小さなツナの缶詰。齧る。

サブカルクソ女って日本語、すごく好きだったよ。

玉置勉強『彼女のひとりぐらし2』-今日もひとり。咳をしてもひとり。バターを買ってもひとり。-

 

 

 

 

今日も今日とてひとりぐらしぃ!!!

 

※「ひとり」暮らしは、一人暮らしと独り暮らし、両方の意味が掛かってると思われる

 

 

 

 

玉置勉強『彼女のひとりぐらし2』(幻冬舎 2011年)の話をさせて下さい。

 

 

 

 

【あらすじ】

輿水理香、26歳独身。

高校時代はバスケ部しょぞく。

きそくただしかったせいかつが、たまに遠い昔のことの様に思う、

最下層フリーランナー。

今は、部活時代より継承した、部屋干しロープ張りの部屋で、

スポーツ観戦したり、妄想したり、飲酒したり、

気ままなひとりぐらしを満喫中!?

裏表紙より

 

【読むべき人】

・女性で一人暮らししてる方

・ゆるーい漫画が読みたい方

・つかれている人

 

 

帯に描きおろしカラーイラストもってくるの、なかなか見ないよね

 

【感想】

ブックオフオンラインがこの前、「少ない巻数でおススメの漫画50選!」みたいな企画をやっていたのですが、本シリーズが入っていてやっぱりブックオフオンラインのライター、ガチ勢だよなって再確認いたしました。

2巻!!です!!

 

といっても基本1巻と変わらず理香がだらだらと暮らしているだけ。男はいないしダイエットに励むし洗濯しようにも雨は降るし・・・。

でもやっぱり小さいこと一つ一つにおける理香の気持ちの機微を描くのがやっぱりめちゃくちゃ上手くて、なんかやっぱり他の生活系漫画とは一線を画するんですよね。やっぱり。

本書は実は初版ではなく、発売1年3か月後の3刷目ですが・・・このサイズの漫画にしては結構売れてる方、だと思うのですが・・・、帯も前回から引き続き豪華なメンツで描かれていますが、まぁ分かります。当時多くの人が本作に魅了されたっていうのは。

また、3巻で完結しているのもいいんですよね。多分刷り数を見れば、まだだらだら続けようと思えば出来ると思うんですよ。多くの生活系漫画も巻数多い傾向にあるじゃないですか。でも潔く3冊。

そういうところもまた逆に、惹かれるんだよなぁ・・・。

 

 

帯の作り込みがすごいんよ

 

 

以下簡単に各話のあらすじとぐっときた台詞、感想を残しておく。

 

 

第13話:コインランドリー、部屋干しの話

理香「今はいてるのはえっと、2日目半だったり・・・」p.4

リアルさも絶賛している本作ですが、ここだけは異議申し立てたい。

意外と女子はパンツは毎日換えてる。どんなにずぼらでも基本毎日換えてる。

代わりに2日半つけちゃうのは、ブラですね。

パンツはまぁ汗以外の諸々でさすがに不潔を感じて自然と換えちゃう。コンビニにも売ってるし。

でもブラの方はまぁ基本汗だけじゃないですか。だからまぁいっかなって思っちゃう。特に冬だと。あと部屋着、とかね。

作者が男であることを忘れかけてた。

そやった、あまりにもリアルで忘れていたけど、玉置先生男だったわ。

そういう一話です。

 

 

第14話:プールの話

理香「安上がりでも安売りはしないっ!!」p.20

この台詞が掲載されている最後のコマ、曇天+雷の空の情景が描かれています。

ここが本作の面白い所。

別にど晴天でもいいし雨ざーざーでもいいわけじゃないですか。でもあえて中途半端なその天候を選んでいる訳ですよ。

その生半可感が、いかにも今の理香を象徴しているかのようで、面白かったですね。

センター試験の「漫画」で出るんじゃないでしょうか。

 

【問題】最後の1コマであるがここから分かる理香の心情を以下のアからエのうち一つ選びなさい

ア:モーリシャスに新婚旅行に行ったいこーを本当は妬ましく思っている

イ:市民プールでいっぱい遊んだことで生まれ変わった感覚になり、明るい未来を思い描いている

ウ:日々の鬱憤の合間の、一瞬のモノとは知りつつもその解放感に酔いしれている

エ:溺れかけたがミネラルウォーターが美味しかったので、再び市民プールで泳ぐことを決意している

・・・。

 

・・・。

・・・。

・・・正解、ウだと思うんですけど、どうでしょう?

 

 

 

やっす

 

 

第15話:ワールドカップ観戦

理香「世界中のいい男博覧会でもあるしっ!!はああ♡」p.25

クソみたいな台詞ですが、まぁちょっと分かるのが悔しいですね。同じ白人でも、東欧と西欧だと微妙に顔立ち違うんだなぁって思ったり、あこういう髪型ってありなんだ~でも似合ってる~とか思ったり、えやだ意外と南米かっこいいやんとか。結構面白いんですよね。

2011年のワールドカップだから、僕が高校3年の時のワールドカップですね。僕が初めて関心持って観戦したワールドカップでもあります。

女子サッカーというのが僕の母校ありまして、所属する女子は所謂クラスの中心のイケイケ系女子だったんですよ。だから自然と皆関心持っちゃうっていう・・・。

わくわくしたなぁ。

サッカー観戦ってこんなに面白いんだ!と衝撃を受けた覚えがある。

それ以来、ワールドカップだけは日本の試合は見るようにしてます。まぁ全然詳しくないのですが・・・。

ついこの前まで「すげぇ!!新星や!!」て思ってた柴崎選手がもう中堅もしくはベテラン勢にいるあたり、時の流れの速さを感じます。

 

 

第16話:隣駅の実家へ帰省。彼氏を連れて親に挨拶にきた妹も帰省してた。

理香「しっかしーー昔は喧嘩ばっかだったのになーーー

歳食うと変わるねお互い ちょっとだけ」p.42

僕は未だに妹と仲悪いですね。

でも喪女喪女している間に、妹彼氏作ってたらしくてビックリした。大手企業務めらしいが東京転勤になるので遠距離になるそうだ。

でもまぁ、仲悪いので昔はそのまま喧嘩していましたが、今はお互いに限界ぎりぎりまで距離を取っています。家は愚か連絡先も知らないし。彼氏の情報も母から聞いたものなので。

そういったところは、輿水姉妹同様「ちょっとだけ変わった」ところなのかもしれない。

 

 

第17話:飲み会の翌日。

理香「よし粗相した形跡もないっ」p.48

記憶亡くすほど飲んで気づいたら朝・・・ってことは今のところ僕は無いですね。そこまで飲める程お酒強くないというのもありますが。

だから、まじの二日酔いってこういう感じなんだぁ~と勉強になった一話。

でも鍵開けたままにしちゃったからって合鍵屋に2万近くも払うのは、自意識過剰じゃないか輿水理香。

僕は時々、家出る前どうしても見つからないと、鍵開けたまま仕事に出かけることが多々あるので・・・。

 

 

第18話:こたつ購入。

理香「ダークラム・角砂糖あと無塩バター・・・はないから普通のバター

わたし流は砂糖多目にラム少な目

ほんとはシナモンとか入るんだけどそれもめったに使うもんじゃないから買わずにすます!!」p.60

こたつでだらつく理香の気持ちもまる分かり。

トイレすらめんどくさいよな分かるよ。

でも後半の、理香が作るダークラムが本当においしそ~となった。あとこういう風に作るんだという勉強にもなった。

バター。一人暮らし8年目にしてようやく僕の生活圏内に入って来た食べ物ではありますが、美味しいお酒を作る材料にもなるんだなぁって思いました。

あとまぁ分かるよ。だらだらネット見ている時間が人生でいっちばん楽しいよね。

理香はPCで見ております・・・ああ確かに僕も高校時代はずっとネットはリビングのノートPCだったなぁそれが今じゃぁ、一人暮らしのスマートフォンプライバシー死守。

いい時代になったもんだ。

 

 

第19話:プリン頭になったので髪の毛を染める(セルフ)

理香「いいえ つつましく自宅作業です」p.70

世の中髪の毛染めている人全員エライと僕は思っております。

というのも染めた以上はどうしてもプリンが避けられないじゃないですか。僕それを埋める気力ないよ。絶対めんどくさーいだらーんで、プリンどころかあれ?頭頂部から石油湧いてます?にする自信があるよこんちくしょう。

あとネイル。あれもそう。どうしても爪延びるじゃん?以下略ですよ。

だーから喪っ女なのかなあー・・・。

なので、理香ち、黒髪だから男とヤッてるってのは一概にそうは言えないよ。

 

 

第20話:大掃除。

理香「・・・というか独り言が深刻に・・・

・・・やばい なおるのかなこれ」p.77

僕最近ひとりごとが深刻なのを、一周廻って開き直ってます。家では。

ただもう職場でも結構言うようになってて。もうやばい人扱いなんだろうなぁと思います。見ないでくれ。聞かないでくれ。著作権がある。

特に疲れている時、は結構口からぼろぼろこぼれておりますね。ぼろぼろ。

赤ちゃんか?ってくらい口周り汚いです。

誰かキスで塞いでくれ。

 

 

 

 

第21話:湯船にお湯をいれた。

理香「ドライヤー・・・あったあった めったに使わないけど今日は濡れ髪はやばいし。ぐっほ くっさ!!くっせ!」p.94

一応ドライヤーは毎日スイッチつけておりますね。簡単にですが乾かしてます。

中盤全裸で部屋の中を駆けまわる理香が自身を「芸人じゃないんだから!」とツッコんでいるシーンがありますが、僕はもう日常過ぎてなんとも思わない。何ならパンツさえ履いとけば一日そのままで過ごすことが出来ます。

パンツ一丁で独り言(多め)をこぼしまくる日々・・・。

もうこれ実質赤ちゃんでしょ。可愛いでしょ。

ベビーピンクでしょ。もう逆に可愛いでしょ。

何が「部屋着」だジェラピケがぁ!!!

 

 

第22話:マリッジブルーの妹が来た。

祐香「ほんとお人よしだなぁ・・・お姉ちゃん お人よしすぎるから男に縁がないんだよ」p.184

うすうす気づいてはいたのですが、玉置先生、妹萌えの性癖あるでしょこれ絶対。というか姉妹仲に夢を見過ぎている。

実際こんなに姉妹は仲良く無いです。天然記念物ですこんなの。

ぎりぎり距離保ってると先述しましたが、もっと汚いしもっと仲悪いです。

ワンチャン部屋に来ることがあってもここまで赤裸々に話すことはまぁまずないでしょうね。せいぜい何も言わず一緒に寝るのが限度というものではないのでしょうか。

男同士の兄弟のようにすべてざっくばらんにというわけにはいかないのですよ。

ていうか、輿水姉妹の仲がマジョリティーだったら、僕マグ・ロドンはマジの社会のあぶれ者になるので、勘弁してくださいまし候。

 

 

第23話:バーに行く。

理香「えっ・・・やだ な・・・に言ってんの勇太くん」p.115

理香のちょろさに衝撃の共感。分かる~。

普段から男っ気がガチでないとこんなちょっとしたことで、まじでときめいちゃったりするんですよね。

でもこういうのはだいたい賞味期限1か月くらいなのですが・・・。

僕も年に4回くらいこういうかっるいかっるい「恋」にも満たない恋はしております夜其の殿方の顔が浮かぶこともまぁあります。

だから神様・・・こんな哀れなる僕にもいい人をデスネ・・・。

 

 

第24話:同棲している親友の家で呑む。

理香(泥酔)「田舎って娯楽がセックスくらいしかないからーーーみんな早いって本当なんですかあれ?」p.122

こんな僕より男に飢えているのに、3巻通してどうやら男が出来なさそうな輿水理香26歳、哀れだ・・・。漫画なのに・・・。漫画だから・・・。

いやまぁでも、まぁそれでも&でもですよ、彼氏のいる理香ちもちょっと見てみたい気がする。

というか、本書発売から11年、37歳の理香ちの現在も見たい。

その時は「彼女のふたりぐらし」でお願いしたいのですが。もしくは「さんにんぐらし」無論旦那とね。子供とね。

果たして10年後どうなっているのか。

掲載誌(コミックバーズ)が休刊しているので再連載という我儘までは言いませんまぁそのツイッターで・・・ツイッターとかとかで、彼女の原罪の片りんを見せていただけないでしょうか・・・玉置勉強神・・・そして全国の「ひとりぐらしの彼女」に夢と希望と絶望を与えて孤独を埋め続けていただけないでしょうか・・・玉置勉教入信するので・・・。

 

 

 

 

以上である。

なんか10年たった今読んでも変わらないリアルさ生々しさ。

大きなことが起きないので、疲れていてもさっぱり読めるって言うのもいいんですよね。

だからといって後味までサッパリゼロ!というわけではなくどことなくじん、と余韻が残る終わり方。好き。

3巻もまとめ買いしたからあるけど、読んじゃおっかなー・・・あーでももったいないあなー・・・とも思ったり。

最高です。

 

おいしかった



 

***

 

LINKS

1巻。シンプルな線なんですけど、よくよく見ると人物のポーズのバランスに一切違和感がなくかなり高い画力が伺えます。

tunabook03.hatenablog.com

 

我妻俊樹『奇々耳草紙 憑き人』-大学生が一番怖い。

 

 

🍺うぇ~い。

 

 

 

我妻俊樹『奇々耳草紙 憑き人』(竹書房 2017年)の話をさせて下さい。

 

 



 

 

【概要】

この世の隅で絶えず囁かれる奇怪な話、異様な話、それらに〈聞き耳〉をたててーーー日常の狭間に除く恐怖をたっぷり53話収録。

一家心中の生き残りの男の元に、今もやって来るという両親の霊。その戦慄の理由「心残り」

先祖が戦国武将だという同級生は証拠を持ってくるといった翌日維新だ。その夜・・・「大和山実山」

大学に伝わる伝説とそれにまつわる恐るべき独白「死ぬ地蔵」など。

裏表紙より

どうでもいいんだけど、同シリーズ5冊でこのあらすじの書き方のテンションあと長さが一冊一冊違うのどうにかならなかったんですかね・・・

 

【読むべき人】

・不思議系実話怪談好きな人

・1-4巻同シリーズを読んで面白かった人

 

 

 

 

【感想】

一気読みした実話怪談シリーズ。とうとう最終巻である。感慨深い。

どうやら我妻先生は4-5冊単位でシリーズを3つ出されていて、これはその2つ目とのことなんですな。ちなみに1つ目から2つ目、2つ目から3つ目のスパンと比較して、3つ目のシリーズが完結してから現在までのスパンだいぶ長い。はよ4つ目のシリーズ出してほしいわ~。

