を見る。
関西の、おばちゃん。
気のよさそうなおばちゃんの、写真。
内容も、セリフが関西弁が多い。京都・瀬戸内・大阪。色々な地域で微細な変化はあるけれども。

また、作品も発表されたのは約30年前。生まれてない。
郊外に立つ豪勢な別荘であったりだとか、男は外で働き女は家事をする価値観だとか、ところどころ時代を感じる部分も。携帯のけの字も出てこない。
そりゃそうだよな。
当時20の娘は現在50。
僕にしてみれば、親世代の恋愛話だ

そんな短編集で、特に心に残ったのは、2編。
2作品目の「うすうす知ってた」と、表題作ジョゼと虎と魚たち

「うすうす知ってた」
:妹が、結婚する。それを聞いた28の処女・梢は・・・。
心の痛いところをぐっすぐっすと刺す、そんな小説。
28の処女の梢の心情がリアルで鮮烈で痛々しい。
目標ややりたいこともなく事務の仕事をこなす、ぬるい日々とか
「結婚」という漠然とした夢を見つつも行動を起こせず延々と続く日々とか、
そういったもやもやを断ち切るかのように実家の自室で一人する行動や独り言まみれの日々とか、
凄い。えげつない。僕の心をざっくざっくと削っていく。日本全国の処女、これを読め。
逆に、30年前もこんな女性がいたんだとも思う。大丈夫。大丈夫じゃないけど、大丈夫。
ちなみにこのタイトル、最後に回収するんだけれども、そこが秀逸。
そう、
僕等は「うすうす知って」る。
この作品から読んでもらいたい。少子化叫ばれる現代に、一番近い気がする。

ジョゼと虎と魚たち:あらすじは前述
良かった。読後感もいいし、なんか読んでて心地いい。
まず、キャラクターがいい。
ヒロインの愛らしい言葉遣いあったりだとか、強がりつつも恒夫に甘えたりだとか少女じみてて可愛い。
一方、車椅子の自分を必要以上に卑下しないさりげない強さ、
幸せを「死」に思うたおやかさが、
彼女のキャラクターに厚みを増す。
ある意味昭和末期のキャラクター小説なのかもしれない。
また、水族館や小さい家の日々など目の前に浮かぶ場面描写も印象的だった。

読んでよかったなー、と思う小説だったんだけれども、
正直恋愛初心者の僕には感情が伴った理解ができない部分もあった。
多分、10年後・20年後、読めば感想は変わるのだと思う。
手元に置いておきたい。

後、この文庫あとがきを山田詠美先生が書いている。
半分エッセイじゃねーか、と思ったが、チョコレートを齧りたくなる名文・・・だと僕は思ったね。
今まで読んだあとがきでベスト5には入る。他4つ?浮かばないけど。

ちなみにこの作品映画化されている。
見ると、評価も比較的高く、若い妻夫木聡が主演をやっているそうだ。きゃー素敵。
機会があれば見てみようと思う。