この本の特集は、素晴らしいですね。
本当に素晴らしい。
「ケトル VOL.55 はじめての本」(太田出版 2020年)の話をさせて下さい。
【概要】
人生を変えますとは言えないけど、立ち止まって考えるには本がいいのかも
特に何を意識するわけでもなく、いつの間にかできている「当たり前」はどこから生まれているのだろう。
もし誰かの「当たり前」と「当たり前」が違うものだったら、どう向き合えば良いのだろう。映す目が違えば意味や行間も変わってしまうことを知りながら、人は時として本を手に取る。
そして、ページをひらくと何かが拓けたりする。
目まぐるしく変わる世界の中で、焦らず落ち着いて立ち止まり考えたいとき、本はきっと真摯に向き合ってくれるはず。
雑誌『ケトル』、はじめての本特集です。はじめまして。
表紙コピー、p.11より
【読むべき人】
・本好き
・数々の雑誌の「本特集」を読んできた人
・玉城ティナ好き:シンプルに表紙が可愛いので
・マガジンハウスの編集者:後述
【感想】
ケトル、初の本特集とのことである。
ケトルは普段は読まない。普段は興味ない話題を深堀した内容だからだ。僕はそこまで深く音楽に興味があるわけでもないし、長澤まさみが大好きというわけでもないし、映画スターの良さを誰かと語り合おうとも思わない。
けれど本特集。
本特集と言ったならば、話は別である。
僕は雑誌の本特集が好きだ。これは大学時代からそうだった。
本屋・古本屋・ブックオフ・ブックオフオンラインではまず自分から探さないであろう書籍がたくさん紹介されていて、その中から読みたい本が毎回必ず何冊も見つかるからである。
そして大抵この特集を組んでくれる出版社は決まっている。
イエス、マガジンハウス。
「an・an」「BRUTUS」「POPEYE」「&Premium」「クロワッサン」・・・。
刊行する多くの媒体で、頻度が高ければ年に一回、頻度が低くとも数年に一回は本特集を必ず組んでくれる。さすがマガジンのハウスである。
この前は「GINZA」での本特集を初めて見た瞬間、脊髄反射ですでに本屋のレジに並んでいたということがあった。恐ろしい話である。
ところが、マガジンハウスの組む本特集には一つ欠点がある。
それは、「著名人がお勧めの本を紹介する」スタイルから脱却できないことだ。
いや、良いのである。それで良いのである。僕は1000人の著名人がいたら1000人のお勧めの本を聞きたい。10000人の著名人がいたら10000冊のお勧めの本を聞きたい。
そしてサブ特集では、その媒体らしい本をお勧めする特集が組まれているのが定番である。例えば「an・an」であれば恋愛小説。「BRUTUS」であれば名前だけ知ってる著名な外国人作家の哲学書。「&Premium」であれば歴史に名を残した女性の生き方・・・云々。
「著名人のおススメ本+雑誌のそれっぽい本の紹介」
断言しよう。マガジンハウスの本特集の約9割がこの公式に当てはまる。
いや良いのである。この公式は美しいし、マガジンハウスの特集記事は大抵レベルが高く満足度が高い。
だが、どうやらケトルちゃんは満足しないようだ。
ケトルちゃんはこの、公式を壊そうとしている。
この非常に美しい公式へのアンチテーゼが、本書である。
初めての本特集にして、この強気の姿勢。
成程。さすがは「QJ」を刊行し続けてる出版社・・・といったところか。
なので、内容は結構マニアック。
校正の話であるとかZINEの話であるとか、昭和を生きた日本の思想家の書籍についてとか、「文学全集」シリーズの創設者へのインタビューとか。
「はじめての本」と冠しているが、「はじめての本」を読む人に向けられる内容ではない。読者玄人向けの内容である。
以下簡単に各特集の感想を書いていく。
女優・MEGUMIがステイホームで考えたこと:この世代の左おっぱいは小池栄子、右おっぱいはMEGUMIと言われている。
かなりいい店 ここで一杯:こういう特集はいい店知ってる俺かっけーが匂うので嫌い。こういうぺーい大抵どの雑誌にもあるよね。流行ってんの。そもそもお前誰だよ。
ネタモト
大森望:「B&B」は一回行ったことありますが、お高く留まっている感じがして僕はあまり好きではない。