 

最終巻、ということで他より分厚いかと言えばそうでもない。話数も最多かと思えばそうでもない。むしろ1巻2巻4巻より少ない。3巻よりは多いけれども。

でも、印象に残った実話・・・を僕はページ折る癖があるのだけれども、この巻が一番多かった。

4巻とか、印象に残った話の配置にだいぶ偏りのがあったけれども、本書は満遍なくページを折っている。

ここで一区切りつけさせて頂くということで、シリーズの集大成的な一冊に出来たのではないかと自負しております。p.223 あとがきより

とあるが、まさしくそうだと思う。

 

 

 

 

以下簡単に印象に残った実話の感想を記録する。

一番厭なのは「3周年」記憶に残ったのは「黄色い女」、好きなのは「中学生」

ただ本書は他の巻と比べると突出した傑作がある、よりかは良作が数多くあるといった印象。

 

 

「かしわ餅」pp.10-11

昔、飲酒運転の車に撥ねられて入院していた幸人さんは、夢で何度も事故の瞬間を再体験した。p.10

食べたはずの柏餅が戻っているという怪奇現象。それが意味するもの、というのが全く予想つかなくて、怖かった。む縁起がよさそうなモノなのに。

最後から逆算すると、何度も夢を見る行為、はその回数だけ強い罪悪感に悩まされたことなのかなとも思う。検証のしようはありませんが・・・。

 

 

「カラオケ林」pp.12-17

夜な夜なカラオケの騒音に悩まされる。音源を突き止めてやろうとすると、どうやら林の中から聞こえるようである。

これも前半の怪奇現象と後半の出来事が全く予想がつかなくて、怖かった。パート2。関係ないのか?とも思うけれども最後の一行がそれを全力で否定してくる。

僕の職場からの帰り道でもスナックから度々聞こえるが、カラオケの騒音って独特の不気味さがあるよね。そこにフォーカスした実話怪談って初めて読んだから新鮮だった。

あと、ああいうスナックの歌ってもれなく古い歌なのなんでだろうね。僕の十八番「徒花ネクロマンシー」「初音ミクの暴走」ひっさげてスナック潰しやりたいわね。

 

 

こしあん」pp.18-20

役場の椿が毎年咲くのを楽しみにしていた祖母。ところが今年はもう花をつけそうにない。祖母はそこで家族や近所にふるまうおはぎを椿にももっていくようになり・・・。

微笑ましくなる一篇。やっぱあんこ好きからすると「こしあん」「つぶあん」って大事なのかな。てか椿はいつ「こしあん」の味を覚えたんや・・・。

僕はマドレーヌがいいです。あんこ駄目なので。

あとおはぎと椿、の組み合わせもなんだか絵になってとても良いですね。

マドレーヌとフリーターはただただリアル溢れるだけですが・・・。

 

 

「スッポン」pp.22-24

近所の川にいる亀がひっくり返っていたので、戻してあげた。すると某俳優の顔がくっきりと浮かび上がっていて・・・。

読めば怖くないけれども、でも絶対遭遇したくない怪異。僕もスッポンからこんなこと言われちゃったらもうどうしようもないな。たまったもんじゃない。

2ページで終わりかと思ったら、3ページ目の一文がなんともいえない余韻を残していて素晴らしかった。

 

 

「たのしいたのしい」pp.25-28

〈たのしいたのしい、麻江もおいで〉p.26

たのしいたのしい、と二回繰り返しているにもかかわらず、楽しい雰囲気よりかは不穏な雰囲気を心に残す。

怖い怖いだと、一層怖い感じがするし、嬉しい嬉しい、だと一層嬉しい感じがするし、悲しい悲しいだと一層哀しい感じがするのに、楽しい楽しいはなんだか怖い。

この手紙を送った祖父は今もご存命なのでしょうか。不謹慎だけどなんか地獄に堕ちてそうな気がする。

 

 

「ひとごろし」pp.29-32

限界のチャイムが突如なり、知らない女が狂ったように「ひとごろしー!ひとごろしー!」と叫んでいる。

殺されたのが20数年前というのが妙に怖い。つまりそれだけの長い時間女はずっと、そこで殺され続けていたということでしょう?あと〈新興宗教)絡みというのもなんか厭。80年代後半-90年代前半にかけての物騒な事件の匂いがする。血の匂い。

あと、この話で思い出したのは小野不由美『鬼談百景』。あれにも似た話がありましたよね?女が助けを求めてドアバンバン叩くやつ。百話のなかでもトップ3には入るくらい怖かったなぁ・・・。

 

 

「3周年」pp.33-37

大学生のグループが、カラオケのくじを引く。眼鏡をかけたおとなしそうな女の子が前に押し出され、挙動不審にくじを引くと・・・。

「ぶげえええええええええ」p.34

これなんかよく分からんけど滅茶苦茶怖かった。

まずひいた写真の卑猥さが過激すぎてもうよく分からないし、3年後に起きた事実はもっと分からない。その眼鏡をかけた女の子はどうなってしまったのか。

ドッペルゲンガーなのか・幻覚なのか。

それとももうあっち側に行ってしまったのか。

この事象に巻き込まれた女の子がギャルとか風俗嬢女子大生とかだったら全然怖くなかったと思うが、そういうエロでグロテスクと一番遠そうな人物が巻き込まれる、というのが生々しくて怖かった。一体何があったのか。

本書の中でベストオブ恐怖。嫌悪感も含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黄色い女」pp.46-55

『今はもう黄色くないもん!』p.52

支離滅裂で繋がりそうで繋がらない、王道我妻実話。ただ思うのは、恐らく黄色い女は現代妖怪的な存在ではないかと言う事。あと、主人公の女性・Cさんの御兄さんに恋をしていたんじゃないかな。昔の怪談を想起させる切なさも感じられた。

大阪では泉の広場での「赤い女」が有名でしたが、東京では渋谷の「黄色い女」ときましたか。是非四十七都道府県四十七色の女が出てきてほしいところではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーれだ?」

 

 

 

 

いちゃついてんじゃねーよ!!!!

 

 

 

 

「穴へ」pp.60-62

友達の家の玄関には、得体のしれない不気味な人形がいて・・・。

まさかのくすっとくる怪談系だとは思わなかった。好物を知ると途端になんだか行間から愛嬌が感じられる。

「靴が大好きみたいなんだよ、それも鼻が曲がりそうなほど臭いやつが」p.62

まぁ人間でも色々よく分からないフェチの人がいるからね・・・。よく分からないフェチの人形がいたってなにもおかしくない。

この人形と是非「クレヨンしんちゃん」の、ヒロシの靴下で一家が悶えているシーン見たいわね。動いて髪の毛のびそう。

 

 

「犬の歌」pp.63-64

(恐らく)井の頭公園の殺人事件で死体を見つけた犬のその後。

なんとなくアメリカンジョークを感じる一篇。特に最後の一行の台詞。絶対語り手外国人だろ。ジョンとかボブとかそのへんだろ。

あと、こんなに都合いいことが起きるかね?みたいな実話。事実は小説より奇なり。探偵ナイトスクープ派遣したかった。

 

 

「資料館」pp.67-70

ある男が出勤の行き来の際に通る道に、ひっそりとした陰気な郷土資料館があった。試しに中に入ってみると・・・。

なんか呪い、を感じる一篇。最後絶対話したら死ぬパターンじゃんと思ったら違った。

一生に出てくる人物を模した蝋人形だった、ってことなのかなぁ・・・。たまたま覚えていたのが義父というだけで。

あとさびれた資料館から不気味な現象が起きる、という世界観が好き。確かにそういう場所はいっぱいあるけれども実話怪談の舞台になるのは珍しい。

 

 

「写真のデパート」pp.73-78

ある日小学生男児は母と祖母の親子が写った奇妙な写真を見つける。

デパートの、謎の心霊?写真がなんとも不気味な一篇。でもここに出てくる幽霊達は、そこまですごい邪悪な感じはしない・・・と思うけどどうだろう。

家に憑いてる霊、先祖、精霊、みたいな。イギリス的なね。

 

 

「中学生」pp.87-88

中華料理屋の配達先のひとつに、いつも泣き声が聞こえる家がある。

シンプルであっさり風味だけど不気味。泣いているということは、やっぱり助けてほしいとか成仏したいとかそういうことなのでは。ミルク欲しい、うんこしたから気持ち悪い、成仏したい。そしてそれに悩まされ続ける母親のことを思うといたたまれない。

あと「もう中学生」という字面が読める貴重な実話怪談。万が一文庫本で「もう中学生」という日本語が読みたいな~ってなった時は是非この実話怪談を。2ページで短めなのでもう中学生欲をささって満たせますよ。

 

 

「町なかのベンチ」pp.89-91

〈K山F美ちゃんと結婚するF美は俺のもの、たとえどんな手段を使っても(殺してでも)。〉p.89

たまったもんじゃないという話。最近男女の好き嫌い関連で起きる殺人事件・・・茨城一家殺人事件であるとか確かあれも長女に勝手に思いを寄せていた男が起こした事件だったか。あと少し前に沼津で起きた女子大生?だかの殺人事件のきっかけは、LINEブロックされたから殺した」。

そういう奴って絶対頭おかしいと思うんだけど、どういう風におかしいの。

こういう風におかしいんだよ。

って、言われているような気がする一篇。

 

 

「徹夜奇譚」pp.92-94

ふっと意識を失い、取り戻すと、私が二人いる。どちらの身体に戻ればいいのだろう・・・。

幽体離脱奇譚。どっちか、という選択を迫られるというのは、王道、ではないけれど長年細々と培われてきたルートではある。「奇々耳草紙」1巻に収録された「ラーメン」もそうだった。あれはデブの全裸+ラーメンという奇抜な設定が目を惹く実話怪談であったが、同じく二択系の怪談だったはずである。

ルーツはどこだろうね。日本で一番有名で古いものだと、世にも奇妙な物語の「あけてくれ」だと思う。

こういうどっちの料理ショー」的実話怪談に僕はめっぽう弱い。正しい決断できる自信全くない。

 

 

「天使の警告」p.102

宏夫さんが部屋で好きなアイドルの写真を熱心に眺めていたら「じろじろ見るんじゃねえよ、キモいんだよ」とそのアイドルの声がきこえた。p.102

大園玲ちゃんの生写真にこんなこと言われたら僕もう生きていける自信全くないですね・・・・。

 

 

 

尊い・・・。

 

 

「髪の毛」pp.106-112

ある日風邪で寝ていると、「区役所から来ました」p.106スーツを着用した奇妙な男が立っていた。

住んでいる区全体に怪異が及ぶとは思わなかった。怖い。やっぱ呪われた土地とかあるんですかね。「残穢」を思い出した。

慌てて僕自身が住む区のHPアクセスしたけど、深海魚の写真は出てこなかったよ。

多分、なんだけど僕の住む静岡市含め地方都市だと区はかなり広くなって、怪異が区単位で結集する、っていうのはなかなか難しいから結構都会の話だと思うんだ。横浜とか。

 

 

「父親」pp.124-125

水族館で迷子になった。名前を呼ぶ声に振り向くと、父親が水槽の中でボロボロの状態で漂っている。

なんだ、ただの子供の幻覚かよ。と思わせてかーらーのー、である。幻覚だったら最後の現象に説明がつかなくなる。

でもこういう意味が分かんない経験って幼少期たくさんあった。ノスタルジックくすぐられる。

あとこういう話って大抵海が舞台だけれども、水族館舞台は珍しいわね。水族館で起きる怪奇現象・・・がまがま水族館か

 

 

「命日」pp.131-138

昔火事で焼けたアパート跡に絶ったビル。オーナーが〈命日〉と呼ぶ日は各テナントに休業を要請していたが、美容院の店長は守らなかった。

え?どういうこと?ってなる一篇。けれどえ?どういうこと?の前に、凄惨で怖いことが次々と起きて、恐ろしかった。何故店長はちょっと話しただけでその「仕事」を引き受けたのか。なぜ店長は自殺したのか。店長と会話していたのは何なのか。それを見たスタッフの靴が紛失したのは何故なのか。オーナーはどこへいってしまったのか。そもそもオーナーが命日にやっていた「仕事」?とは何なのか。

謎が謎を呼ぶ展開に、焼身自殺・マネキン・謎の声・謎の儀式と恐怖のエッセンスがふんだんに使われていて、さながらデコレーションケーキ。怪奇現象の玉手箱や~。

なんとか得られる教訓は、やっぱり上の人の言うことは守っておくに越したことはない。ということだろうか・・・。

 

 

「鯨幕」pp.139-143

大学のサークルの新歓活動中、自殺について輪になって話しているグループがいて・・・。

「でもあの日見た人たちはどう見てもただのそこらへんにいる学生」p.142達が突如消える怪異。どう見たって普通の存在が、普通の存在ではなかったという話。

死神がたまたまその場にふさわしい姿に擬態しただけなのでは?と思う。死神そもそもいるのか知りませんが・・・・。

でも普通だったら、卒業後そんなん見た母校に務めようなんて発想にはならないと思う。その行動の不可解さの方が怖い。

 

 

「大和山実山」pp.148-151

先祖が「ヤマトヤマサネヤマ」という戦国武将だと言いふらしていたクラスメイトが、翌日、亡くなった。心中で。

最後の方で、この武将御存在を否定するかのようなニュアンスがつけられているが、それは分からない、と思う。書物に残っていないだけで、いたのかもしれない。もしくはいたけれども、名前が残っていないだけとか。もしくは、クラスメイトが名前を間違えていたか、もしくは名前を間違えて思い出したか。分からないが、安易に否定するのはちょっと疑問。大学の日本史の教授とかならまぁ分かるけど、一人の実話怪談の書き手にそこまで断言できる裏付けがとれたとは思えない。大学時代史学専攻だったので、ちょっとそこらへんは違和感。

 

 

「鳥」pp.152-153

智也さんが後輩を連れて居酒屋で飲んでいたら後輩の肩の上にいきなり鶏がとまった。p.152

ファミチキ食いてぇ。

 

 

「小太郎」pp.156-160

若い時に蛇を飼っていたが、行方不明になる。一年後姿を現すも、再び姿を消して・・・?数十年後、当時住んでいたアパートの近くを通ると。

蛇にまつわる奇譚は多い。この話もそう。

そして意外と蛇は人間に害を及ぼさない話が多いが、この話もそう。

並行世界絡みかなと思ったんですけど、どうでしょう。

昔、ちーちゃんは悠久の向こうというライトノベルがありましたが・・・あれを思い出した。見えない世界と見える世界は並行して存在してだぶついている。小太郎は見えない世界に行って人間として転生したけど、昔の主が来たから並行した世界がリンクしたんじゃなかろうか・・・・まで考えるのはちょっとキモイですか?そうですか・・・。

 

 

「薔薇の女」pp.165-169

マスターが経営するバーは一見さんでも「来た事がある気がする」と言われることが多い。

なんだかロマンチックな一篇。薔薇の女の正体は分からないが、マスターに恋をしているのは分かる。とても情熱的で熱い恋を。

多分、その女の機嫌を損ねない限りバーは続いていくんでしょうね。

こういう実話は、夢があるなあ。

 

 

「いなくなった」p.173

娘が飼っていた金魚が行方不明になった。

魚が擬人化する実話怪談はちょくちょく見ますね。人魚、魚人というメジャーな概念もあるし。住んでいるのが水中か陸かくらいで、意外と人間に一番近い生き物なのかもしれないね。独自のソサエティありそうだし。

 

 

「〒」pp.174-177

ある日入った郵便局は奇妙で・・・?