施川ユウキ:この人センスある。漫画もさぞかしおもろいに違いない。チェック。
ベル:なんだこの女。かと思ったら意外と難しい本を読んでいる。好感度あげあげ~・・・という戦略だろう?僕は気づいてる。
河瀬直美:この人は奈良で「東京」やるのが仕事なんだろうなと思う。書籍の一つでもタイトルを上げろ。
伊藤弘:うさぎがしゃべった。
佐久間宣行:この人、最近本関係の特集だと必ず出てくるよね~。
宮﨑智之:髪型が気に食わない
南馬越一義:すごい苗字。ファッション業界で第一線で活躍する人って大抵難しい本読んでる。
西田善太:宣戦布告されていることに気づけよ。
対談:玉城ティナ×米代恭
ティナはともかく誰だこの人はと思ったら、「あげくの果てのカノン」の人らしい。タイトルは聞いたことがある。少し前に面白い漫画とかなり話題になっていた作品だよね知ってる。ヴィレッジヴァンガードにあった。
漫画の吹き出しのなかの「・・・・・・」について一ページ以上語り合うのはなかなか興味深かった。何も考えず僕は読んでいたけれど、何かしら感じていたはずであって、でもそこに着目したことはなかったな。ティナ、見直した。
「行間」を感じられる書籍を、5冊ずつ最後に2人が挙げている。
米代さんの読書のジャンルの幅の広さ、深さに驚く。これほどの本を読んでいる人が放つ漫画って一体どのような作品なんだろうか。カノン、読んでみようかしら。
目まぐるしく移り変わる社会を解き明かすための知識と本
社会学者、橋爪大三郎先生が、ニュースを見る前に知っておきたい書籍や知識について4ページにわたって教えてくれるページである。
非常に分かりやすかった。
特に「ポスト・モダン」「モダニズム」等聞いたことあるけど調べる気にもならない言葉が分かりやすく説明されているのが良かった。
似たようなコーナーは「BRUTUS」にもあるのだけれど、編集者が高学歴だからか大抵難しい文章で一読では理解できないことが多い。
ところがこのインタビュー記事は、注釈を細かくつけることで、一通り読んだだけで内容がわかるように書かれている。満足度高い特集だった。
宮崎健一「はじめての「吉田健一」:複雑な世界へのシンプルな処方」
はえー。こんな人いるんか。初めて知った。と、思った。
本をある程度読むほうだと自認している僕だけれども、案外昭和の著名人の書籍って今まで読んでなかったりする。明治の文豪と平成の作家で僕の読書は完結してきた。
いやだって昭和って中途半端じゃないか。平成5年生まれの僕にとって、その時代、古くないし新しくもない。生きてもないし死んでもいないが生まれる前のちょっと前、そんな昔でもない気がするけどでもやっぱり遠い、古い。そんな中途半端な時代の人をでかでかと取り上げ特集したのがこのコーナー。
昭和の文筆家。肩書こそ仰々しくて古臭く感じられるけれども、そんなことはない。彼の考え書いたことは令和にも十分通用する。
特に、「食う為に働く」ことについての吉田先生の考えは印象的だった。
「食う」ことを、月給をもらうことや家計を維持することではないと言う。
「本当にこの原稿を書いて原稿料を貰つて、どこそこの生牡蠣を五人前食つてやろうと思って仕事をしているのだ」と言い切る。そして、もっと稼げたなら、友達を家に読んで美味しい生牡蠣を食べるのだ、と。
(中略)
金を稼ぐのには本来、具体的な目的があったはずである。それは往々にして楽しむための者であったはずである」p.23
社員かパートか究極の選択肢を迫られている現在の僕にとって、非常に響いた部分であった。
この吉田先生の書籍は積読解消したら、読んでみたいと思う。もしかしたら、案外難しいものなのかもしれない。この文章を書いた宮崎先生の解説が素晴らしく、僕にもわかるよう書いてくれてただけなのかもしれない。
それでも、牡蠣について書かれた文章は生で読むのに越したことはないだろう。
プロが教える業界研究漫画
各界の著名人が「おススメする」、のではなく「自分の業界を取り扱う」一冊を紹介するという特集である。
まず驚いたのはどんな職業でも漫画があること。