よく、怪異現象や心霊番組が起きなくなったのは、技術が発達したからだ。スマホが普及したからだというけれど、「黄色い女」といいこの話といい、それは嘘。と僕は考える。あっちもあっちで適応できていて、適応出来過ぎているからこそ僕達は気づかない。

あと郵便局って基本なんか怖いよね。すごい狭い空間に何人かが毎日毎日毎日何年も何十年も出勤してきていて、そういう場所が全国に何万か所とある。その事実だけでちょっと震える。郵便局に務めるってまぁ基本安牌だと思うんだけれども、僕は絶対嫌。郵便局という場所自体がちょっと怖いので。

 

 

「雄鶏」pp.189-195

空き部屋と思っていた隣室に女が引っ越してきたようだ。そしてどうやら鶏を預かっているらしく・・・?

「鯨幕」でもそうだったが、大学生の幽霊系って滅茶苦茶怖いよね。大きい声でワアワア騒いで若さ撒き散らす彼等のイメージが、死と非常に乖離しているからかもしれない。だからこうやって、不思議な現象で結び付けられると、突然という感じがして怖くなってしまうのだと思う。

今回は霊ではなく、なんとなく、残骸って感じがする。多分昔そういうことがあって、駆けつけてきた学生の残骸が毎日廊下を走る・・・みたいな。

にしても、隣の女が「まさみ」なのかどうかはマジで気になる。

まじでどうでもいいですが、セクシー女優の市川まさみってマジで可愛いよね。

 

 

いちゃついてんじゃねーよ!!!!!!!!!!!!!!!



 

 

以上の25話が特に印象に残った。53話収録というわけだから、約半分印象に残ってる。

我妻俊樹氏は、実話怪談印象派。実話怪談のモネと呼んでくれ。

集大成、堪能させていただきました。

 

以上である。

奇々耳草紙、非常に楽しませていただいた。残り2シリーズある、という訳だけど・・・いやぁ、是非読みたい。我妻俊樹に酔いしれたいよ。

そしてもっとみんな、実話怪談書き手としての我妻俊樹を知ってくれ・・・。というか実話怪談自体もっと流行れ・・・金かかる分、そこらのネット怪談より全部質が高いので・・・そして我妻氏によく分からん掌編小説じゃなくて実話怪談をもっと書かせるように世界よ、廻ってくれ・・・。

 

全5冊読了。よく見ると1巻の表紙とよく似てますね。



 

***

 

LINKS

水族館怪談物と言えばこの漫画にも掲載されていましたね。

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実話怪談風小説・・・なのかな。九十九話収録されていて、これの100話目がかの有名な「残穢」というのは意外と知られていない。百物語をモチーフにKADOKAWAと新潮社、出版社またいで同時発売した。こちらも実写映画化されてる。見たことないけど。

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1-4巻の感想。

1巻は文中で挙げた「ラーメン」が掲載。

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20220423

これも半年くらい前の記事を編集したものである。書き溜まりがいっぱいある。

実話怪談蒐集家の方々は、創作しているのではなく、あくまで事実としてあったことを取材して集めているだけ、と僕は認識しているので、書き手としてどんなに尊敬していても、と呼ぶように心がけています。記者の延長線のような仕事だと思うので。平山夢明先生も実話怪談の書き手として登場する時はなるべく「先生」をつけないようにしています。

それでも勢い余って先生、と呼んでしまう、書いてしまう、そしてそれに気づかないことが多々あるのですが・・・。

 

 

我妻俊樹『奇々耳草紙 死怨』-「いません。いませんいませんいませんよいるわけないじゃないですかそんなものいるというならほらつれてきてみてくださいよいませんいませんいません。」-

 

 

👻

「幽霊なんていません。」

 

 

我妻俊樹『奇々耳草紙 死怨』(竹書房 2016年)の話をさせて下さい。

 

 

【概要】

人気シリーズ最新作。頁をめくる手を止めてふと、周りを見渡すと、何かが変わってしまったような気がする・・・・・・よじれた恐怖がまとわりついてくる!金縛りの自分を見下ろす人達、見知った顔があったので声を掛けたら・・・・「取り囲まれて」、陰惨な事件により弟を亡くした男のもとに届いた奇妙な葉書「蛇長蛇男」など、日常に仕掛けられた黒くて奇妙な罠の数々、怒涛の61篇を収録!

裏表紙より

 

【読むべき人】

・少し不思議系の実話怪談が好きな人

・サラサラ読める実話怪談が好きな人

 

 

【感想】

実話怪談って怖さよりも、イデア・文体が勝負だと思う。

ネットが普及しSNSも普及した現在、アマチュアのネット怪談なんて手を伸ばせばひょいっ!!!と読める。Twitter等のSNS、小説投稿サイト、「死ぬほど怖い話を集めて見ない?」兼まとめサイト、SCP財団、個人ブログ・サイト・・・等々。

でもその多くが、どこかで読んだことあるような話だったり、大して怖くなかったり、もう一行読んだだけで全部わかったり、そもそも文章がめちゃくちゃ読みづらかったりする。全然怖くない、いや私の方が多分巧く書けるわ。とか場合によっては思ったりすることも多々。実際に書けるかどうかはともかく。

体感でいえば、玉石混合という四字熟語があるが、ネットに蔓延る怪談は玉石石石石石石石石石石石石石石石石混合くらい。

玉は梨.psd先生とか。あと工作力でいえば雨穴さんとか(ただし雨穴、文章力おめー、だめだ)。単品でいえば「夜明け望遠鏡で景色見てたら猛ダッシュ&猛ピンポンしてくるヤツ」とか。「あなたの娘さんは地獄におちました」

石でいうと、Twitterにあがる「ツイート怪談」とか。体感として、Twitterに上がる怪談は99%クソ。総じてクソ。本当にクソ。文字数の制限が厳しい為と思われる。

そこを逆手にとり、優秀な文字数制限怪談のみを書籍にしようという「#10文字ホラー」という取り組みがありましたが、あれは凄いと思ったね。本パラパラ見たらやっぱ全然違うもの、クオリティ。僕も一作掲載されましたが。

閑話休題

まぁともかく、ネットには怪談が多く蔓延っているけれどもその9割がしょーもない怪談ばかりである。

だから僕達は、実話怪談本にこうして金を払って読む。今までない怪異を読むために。出来れば読み易い文体で。

時間は有限なのである。面白い怪談が一気に読めるのであれば500円600円なんて僕達にとっては実質無料も同然なのである。

嘘。さすがにちょっとそれは高いので、中古で買っている訳ですが・・・でもそれは僕が月々12万円のフリーター(ひとりぐらち!!)だからであって・・・赦してくれ・・・赦してくれ・・・。

 

発想、読み易さ。その二つを我妻氏の怪談はひょーいと軽く凌駕する。肌をなぞる冷たい感触。

特に発想。怖い、よりかは不思議。謎。不条理。どういうことなの・・・?となる感覚がたまらない。いやまぁ実話怪談なんで発想ではなく、実際に起きていることなのだけれども・・・言い方難しい。集めた事象が面白い、が適切な表現だろうか。

文章も確かに稚拙な部分は見られるけれども、詩的表現がベースになっているからかすらすら入ってくるし読み易い。日本語が破綻していない、ネット怪談あるあるの不自然な接続語・助詞が一切ないというのもポイントが高い。

文章に関しては、あとバランス感覚がいいと思う。実話怪談は単行本化されているものでも、多少「前半のここの説明いらんだろ」とか「オバケの出番少なすぎ」等あるのだけれども、我妻氏の怪談に基本そういった不満を抱いたことは無い。きちんと読み返しやってんだろうなぁ。

あー。しゅき。我妻氏。しゅきしゅきしゅきぴ。我妻氏。

 

そんな感じで一気読みしている全5巻のシリーズであるがあっという間に4冊目、という事実に震えがとまらない・・・。もっとずっと読んでいたかったんですけどね・・・。

四巻にあたる本書は、三巻とは違って一巻二巻同様60篇以上収録されている。ただ怖さでいえば・・・後半に良質なものが偏っているかなあ、という印象。そこは三巻と同じかな。

 

ぎょろん。

以下簡単に面白いと思った実話怪談のあらすじと感想をネタバレ恐れず書いていく。

好きな話は「幽霊はいません」「老人会」「秋分

 

 

秋分」pp.129-131

出勤前に一時間ほどランニングをしていたが・・・。

〈はまもとしんいち 6さい〉p.130

何とも不気味な一編。まずひらがな・本名・年齢っていうのがもう気持ち悪い。

こういう時、日本人で良かったなぁと思う。英語圏だったら「HAMAMOTOSHINICHI 6years old」である。全部の文字がアルファベットだと恐怖感が薄まる。子供がまず初めに使う文字「ひらがな」で書かれているからこそ、不気味さが一層増すのである。

 

「行旅」pp.132-141

勝間さんの叔父は各地を転々として暮らした人で、仕事も定まらずホームレスだったこともあるらしい。p.132

実話怪談、というかもはやロードムービーである。何年もかけて、叔父がいろんな場所に住んで働いて働かなかったりして・・・を繰り返している合間に、かつてアパートの隣室に住んでいたNさんという男の幻影を見たり見なかったりする話である。

東京や日本海側の地方都市、更には違う街・・・で暮らす叔父を読んで、ああ人生って旅なんだなぁ・・・と思う。一人きりの旅。故郷が故郷でないこと。筒井康隆先生の「旅のラゴス」を思い出す。

同時にクライマックス、残り3ページにかかる不穏な畳みかけは見事で、最後は何ともいえない後味が胸に広がった。

 

 

「掴む手」pp.156-157

咲希さんは右手が子供の頃のけがの生でうまく曲がらないが、時々人の服を無意識にぎゅっと握っている

咲希さん「嫌な話でしょ、でもこれって二つの考え方ができるんだよね。死が間近に迫っている人に、この手がいわば告知をする役目を果たしているのか、それとも・・・」p.157

右手は、死を告げるのか。それとも・・・。

咲希さんにとってはどっちでもいいかもしれないが、身近な人にとってはどっちでもよくない話である。後者だったら今すぐ関係を断ちたい。ラインをブロックしたい。「知人」から「かつての知人」へとなりたい。絶縁したい。同じ家は愚か同じ町に暮らすのは嫌だ。絶対に引っ越したい。結婚おつきあいデートはおろか「お友達から」でもお断りしたい。

へらへらしてないで早く神社か寺行って直してもらえや案件である。それを放置している地点で咲希さん自身も無邪気な死神にすぎない。

ちなみに最後の一行が素晴らしい。

話を聞きながら思わず、手の届かない距離まで後ずさってしまう。p.157

 

 

「やつれゆく息子」pp.170-172

離れて暮らす息子が、仕事の配達中に追突事故を起こして入院した。

妻「ちょっと何で人違いしてる訳。自分の子供の顔もわからなくなったの?」p.171

衝撃的な展開でちょっとビックリした。

母親が肺癌なのもあって、入院時はよく見舞いに行っていた。ナースステーションで部屋がどこかを聞くのである・・・自分の体験と近くて、その分生々しく感じられる。

よく、家族・特に兄弟姉妹に怪異現象がわあっ・・・!!と起きて、「それ以来兄は顔が変わったままだ」「それ以来姉は別人のままだ」と締める実話怪談があるが、それの発展したパターンと言えよう。よりリアルに肉薄しているというか。

ちなみに、実話怪談あるあるとして挙げられるのは、兄入れ替わりがち。兄が7割父母2割残り1割・・・な気がする。少なくとも入れ替わりを体験するのは子であることが多く、体験者が父親のパターンはなかなか珍しい。

 

 

「知らない女」pp.173-177

女の飛び込み自殺を見た夜に、見知らぬ女が訪問してくる。

一瞬駅のホームで見た光景が蘇るが、もちろん外に立っているのは列車に飛び込んだ女ではない。p175

じゃあ誰だよ。

そこはむしろ朝飛び込んだ女性が、夜部屋の前血まみれで突っ立ってるのが実話怪談の「もちろん」だろ。と思わないでもないが・・・その女の行動とオチが不気味で印象に残った。

要するに生霊が、マネキンに乗り移ったってことなのだろうか。呪い?

それとも、最後の一行から鑑みるに、別人と見せかけて飛び込んだ女性と夜に来た女性は同じ人だったのだろうか。

どうとでもとれるし、どうとでもとれない。

あと女×マネキン、だとあれ思い出した。「探偵ナイトスクープ」のマネキンに恋した女性とかっていう事件。確か後日訪問したら普通に結婚しててどうしてあの時マネキンを識別で来たか分からない・・・という話。

等身大の人形ですからね、マネキンって。

 

 

「老人会」pp.186-187

東日本の観光地に住んでいた女子小学生だったサチさん。下校中、突然知らない老人たちがカメラをむけてシャッターを切ってきた。

まるで動物を撮るよな不躾さに腹が立ったので睨みつけたところ「田舎の子は目つきがきついねえ、怖い怖い」と、聞こえよがしにつぶやいて老人たちは行ってしまった。p.186

後日土産屋の店員に効いたら、そんな老人達なんて実在しないですよ。くらいなオチかなぁ・・・と思ったら予想の斜め上を行くオチでよかった。まさかのスカッとジャパン系実話怪談だった。

でもそれを凌ぐのは、「うわぁ・・・」という恐怖。

多分体験者になったら間違いなくその夜は眠れない。し、一生のトラウマ必至。

すっきりと、うわぁ・・・。何とも言えない唯一無二の後味。

本書で二番目に好きな一篇。

 

 

「幽霊はいません」pp.193-198

家族が経営する事業の一つである遊園地に、小学生の頃はよく友達を連れて行った。なかでもお化け屋敷は本物の幽霊が出るという噂があって・・・?

女「残念、幽霊なんていません。あれは機械で動く人形なんですよ。それだけがあって、後は何もありません。幽霊がいるですって?とんでもないですよ、幽霊なんていませんから」p.196

不気味な女が出てくる一篇。お化け屋敷に行った小学生に対して「幽霊がいない」としきりに繰り返す様が、目に浮かぶようである。ファッションについても詳しく言及されているから、より生々しい。同時に、生きている人なのか?頭がパアになった人なのか?とも思うが、どうやらそうでもないらしい?では一体彼女は何。子供にしか見えないような存在ではあるが、目的自体も謎。なんのためにそこにいるの?そこで死んでたり近くで惨殺されてたり自殺してたりとかなら分かるがそれが一切ないということは、存在の母体は一体何。幽霊を否定したい存在といえば、やはり終盤で描かれているようにお化け屋敷の人形の幽霊なのか。いやそれだったらあの詳しいファッション描写は何だよ。デニムスカートとか、スニーカーとかどこで買ったって言うんだよ。ABCマートか?

口調も妙に癖になる。「幽霊なんていません」強めの断定の敬語は読んでいて、まるで耳に聴こえてくるかのよう。沢城みゆきくらいのアルトの無機質な声で聞こえた。「は」ではなく「なんて」と言っているのが良い。

この女のキャラクターがばっちりたっている、実話怪談。キャラクター小説という言葉があるが、これはキャラクター実話怪談。あの「猛ダッシュ&猛ピンポン野郎」と張れるんじゃないか。あわよくば、付き合ってほしい。

本書で一番好きな一編。

 

 

これは去年のハロウィン前にダイソーで買った。100円とは思えないクオリティに感動して買った。軽くて持ち運びも便利。
台所に置いて、普段のメメントモリは僕はこれですましてます。

 

感想を述べる前に、我妻先生の作品について日本が「一部稚拙な部分はあるが、」と述べた。本書ではそれが明確に示された一篇がある。

「夜を明かす」pp.178-182におけるp.179の描写である。頁前半では、出てくる人影は主人公のいるビルの、隣のビルの屋上にいたことになっているが、頁後半では「屋上に戻ると」と書かれていてその後主人公に接近している。主人公と同じビルの屋上にいたことになっている。また、人影の行動の描写があるが、何故かこの一篇だけ妙に下手。全然何しているのか分からない。

恐らく、本書自体締め切りにかなり追われた一冊ではないのかと推測する。

61篇収録されているにも関わらず、印象に残った話数は45篇収録の3巻より少ない。なんか知らんが、我妻氏にしては無味乾燥な実話怪談が前半ならなんだ印象。妙に詩的で不思議さがウリだから、湿り気が無いと何も心にこないのである。

 

 

目目ントモリィっ!!!!

 

以上である。それでも4巻も比較的面白く読めた。

次は5巻・・・最終巻である。気合を入れて感想記していこうと思う。

 

 

***

 

LINKS

しりーず。「見て下さる方の中には実話怪談本とか興味ない方もいるのかなと思って違うジャンルの本載せようと思うけれども、ついついめんどくてずるずる同じシリーズを連打して投稿してしまう」病にかかっております。どうやら不治の病らしいです。助けて。

 

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名著なので事あるごとに思い出す。4年前に読んだ本だけれども、今でも明確に思い出せるよ。

 

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20220420 相も変わらず、昔描いた記事のを編集したものである。

今思うと、「幽霊なんていません」は、早見沙織でもいい気がする。

我妻俊樹『奇々耳草紙 祟り場』-痛シーツにもほどがある。-

 

 

 

🍅

 

ご注文は、トマトですか?

 

 

 

 

我妻俊樹『奇々耳草紙 祟り場』(竹書房 2016年)の話をさせて下さい。

 

 

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【概要】

五感がねじれる奇妙で落ち着かない恐怖。我妻の実話怪談は気づけばすぐ後ろで黒い影が嗤う。

焼けたスーパーにいる人影「小火のスーパー」、クレーマー住人が伝えたかったこと「賃貸物件三題」、肝試しの場にやって来た警官の行動「廃墟の警官」など、踏み込んだら逃れられない恐怖の45篇。

裏表紙より

 

【読むべき人】

・1-2巻面白く読めた人

・比較的長めの実話怪談が好きな人

 

 

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さん・・・?

 

【感想】

我妻俊樹「奇々草紙耳シリーズ」第三弾★である。第三弾★

よく見ると表紙の真ん中の手もおやゆび人差し指中指で「3」を作っている風に見えなくもない。

 

1巻・2巻と大きく違うのは掲載されている話数。厚さは大して変わらないが、1-2巻が60篇以上収録されているのに対して、本書は45篇とある。

がーん。

短さ重視の僕としては残念だった。

やっぱ実話怪談≒短さ重視という人が多かったのか何なのか、4-5巻は1-2巻と同じく60篇越え収録されている。

なので、本書だけほんの少し異色と言えば異色。

ただまぁ全5巻ということを考慮すると、3巻だけ長めの実話怪談が多いというのはちょっと祟り場らしからぬ「山場」感があってバランスがいいのかもしれない。知らんけど。

ただまぁ収録数が少ないのもあって、印象に残った話は1-2巻と比較すると少な目ではあった。分母が少ないから自然と分子も少なくなる。自然の摂理である。

 

 

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以下簡単に、それでも忘れがたいい否、忘れたくない実話怪談のあらすじと感想をネタバレ恐れず書いていく。

特に🍅だったのは、「子供たち」「ホテル再訪」。

 

 

「犬が飛ぶ」pp.10-11

駐車中の車からいきなり火が上がる。通りすがりの散歩中だった小型犬が、そこに飛び込んでいき真っ黒になって死んでしまった。しかし・・・。

2篇目にあたる2ページの怪談だけれども、いつ起こってもおかしくない怪異で、なかなか気味が悪かった。

冷静に読むと、まず駐車中の車から火があがる、というのも怖いし、そこから手が伸びて犬を連れ去っていく、となればそれはもはや火事ではなくファンタスティックビーストの世界である。日本だぞ。

通勤時もしくは外出時、駐車中の車総てに火が上がる可能性があって、そこから手が伸びてくる可能性があって、そして僕を連れ去っていく可能性がある・・・と思うと怖かった。でもまぁファンタスティックがビーストできるならいいか。

 

 

「子供たち」pp.17-19

明け方、タバコを切らしてコンビニに買いに行くと子供達の声が聞こえる。

携帯の時刻を見ると午前四時四十四分である。p.19

の最後の一行が何とも言えない余韻を残す一篇。

あと、僕もよく明け方に向かいのセブンイレブンに行くので他人事じゃないな、と思った。

ちなみに明け方のセブンはなかなかたまらない。明け方にもかかわらず外国人の女性店員はそこそこ丁寧に接客してくれるし、時々トラックがとまっていて、そこからパンが仕入れられたりしている。外に出るとほんのり肌寒い。手前の交差点では誰も信号を待っていなくて一人、吹いてくる風に郷愁を感じながらあと数分で、このセブンイレブンは通勤通学する人々が寄ってくる、異国の店員も主婦の40代50代のおばちゃんにバトンタッチして、たったあと2-3時間で健全たるセブンイレブンになるのだわと思うと何ともいえない感覚に、胸がきゅっとなる。

そんな時間地にいないはずの子供たちの声が聞こえたらと思うと・・・怖いというか泣いちゃうかもしれないな。切なくて、懐かしくて。極まって。

 

 

「ホテル再訪」pp,38-40

信郎さんは十年ほど前に上京した時泊ったビジネスホテルが安くて駅に近くて便利だったので、最近ひさしぶりの上京に際してまた予約しようと思った。p.38

突然予想外の結末に、「え」となる一篇。「え」。要するに、並行世界ということだろうか。多分どこかで分岐してしまったのだろう。でも知らず知らずのうち分岐してしまったルートの記憶を所持したまま、僕達は生きている可能性が常にあって、そうすると記憶総てが曖昧模糊となり、昔会った人昔行った場所昔あった出来事全部確認したい衝動に駆られるべきなのだけれども、多分其処は何らかの本能で「まぁいいや」と思うように僕達の脳味噌は細工されている。

なんて思うのは僕だけ?

一歩間違えればアルミホイル案件なのでもうこれ以上は考えませんが。

世界は常に分岐している。

 

 

「トマト」pp.42-46

頭が痛いので頭痛薬を飲もうと思い、那美さんは薬箱代わりにしている空き箱の蓋をあけた。p.42

すると、トマトがあった。

トマトは、感染する・・・!!!といった一篇。

そもそも何でトマトなんだよ。あーなんかグロい系の比喩か?と思ったけれど、描写的にもどうやらリアルのトマトっぽい。え。なんでトマトが。こわ。アルミホイル案件か?

でもトマトって、結構高くて一人暮らしだとなかなか買えないので、毎日僕のところにほしいですね。トマト。そして毎日キューピーのイタリアンドレッシングドバドバかけてリコピン摂取するんや・・・!!!

 

 

「先輩の家」pp.51-57

先輩の家に行くと、部屋に三十代くらいの女が転がっていた。

敷居のところに裸足のつま先がそろっていて、見上げるとさっきの女だった。p.53

普通に怖い実話怪談。我妻先生の作品は謎を残して終わって、そこに余韻が・・・という感じのものが多いのだけれど、この話はシンプルに出てくる女が怖い。

特に先ほど挙げたp.53の一行では背筋が凍りつくかと思った。

加えて意味わからない現象が続く。え?なんでこどおじの先輩のご家族は談笑できるの?え?結婚したの?え?とりあえずそのシーツ悪趣味じゃね?

ただ終盤の年賀状の下りは怖いと言えば、怖いんですけど、カットしても良いような気がする。途端に読者へ怪談が逼迫し、よりリアル感が増す・・・ように思う。年賀状の展開含めて8ページにして長めにしてもいいが、後半カットして4-5ページ程に短く鋭くしてもいい気がする。若干、後半冗長感は否めない。完全に好みの問題ですが。

ただ我妻俊樹氏の実話怪談はリアル感よりかは、不思議さ・余韻・謎をワインがごとく丹念に丁寧に長く楽しむモノ。怪談新耳袋の中山氏や木原氏、川奈まり子氏等、本当にあったこと感を重視して楽しむような実話怪談蒐集家がこの怪談にもしめぐりあってたらどのように書き残すか。多分間違いなく一部カットがあって短くなるとは思うんだけど・・・それは少し気になるところ。

 

 

「カラテ」pp.62-67

外国でインチキセミナーをやっていた男のもとに、昔男からカラテを習ったという絶世の美女がやって来て・・・?しかしその美女に見覚えはない。

「気をつけて。この女にあんた、もう一度だけ会うことになるよ」p.65

会えればそれは死、ということなのだろうか。じゃあ会わずに不幸極まった人生送っている詐欺師範代(詐欺師と師範代をかけた超絶面白ワード)は、もう即座に会うべきなのでは。

辻褄が、合いそうで合わない。わかりそう、でわからない。

とにかく何かしら運命、とでも呼ばれるような大きい流れが関わっているの判となく分かるのだけれども・・・。

けれどそれが意味することはよく分からない。

まるで異国の言葉を聞いてる。みたいだ。

 

 

「賃貸物件・三題」pp.76-85

空室であるはずの部屋から物音がして、目が覚める。原因を突き止めるため、外に出てベランダの方を見ると、ベニヤ板が横に自然とずれているようだった。翌日、外国人の女が子供を連れてその部屋を訪れていた。

畳一枚より少し大きいくらいの板で、なぜか人間の形にくりぬかれた穴があいていた。p.83

賃貸物件「三題」なので、一話に3話収録されていることになる。1話目ではおばあちゃんのご冥福をお祈り申し上げた。2話目は一体何がしたかったんだよとツッコミたい。人と少しでも長い時間会話していたかったのか・・・?そしてこの3話目ときたわけだが・・・この話が結構奇妙で怖かった。

まずアパートの空室に、人型にくりぬかれたベニヤ板が置かれている、っていうだけでもう嫌だ。

どういうことだよって思う。どういうことだよ。しかも動く。どういうことだよ。

まだ死体とかダイレクトに子供の幽霊とかいたほうが怖くなかったけれど、このベニヤ板が得体知れない極まって怖かった。

そしてその翌日に訪れる女性と、最後に明らかになるちょっとぞっとする展開。どういう、ことなのだろう。空室に憑いた子供の幽霊が母親となる女性を求めて毎日もしゃもしゃ食っているということなのだろうか・・・。

あ、あと、人型のベニヤ板・・・。

昨日Gyao!で見た、水曜日のダウンタウン「30-1グランプリ」ジェラードンの2回戦目のネタを思い出した。海野はよ戻ってこい。

 

 

「俺が行く」pp.194-199

男子中学生達の帰り道、踏切前に黒い高級外車が一台とまっていた。そこにはひとりの老女が乗っていて・・・?

「お願いだから、線路に横たわってくださらないかしら」p.196

これも謎が深い一篇。え?老婆は幽霊だったってこと?にしては妙に実体伴いすぎているし、でも幽霊でないと説明がつかないような出来事が起きている訳だし。

うーん。

要するに老婆の孫か子供か中学生くらいの時にその踏切で亡くなってて、そいつの供養のために誰か死んでくれないか?といったことなのだろうか。「蹴飛ばした花束から白い花びら地面に散った」p.198とあるように、その踏切で誰かが死んだのは確かなようだし。

あとなんとなく、なんとなくだけどほのかにエロスを感じる。

 

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裏表紙色ついてるの珍しい。

以上である。

我妻氏の集めた実話は余韻のある謎を残す話が多くって、自然と僕達は名探偵○○○になってしまう。だからこそ、面白いんですけど。

ただまぁ収録本数が少なかったのもあって、刺さった話は1-2巻と比べると少なくなるが・・・ページ数を見てもらうと分かるが、特に後半は響く話があんまりなかったかなぁ・・・。

それでも「気づいたら読み終わっていた」、そこは変わりない一冊だった。

 

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1-3巻揃えるとライブ会場になる。
「とうとい・・・」とか言って泣いてるやつ、全力でコールしてるやつ、
手だけ挙げて盛り上がる奴をやってるやつ。

 

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「FKB」は平山夢明先生が編纂した書籍という意。
竹書房文庫の初期作品はだいたいこのチーム?団体?がついてる。

 

***

 

LINKS

キキララ草紙、奇々耳草紙の1-2巻の感想。

 

tunabook03.hatenablog.com

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20220415 同じく記事自体を書いたの半年以上前。

どうでもいいんだけど、本シリーズは全五冊ですが「奇々耳草紙」と正式なタイトルをかけている記事は一つもなかった。呪いか?