デザイナーやシェフはともかく、「麻酔科医」や「ホテルマン」「印刷会社」まであるとは・・・。
ちなみに一番面白かったのは、お坊さんが「鬼滅の刃」をお勧めしていたこと。
いやいやいや、話題作やないか~い、和風しか共通点ないやないか~い。と思ったが、読んでみると、どうやら浄土真宗の仏教をモチーフにしているところが多々あるんだそうな。勉強になった。鬼滅読んだことも見たこともないですが・・・。
装画美術館:奈良美智
いつかこの人の個展に行きたい。画集も買いたい。とずっと思っているが、やっぱり何度見ても「ならみち」と一回読んでしまうので、ダメですね。
こんなところにも、初めての本
本の周りについての小特集を集めたコーナーである。
1.(国語の)教科書
我らが静岡市は圧倒的光村図書だった。横浜で塾講師をしていたけど、そこでも大抵光村図書だった。だから国語の教科書は光村図書しか出してないと思っていたけれど、そうでもないんですね。
特に、社会の教科書の印象が強い東京書籍が出していたのは驚いた。
2.栞のすすめ
最近近所にできた本屋・ひばりブックスの栞は、名画をデフォルメしたとてもユニークな栞だ。毎月変わるのと、数量限定とのことなので、僕は11月になったらすぐにここで何かしら買わなくてはならない。
3.公文書館
日本国憲法の原文、伊能忠敬の測量に基づく絵図、1522年に書写された「後選和歌集」が保存されていることはなんとなく予測つくものの、ネットで閲覧できるとは。令和とはすごい時代である。
4.図書館
なんでもランキングが掲載されている。専有面積、蔵書数、専任職員の多さ・・・。大阪市立中央図書館はちょっと行ってみたいと思った。
5.目にやさしい読書環境
読書にやさしい光源の強さについて、眼科医に直撃インタビューして1ページを割くのはさすが太田出版といったところか。結論もなかなかマニアックで、実践性はないもののちょっと面白かった。
表現と性格の狭間、著者と校閲者の対話
これはウェブライターのカツセマサヒコさんと校閲者の池田明子さんの対談である。
「校閲ガール」なんてドラマもあったけど、校閲って実際何なの!?が分かる特集。
校閲、と聞くと誤字脱字や間違った言葉遣いを直すものかと思っていたが、作者の表現の意図や、差別用語、たった一言を漢字で表すか・ひらがなで表すか等見るところがもっと幅広くて細かくてコアで、そこが面白いなと思った。
実際に赤字で書かれている原稿の写真が3-4ページ目にわたって掲載されていて勉強になる。校閲者が赤字で書くものかと思っていたけど意外と黒いペンなんだな。赤字で書いてたのは、指摘を受けた編集者だった。
欲を言えば、もう2ページいっぱいつかって校閲の原稿を実寸大で掲載してほしかった。掲載する写真が多い分小さくて見づらいので。
デザイナーが一目惚れした本
表紙や頁の彩色、中身のイラスト等でデザイナーが一目ぼれした本を掲載している。
本と言えば、まあ有無を言わさずその中身が語られることが多いけれど、この特集で主に語られるのは本の「顔」、装丁について。確かに、最近のコミックスでは装丁・デザインについて語られることは多いけれども、書籍において装丁・デザインが語られることは少ない。着眼点が良い。
あと掲載した表紙の写真の下に、「ブックデザイナー」の名前に加えて「本文フォント」「文字組」まで書かれているのは笑った。今まで、書籍が紹介されている雑誌は数多く読んできたけれどここまで細かく書かれているのは初めて見た。
佐々木俊さんの視点に特に痺れた。一目ぼれしたのは「わたしの全てのわたしたち」という本。設定を活かした紙の色・二つの明朝体に注目した、一見するとm逃しそうなくらいの細かい着眼点に、平伏。
逆に他のデザイナー達が結構派手な本・分かりやすい本を挙げているのは少し残念だった。派手で分かりやすいのは、素人でも結構「一目惚れ」するものなので・・・。
装画美術館Ⅱ
鬼海弘雄さんが撮った女性のモノクロームの写真。「金属帰りについたシャツを着る外科の看護婦」なんて言葉が思いつく語彙力を、私は欲しい。
林哲夫さんの油絵。沈黙する窓。年始に見たハマスホイの作品を思い出す。
ごめんなさい!実はこの本まだ読んでいません!