 

 

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我妻俊樹『奇々耳草紙 呪詛』-ペット霊園。-

 

 

 

🎈

 

🤡

 

 

 

 

ピエロはにっこりと笑って風船を一つ手渡してくれた。

p.94「赤い風船」より

 

 

 

 

 

一気読み実話怪談2冊目。

 

 

 

我妻俊樹『奇々耳草紙 呪詛』(竹書房 2015年)の話をさせて下さい。

 

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【概要】

不安と恐怖が腸(はらわた)を捻じりあげる!

帯より

 

日常の歪みと暗黒の隙間から覗く誰ともわからぬ視線の先、そして大きく開けられた口からとめどなく響くのは呪いか嘆きか・・・・・・。我妻俊樹が放つ、奇妙でよじれた怪異の断片をまとめた実話怪談集。

つきあいのない女が住んでいる隣室で、いきなり壁を殴る音が響きだすのだがその正体は?「腕が垂れる」

左目より一回り大きな右目だが、視力が極端に低い。それは毎朝会う女がやってきて・・・「女と右目」

父親の形見の時計を間違って捨ててしまった。

そんな折、疎遠だった母親が突然やってきて時計をを見せろというが・・・「父の形見」など全64篇収録。

ふと我に返った途端に襲ってくる悪寒と鳥肌、我妻ワールドを堪能せよ。

裏表紙より

 

【読むべき人】

・「梨.psd」先生の怪談などが好きな方

・不思議系の実話が読みたい方

 

 

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よく見ると、表紙に帯が描かれています。新しい。すぐやめたのか、この仕様は本書だけ。

 

 

【感想】

本シリーズ1巻で述べたように、メルでカリって5冊一気読みしたうちの2冊目である。「呪詛」だって。いい感じ。

表紙もよく見たら、捻じりあがった腸が描かれていて、「よっ!!いいぞ!!竹書房!!」となった。

表紙の人もそう言ってんのかもしれない。

 

 

 

 

 

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表紙の人「よっ!!いいぞ!!竹書房!!」

 

 

 

気付けば実話怪談系は、竹書房文庫(現在は竹書房怪談文庫)が圧倒的になっちゃいましたね。平山夢明黒史郎等著名な怪談作家が参加しているのが強い。その上「これは」と思った作家には何冊も書かせることで、神薫・小田イ輔・つくね乱蔵そして我らが我妻俊樹のように、中堅どころもしっかり固めつつあるのが強い。

一昔前は角川春樹事務所「ハルキホラー文庫」が結構このジャンルでは幅を利かせていたと思うんだけど、今はもうすっかり鳴りを潜めてますね。

角川ホラー文庫も中山市朗「怪談狩り」シリーズ、黒木あるじ「全国怪談」「無惨百物語」等ありますが、ホラー小説がメインですよね。実話怪談もうちょっと出してもいいと思うんですが・・・・。

まぁ実話怪談界で竹書房が天下とってるのは、気合でしょうね。気合。

というのも、角川ホラー文庫」「ハルキホラー文庫」に対して、当時は竹書房文庫」竹書房の文庫レーベル全体で、この実話怪談に取り組んでいるんですよね。

出版社の片手間のホラーレーベルとは訳が違う。

ていうか自社の文庫全部実話怪談。今は竹書房怪談文庫」と名前が変わっているものの、毎月刊行されるのは実話怪談文庫本ばかり。

冷静に考えるとなかなか頭おかしいので、ポプテピピック然り爆破されて当然の指定暴力団竹書房なのである。

ちなみに、そんな暴力団が主催する、実話怪談を毎月募集する「怪談マンスリーコンテスト」があり、過去のグランプリ作品が数多く掲載されているのだが、良作多くて良いです。ぬるいネット怪談に飽きた人にはおススメ。最近で面白かったのは、歳末の魚屋の風習の話かなぁ・・・。

 

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以下簡単に、特に良かった実話怪談とその感想を述べておく。

ネタバレも辞さない。

一番ぐっときたのは「ペット霊園」。圧倒的。

次点は「歯医者へ」

 

 

「シンク下」pp.22-23

徹子さんはシンク下で発券した大きなゴキブリの死骸を片付けられなくて、何日も見ないふりをしていたら夢にゴキブリが現れた。p.22

その夢がシュール過ぎる。どういうことやねん・・・。

しかもゴキブリと握手するとか、どういうことやねん・・・。

からの目を覚まして迫りくる鮮やかな現実の怪異が、強く心に残った一編。

要するに死体の後始末も人間に任せたいってことでしょ・・・?そんな最後にどうでもいい「ありがとう」みたいな恩返し、いらんねん・・・。

とにかく家はいらないで欲しい。それが君に出来る最大の・・・「ありがとう」やねん・・・。

 

 

「歯抜け」p.58

勝治さんの部下だった男は酔っぱらって行きずりの人間と喧嘩した翌日、出勤してくるとはが五本くらい亡くなって酷い顔になっていた。p.58

からのまさかの結末。

この実話自体、話の重要な部分が「歯抜け」しているような印象を受ける。

その分、1ページにも関わらず僕に強い打撃を与えた一編。一体どういうことだってばよ・・・。要するに行きずりの「人間」じゃなかった・・・ってこと?

 

 

「炎昼」pp.81-82

末に遊びにいた姪の顔を思い出し、あの子と同じくらいの子かもしれないと胸が痛む。p,82

から、恐らく怪異に襲われたのだろう。寂しいから、自分を気にかけてくれた人間にふっと寄り添いたくなっちゃったのだろう。展開自体はよく分かる。

その「寄り添い方」が、結構独特で、不気味だった。物理的にもツイてっちゃうんだ・・・うわあみたいな。

けれど結末の、ささやかなる微笑ましさには、ほっとする。我妻先生にしては珍しい、ちょっと感動系の一篇。

あと「炎昼」というタイトル秀逸だと思った。クソ暑い真夏の日中が用意想像できるため。

 

 

「赤い風船」pp.94-98

砂場で遊んでいると、少し離れた場所に、色とりどりの風船を頭上に雲のように浮かせている人が立っていることに気づいた。p.94

エドワード・ゴーリー。IT。

のような、ロマンチックなピエロ像がざらりとした感触を残す実話怪談。やっぱピエロに碌なヤツはいないな。ピエロには死の匂いが溢れてる。

後半、ホームレスが亡くなったことが明かされるが、やっぱりその人はピエロなんかではなくて、風船だったってことなんだろう。

哀しいが人が亡くなる瞬間てきっとこうなんだろうなと思う。

・・・さようならさようならありがとうありがとう、おげんきで。

ピエロの手を離れて、ふわりと飛んで、遠く遠く、小さく小さく、風船が姿を消すまで少年は、ずっと目を離せなかった。

 

 

「足を落とす」p.99-100

終電で帰って来た市雄さんが近道をしようと思って夜中だし、ばれないだろうと畑の中の道でもないところを突っ切ろうとしたら、何歩目かで右足がずぼっと土中に落ち込んでしまった。p.99

からの、後半の展開には思わず合宿免許、ワオ!!になった。

2ページだからこその鮮やかな切れ味の実話怪談。まぁちょっと汚い逆シンデレラと思えば・・・まぁ・・・。

「詰まっている」p.100と、最後の一行が現在形なのも良かった。

 

 

「池のほとり」pp.108-111

夜、滋郎さんが池のほとりの遊歩道を散歩していると対岸に青白い火の玉が浮いていた。p.108

意味が「わからない」ように書かれているが、要するに女の幽霊が、滋郎さんにホの字という話なんだと思う。誰だって自分の顔が浮かぶ火の玉をじっと見ている異性がいたら、意識せずにはいられないと思う。だって火の玉、ってことはある意味裸より裸ってワケだし。

「あれは私です、」p.111ってわざわざ教えてあげたくなるのは当然の理、とも思える。ある意味わざわざ脱いでるわけだし。

 

 

「ひげ人形」pp.119-121

その際夢にその〈ひげ人形〉にそっくりの男が現れ、しつこく求婚されたのだという。p.119

奇妙な人形の奇妙な話。僕も個人的にドールが趣味なので、とても印象に残った一編。

何度も求婚したり、「ごめんね」とでも言うように姿を変えてわざわざ指輪を持ってきたり・・・行動もどこかユーモラスで愛らしい。

にしても気にかかるのは、人形を捨てた日の夜に、土下座して非礼を詫びて殺すのだけはがまんしてくれ、と泣かんばかりの声でp.120訴えたこと。

やっぱり目と口があるものは、少なからず魂があるものなのかしら。捨てられたくないと思うものなのかしら。〈ひげ人形〉のひげの毛が、本物の人間の毛で、そこに魂が宿っていた、という可能性もなきにしもあらずですが。

 

 

「ペット霊園」pp.131-139

単身赴任先で、散歩をしているとよく道を聞かれた。美術館への道も多かったが、ペット霊園への行き方を聞かれることも多かった。しかし近くにそのような施設はない。帰宅するとポストに入っていた投げ込みチラシには以下のように書かれていた。

〈ペット霊園建設中〉p.133

本書の中で一番怖いし一番好き。比較的長めではあるが、紙幅を割く程の価値がある実話だと僕も思う。

まず〈ペット霊園〉というのが怖い。墓じゃなくペット。墓建設中だったらダイレクトに怖いけど、ペット、というところが絶妙に距離感があって気持ちが悪い。

そして単身赴任先にも、家族が住む自宅にも同じ旨のチラシがポスティングされる現象。人間なのか幽霊なのか生きているのか死んでいるのかマジかイタズラか。相手の実体自体がいきなりつかめなくなってそれも怖い

終盤もびっちり恐怖は続く。体験者が飼ってきたペット・・・猫3匹犬1匹、金魚とミドリガメ、全て短期間で行方不明になっている。ええじゃあ相手は幽霊なのか。何なのか。

不気味な上に深まる謎。

凄く好きな一編。

投げ込みチラシ、見ずに即座に棄ててるけど、こんなことも起こりかねないからやっぱり見ていた方がいいよね~。

 

 

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「二十歳の死」

信介さんの高校時代の親友Kは二十歳のときにバイク事故を出なくなり、その一年後の同じ日にKのおとうとがやはりバイク事故を起こして二十歳で亡くなった。p.144

法要後のファミレスの集まりで、其処に参加していた霊感の強い久保という女子が、この現象について語ることには・・・。

頼む!!なんちゃって霊感であってくれ~~~!!を祈らざるをえない一篇。「お前の親友死後こうなってるで!!」と言われる話なのだけれど、その姿がなんとまぁ・・・。

有名なネット怪談「あなたの娘さんは地獄におちました」もそうだけれども、こういう大切に想っていた人が死後××になりましたよ~系って独特の後味があるよね。

そーいう話、凄い厭だ。凄い怖い。そして多分凄い好き。

でも絶対体験したくない実話圧倒的ナンバーワンですね・・・・。

 

 

リュウジの家」pp.163-164

三十年ほど前、菱野さんが子供の頃、友達のリュウジの家に電話を掛けたら知らない人が出た。p.163

何だよ・・・ほのぼの系かよ・・・好きじゃないけどまぁ嫌いじゃないぜ・・・からのまさかの後味の悪さにええ・・・になった。

ええ・・・どういうことやねん。

声の主はてっきりリュウジの亡くなった父親かそれとも先祖かと思ってた矢先の出来事だから、あまりの落差にクラクラした。ハッピーエンド、とみせかけて・・・・系は何度読んでもいいものですね。

 

 

「プレハブ」pp.165-167

絶望した美穂さんがバーで泥酔して店員に愚痴っていたとき近くにいた若い男が「よかったらここに行ってみてください」と紙を置いて店を出て行った。p.165

我妻先生にしては珍しくけっこう直球にホラーな一編。最後までひえっ・・・となる。にしても何でマネキンはこんなにも怪奇現象と相性がいいのか。

どこで愚痴をこぼしたら、このプレハブ小屋に行けるのだろう。主人公のように、再訪する愚行は犯さないから、どうやったら行けるのか知りたい。

あと、絶対これ、「あなたの上司は地獄に落ちました」ね・・・。

 

 

「犬を叩く」pp.170-171

理不尽な上司と顔そっくりの犬が夢に出てくる。叩いてイジメていると翌日ケガをして出勤してきた。

終盤がとてつもなく怖い一篇。

夢、というのは一番身近にある宇宙。

毎日体感する宇宙。

しばらくネット怪談界では「猿夢」が胡坐をかいてましたが、もっともっと面白い夢怪談出てきてほしいわね。

あと、どうでもいい話ですが、夏目漱石夢十夜」読みてぇ~になってからかれこれ10年たとうとしています。

 

 

「上陸者」pp.172-173

海岸で遊んでいたら、海からボロ布をまとったような人が「上陸」してきた。その正体は。

正体、意外だった。絶対人間か妖怪化と思ってた。違った。というか人間食べたらそんな知恵がつくってたまったもんじゃないな。

あとこの前読んだ漫画。田口翔太郎「裏バイト 逃亡禁止」水族館の話思い出した。ざっくり、あれの実話版って感じ。

 

 

「魚はない」pp.185-189

来年喜寿(七十七歳)を迎える篤夫さんが中学生の頃、四つ下の弟とと近くの川へ遊びに行った。p.185

こちらはカラスヤサトシ「いんへるの」風実話。ひょおおおひょおおおお。

こういう妖怪譚実話は単純に興味があるので、とても印象に残った。僕も是非こういう日本古来の現象と遭ってあわよくばその恩恵に授かりたいものだけれども、なかなかどうして遭遇しない。やっぱり令和にもなると、時代と共に消えていくのかしら。

まだ山に、この魚を求める妖怪は、いるのかしら。

ひょおおお。ひょおお。

ちなみに「いんへるの」そういえば2巻!!と思ったら、まさかの電子書籍でしか出てないという・・・どうしてや!!!講談社!!!どうしてや!!!!講談社ァ!!!!

「裏バイト」「僕が死ぬだけの百物語」とホラーを小学館が席巻していて悔しくないんかぁ!???

 

 

「山間の町」pp.190-191

「何だかここの牛、みんな怖い顔だな」p.191

北海道を思い出した。

僕の父親の実家は北海道の北部の田舎町で、そこまで行くのにフェリーの港がある苫小牧から、ずっと山間の道を車で走らせる必要があった。。度々町っぽいものが現れてはまた山になり、町、山、人里・・・といった具合。道路は太く一本線で父はそれをただひたすら真っ直ぐに走らせていく。

時々一気に山が拓けて、牧場が見えることがあった。そこには悠々自適に牛が放たれていてもさもさと草を食べている。

その牧場のはるか遠くに、この話同様紫色の奇妙な建造物が見えても、おかしくないな、と思った。

15歳の時に祖母が亡くなってから、北海道に家族で行った覚えはない。今もし家族で行くならば、60近い父親ではなく自動車のディーラーになった妹が運転担当するのかもしれない。

怖い、よりかはちょっとノスタルジックな気持ちになった。

 

 

「歯医者へ」pp.195-207

気が付いたら山塚さんは、十年後の妻と娘と共に暮らしていた。

雑然としてそれなりにくたびれた我が家に、それなりに老けた妻と自分がいる。p.204

クライマックスに収録された奇妙な長編実話。

創作か、と思ったが、創作にしてはどうも辻褄が合わなすぎる。

だからやっぱり、実話ベースなのか、と思ったけれども、現実にしてもどうも辻褄が合わなすぎる。

途中記憶があいまいになり、何ルートかに記憶が分離したようではあるが、主人公が感じたその奇妙な感覚がそのまま、読者の肌にぞぞぞと這う。

歯医者へ。

歯医者へ行けば、全てがわかるかもしれない。

歯医者へ。

歯医者へ行けば、今の辛いこの現実も早送りできる?

歯医者へ。

歯医者へ。

 

 

「漫画を捨てる」pp.211-219

克之さんのお姉さんは七歳年上で、彼が中学生のときには結婚して家を出ていた。p.212

その姉が置いていった漫画にまつわる一篇。ラスト。恐らく呪われたのは主人公ではなく姉の方と思われる。結構怖かったけれど、主人公の優しさで物語はなんとか、まぁるく幕を閉じる。

高校時代からブックオフで、今現在は主にメルカリで、中古漫画を躊躇い無く買う僕にとってはなかなか怖い一篇だった。買ったなかにこんなん一冊でも入ってたらと思うと怖すぎる。というか、たまった蔵書自体も迂闊に捨てられないじゃないか。

一度、300冊余りをブックオフに総て売ったことがあるけれど、やっぱりブックオフの海ですくった漫画はブックオフの海に還すのが正解なのかもしれないな。

 

 

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腸を捻じり上げる、とありますが、多分これが腸(はらわた)?

 

以上である。

なかなか今巻も面白かった。

特に後半に、面白い話が詰まっていた印象。特に本書は「赤い風船」「ペット霊園」「歯医者へ」と鮮烈なイメージを残す週稲奇妙な話が多かった・・・と思う。

前半は「おや・・・やっぱ一巻が至高ってやつか?」と思ったら全然そんなことはなかったでござる。

 

 

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1巻と2巻並べると、なんだかいちゃついててとてもいい感じ。
ぜってぇ本書は「大好きだよー!!!」とか叫んでると思う。
それを無視する1巻・・・。
もうこれ半分ラブコメだろ。

 

 

***

 

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前巻

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我妻先生の参加されてる瞬殺怪談シリーズの感想

tunabook03.hatenablog.com

 

 

文中で上げた漫画の感想

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20220413

半年以上前になりますね・・・記事書いたの。寝かせすぎだろっていう。

「ペット霊園」は、副題そのまま掲載しましたが、このシリーズ(全5冊)を通しても一番好きな怪談です。我妻先生の作品の中でもトップ3に入るくらい。

本当に怖い、というか不思議、というか底知れない、というか。

これが掲載されている、という一点のみで本書は特におすすめ。

我妻俊樹『FKB怪幽録 奇々耳草紙』-分からないは怖い。-

 

🥕

 

あーこれが現代の「にんじん」ね。

童話でにんじんって少年が出てくる話あるけど、あーまぁ現代日本人だと赤毛ってなかなかいないからね。

まーそうなるよね。

 

 

 

我妻俊樹『FKB怪幽録 奇々耳草紙』(竹書房 2015年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

奇妙で不可思議、そしてじんわりと迫る闇と怪。独自の怪談を紡ぎ続ける我妻俊樹の新シリーズ第一弾。

夜中に突然止まりに来た友人の不可解な話と衝撃の事実「イキシチニヒ」、バイト先のコンビニによく来る美人女性、ある夜道端で会ったら汚れた花瓶を渡そうとしてくる・・・「花瓶」、乗り合わせたタクシー運転手の奇妙な独白「カリントウ」、雪道に倒れている人を見つけたら・・・・・・「雪案山子」、大学へのバスに乗り込んでくるお面をかぶった老人の謎を明かそうとする「面の歪み」など67編。

零れ落ちる怪異の欠片はあなたの周りにも満ちている。耳をすまして聴いてごらん・・・・・・。

 

裏表紙より

 

【読むべき人】

・面白い実話怪談が読みたい人

・小説に近い実話怪談が読みたい人

・どこか「世にも奇妙な物語」、不思議テイストがある実話怪談を読みたい人

 

 

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【感想】

この前読んだ「瞬殺怪談」で、圧倒的に好きな話が多かった書き手・我妻俊樹氏のシリーズが五冊全巻まとめて、メルでカリられたので、ポチって、買いました。

そして届いた瞬間開封即読破。届いた翌々日には五冊総て読んでしまった。

そして確信する。いやぁ・・・滅茶苦茶好きですね。この人の、実話怪談。

 

我妻俊樹氏を知ったのは、「瞬殺怪談」シリーズで・・・という訳では無い。

てのひら怪談というシリーズで知った。

約2ページ余りの怪談を毎年募集するコンテストの優秀作を掲載するシリーズである。僕の高校時代、だから約10年前くらいに5回程開催された。東雅夫氏が主宰していて、くわえて加門七海氏、福澤徹三氏等が審査員に名を連ねた。

基本的に面白い作品が多かった。黒木あるじ氏、黒史郎氏等が当時そこに名を連ねていた・・・と記憶している。実家に帰って見てみないとちょっと断言できないが。

でもまぁとにかくその頃からすでに掌編短編大好きだった僕は、毎年7月くらいに出るシリーズを楽しみにしていた。

ちなみに5冊程出たなかで一番好きな掌編はネバーランド叙述トリックの怪談もので、衝撃の後半と、独特の世界観にハッとさせられた。一体どんな人が書いているのだろうと巻末の著者の肩書を慌てて見たらその人だけ「無職」でガーンとなった覚えがある。リアルネバーランドかよ。

 

そのコンテストに参加していた一書き手に、我妻俊樹先生がいた。

だが正直僕は彼の作品が好きではなかった。

どうもポエムが過ぎるのである。詩的表現過多。

怖さよりなんかポエム、という感じ。怖くないのがほとんどで、毎巻彼の作品が収録されるのに疑問を抱いていた。

唯一面白かったのは・・・確か同性愛者の男が片想いしている男の子供を受胎する掌編。あれは面白かったけど・・・でもあれ書き手が我妻俊樹先生かどうか断言はできず実家に帰らないと以下略。

 

けれど、そのポエマーな性質が、「実話」をベースにするとちょうどいい塩梅になるのである。

実話、だけれどどこか不思議、だけどいつ僕等の身におきてもそれは不思議じゃない。

ただ幽霊が出てきておどろおどろしい、ただ基地外が出てきてグログロしい、そういう実話とは一線を画す。

不思議系実話。

幽霊でもない、ヒトコワでもない。

ちょっと「不思議」系、「奇妙」系。今風に言えば「異世界」系。

控えめに言って「サイコー!」だった。「サイコー!」。

 

この作家の特性は恐らく、完全なるフィクションではなく、ノンフィクションを描いてこそ、輝くものがあると思う。

 

 

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以下簡単に、特に印象に残った実話のあらすじと感想を毎度のごとく書いていく。好きなのは「ラーメン」「不在票」。ネタバレ辞さないので注意。

 

「ラーメン」pp.33-38:巨漢の友人加賀谷とドライブしていたが、気づいたらラーメン屋にいた。

「そういえば、おれたち何でラーメン食ってるんだっけ」p.33

太った友人、加賀谷が二人、しかも服を脱いで出てくるところが衝撃だった。なんで脱いでるんだよ。しかもまぁデブの男の裸であるからなかなか、まぁその気持ち悪いのである。ラーメン屋だから間違いなく臭いし。

それを上品な文体で書いているギャップがなかなか面白かった。

後半の唐突な結末と、そして最後の一行も良い。

つまり、こっちの加賀谷で正しかったのだろう。p.38

 

 

「ラジカセ」pp.39-41:地元の地下街の一角で、奇妙なものを見た。古くて大きいラジカセが7-8台輪をなすように置かれている。

怪異の主役が「ラジカセ」かと思いきや、え、そっち!?になった。

完全に予想外。

「ラーメン」の次に収録された作品であるが、同じく最後の一行が鮮やかな一編。

 

 

「菊耳」pp.57-58

マチコさんは一人でバスを待っている時にふと「菊耳」という言葉が頭に浮かんだ。p.57

日常のふとした瞬間を切り取ったかのような掌編。前の二つと比べるとだいぶリアル度が高い。だからその分、最後の胸騒ぎが妙にリアル。

所謂直感・デジャヴを扱った作品である。僕もちらほらそういった経験がある。「あ、邪悪なものが今事務所にいるな」と思ったら職場のクソババアがいたりとか。

こういうの磨いていったら人生拓けそうな気がするんですけど、どうなんですかね。

あと、「マチコさん」と主人公が明確に女性なのも良かった。「高橋さん」とか「Fさん」とか苗字やイニシャルだと女性かどうか途中まで分からないこと多々あるので。

それにやっぱ女性のが、僕含め直感だとかシックスセンスだとかこういうの、優れていると思うので。主人公が女性だからこそ、生々しく感じられた。

 

 

「カリントウ」pp.71-85:転がり込んだ彼女の家には、祭壇があった。

トイレの神様」っていう歌が流行ったことがありましたが、まさにそれですよ。トイレにほんとうに神様がいたんです。p.74

吉祥寺を舞台にしたちょっと長めの実話怪談である。新興宗教モノ。ちなみにこの「カリントウ」というのは、その彼女が崇拝する神様の姿を現す。あくまで「う○こ」と表現せず「カリントウ」と表現するのはやはりそこは、神様だからだろうか。

この「カリントウ」関連で起きる現象がなかなか辻褄が合わず不気味で厭だった。たまたまだったのに、一生ついてくるとか厭すぎる。あと発生の経緯も厭。

こういう、「厭な宗教」って日本にいったいどれだけ実在するのだろうか。ヤオヨロズの神様がいる分、また日本国憲法で「信教の自由」が保証されている分、なかなかナイーブな話題であるが、そういったところにずかずか踏み込んだ書籍があったら是非読みたい。

うんこきょ・・・カリントウ教というのが衝撃の一遍。

 

 

「指輪」p.104

貴也さんが二年くらい前に上司に連れられて高そうな店で吞んでいたとき、店の女性たちのそれぞれの肩の上に指輪だらけの皺の多い女の手が載っているのが見えたという。p.104

え、その店の霊だったってこと?それとも守り神?

いやいや、それとも貴也さんの守護霊とか?

後半はえっ!!??となる展開で、ますます手に関わる謎が深くなる一編。

この話もそうだけれども、我妻先生の実話怪談は後半至極あっさり予想を裏切って来るので、その切れ味がいいですね。予想GUY・我妻。

 

 

「自撮りと無縁墓」p.106-111:出会い系であった男はまぁまぁ好みではあったが、着信画面がキメ顔の自撮りであり・・・更に携帯の画像フォルダには無縁仏の写真がたくさん入っていて・・・。

「ね、おもしろいでしょう?今度現地に連れて行ってあげるから楽しみにしてて」p.108

いやいいです・・・な一編。

ただ後半の、かかってくる不気味な電話や、明らかになるホテルで起きた事件、そして別の場所での男の目撃譚など・・・。妙に繋がりそうで繋がらない。怖い。

そもそも男は生きている人間なのか。幽霊なのか。何なのか。

僕は憑かれた人間ではないかと踏んでいる。だから、無縁仏にナチュラルに執着するし、男自体見える人見えない人が出てきているのではないか。

ホテルで死んだ女と痴情のもつれがあって、その女に憑かれているのではないか。

いやぁ・・・でもちょっとキモい「自撮り」といい、もともとの人間性がなかなか気持ち悪そうだけれども。でもぶっとんでる人間って結構そこらじゅういっぱいいるからなぁ。

 

 

人造湖」p.116-122:湖で彼女といちゃついていると、皺の無い人々が二人の元へ寄ってきて・・・。

単に若いというのではなく、顔立ちはむしろ老人的でもあるのだが、肌が不自然にぴんと張っていてメリハリがなかった。p.117

この後、人生に地味な不幸が降り続けるのがなんか不気味で怖かった。遭遇しただけで不幸になるとか代償がデカすぎる。そしてその場に一緒にいた彼女・・・元カノの意味不明な行動も・・・。

恐らく会ってはいけないものだったのだ。でも会ってしまった。ということは読者僕達もいつこういう現象と遭遇して、不幸な人生歩むことになってもそれはおかしくない、ということになる。それが怖い。

そして最後のまさかの展開も不気味で怖かった。元カノ、絶対最期湖で入水自殺して死にそう(小並感)

 

 

「相部屋」p.139

会社の新人研修の夜、金縛りにあった末男さんは同室の新人が寝言を言いながら起き上がって取れナース型で部屋を出ていくのを見た。p.139

ええ・・・になる一編。ええ・・・。

別人と入れ替わる系は結構見て来たけれど、それが14年前の出来事でそのままずっと続いてきたという現象が気味悪い。しかも仕事できるんかーいっていう・・・。

僕が知らないだけで、僕の身近な人は結構入れ替わっているものなのかもしれない。

もしくは、今日の僕は昨日の僕と同じ人間か・・・?というと小林泰三「酔歩する男」問題になってくる。

 

 

「達磨」pp.143-147:達磨の願掛けに憧れた少年は、カブトムシの雌で代替して願を掛ける。結果・・・。

部屋に持って帰って、爪きりで足を一本ずつ根元から切った。p.144

最期の虫の死に物狂いの怨みが凄まじい一編。やっぱ虫も生きてるんだよな。人生、らしからぬ虫生馬鹿にされるようなことがあったらそりゃあ恨むよな、って思った。

罪の意識から来る幻覚か?と思ったら明らかに、祟り現象起きてる描写があるのがなかなかポイント高いですね。

あと、子供特有の虫に対する残酷さ。実話怪談等でも時々見ますけど、何回読んでもやっぱこういうことってするもんじゃないなって思いますね。虫も生きてる。無駄な殺生は、やめよう!!ただしG、おめーはダメだ。

この話も、最後の締めの言葉がなかなか良い。

当時主人公の母親は長く入院していたという。しかしその治癒を「虫達磨」には願わなかった。

そういうことは、虫なんかに願掛けちゃいけないって思ったんじゃないのかな。

バカな子供なりにね、わきまえてたんだと思いますよ。p.142

 

 

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「踏切に立つ」p.157-160:全裸の幽霊目撃譚。

僕思うに、この世には二種類の霊がいると思うんですよ。

一つはシンプルに死んで思いが残って現存している幽霊。所謂一般的な幽霊。ひゅーどろー。うらめしやーとか言ってるのはこのタイプ。

もう一つはどこかで拗らせて、怪物的存在となった幽霊。例えば「不安の種」に出てくるあれこれとか。悪魔とか。

じゃあ、何が要因で死後どっちかになるか決まるのか、というと・・・なかなか難しいけれど、それは「天に召されるべき」「地へ落ちるべき」の違いじゃないかなぁ・・・とも思う訳です。すると後者は尚更触れたくない、さわりたくないものでして・・・。

と、僕の中の下ヨシ子が言っております。

そしてこの話に出てきた霊は後者だった。それにすぎない話だと思います。

 

 

猫カフェ」pp.163-165:自分だけ、猫カフェの猫が小さな狛犬のようなものに見えて・・・?