「かもめブックス」「青山ブックセンター本店」の店長であったり、出会い系サイトで有名な(語弊)花田菜々子さんが語る、まだ読んでいない本について。
だいたいは読んだ本で特に良かった本を勧めるのが定番なのでけれど、その真逆を行く実に挑戦的な特集である。ウケる。
無論読んでいないから、そりゃ内容よりも「なんで読んでいないのか」が必ず語られることとなる。8人8様で面白い。そしてそのほとんどに共感できるのも面白い。
特にモリテツヤさんは読んでいない癖にバチバチに攻めてて笑った。すごく分かる。読んだことない本こそ人に勧めて買わせたくなる。
あと花田さんの未読の本が、近所の古本屋にあった。読んでいないが面白いと花田さんが断言しているので、次行ったとき見かけた際には買おうと思う。
「みんなで読む」ことで多様なものの見方を手に入れる
日本最大級の読書会団体「猫町倶楽部」の代表が語る、「みんなで読む」≒読書会開催のコツついて語る2ページ。七か条挙げているがどれも勉強になる。開催したことないけど。
読書会。横浜にいたときは「横浜読書会」によく足を運び、「ホラー」というテーマに惹かれて一回だけ「スゴ本」の読書会にも行ったことがある。どちらもその会合の個性があって面白かった。特に「スゴ本」の読書会の自由度は半端なかった。
「猫町倶楽部」も名前は齧って参加しようと思った時もあったが結局参加していない。「猫町」と言うくらいなのだから、代表はてっきり黒木瞳みたいな妙齢の美しい女性かと思ったらおっさんだった。リフォーム業営む傍らこの会合を立ち上げたそうな。かっこいい。
読書会。
静岡に来てから一回も参加していない。というか、是非静岡で開催してみたい。
「えー・・・・本日は皆さん、この「海鮮丼読書会」に来ていただいてありがとうございます。本日の課題図書、「夏への扉」ですが、僕はSFがどうも苦手で途中で挫折してしまいましたので、皆さん参加費の5000円だけ僕のお財布に入れて、お帰り下さい。この広い静岡という土地で同じ本を読んだ同士がこれだけ集まったということが奇跡ということで・・・げへへへへ。あ、これ参加のお菓子です。チョコパイです。おうちで食べて下さい。はい、では終わりです。さようならげへへ、げへへへへ・・・」
サプライズをくれる本屋たち
色々な取り組みをする本屋5店を紹介。「双子のライオン堂」「Title」が有名か。「SHOW SHOVELING」も過去に雑誌のozで見たことがある。
「双子のライオン堂」は行ったことがある。あの青い扉を生で目にしたときはワクテカしたものだ。一冊もその日は買いませんでしたが・・・。でもこの書店がやっている「本棚の写真をお送ると「いつか必要になる本」が送られてくる」サービスは面白いと思った。本棚の写真を撮る訳だからダブリの心配もないわけだし。まぁ僕はまず部屋にカラーボックスで「本棚」を作るとこからはじめないとあかんのですが・・・。
でも「SHOW SHOVELING」さんのカウンセリングからの選書も面白そう。まぁまず、その前に山のように積まれている「積読」を解消するとこからはじめなあかんなのですが・・・。
野中モモ「読めば、自分も作りたくなる。自由で豊かな「ZINE」の世界。」
4ページにわたるZINEの特集である。ZINE・・・僕はその存在をずっと前から知っているし読みたいし書きたいと思っているがここずっと手を出せていない。
様々なZINEが紹介されている。書店に並ぶ雑誌のようなものから、一ページ丸々手書きでコピーしたようなものまで。
そういえば、小6の時「クラス新聞係」なるものを作り、毎月しこしこ自主的に作っていたことを思い出す。インタビューもしたしキャラクターも作った。手書きなら今の僕でもできるかもしれない。
でも何を書こうかなぁ・・・とか思っているうちはダメなのだろう。うむ。
まず取り寄せるところから始めてみようか。
読書会とZINE。今年の最終目標はこの2つの開催、にしようかなぁ・・・。
さやわか「はじめての「橋本治」:いま、あらゆる人が絶対読むべき理由」
僕はこの人の思想というか、この人の出した本自体に凄い衝撃を受けた。
『二十世紀』上下。ちくま文庫。なんと1年1コラム4ページで20世紀の100年を振り返る書籍なんだそうだ。凄まじい。解説ではなく「コラム」と言うところも良い。
さやわかさん曰く、橋本さんはこの書籍をはじめ数多くの歴所を手掛けてきたがそれは彼が「歴史を専門に語りたかったとか歴史好き」p.60だった訳ではないという。
「問題意識があったり、あるいは「分からない」ことがあるときに、彼は大元へさかのぼって考えることが必要だと思ったに違いない」p.60としている。その手段が歴史だったという訳だろう。