恨みつらみ憎しみ・・・恐らくひんどいことがあったんでしょうね。恐らく猫に対する残虐な行為が。カフェでそれが現在進行形で行われていた可能性すらある。

そしてその業が積もりに積もって、その土地に穢れをもたらした結果の現象だったのではないでしょうか。

と僕の中の下ヨシ子が言っております。

犬より圧倒的に猫の怪談が多いのはあれなんでだろうね。

 

 

「年賀」p.166-167:不気味な、差出人不明の年賀状が届いたよ!!

書いてある文面がとにかく怖い。意味が分からない分余計に怖い。ストーカーだったってこと?5000円わざとトイレに落としてずっと遠くからそれを見ていたってこと?それとも幽霊?いややっぱ糖質的ストーカーの仕業?

謎が多くて厭な一編。こんなんめでたくもなんもないし、何ならこれが届いた年は厭なことが起きそう。年賀らしからぬ年禍。

 

 

「膝枕」pp.182-185:隣の部屋から、女の声で呼ばれている。行ってみると、そこには見たことない男に膝枕された母親がいて・・・。

男は髭の剃り跡が青くて何だか顔がぬるっとした印象だった。p182

え~どういうこと~?となる一編。え~どういうこと~??

しかもトラウマ必至な現象なのが嫌だ。主人公の少女は当時12歳。この「男のようなもの」が明らか少女を「女」として観ているような動きをしているのも気持ちが悪い。

その後母親がマンションから落ちて亡くなっていたら、現象に理由がつきそうだけれども、母親どうやら健在っぽいしなぁ。

逆に主人公のような見える少女の存在が、母親の死を食い止めた可能性すらある。

ちなみに実写化ならワッキー希望。

 

 

「病院公園」pp186-195:古い病院の横にあったから「病院公園」と呼ばれていた公園。その公園にはホームレスがいて、時々色のついた綺麗な石を見せてくれた。

ただ、すべり台に貼られた注連縄のことはなぜか語られた記憶がないという。p.194

ホームレス、すべり台、そして青い服を着た女・・・等、我妻先生特有の「分からないが怖い」が極まった比較的長めの実話怪談。

この話を読んで、「え??要するにどういうこと??」ってなったら我妻俊樹先生の実話怪談は残念ながら合わない。けれど、「え、わかんないけどこわー」となったら我妻先生の怪談は一話一話一つ一つ君の心の薄暗い部分をくすぐるように突くだろう。

終盤のクライマックスにして、最も著者らしい実話怪談・・・だと思った。

 

 

「不在票」pp.196-197:宅配便の配達員が、いくら声をあげても、気配がするのに表になかなか出てこない。

「ここがぁとなりがぁ、きのつけたれぇになんなる」p.191

本書の中で一番怖い一編。なかなか出てこない部屋から来るのか来るのか・・・!?と思ったら、まさかのそこからかよ!!っていう。

「目も鼻も口もないニンジンのような真っ赤な顔」p.198とその正体が書かれているが、もうこの数文字でゾッとする。開いたドアからにょっきと覗く。あるべきところがない。切れ込みだけがあるような・・・。

そいつと出くわさないようにタイミングを計っていたから、なかなか住民も出てこなかったのか、なるほど。道理でね。と妙に納得がいくのも良かった。

瞬発力といい、展開といい、どちらもバランスが取れていて、本書の中で最も優れた実話怪談だと思う。

 

 

「妹の恐怖」pp.202-205:

栗田君の妹は人見知りだが、ある日外出先の交差点で信号待ち中、しらないおじさんに駆け寄ってすがりつくうようにして話しかけていた。p.202

縁、というか、運命、というか・・・初めから妹が大人になった時に事故に遭うことが運命づけられていたのかと思うと、なかなか怖かった。

「お、おじさん殺人犯なのか?」「お、おじさんが事故起こした車を運転していたのか?」の予想を鮮やかに裏切って、少し遠いところにひらりと見事に着地する実話。

まぁ実話なんで、「事実は小説よりも奇なり」、予想を裏切るもクソもないんですけど・・・。

 

 

「息子の友達」pp.213-217:7歳になる息子が毎日のように友達を連れてきた。名前はシンくんというが・・・・。

「ああ分かった。殺されちゃった子のことか」p.216

ページをめくって一行目にこの言葉があったのでむぎゅっと心を掴まれた気分。むぎゅっ。まさか死んでるとは思わなかったから。

そして明らかになる息子との記憶の相違・・・。多分シンくんは姿を消さなきゃいけないことが分かっていたけれど、どうしても出来た唯一の「友達の家」に自分以外の子を入れたくないから、そういう悪戯をしたんじゃなかろうか。

見方を変えるとちょっと泣ける実話になるけれど、スパッと恐怖心を衝くような見方で展開させているのが良かった。感動系の実話怪談程クソはないからね。

 

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福耳すげぇ。



 

以上である。

なかなか読み易くて面白い実話怪談集だった。

結構「わからない=怖い」と捉えて書かれている作品が多いので、合わない人は合わないかもしれない。けれどそこが合えば絶対面白いと思う。

最近「わからない=怖い」で有名なのは、梨.psdさん。

今までは、「わからない=怖い」を、辻褄が合わなくなった展開・怪異の正体が思いつかなかった苦肉の策、と言った具合で「逃げ」に使う書き手が多かった印象がある。現象にしか焦点を置かず要因は二の次、みたいな。

けれど梨先生は「わからない」を「逃げ」に使わない。むしろ徹底して読者が「何がわかって」「何がわからないのか」を計算して書いているような印象すら受ける。

恐らくそれはSCPという土壌があったからそういう怪談に行きついたと思うのだけれど・・・。

梨氏、程ではないが(失礼)、我妻氏の実話怪談も「わからない」を逃げに使っていないからこそ、こんなに面白いのかな、って思った。

 

 

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まだ「竹書房文庫」時代の書籍ですね。

 

***

LINKS

瞬殺怪談シリーズはいろんな蒐集家の話を読めて、好みの蒐集家が分かるのでおススメ。

 

tunabook03.hatenablog.com

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20220412 長年放置していた感想記事をようやっと挙げた。半年以上は立ってる。けれど、どの話の感想読んでも明確に思い出せるんですよね。この後我妻氏の単著実話怪談本は全部読みましたが、このシリーズが一番読み易いかなとは思います。無論他2シリーズも最高ですが。

 

 

小川洋子『いつも彼らはどこかに』-【錠剤:ピカレスクコート】5錠-

 

 

・・・抱きしめる。

 

 

小川洋子『いつも彼らはどこかに』(新潮社 2016年)の話をさせて下さい。

 

 

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【あらすじ】

たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。

深い森の中、小さな派手大木と格闘するビーバーのように。

絶滅させられた今も無亜のシンボルである兎のように。

滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。

ーーー動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。

気が付けば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。

裏表紙より

 

【読むべき人】

・大人向けの童話が読みたい人(現代日本が舞台の「帯同馬」を除く)

・寂しい人

・愛することを忘れた人

 

 

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【感想】

本書の存在自体はもともと発売当時から知っていた。

確か、「王様のブランチ」に紹介されていたように思う。ランキングだったか、VTRだったかは思い出せない。当時からもう小川洋子作品を漁って読んでいた僕は気にはなっていたが、今も昔も新品で単行本を買う財力はないので、そのまま見逃していた。

 

手に取ったのは、マネキンが出る、と知ったからだ。

マネキン、というのはスーパーの試食のおばさん・お姉さんのことである。私は1年アルバイトをして、県内の色んなスーパーを飛び回った。同じ県・同じ市といえど、いろんな街があっていろんな人がそこで生活をしていて、地域差をぼんやりと眺めるのが面白かった。たとえ電車バスで2時間以上かかる場所であろうとも苦にならなかった。

思い出深い職を、我らが大好き小川洋子先生が書いたということなので、一体どんな話なのか。めちゃくちゃ気になって文庫本をまぁその赦してくれ、一人暮らしフリーターには新品で文庫本をホイホイ変える財力がないのである、小川洋子風に言うと黄色い看板が目印のインターネットの古書店・・・まぁぶっちゃけるとブックオフオンラインで購入して読んだ。

結果、まぁ思ったより時間かかった。250ページ弱であるが、3週間くらいかかった。これくらいの長さであれば小川洋子先生の短編集であればまぁだいたい1週間あれば下手すれば2日くらいでほいほい読めてしまうのではあるが。

でも読んで良かった。

手にして良かった。

 

もう自分はずっとこのままずっとマネキンの職をやってそしてひとり死んで行くんだろう、とか、こんなにも私が想って挙げているのにこの人は私のモノにならないんだろう、とか、大切な人を失った悲しみから立ち直っても立ち直れない、とか。

「絶望」とか「悲しい」とか「辛い」とかそういう数ある日本語の、隙間に佇む複雑な感情を描いた短編集だった。

どの話もひそやかに、闇がぽっかりと空いている。

・・・静かに。

耳を澄まさなければ見逃してしまいそうな、静寂の闇。

・・・密やかに。

「いつも彼らはどこかに」。

そしてそれを黙って見つめる動物たち。

 

恐らく、小川洋子先生を嗜んだことある人は「どの短編集でも小川洋子先生の作品には闇をはらんでいるのでは?」と思うかもしれないが、本書は数ある短編集の中でも特に、深く、暗い隙を描いているように思う。

それを見守る動物達「彼ら」がいなければ、目を逸らしてしまいたくなるような。

誰もが思い当たりがある。

あの醜い。

感情。

ガラス細工のように繊細にしかし確かなる筆致で描かれているから、こんなに時間がかかってしまったんだと思う。

多分これらの短編集を小川洋子先生以外の作家が書いたら、多分僕は挫折していた。先生の美しい日本語だからこそかろうじて読めた感はある。

 

 

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以下簡単に各話の感想を書く。ネタバレも一部あり。なんか一通り書いたけど、多分本作読んでないと支離滅裂な文章のように思うけどご容赦願いたい。好きな話は「断食蝸牛」「帯同馬」「ハモニカ兎」

 

「帯同馬」

※帯同馬:競走馬が長距離の遠征を敢行する際に、競走馬の付き添いとして共に遠征をする競走馬のこと。*1

ところがある日、郊外に新設されたショッピングモールへ向うため電車に乗っている時何の前触れもなく、「このままこれに乗っていたら、自分は一体どこまで運ばれてゆくのだろうか」という疑問が、一瞬胸をよぎった。p.13

悪漢、の名とは不釣り合いに、ピカレスクコートは穏やかな目をしている。p.22

人生というのは旅だ、と教えてくれたのは筒井康隆『旅のラゴスだった。

生きるとは変わり続けることだ、と教えてくれたのは秋元康の書いた詞だった。(欅坂46「二人セゾン」

生きて居る限り僕達は変わり続けるし、移動し続ける。

母の実家がある滋賀県大津市で生まれ、静岡市A区18年間ぬくぬくと育ち、大学は4年間八王子、その後は2年間横浜にいて、静岡市A区の実家に戻って2-3年間過ごしたのちに、同じ静岡市だけど隣のB区で一人暮らしをしてもう1年半が経とうとしている。

年少のころはお花屋さんになりたかった。ウエイトレス、看護婦(当時)と夢が変わり、小学校1年の時にちゃおを読んでから漫画家を目指すようになり、画力の限界と同時にライトノベルと出会って小説家になりたいと思いつつも、しかし現実はそう甘くない。教師を志して教育実習まで行って、塾講師までなったが、もともと気づいていた。教育は違った。やりたいことじゃなかった。他を知らな過ぎた。高校大学時代もしなかったニートを1年間した後、マネキンのアルバイトを週2-3で1年間、その後一度食品小売店の社員となるもアルバイトとなって、同じく高校大学時代考えもしなかったフリーターに成り下がり、この前その小売店も退社してレンタルビデオ店のアルバイトになった。漠然と今も小説家になりたいとは思っているが作品は書いてない。

高校を卒業してから、住んでいる場所は目まぐるしく変化している。

昔から夢見た職業、就いている職業も目まぐるしく変わっている。

気付けば30になろうとしている。

僕はあんまり臨機応変に対応できるタイプではなくて、変化を好まない。

本当は、新卒で就職して其処の会社でずっと働いていたかったけど、僕内外のあらゆることがそれをさせなかったし、僕自身もそれを赦さなかった。

だからこの、主人公の女性の「このままどこへゆくのだろう」という不安は分かるのだ。分かる。

せめてずっと僕の人生に黙って、静かに、同行してくれるような存在がいたら。

それは夫とか恋人とかそういう存在ではない。他者ではない。

私ありきで存在しているような、ずっと寄り添ってくれるようなものがいたら。

ディープインパクトの飛行機移動に付き添った帯同馬、ピカレスクコートのように。

希う。

でもそういう存在はいないから、無いから、代替品≒錠剤を数粒、水で、無理やり、毎日就寝する前に飲みこむのである。

 

 

 