絶対読もうと思った。
てかこの「さやわか」といいう名前にして結構難解な文章を書くライター自身の方が気になる。1974年生まれ。46歳。一体どんなおっさんなんだろう。
装画美術館Ⅲ
小林エリカ:ローランサンの作品に似ている。てかこのイラスト描いてる人って「小林エリカ」というのか。結構見るけどどこで見るのか思い出せない鉛筆画。
酒井順子:この人の絵はとても好き。よく女性作家の恋愛小説の表紙で見る気がする。画家だと思ってたら絵本作家とのことだった。この絵を描く人の名前が「さかいじゅんこ」と知られて良かった。画集あるのかな。買おうかな。
若い読者のための「文学全集」案内:Interviewwith池澤夏樹
淡い色でカラフルで、そこそこ高価で、でも絶対有名な作家の名前がそこには書かれていて、読んだら後悔しないだろう。でもやっぱり高いしあと本棚のスペースとるし、一冊揃えたら全部そろえたくなりそうだし。でも本棚にあるとそれこそ文系少女、頭が良い少女という感じがする。本田何位並べたい。でも一冊一冊高石悩む。悩む。図書館で読めばいいではないかという話だけれども前週はやっぱりなんか手元に置いておきたいよね、うう、と書店で背表紙を見るたびに毎回思う「文学全集」の企画者・池澤夏樹さんへのインタビューの特集である。
全集、といえば正直「古臭い」イメージだったけれども、この「全集」はなんだかカラフルでお洒落でとても読んでみたい、とずっと思っていた。角田光代さんが「源氏物語」を訳しているのだが、それも読んでみたい、とずっと思っていた。
でもこのまま読まずに終わりそう・・・にこの特集がストップをかけた。
なぜこの全集が書かれたのか、まずどこから読めばいいのか、この全集の意図は何なのか・・・。
とりあえず、この全集には短編コレクションたるものがあることを初めて知る。
「そこから入ると文学の奥行、幅の広さが分かると思います。それで1冊1冊、格闘してください」p.67
「だから、僕が言いたいことはただひとつ。これらの本を読んで、僕はとても面白かった。よかったら、あなたもどうですか?」p.67
分かりました。20代、「若い読者」たりうる内に、絶対読んでやりましょう。
ロングインタビュー 作家:遠野遥
「BACK-TICK」ヴォーカルの息子だという衝撃の事実が発覚する前に読んだ。
どこか気怠い雰囲気をまとった30手前の作家。顔立ちは整ってはいるが特に特徴があるわけではなくただその虚無すら思わせる雰囲気が良い。文学青年。文学アラサー。その中身も、書籍を今まで意外と読んだことがない、疲れない程度に書くというどこかオートマティックな現代若者を代表するかのような。
そんな彼が書いた作品「破局」は、大学生のアベックのまさしく「破局」を描いた作品らしい。その前作の「改良」は男の娘ものであるだとかないとか。
読んでみたい。是非読んでみたい、と思うけれど、ハードカバーは重いので文庫化待ってる。
でも最近は、芥川賞。受賞してもその先を見ない作家が増えた気がする。彼はどうなるのだろう。「有名な歌手の息子でした!」という爆竹を世間に投げてどこかへ逃亡するのか。それとも、その気怠いまなざしでとらえた世界の断面図を定期的に淡々と「疲れない程度」に排出し続けるのか。
後者であれ。イケメンの作家、近年なかなか見ないので。
正田真弘写真劇場『第49回』:モデル ルー大柴ルー大柴なんだ、「ケトル」に連載持ってるのか~と思ったら、写真家の連載だった。撮影者が被写体に食われている。
豊原さんが”腹をくくって”立ち上げた注目の「新世界合同会社」プロデュース第一作を訊く!~映画『ソワレ』外山文治監督、豊原功補さんインタビュー~「mina」で紹介されていてこの作品も見たいなあと思ったが思っただけで終わった。動画配信、円盤で見ようと思う。邦画を家で見る。曇り空、一人。部屋で。モニター越しの現実に思いを馳せながら。結局このシチュエーションがなんとなくエモいから、邦画は結局興行収入が盛り上がらないような気がする。邦画は、映画館で見るより家で見る方が「イケてる」感じがするのである。でもアニメとか洋画とかアクション中心のものは大きい画面で見たいし、そっちの方が「イケてる」感じがする。その無意識下における認識の瓦解に、邦画復活の布石はあるのではないか。
暴言が言えるほどの深い家族愛映画『喜劇 愛妻物語』水川あさみさんインタビュー僕が最近見たのは「ミッドナイトスワン」であり、そこでの水川あさみはネグレクトをしており、そのヤンキー口調はすっぽり合っていたのであり、要するにこの映画に関するインタビュー内容はすべて嘘くさく感じられるのであった。完。
AWESOME!!
イラストレーション:喜多村みなみ
よく見ると女の子のシャツがチャイナ風であったり髪型がなかなか見ない者でったり、岬の名前が「UFO岬」であったりと、シンプルに見えて随所にこだわりが見られる。にしてもかわいい絵。
武田砂鉄は『ブックオフ大学ぶらぶら学部』を読みながらBOOK OFFで繰り広げられる半永久の輪廻に浸っていた:僕も実は「ブックオフ大学ぶらぶら学部」OGである。書影の下には懐かしい教授陣の名前が並んでいる。買おうかしら。武田君とは3か月だけ付き合ったことがある。相変わらず元気みたいで安心した。
磯部涼は『normal』のkill late itという宣言にdodoの進化を見た:分かる。僕も新宿ディヴィジョンが好き。とても分かる。ドードーの進化はドードリオ。とても分かる。ティックトックは結局米国は禁止したのだっけ。
佐々木敦は『アルプススタンドのはしの方』を観て映画監督と出会う「最初の一本」について思いをめぐらせた:映画を「監督」という切り口から見るというところまでまだ僕は至っていない。強いて言うならば「万引き家族」を見て「空気人形」を見た。それくらいである。ただ、この「アルプススタンドのはしの方」を撮った監督はピンク映画も撮っているらしく、それはちょっと気になった。人間の青の春も性の春も平等に「映画」として撮影するその眼差し。
枝優花は『春風のエトランゼ』にコマやカットで割り切れない「人生」を見た:AV女優かと思ったら映画監督だった、「現実の人間がつぎはぎでないのは、1つの人生だけを生きているからだ。」p.84
椹木野衣は『僕は漁師になった』に暮らしと命の駆け引きを見る:美術手帖で名前を見る。毎回難易度が高い文章を書く印象があった。「のえ」(このページで初めて知ったが正式には「のい」)と読むくらいなのだから黒髪ロングのぱっつんの女性なのかと思っていたらまじオブまじのおっさんだった。でもこういうおっさんがああいう文章を書くのだからそれもそれでかっこいい。おっさんは基本「おっさん」という前提がつくので、何かしら極めると「おっさんなのに■■■していてかっこいい」となりがちである。全国のおっさんは常にそのことに自覚的であるべきで、趣味にしこしこ奔走するべきなのである。あと映画面白そう。
長谷川裕は『呪われたシルク・ロード』を手に切ない歴史を持つある集落を歩いた:八王子はブックオフ大学の所在地である。ブックオフ大学八王子キャンバス。4年間そこに通っていた。まさかその市に「呪われたシルク・ロード」があるとは思わなかった。静岡からわざわざ足を運ぼうとは思わないが、ブックオフ大学静岡キャンバスにて本書を見かけたときは是非買いましょう。
橋爪大三郎は『パワースピーチ入門』に人々に語りかけるリーダーが出てほしいとの思いを込めた:スピーチ自体日常ですることがない。というか過去にもあまりしたことがない。強いて言うならばブックオフ大学の授業でやったくらいか。僕は何かしら思うこと・考えることがあったのならば、それを発言するのではなく、書いてネットで発信したいと思う。それはスピーチと比較し力は弱く軟弱なものではあると思うが、noteが盛り上がっているのを見る限り、そう考えている日本人がマジョリティーなのではないか。そんななかで「パワースピーチ」という言葉を用いるのは少し時代遅れな印象も受ける。
手みやげのススメ
アマンド娘に勝る手土産なし