「ビーバーの小枝」

彼女はまるで私のことを、世界の一番遠い場所からやって来た、最も待ち焦がれた旅人であるかのように歓迎した。p.41

もう決して会えない人も、たぶん二度と会うことは無い度だろうと思う人も、骨の姿でしか出会えないものも、隔てなく私の胸の中に浮かんでくる。p.61

小説家が自分の作品を手掛けていた翻訳家の国を訪問する話である。翻訳家の息子とその婚約者が作家を出迎える。翻訳家は去年の秋に亡くなっている。

「帯同馬」の感想で、変わり続けることに対する感想を綴ったが、目まぐるしく変わる環境で生きるには、一日一日をしっかり食べてしっかり寝てしっかり働いて生きるしかない。というのが、30を目前にした僕の結論である。

食事と睡眠が生きるのに必須なのはわざわざ言わなくてもみんな分かることだと思う。実際は疎かにしがちではあるが頭ではみんな理解しているだろう。

でも働くこと。労働。これも生きるために必要なことだと思うのだ。

無論社会を回すためにであるとか社会貢献であるとか社会維持とかそういった点でも大事なのではあるが、個人単位の生存の為にも働くことは不可欠のように思う。

というのも僕達の悩み、人間関係、収入、昇進派閥云々諸々ありとあらゆる悩みは労働に起因している。恐らく僕達がそれらに逃げているのは、本質的悩みに気づいてどうにかなってしまうから。「このまま僕達はどこへゆくのか」考えると怖くなる。不安になる。恐ろしくなる。「帯同馬」でも描かれてる形容しがたい生まれついた本能的不安に押しつぶされてしまうから。発狂してしまうだろうから。

多分「帯同馬」のアンサーが、「ビーバーの小枝」だとおもう連続して収録されているのは、最優先で考えられた順序なんじゃないかな。「帯同馬」主人公の行動範囲がモノレールに限られているのに対して、「ビーバーの小枝」主人公は自信の小説の翻訳家が住んでいる外国に降り立つところから始まっている。

一日一日労働で紛らわせてしか、僕達は生きていけない。それが正規雇用であろうと非正規雇用であろうと家事であろうと育児であろうと介護であろうと何であろうと。

そうやって確かに確かに一日一日を積み上げて言うことでしか僕達は、僕達を取り巻く内外のあらゆる変化に対して対抗できない。

蠟度は無力なる僕に与えられた唯一の武器じゃなかろうか。

・・・え、違う?

違うか。

わかる。

僕もゴロゴロ永遠にニートしてたいよ~~~~!!!!!

 

 

 

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よく見ると、「ハモニカ兎」を模した人形であることが分かる。

 

 

ハモニカ兎」

代々、朝食専用の食堂を営んできた男の一家は、最も広場に近く、最も朝早く開店すると居る理由だけから、日めくりカレンダーをめくる役目を長く担ってきた。p.66

それは難も変哲もない野兎だった。体毛は茶褐色、大きさは三十センチほど。よく発達した脚のためにずんぐりとして見える。pp.69-70

「刺繍する少女」だった。初めて小川洋子先生の作品を読んだのは。国語の教科書ではなく、同時に配られた名作短編を集めた資料集のようなものに収録されていた。

その時何とも言えない気持ちになったのを今でも鮮明に思い出せる。

ホスピスで刺繍する少女にいったいどんな感情を抱くべきなのだろう。

哀れみではない。同情ではない。優しさでもない。愛しさでもない。

そっとしておくしかない。

あれを読んだ時と同じ気持ち。

ざわざわする。

多分、この主人公同様誰も目にくれないようなことを、陰でしてきた経験が多いからだと思う。

例えば、レジ内のいつのまにか移動したセロハンテープの位置を戻したり、床に落ちているぐしゃぐしゃになったレシートをそっと拾ったり、間違えた場所に置かれている商品をそっと位置を戻したり、だとか。

あの時の、ざわつきににている。

誰も気づかないのに何で今僕はこんなことに精を出しているのか。

誰も見ていないのに一体僕は誰に媚びを売っているのか。

その、ざわざわを、ピン、と兎のようにじっと耳を伸ばしてそばだてて、緻密な筆致でとらえたのが本作なんだと思う。

■■■「そんなこと、みんなやってるよ。

お前が見えないところでみんなセロハンテープの位置だって戻すしレシートだって一日に7枚は拾っているし間違えている商品をきちんと戻してる。」

じゃあ、きっとそのみんなの心を一人残らず容赦なく波立たせるのが、本作なんだと思うよ。

平成から令和になったし、あの資料集に収録する短編も「刺繍する少女」からハモニカ兎」に変えてもいいんじゃないかと思う。「刺繍する少女」は確か僕(28ちゃい)とほとんどどない年だったと思うし。まぁ、その資料集が現存すればの話なんだけれども。

 

 

 

「目隠しされた小鷺」

修理屋がなぜ『アルルの女』なのか、誰にも分からなかった。第2組曲ファランドールのメロディーを耳にして、「あっ、そうだ。丁度よかった。あれを直してもらいましょう」と思い立つ客がそう大勢いるとは思えなかった。p.97

裸婦を見ながら、粗末なアトリエでカンバスに向かうSや、魚を降ろす女主人や、ライトバンの傍らで客を待つ老人の姿を思い浮かべた。p.119

若干ピントをずらしているが、一篇目と二篇目が問と答えになっているように、三篇目と四篇目・本作も、問と答えの関係になっているような気がした。ある人が誰も知らないところでこういうことをやってます・・・でも見ている人はおるで~。こんな具合に。

ハモニカ兎」ではそっと徳を積んでいるのがごく普通の一般人であるのに対して、本作ではそっと徳を積んでいるのが限定された町の変人である。要するに主語が違うことから、一篇目と二篇目のように綺麗に問と答えの関係性にはなっていない、気がする。

でも見ている人はいる。陰でそっと、テープの位置を戻したりレシートを拾ったり商品の位置を直したりしているあなたを見ている人はいる。本作を小川先生から読者へ向けた肯定的言葉に捕らえるのは都合が良すぎるだろうか。

ちなみに、この老人はちょっと変わった美術鑑賞の仕方をする。非常に独特な方法であるがそれは、120%純粋な状態で作品と向き合うためである。その真摯な姿勢は見習いたい。

 

 

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「愛犬ベネディクト」

「ベネディクトをお願い」

と、妹は言った。p.127

妹の生活はドールハウスを作ることに埋没していった。ほとんどすべての時間をドールハウスと共に過ごしていた。いったん其処に足を踏み入れたら、もう他のどんな場所へ行く必要も感じないようだった。p.133

僕は本を手に取った。『ブリキの太鼓』だった。

『母はオスカルを小人さんと呼んだ。あるいは、私の小さな、可哀そうな小人さん、と』p.152 ※〈参考文献〉「ブリキの太鼓」高本研一訳 本作末に掲載

一日中ドールハウスを手作りしている妹の話である。ベネディクトと言うのはその家に住む犬の人形の名前で、哺乳類の生物学上の犬ではない。

僕の小学校のクラブ活動には、ドールハウス・クラブというものがあった。月に1回のクラブ活動で、ただ淡々とドールハウスを手作るというクラブ活動だった。毎年3月に作品を発表する機会があって、毎年僕はその展示を内心楽しみにしていて目にする度になるほどなるほどすごいすごい、と感心したものだった。

L字型に組み立てられた箱のなかには粘土で作られたベッド・布で作られたベッドメイキング、カーテン、木材とボンドで作られたテーブルとボンド、壁紙には花柄のハギレが貼られている。手先の器用さはまるで職人のようだ。1年間かけて、9-12歳の少女達が丹精込めて作り上げたいくつもの部屋。多少出来に差はあったけれども、そのどれもが理想の部屋で、ゆらゆら、僕の心をときめかせたものだった。こんな部屋に住みたい、と紙と粘土とハギレで作られた部屋に想いを馳せた。

少女によってつくられたミクロの奥深き小宇宙・・・。

本作最後の、『ブリキの太鼓』に出てくる「小人」は誰だろうと考える。

初めは妹のことだと思っていたが、多分、主人公の少年のことではないか。

 

 

【君は、他者に絶対触らせない、自分だけの小宇宙を持っているか。果たしてそれは、君を孤独から救うだろう】

 

 

 

 

チーター準備中」

すると彼らはまるで、目の前にいるおばさんがぬいぐるみを作った本人であるかんおような、この人こそが楽園の女王様であるかのような目で、私を見つめるのだった。p.158

しかし彼等はもういないのだった。私はいくらでも、いないものについて考えることができるのだった。p.176

目元が陰になって、一瞬ティアーズラインが現れ出たかのようだった。p.184

動物園の土産物屋で働く、息子のhを亡くした女の話である。cheetah、綴りにhが含まれていることから気になり始めたチーター。の、飼育係の青年との交流を描く。実は動物園のチーターはそんなに出てこない。むしろゾウのが存在感ある。

・・・時がたっても別れは癒えない。心に空いた穴は埋めようと思っても絶対に埋まらない。絶対にだ。その穴を埋めるのではなく、自身で受容することが、癒えるってことなんだと思う。

前の職場は笑顔での接客が重視される店だった。僕は、店舗で一番にこにこしていた。笑顔がいいとエリア長からよく褒められたからにこにこしていた。母親の病が不安で不安でどうしようもなくなった時も、親しかった仕事仲間に急に無視され始めた時も、叫びたくなるような怒りの衝動が胸を突き上げてきても、どうしようもない失敗をした時も、にこにこ、にこにこしていた。そうすれば、相手もにこにこしてくれる。笑顔の連鎖。

でもいくら笑顔をふりまいても、いくらにこにこしていても、僕の心の底は、しん・・・としていた。

あいた穴って、別の物でふさがることってないんだなって。最近になって気づいた。

いいことや楽しいこと、嬉しいことがあってもだからといってその穴がふさがることなんて決してない。

そういう祝福されるべきことは、穴をふさぐためではなく、穴を受容するために起きるものなんだと思う。

時が忘れさせてくれるというが、時がたったからと言って穴がふさがれることは無い。神が与えた穴を受容する猶予なんだと思う。その時間、というのは、

でも穴があいたからといって、途端に崩れるほど僕達は脆くない。

辛いことや別れ、等は28年間生きてきてそれなりに経験してきたつもりであるが、僕の心の中心・本質的部分にあいた穴はまだない・・・気がする。あいたらどうなるんだろう。

チーター」の綴りにhを探すような日々を訥々と、過ごすのだろうか。

 

 

 

「断食蝸牛」

風車は虹色の触覚で埋め尽くされています。その真ん中に風車守は立っています。男の目に女の後ろ姿が映っています。女のブラウスがその奥でうごめき、瞳を虹色に染めています。

「あっ、いけませんわ。寄生虫が・・・・・・」

風車森を指さして私は声を上げますが、男は瞬きもしません。女はやはり四つん這いになって蝸牛を拾い集めています。p.218

どうして、僕達はこんなにも、別れを予感することが出来るのだろうか。

途端に言葉が重さをみすみす失っていくのを感じ、上滑り、空虚になり、どこか遥か彼方に飛んでいくのを感じる。「またね」「また会おうね」何度も何度もそういってもその度に言葉の意味の無さを知る。

例え病にかかった蝸牛よろしく全身で身もだえるほどであっても別れは唐突に訪れるものであり僕達は不意にそれらを直感する。

まぁ感じ取れない時もあるけど・・・でも、どうして。

どうして。

僕がこの短編を好きなのは、最後の最後の主人公があまりにも、哀れだからだ。身分違いの恋(無論女のが上)で、結ばれて当然相手は喜んで当然でしょう、と思ったところに出来の悪い下働きの女がその男を最後にカモメよろしくかっさらっていく場面で終わる。

女の気持ちが痛いほど・・・痛いほどわかって強く心に残った。喪女の僕は小さかれ大きかれたくさんの失恋をした。酷い時は真夜中叫ばずにはいられない程だった。だからもう多少の小さいものであれば僕は泣いたりしない。

ただ不意にその様々な色々な別れが彩られてマーブル模様がごとくカオスに混ざり合い僕は身もだえをしたくなるが、今もこうやって、なんとか・・・なんとか。

ちなみに、寄生虫にやられて色とりどりに変色する蝸牛は、僕の屈指のトラウマ動画である。見てほしい。ちびるで。

 

 

 

「竜の子幼稚園」

何らかの理由で旅ができない人のため、見代わりとなるしなをその中に入れ、依頼主に成り代わって指定のルートを巡るのが彼女の仕事だった。p.226

本人は気づいていなかったが、彼女は調理補助としてよりも、身代わり李旅人としてより適した素質を備えていた。(中略)身代わりと言いながら、彼女は自分が決してその人に成り代わって旅をしているのではない、ただその人の付き添いをしているだけだ、と自覚していた。p.228

あの、モノレールの範囲でしか移動できなくなった女性の傍に、この「身代わり旅人」という職業の人がいたら彼女は一体、何を託すのだろうか。

何も託さないだろう。託すものなどない、気がする。

そして女性ではなくピカレスクコートの身代わりに、ということで、ディープインパクトの帯同馬として日本を出発た旨の新聞記事を入れるのではないだろうか。

今度はあなた自身の旅をして。

そんなことをもごもご小さい声で呟きながら・・・。

ちなみに、検索するとピカレスクコートは実在した馬ということが分かる。日本にも無事に帰国したことも分かるし、そしてその後出たレースでは結果を出せなかったことも分かるし、北海道に移送されるも最期は行方不明、ということも分かる。

 

【・・・ピカレスクコート僕達人類全員に君のような存在がいたらどんなにか、報われたことだろう。】

 

 

 

 

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以上である。

余韻が結構続いて、あとまぁぶっちゃけ短編集の割に重かった。思ったより。

でも読んだ価値はあったし、人生の内にもう一度は読み返したい。

30歳の時かもしれない。38歳の時かもしれない。48歳の時かもしれない。58歳の時かもしれない。68歳の時かもしれない。78歳の時かもしれない。88歳の時かもしれない。98歳のときかもしれない。108歳のときかもしれない、その時は、一体僕はどのようなことを感じるのだろうか。

 

【・・・28歳の僕はこう思いました。

インターネットがあと何年あるのか皆目見当もつかないがここに記録しておく。】

 

 

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***

 

LINK

他の小川洋子先生の作品の感想。全部短編集。『偶然の祝福』は連作短編集でしたが・・・。このなかで好きなのは「不時着する惑星たち」かなぁ。小川洋子未読者には「最果てアーケード」がおススメ。

 

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言及した筒井康隆『旅のラゴス』の記事。

4年前とか・・・。

 

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