池田エライザのモヤモヤにムニャムニャ:「でもどんなに真剣に話をしていても、「極論はね」で締め括られてしまうと、なんだか寂しくなってしまう」p.90 池田エライザは容姿が優れているし演技もするし映画も撮るし文章も書くし「POPEYE」で連載も持っているし歌もうまいしサブカルに精通しているしエロいし本当にすごい。どれか一つを極める、みたいなことが善とされる世の中で何でも挑戦する姿勢は本当に素晴らしいと思う。けれどそんな完璧超人ぶりじゃあ、結局人間的部分・ヌクモリティーが感じられず、消費されて終わりだと思う。そのなかで起きたあのポルノ事件、は、彼女にも欠点があるというか「ああ、池田エライザも人間なんだ」と世間に知らしめる結果になったと思う。まあ「極論はね、」あの失敗は長い目で見れば「池田エライザ」という超人的才能の寿命を延ばしたと思うんだよ。
曽我部恵一「メメント・モリタ」:エモーい。
文月悠光「回遊思考」vol.6:「だからわかる。人がベランダに立つのは、人恋しい時だ」p.96 ■■■■■と読むらしい。詩人。1991年生まれ、2つ年上。この人の詩を読んでみたいと思った。
三浦理奈のねるまえ動画ソムリエ入門中:2020年の女子高生もスマホ片手に動画ばっかり見ていてかわいいと思うwwww←の「ダブリュー連打」をWWWWWで大文字にしているところにジェネレーションギャップ、感じるWWW1993年生まれWW27歳WWWWW
眠れない夜はインターネットの話でも:お洒落な女性3人がお洒落なインターネットについて語っている。彼女達の「インターネット」と僕の「インターネット」は共通しているところも多いが、違うところも多いと思った。オタク3人による違うジャンルの「インターネットの話」も聞きたい。にゃるらさんは入れてくれ。
~クスっと笑えるおかしな研究~Next イグノーベル賞を探せ!!:セイキチョウの求愛ダンスについて 研究者:相馬雅代、太田奈央
簡単に言うと、セイキチョウも人間と一緒で気になる異性がいると、「ええかっこしい」なところがあるという発見である。でも同じ鳥類で孔雀とかあんだけぶわわわわわってやって異性にアピールするわけだし不思議でも何でもない気がする。ただその証拠をとるというのが難しいんだろうな。普通に素晴らしい研究だったので、「クスっ」と笑える部分がいまひとつわからなかった、真顔。
酔えるレコードもう1枚!森雅樹×坂本慎太郎:レコードはおろかテープレコーダーすら買ったことない僕から遠く離れた特集である。抗うつ剤の服用により飲酒も勧められていない。かなしー。ゆりしー。ゆらゆら。「ゆらゆら帝国」のヴォーカル、坂本さんだけ、この回で最終回とのことらしい。それだけゆらゆら気になる。どうしてだろ。
青柳文子×小谷実由 現代人のための非大上段的相談学言論:お洒落な人達が話をするコーナーパート2であるが、取り上げる話題はうってかわって「お悩み相談」。この悩みが結構多様で、そしてこの2人のコメントも鋭く面白くなかなか良い。特に最後の「猫を愛でて下さい」という相談に対してひたすらに愛でる感じが良い。「an・an」の古市と朝井リョウの紙上ラジオの女版といったところか。これも連載してほしい。
田中開のこの店を見よ:この人は有名な作家の孫でその遺産でバーを開いてなんやかんやうまくいっている人といった印象がある。莫大な遺産。金が舞い込んできてそを自由に使って好きなように働いて生きて東京に住んでこうしてケトルに連載を持っている。うーらーやーまーしーいー。うらやましい!なのでこの2ページにわたる長文も感想は書きません。加齢に関する見解は良いなと思ったけど詳しくは書きません。うーらーやーまーしー・・・うらやまし!うらやましい・・・。
僕のインスタ映え:彼女もいるのかよ。爆発しろ!!!
Licaxxx「マニアックの扉」:リカエックスエックスエックスさんが、マニアックなことについて語る連載で今回は「料理」とのこと。ナポリタン、チャーハン、カツサンドを上げているが、これくらいなら誰にでもこだわりのある料理・思い入れのある料理2-3つあるのではないだろうか。ちょっと「マニアック」度が足りない気がする。「マニアック」を名乗るのであれば、ナポリタンの麺の太さ検証、ピーマンはいるのかいらないのかについて、べちゃべちゃのチャーハンに一番合う具材について、「チャーハン≒パラパラ」という概念の覆し、カツサンドの理想のカツの厚さ、高橋一生はカツサンドを無邪気に食べそうだけど中村倫也は意外と上品ちまちま食べるのではないかという予想、男の娘が最後にカツサンドを食べた日はいつなのか、等もっとマニアックな話題で2ページもたせてほしかった。
中国美女漫談:こういうコーナーもっと増えてほしい。中国人、フィリピン人、ベトナム人、その他東南アジアの人々を普通に見るようになって早××年。彼等は日本の文化について知っており言語も勉強しており、非常に勤勉な方達だと思う。けれど僕等は彼等の国の文化についていっさい知らないし、「こんにちは」の言い方すら分からないことが多い。だから日本に関係を持つ彼等がいったいどのような文化のもと育ち、生活を送っていて人生を送ってきているのか。知らない。今回は「中国」と限られているが、こういう特集がもっと組まれてほしいと思う。でもまあ「美女」という括りは共通でお願いします。やっぱね。テンション上がるんで。美女。「一番嫌だったのは、喧嘩とかするじゃないですか、子供同士の些細な。そういう時に私の悪口を言えばいい鬼、私のバックグラウンドを含めた悪口を言われるんですよ。(中略)本質と向き合ってないというか、”私”という個人を見てくれていないというか」p.110
嶋浩一郎のブンガク・ライフハック:安部公房『砂の女』を取り上げているが、このコーナー、非常に面白い。前半3分の2は「砂の女」のあらすじをざっと書く。はえー昔読んだけれどそんな話だったのか。そして後半3文の1で物語の序盤で出てくるハンミョウについて書かれるのだが、なんとこのハンミョウがこの先の物語の展開を暗示する存在だというのである。「へぇ~」「へぇ~」「へぇ~」92へぇ~。「弊誌編集長で、ビールと昆虫図鑑とトリビアが好きと言う嶋浩一郎が提案するのは、少し変わった文学の読み方」p.111、すごい。やっぱり挑戦的な雑誌を出す会社の編集者は金の脳みそ持ってるんだな。金の脳みそぱっかんぱっかんメロンパン。これ、是非続けて書籍化してほしい。ちなみに「砂の女」は設定に惹かれて高校生で読んだけれど、何が何やらよくわからず全く面白くなかった覚えがある。この連載の前半のあらすじ説明で初めてそんな話だったのかと知った。今なら何が何かなんとなく理解はできると思うので、読んでみようと思う。安部さんの本はほとんど読んだことがないなぁ・・・そういえば。
渋谷直角の次号に続く:クリストファーノーランの特集なんだって。次回。興味ないな。終わり。僕は静岡28度です。
以上である。
とても面白い特集だったので、且つ連載陣の文章も面白いのが多かったので丁寧に感想を書いてしまった。
次号の特集は興味ないので買わないが、また興味ある特集があったら買おうと思う。
あとやっぱり「おススメの本を小秋する」スタイルではないけれど、本特集であるのには間違いなく・・・何が言いたいかと言うと読みたい本がたくさんたくさんできました。「二十世紀」上下・「わたしの全てのわたしたち」・「文学全集/短編コレクション」・・・エトセトラ。
ちなみに、「ケトル」は積読が一冊ある。
雑誌の号である。古書店で買ってそのままだった。10年くらい前の特集だけれど、今回面白かったからこれも読んでみようかな。
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LINKS
決してマガジンハウスの本特集が嫌いとか不満足とかそういう訳じゃないのよ。本当よ。
tunabook03.hatenablog.com
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最新号買ってる。月が変わったから早く読まないと。
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